29『ドワーフ鍛冶師集団、活躍する』
「大変です、村長」
仮眠明けの午前、伊能が外に出ると、青い顔のルーベンが駆け寄ってきた。
「何ぞ問題か?」
「矢が心もとないのです。残り100本しかありません」
「むぅ。サムソンちゃん殿の話では、まだまだ200から300体は来る計算じゃ。かくなるうえは投石で戦うことになるが……」
「心配には及ばないぜ」
ドヴァリンとドワーフたちがやって来た。
「ドヴァリン殿、それは!?」
伊能とルーベンは仰天した。
ドヴァリンが何百本もの矢を抱えていたからだ。
「直したのさ」
「直した、じゃと?」
「ゴブリンどもの死体から矢を抜いて、補修したんだよ。使えそうなのはちょちょいと手直し。傷んでいるものは、ニコイチで直したりしてな。物の補修は、俺らドワーフ職人の得意技だ」
「なんと心強い!」
「それだけじゃないぜ。こっちに来てくれ」
ドヴァリンについて行き、伊能は再び仰天した。
森の入口――弓兵部隊の陣地を守るようにして、即席の馬防柵が構築されていたからだ。
しかもその中央には、
「なっなっなっ、一夜城!?」
「いやいや、城ってほど大したもんじゃねぇよ。即席の見張り台だ」
ほんの数時間のうちに、数人は上がれるほどの大きな見張り台が出来上がっていた。
「即席だなんて、とんでもない!」
伊能は歓喜する。
(作戦の幅がぐっと広がった! あれも試せる、これも試せる。何より、ドヴァリン殿たちのクラフト力がすさまじい!)
「村長さん自身が指揮のために登るもよし、弓兵部隊の一部を上に上げて撃ち下ろすもよし。どうか戦いに活用してくれ」
「おぉ、おおお!」
「加えて――」
「なんと、まだあるのか!?」
「簡易落とし穴を作っておいた。自分たちがハマらないよう、全員に位置を共有しておいてくれ。穴があるのはセクターX4、X6、Y1……」
「ふむふむ」
前世時代から記憶力だけは人外レベルのよさを誇っていた伊能は、ドヴァリンの言葉を一言一句違わず記憶していく。
「いやぁ、感服した。あなた様がたも疲れておいでだろうに、本当に感謝する」
「感謝するのはこっちのほうさ。保護してもらって、衣食住を提供してもらって、こうして魔物どもから守ってもらっているんだから」
「のぅ、ドヴァリン殿や。もしよければ、この戦いのあともここに住んではくれぬかのぅ? 衣食住は保証する。一定の給金も出せる。お主らの腕は、手放すにはあまりにも惜しい」
「ありがたい申し出だな。ベリアブルクからドラゴンがいなくなって、都が復興するまでの間は、迷惑でなけりゃ厄介になりたいな」
「迷惑だなんて、とんでもない!」
伊能とドヴァリンはガッチリと握手する。
「ルーベン殿も、それでよいですな? 事後承認になってすまぬが」
「もちろんです。我々は狩りはできてもものづくりはできませんから。願ってもないことです」
「そうと決まれば」
ドヴァリンが腕まくりする。
「ちょっくら、西村の空いている場所に家を建ててくるぜ」
(ふぉっ……! 『ちょっとコンビニ行ってくる』みたいなノリで、家を建てるとな!? ドワーフ職人の力というのは、本当にとてつもないのじゃな!)
弓兵チームや難民チームがやって来て、一夜城を見上げて驚いている。
伊能は落とし穴の位置を地面に描いて共有し、弓兵チームE(足首をくじいた1名のいるチーム)を見張り台に上げた。これにより、Eチームは遠方への直射が可能となる。
直射は曲射に比べて、精度・速度・威力が段違いとなる。
Eチームは他チームの撃ち漏らしをカバーするための重要チームとなるだろう。
一方の伊能とジスカは、引き続きサムソンの肩の上である。
こうして、防衛戦の2日目が始まった。




