28『伊能村、ゴブリン軍と戦う』
さらに数時間経過した日没後。
「チームAはセクターX4へ、チームBはセクターY7へ、チームC、D、およびEはセクターZ9へ、曲射用意! てーっ!」
伊能の号令により、夜いくさの火蓋が切って落とされた。
――ビュゥウウウウッ!
30本もの矢が、夜の森へと吸い込まれていく。
やがて、
――ゴギャッ!?
――グゲッ!
森の奥から、ゴブリンどもの悲鳴が聴こえてきた。
「【測量】! チームC、D、Eは再び同セクターへ曲射! てーっ!」
伊能は木の上から指示を出している。
プレートアーマーを脱いだサムソンが、右肩に伊能を、左肩にジスカを乗せて、木の上をピョンピョンと飛び回ってくれるのだ。
「……むぅ」
ジスカが不満そうな声を上げた。
(ジスカめ、大人組が次々と敵を倒すのが面白くないようじゃ。まだまだ子供じゃのぅ。どれ、花を持たせてやるか)
「ジスカや、セクターX6じゃ」
「うんっ」
「方角、やや右――よし。仰角2度下げ――よし。撃て! …………。当たった。見事じゃ」
「へへんっ」
これで、敵ゴブリンは早くも6体減った。
伊能は再び、東村の弓兵部隊へ指示を出しはじめる。
(実際、東村の者たちは強い)
30人もいるため、ジスカ相手のように各々に細かい指示(方角・仰角)を飛ばすことはできない。
そこで伊能は、30人を5チームに分けた。
『曲射』は『直射』に比べて非常に難易度が高い。
山なりに矢を打ち上げて、1メートル四方に狙いどおり当てるなど、至難の業である。
だが、1本の矢では至難でも、6本あればそれなりに当たる。
その『それなり』を実現しているのが、狩人たちの正確無比な射撃の腕だ。
「敵が潰走を始めたぞ! 総員、追撃! チームAはセクターH3へ直射! チームBは――」
◆ ◇ ◆ ◇
結局、戦いは十数分ばかりで終わった。
そして終わってみれば、結果は伊能たちの圧勝であった。
「点呼!」
伊能の命令に、
「チームA、怪我人ありません!」
「チームB、全員無事です!」
「Cも同じ!」
「Dもです!」
と、各チームのリーダーたちが呼応する。
「E、1名負傷!」
「なぬっ、大丈夫か!?」
「すみません、転んで足をくじいてしまいました。長時間走るのは難しいですが、射撃に影響はありません」
「松明を増やしたほうがよさそうじゃな」
そう。
戦いは、これで終わりではなかった。
「【測量】! ……ううむ、やはりこちらへ一直線に向かってきておる。みなの者、次なる敵はゴブリン24体! 接敵は小一時間後じゃ。各自、体を休めよ!」
「「「「「はっ」」」」」
◆ ◇ ◆ ◇
『波』は続いた。
ゴブリン集団の第2波、第3波、第4波……が次々と現れて、気がつけば伊能たちは朝日が登るまで戦い続けていた。
「ふぉっ……ふぉっふぉっふぉっ、タワーディフェンスゲームめいてきたのぅ」
さしもの伊能も、少し怖くなってきた。
が、
「大丈夫よぉ~ん。今のでちょうど、100体のゴブリンを倒したわ。ゴブリンの知能では、数百体以上の集落を築くことはできないの。だから、3日3晩も戦えば、必ず底をつくわよ」
「そうか! それなら安心じゃ。では、休めるうちに休んでおくか」
伊能は声を張り上げる。
「みなの者! 次の波が来るまでに数時間はある。各自すみやかに休むのじゃ!」
「「「「「はっ」」」」」
「難民組は交代でゴブリンの死体の片付けを頼む」
「「「「「分かりました!」」」」」




