27『伊能、対魔物バトルに備える』
半日後、早くもサムソンが戻ってきた。
「ずいぶんと早かったのぅ。じゃが、大砲は?」
「あとから来るわよぉ~。とっておきの軍馬に引かせているから、3日後には着くはず。数は10門」
「10門も! リリン閣下には感謝の言葉もないのぅ。ところで、それは?」
サムソンは、何やら大きな袋を担いでいる。
「弓矢よぉ~。大砲だけじゃ心もとないでしょぉ~ん? 大砲は火薬と弾を消費するから、ここぞというときにしか使えないもの」
「じゃが、ドラゴンに矢が通用するのか?」
「あらぁ、イノーちゃんともあろう人が、気づいてなかったのね。北のほうを索敵してみてごらんなさい」
「ん? 【測量】!」
言われたとおり、北方面の森の中を索敵した。
すると、
「むむっ!? 何やら小柄な人影が16!」
「武装は分かるかしらぁん?」
「石製の斧や槍のようじゃな」
「ってことは、ゴブリンの集団ねぇ。アタシみたいな軍人からすればザコ中のザコだけど、村人からすれば普通に殺されそうになるほど強い相手よ」
「じゃが、どうして魔物が来ると分かっておったのじゃ?」
「簡単よぉ。ドラゴンほどの大物ともなれば、その覇気は計り知れない。覇気に当てられた下級の魔物が逃げ出すのは道理よぉん」
「なるほど!」
伊能は悔やんだ。
(そういうこともあるのか。危うく、ワシの不明のために村を危機に陥らせるところじゃった。――よし、後悔はここまでじゃ。次の手を打つのじゃ、三郎右衛門)
「多分だけど、そのゴブリンたちはベリアブルク西の森の、浅いところに棲んでいたんじゃないかしらぁん。そこにドラゴンが現れて、怖くなって逃げ出した。けど、西――迷いの森に入っちゃったら、生きて出られるか分からない。だから、南に逃げた。すると、美味しそうな匂い――女子供の匂いがしたから、こうして追いかけてきたってわけ」
近くで話を聴いていたドヴァリンが、青ざめた。
「なんてこった、俺たちが連れてきちまったってことか!?」
「そうなるわねぇ~。けれどもまぁ、早いか遅いかの違いだったと思うわよぉ~ん」
「ということじゃ」
伊能はドヴァリンに微笑みかける。
「気に病む必要はない。じゃが、戦える者は一緒に戦ってもらうぞ」
「もちろんだ!」
「それでイノーちゃん、接敵まではぁ?」
「まだ数時間はあるようじゃ」
「なら、夜襲してくるでしょうねぇ。ゴブリンは夜目が効くから。でも、それはイノーちゃんも同じなんでしょう?」
「ふぉっふぉっふぉっ。まったく、どこで聴いたのやら」
◆ ◇ ◆ ◇
伊能はすみやかに村を指揮した。
少年少女らと難民の女子供、および動けないほど衰弱している者は東村へ避難させる。
続いて、ルーベンら東村の大人たちに弓矢を持たせた。
東村はもともと狩人たちの村。
盗賊たちに弓矢を奪われるまでは、男たちはみな狩りで生計を立てていたのだ。
「敵はゴブリン。16体じゃ。みな、戦えるな?」
「「「「「おう!」」」」」
男たちの力強い返事。
彼らは久しぶりに弓矢を手にして、高揚しているようだ。
そして、
「おーっ!」
隣では、満面の笑みのジスカが腕を振り上げている。
「ジスカや、お主にも避難してもらいたいのじゃが……」
「子供扱いしないで」
「事実、子供じゃ」
「大人になれって言ったのはイノーちゃんでしょう?」
「うっ」
「それに、盗賊相手も魔物相手も同じよ」
「うぅ……分かった分かった。が、くれぐれもワシから離れるでないぞ」
「っ! うん!」
小躍りするジスカに苦笑いしてみせてから、伊能はドヴァリンたち――比較的元気な難民たちに語りかける。
「あなた方には、弓兵部隊への後方支援をお願いしたい。矢の補充、松明による照明、水と食事の供給など。それと、負傷者が出たときにリベカ殿のいる後方へ運ぶ役じゃ。いずれも危険を伴う仕事じゃが、やってくれますかな?」
「もちろんだ、村長さん」
ドヴァリンを始めとする男たちと、錬金術師リベカが力強くうなずいた。
「では各自、すみやかに仮眠!」




