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26『伊能、難民たちを癒す』

「して、お主らはどうするのじゃ?」


 伊能は難民リーダーのドワーフに話しかける。


「できれば水をもらいたい」

「じゃろうなぁ。井戸水がある。掘りたてじゃが、ろ過すれば十分飲めるじゃろう。腹は空いておらぬか?」


 ドワーフが難民たちへ振り返ると、多くの者たちが激しくうなずいた。


「ご厚意に感謝する」

「ふぉっふぉっふぉっ、取り立てのウサギ肉があるぞ」

「ちょっと、イノーちゃん!」


 ジスカがイノーに耳打ちする。


「こんな大人数にウサギを配ったら、私たちの分がなくなっちゃう!」

「また獲ってくればよいじゃろう。ワシとジスカなら楽勝じゃ」

「そもそも、こんな見ず知らずの人たちを助ける義理なんてないじゃない」

「気持ちは分かるがな、ジスカ。これは、単なる慈善事業ではない。腹を空かせ、あとがなくなった集団は暴徒と化す」

「どういうことよ?」

「死ぬほど腹が空いていて、目の前にはパンやウサギ肉が置いてあるとする。しかも、その食料を持っているのは、自分たちよりも10分の1の人数しかいない。どうなると思う?」

「死ぬくらいなら……奪おう、って思っちゃうかも」

「そうならないために、先手を打つのじゃ。そうすれば、争いを未然に防げるし、恩も売れる」


 伊能は会話の後半、小声ではなくわざと大きめの声で話しながら、ドワーフに目配せした。

 ドワーフがまぶしそうにうなずいた。


「申し遅れた。俺はドヴァリン。ベリアブルクの鍛冶ギルド長だ。こいつらの大半は鍛冶ギルド員や下働きの連中だ。残りは、避難の道中でたまたま合流した奴らだな」





   ◆   ◇   ◆   ◇





 村総出で飲み水を作り、肉を焼いた。


「怪我をしておる者はおらんか? 癒し一角ウサギのツノの粉末を傷にすり込むと、傷の治りが早くなるのじゃ」

「癒し一角ウサギのツノだって!? 高級品じゃないか!」


 ドワーフのドヴァリンが仰天する。


「待て待て、そのまま使うなんてもったいない。ポーションにすれば回復力が跳ね上がるし、量も水増しできるぞ。――おーい、お前さん! 確か向かいの薬屋に勤めていたよな?」


 ドヴァリンに声をかけられ、年若い女性がやって来た。


「はい。どうしました?」

「それが、このお嬢ちゃん――失礼、村長のイノー殿が、癒し一角ウサギのツノを持ってるっていうからよ」

「なんと!? 怪我人が何人もいるのにポーションが作れず、困っていたのです。わたくし、錬金術師のリベカと申します。そのツノをお譲りいただけませんか? 対価として、出来上がったポーションの半分を差し上げます。それ一本でも、10人の怪我を治せます」

「なんと、そうなのか。ちょっと待っておれ」


 伊能は自宅に戻り、癒し一角ウサギのツノを追加で10本、持ってきた。


「これで、怪我人全員分に足りるかのぅ?」

「「なっ、なっ、なっ!?」」


 瞠目するドヴァリンとリベカ。


「癒し一角ウサギといえば、超稀少なうえにすばしっこいことで有名なんだぞ!? どうやってこんなに手に入れたんだ?」

「そういうのはあとでよいでな。対価はよいから、これで怪我人を全員治してやってくれ」

「心から感謝する」


 ドヴァリンが深々と頭を下げた。


「ご恩に報いたいのだが、このとおり支払えるものが何もない。そうだ、何か直すものはないか? 鍛冶ギルドとはいっても、何も武具だけを造ってるわけじゃねぇ。鍋でも家でも、何でも直せるぜ」

「なんと、それは助かるのぅ! 実は掘ったばかりの井戸があるのじゃが、何しろワシらは素人ばかりで、水に泥が混じってしまって困っておったのじゃ」

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