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22『盗賊のカシラ、口封じされる』

 ――殺せーっ!

 ――早くやれー!

 ――悪党に死を!


 その日、ベリアル伯領の領都ベリアブルクでは公開処刑が執り行われていた。

 絞首台に立たされているのは、伊能が取り逃がした盗賊のカシラだ。


 ベリアブルクは、人口数千人の城塞都市。

 この辺りでは指折りの大都市である。

 南には広大な小麦畑が広がっており、さらにその南にはケルブ辺境伯領との領境にもなっている小山がある。西には広大な森が広がっており、さらに西へと入ると『迷いの森』につながっている。


 森には、多数の魔物が潜んでいる。

 ケルブ領とは異なり、ベリアブルク郊外には魔物にとってのエサ――小麦などの農作物と、それを育てている人間と、人間たちが育てている家畜――がたくさんあるからである。


 森の中には多数の洞窟があり、十数年前まではたくさんのミスリル鉱石が採掘されていた。

 それを目当てに鍛冶師が集まり、それを目当てに商人が集まり、それを目当てに畜産家や農家が集まった――それが、ベリアブルクの成り立ちである。


 ――盗賊は皆殺しにしろー!


 ベリアブルクの中央広場では、民衆たちがカシラに怒りをぶつけている。


「た、助けてくれ! なぁ!」


 当のカシラは、傍らに立つ小太りな貴族男性――ベリアル伯爵に命乞いをしていた。


「俺はあんたに言われたとおりにしただけだ! なぁ、そうだろ!?」

「やれ」


 ベリアル伯爵の一言で、執行人がカシラを足場から蹴り落とした。

 木柱と縄が鳴り、カシラが絶命する。


(まったく、最後まで馬鹿な男だったな)


 ベリアル伯爵は群衆のほうへ向き直り、声を張り上げた。


「領民たちよ、正義は執行された!」


 ――うおぉおおおおおお!


「このとおり、私は諸君らの盾であり剣だ! 今は少し重い税を強いてはいるが、新たなミスリル鉱脈が見つかれば、この困窮ともおさらばだ! 南の地――憎きケルブ辺境伯が『実効支配』している土地には、未だたくさんのミスリル鉱脈が眠ると聴く。だが、当のケルブ辺境伯は、この辺境の地に興味がなく、ろくな村も存在しない。ならば、我らベリアル伯領の民が土地とミスリル鉱脈を手にするべきだ! 違うかね!?」


 ――そのとおり!

 ――かつての栄光を取り戻すんだ!


(馬鹿な民衆だ。面白いほど簡単に扇動される)


 ベリアル伯爵は拳を突き上げる。


「ありがとう、諸君! 『対話』のためには、『実力』が必要だ! 領軍拡大のため、引き続き諸君らの力を税金という形で貸してくれ!」


 ――領主様、万歳!

 ――ベリアル伯爵様、万歳!


 広場の興奮が最高潮に達しようとしていた、そのとき。





 ――カンカンカンカンカンッ!





 と、不吉な警鐘が街中に鳴り響いた。


「領主様、大変です!」


 西のほうから、真っ青な顔の見張り兵がやって来た。


「ど、どどど、ドラゴンが現れました!」

「ドラゴンだと!?」


 ――ゴォァアアアアオオォオオオオオオオオオオオオッ!


 間髪入れず、西の空から世にも恐ろしい咆哮が聴こえてきた。

 ベリアル伯爵が恐る恐る見上げると、巨大なドラゴンがこちらに向かって飛んできつつあった。

 広場が、いや、ベリアブルク全体が大パニックに陥る。


「領主様、どうすれば!?」


 見張り兵がすがりついてくる。


「た、戦え! そのために、高い給金を支払っているのだからな!」

「も、もちろんです! しかし、指揮を執っていただかないと――」


 ベリアル伯爵は見張り兵を振り払い、自分の屋敷に向けて走り出した。


「領主様、どこへ!?」

「わ、私は忙しいのだ! いいか、ありとあらゆる兵士をかき集めて、最後まで戦うのだぞ! そうだ、領民たちも戦わせろ! いいな!」


 ベリアル伯爵は屋敷に戻り、メイドや使用人たちに武装させ、屋敷の外に立たせた。

 そして、少数の使用人だけを伴って、宝飾、芸術品や金品、契約書、帳簿などを荷馬車に詰め込みはじめた。


 領都中が悲劇に見舞われる中、ベリアル伯爵は守るべき民を見捨てて逃げ出した。

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