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19『お人好し商人、謎の美少女を連れてくる』

 翌日。


「えっさ、ほいさ」


 ガドたち少年少女らは、今日も楽しそうに井戸掘りをしている。

 地味かつハードな仕事だが、自分たちの頑張りが『穴の深さ』という形で着実に進んでいることと、伊能という絶対的指導者による確信的指示による仕事で成功が約束されている点が、彼ら彼女らの感情を刺激しているらしい。


 その様子を笑顔で視察しながら、伊能は壮絶な覚悟を盤石なものにしつつあった。

 だがその日、東の空に狼煙が上がることはなかった。





   ◆   ◇   ◆   ◇





 その翌日も、狼煙は上がらなかった。

 が、5歳組は楽しそうに東西村間を行き来している。

 つまり、東村が危機に陥り、狼煙を上げる暇すらなかった、というわけではないようだ。





   ◆   ◇   ◆   ◇





 さらにその翌日、伊能は居ても立っても居られなくなって、単身、東村に赴いた。

 ちょうど、お人好しの行商人・ナタンが来ていた。


「おお、よう来なさったな。今日は何を持ってきてくれたのじゃ? ……え、えぇええええっ!?」


 荷馬車の幌の中をのぞき込んで、伊能は仰天した。

 中に、世にも美しい金髪赤眼の幼女が乗っていたからである。


「お、お主まさか、また人買いを!?」

「め、めめめ滅多なことを言うんじゃねぇよ!!!」


 顔面蒼白のナタン。


「このお方は……じゃなかった、この娘は俺の助手だ。けど、見てのとおり大店の娘だから、くれぐれも無礼のないようにな」

「ほぅ?」


 幼女と目が合った。

 10歳に満たないくらいだろうか。

 旅装だが、その生地は一目で特上品と分かる。

 その幼女が、人見知りするどころかパッと微笑み、優雅に一礼した。


「リリンと申します。ナタン先輩に無理を言って連れてきていただきました」

「ほうほう、それはそれは」

「イノー殿、ですよね? 以後、お見知りおきを」


 伊能は幼女リリンに手を貸し、馬車から下ろしてやりながら、リリンをまるっと【測量】する。


(身長130センチ、体重30キロ、10歳前後。じゃが、およそ10歳児とはとても思えぬほどのしっかりした立ち居振る舞い。まぁ、ワシが言うのも何じゃが。これはもしや――)

「どうかされましたか?」


 リリンが首を傾げた。

 年相応の幼い仕草――に見せかけた、と思わせる仕草。


「…………。いや、何でもござらん。よう来なさったな。じゃが、かような何もない村に、どうしてあなた様のようなお方が?」

「ご謙遜を。ここではミスリル鉱石が出る、とナタン先輩から聞いております。ぜひとも、掘っているところを見せていただきたく」

「いやぁ……」

「お願いします! このとーり!」


 伊能はため息をひとつ。


「仕方がないのぅ。ワシは幼子のお願いには弱いのじゃ」

「やったー!」

「え、いいのか!? キギョーヒミツってやつじゃなかったのかよ?」

「ナタン、お主は駄目じゃ」

「なんで!?」

「女子会じゃからじゃよ」

「えええっ!?」


 不満そうなナタンに対して、伊能は言う。


「ナタンや、馬を貸してはくれぬか?」

「乗れるのかよ。ますます何者だよ、アンタ。ってか、俺だけ仲間外れにするくせに、要求だけはぶつけてくるんだからよぅ」


 などと文句を言いながらも、ナタンが馬車から馬を放してくれる。


「それと、ジスカや。お主は留守番じゃ」

「えっ、なんで!?」


 親に捨てられた子猫のような顔をするジスカ。


「お主はもはや、ワシの右腕。商談のひとつやふたつはまとめてもらわねば困る。ミスリル鉱石と癒し一角ウサギのツノの在庫は把握しておるな? 歴戦の商人相手に、損のないように取引するのじゃ。とはいえ――」


 伊能はナタンにニヤリと微笑みかける。


「あとで答え合わせをするでな。ナタンや、ワシの可愛い相棒を、あまりイジメすぎるなよ?」

「はぁ~……馬といい新人教育といい、俺の持ち出しが多すぎやしないか?」

「ほほぅ?」


 伊能は懐から、ミスリル鉱石をちらりと見せた。


「全身全霊で取り組ませてもらいまっっっっす!」


 ナタンが腕まくりしたのを見届けて、伊能はナタンの馬に飛び乗った。

 それから、謎の美幼女リリンを馬上へ引っ張り上げた。

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