15『伊能、隣領領主の企みを看破する』
「とか思っておるのじゃろうなぁ」
ルーベンにおんぶしてもらいながら、伊能はつぶやいた。
「はぁっ、はぁっ、何のっ、話です!?」
伊能をおんぶした状態で盗賊のカシラを追いかけながら、ルーベンが尋ねてくる。
「いや、何でもない。それよりも、すまぬのぅ」
「いえいえ、女性に、この森は、きつい、でしょうからっ」
伊能の足では、カシラを逃がしてしまう恐れがあるのだ。
最初、おんぶ役としてジスカが名乗りを上げたのだが、さすがに伊能が断った。
「【測量】!」
伊能がカシラの位置を補足する。
追いかけているのがバレないように、測量範囲を光らせる機能はオフにしている。
「ほほう、それがキギョーヒミツというやつですか?」
「むぅ。まぁ、そなたはジスカの親じゃし村長的な立場じゃから、特別に開示するとしようか。これからも付き合いが長くなりそうじゃしのぅ」
「測量と言いつつ、相手の位置まで割り出せるのですね。上級魔法【索敵】と同等の効果です。何とすさまじい」
「ふぅん。――おっ、奴め領境を超えたぞ」
「ほほう、しかも700メートル先まで視えるとは。まだ追いますか?」
「頼む」
やがて2人は山頂――領境ギリギリにまで到達した。
「――しっ。この藪からはでないように」
伊能は息をひそめる。
「100メートル先に、武装した男が2人おる」
「ベリアル伯領の従士でしょうか。紋章は分かりますか?」
「紋章? なるほど。【測量】。――おお、剣の柄に紋章が描かれておる。天使、ラッパ、チャリオット、炎?」
「ベリアル伯領の紋章です。この距離で、この暗さで紋章まで視えるとは、まさに千里眼ですね。それで、盗賊のカシラは? 彼らに捕まったのでしょうか?」
「それが、従士らと仲良く歓談しておるわ」
「なっ!?」
ルーベンが伊能を下ろした。
伊能が見上げると、ルーベンは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そういうことですか……。我々の困窮も、苦しみも、恐怖も、愛する我が子を口減らしに出さざるをえなかった惨状も。すべてはベリアル伯の策略だったと?」
「残念ながら、な。まぁ、領境を荒らしてから『現地民保護のために』と称して軍を派遣し実行支配、というのはどこの国でもいつの時代でも常套手段じゃからのぅ」
「これを押さえるために、あえて盗賊のカシラを泳がせていたのですね」
「記録として残せないのが、実に惜しい。カメラやスマホがあればよかったのじゃが」
「カメ……スマ……何ですか?」
「何でもない。とある世界の、未来の話じゃよ」




