14『伊能、盗賊団を圧倒する』
3日後、夕方。
その男――盗賊団のカシラは、ニヤニヤ笑いながら名もなき村へと向かっていた。
(ボロい仕事だよな。死にかけの村を定期的に襲うだけで、毎週金貨1枚がもらえるんだから。しかも、村の奴らときたら抵抗する気ゼロ。急ごしらえの『盗賊団』でも、十分通用する)
男は、その昔はとある領でいっぱしの従士だった。
10人隊長になったこともある。
だが、利き手の怪我がもとで前線に出られなくなった。
似たような同僚は何人もいた。
中には兵站管理部門で活躍する者もいたが、彼はそういうチマチマとした仕事が死ぬほど苦手だった。
嫌だ苦手だと逃げているうちに隊を追い出され、冒険者になっても上手くいかず、気がつけばこうして犯罪に手を染めていた。
(いや、犯罪っていっても、お貴族様公認の重大な『任務』だぜぇ)
やがて、村が見えてきた。
日が沈みかけている。
カシラは12人の部下のうち半数を村の外に待機させ、残り半分を伴って村に入る。
村の入口、ちょっとした開けた場所で、村のまとめ役の男が平伏していた。
「お、お待ちしておりました。こちら、食料でございます」
まとめ役の前に置いてあるのは、木箱だ。
今や、日はすっかり沈んでしまった。
部下たちが松明に火を灯す。
「これが、村で出せるすべてです。どうかこれでご勘弁を……」
「ふぅん? おいお前、開けろ」
「へい」
カシラの命令で、部下の1人が木箱に近寄る。
木箱は、いつもより一回り大きかった。
木箱には封がしていなかった。
部下が木箱の蓋を開ける。
「……え?」
部下が、呆けた。
中に、少女が入っていたからだ。
「がっ、あっ……」
少女によって首に矢を突き立てられ、部下がよろめいた。
次の瞬間、
「一斉射!」
空から甲高い声が聴こえてきた。
と思った瞬間、四方八方から石が飛んできた!
カシラは、かろうじて耐えた。
鉢金と鎖帷子と、長年生き延びてきた戦士の勘が仕事をしたからである。
だが、周囲の部下たちは駄目だった。
「エネミー2、3、6、7ダウン!」
また、甲高い女の声。
「くそっ……!」
わけも分からないまま、カシラは逃げ出す。
「エネミー1、セクターA9へ向かったぞ! エネミー4はセクターB1、5はC1へ! チームA、B、撃て!」
「ぎゃっ!?」
「エネミー5はC2、いやC3へ。次弾急げ!」
(なっ、なっ、なっ、何が起きてやがる!?)
カシラは逃げながら、必死に考える。
(いや、今はそれよりも――)
カシラは声を張り上げた。
「馬鹿がっ、松明を捨てろ!」
松明を持ったまま村内を逃げ惑うなど、自ら居場所を喧伝しているようなものだ。
果たして部下が松明を捨てたらしく、しばし辺りが静かになった。
(ったく、これだから素人は!)
カシラも物陰に隠れ、息を潜める。
だが――、
「ぎゃっ!?」
やがて、その部下の悲鳴が聴こえてきた。
(おいおいおい、マジかよ!)
カシラは居場所がバレるのも厭わず、指笛を吹いた。
残りの6人――比較的長く務めている武装済みの6名が、動き出す。
だが、
「エネミー8、9、10、セクターH2出現! エネミー11、12、13、セクターJ4!」
――わっ!?
――ぎゃっ
――ど、どこから!? うわあっ!
次々と上がっていく、部下たちの悲鳴。
カシラは呆然と、空を見上げる。
そこに、いた。
屋根の上に立つ銀髪の少女。
月光を浴びながら、氷のような目でカシラを見下ろす死神が。
「お前らっ、あの女を――」
言いかけて、カシラは冷静になった。
現状、12人いた部下のうち、すでに5人が無効化されており、残りも追い詰められている可能性が高い。
「くそっ、くそぉっ……!」
カシラは長年の戦場で身につけてきた嗅覚に従い、逃げることに決めた。
「【隠密】、【夜目】」
カシラはスキルを重ねがけしながら、走り出す。
重ねがけは体に負担がかかる。
明日は反動で体が動かなくなるだろう。
だが、
(松明を捨てた奴も、はなから松明を点けずにひそんでいた奴すら撃たれた! 敵も【夜目】を持っているはずだ)
だから、ただ暗がりのほうへ逃げるだけでは追跡される可能性が高い。
だが、さしもの敵も、斥候・盗賊系の専門スキル【隠密】を看破することはできなかったようだ。
大混乱の村の中から、カシラは難なく抜け出すことができた。
北――領境の山に向けて、一目散に逃げ出す。
(使い捨ての部下どもは、『本当の目的』を知らない。俺さえ逃げ切れれば、大丈夫だ)




