13『伊能、狩人(弓使い)たちのプライドを叩き折る』
村の隣の森にて。
「なっ、なっ、なっ……」
ルーベンは言葉を失った。
なぜなら、
「6メートル先、茂みの中じゃ。一斉射!」
「「「「「やーっ」」」」」
今にも餓死寸前だった男児たち――泣く泣く売り払った子供たちが、ふっくらとしてすっかり健康を取り戻しているからだ。
しかも、
「命中じゃ。お主たち、よくやったな」
「「「「「わーい!」」」」」
イノーの指揮のもととはいえ、5歳前後の男児たちだけでウサギ狩りに成功しているからである。
それも、
(弓ですらなく! 投石で仕留めた、だと!?)
投石器――スリングというやつだ。
ウサギの毛皮で作った、小振りのスリング。
だが、拳ほどの大きさの石を矢と同じほどのスピードで撃ち出すことができる。
「ウサギよ、すまんな」
イノーが茂みの中へ駆け込み、一角ウサギを手早く絞めた。
ウサギを引きずって運びながら、イノーが男児たちに言う。
「命中弾は2つ。テオとノアのものじゃ。うち致命打は頭部に当たったテオのもの。ようやったのぅ、お主ら」
「えへへ、やったー」
「ねーっ」
無邪気に喜ぶテオとノア。
他の子供たち――ミカ、ヨナ、ダンがむくれる。
「僕のは? 僕のは?」
「ミカのは至近弾じゃった。これはもう運の領域じゃから、実質命中じゃ。ようやったのぅ」
「やったー!」
「ねぇねぇお姉ちゃん、俺のは?」
「ヨナのはぜんぜん違う方向にすっ飛んでいっておったぞ」
「えーっ」
「じゃが、腕力はヨナが皆の中で随一じゃ。訓練次第では最強になれるやもしれぬ」
「俺、がんばる!」
「…………」
「どうした、ダン?」
「僕のはどうせ駄目だったでしょ」
「うーん。まぁ、そのとおりじゃ。そもそも6メートルまで届いておらなんだ」
「どうせ僕なんて……」
「じゃが、お主はウサギを解体するのが随一ではないか。テオやヨナが捌いたウサギは膀胱や腸が破裂して、肉が糞尿まみれになって食えたものではない。その点、ダンは実に器用に捌く。これからも頼りにしておるぞ」
「っ! うん!」
(な、懐いている……。いや、イノー殿の人心掌握力が見事なのだ)
子供たちの様子を呆然と眺めていたルーベンだったが、ハッとなった。
(いや、そもそも、どうして石の行く末なんて分かるんだ!? 茂みの中のことだぞ!? この少女は千里眼でも持っているのか? 神か悪魔のたぐいか!?)
――本当に、子供たちだけで一角ウサギを……
――あんな大きなの、弓があっても仕留められるかどうか。
――というか、あの娘はどうしてウサギの位置が分かるんだ!?
――ウサギ肉美味い。美味い。あぁ、肉なんて食べたの何週間ぶりだろう。
村人たちは、ウサギ肉に夢中になりつつ子供たちの狩りの手際に驚きつつと、忙しい。
「おっ、もう1羽見つけたぞ。あっちの方向、81メートル先じゃ」
「は、はちじゅう!? なぜそんなことが分かるのですか!?」
「ふぉっふぉっふぉっ、企業秘密じゃ。さて、ジスカ、頼めるかの?」
「任せて」
ジスカがギリギリッと弓を引き絞る。
「方向、よし。仰角2度上げ。撃て!」
――ビュッ
「……。……。……。当たった」
「やった! 行ってくるね」
「頼んだぞ」
「「「「「なっ、なっ、なっ」」」」」
ルーベンを始めとする狩人たちはもう、言葉も出ない。
数分後、ジスカが本当にウサギを持って帰ってくるにいたって、男たちは膝から崩れ落ちた。
◆ ◇ ◆ ◇
「とまぁこのように、ワシの『目』とスリングがあれば、お主らでも盗賊を退治可能というわけですじゃ」
ルーベンは周囲を見回す。
ここのところ絶望続きで虚ろな表情をしていたはずの村人たちが、目を輝かせている。
――おいおい、もしかして、もしかするんじゃ?
――そうだよな。遠距離から一方的に叩けば……
――けど、弓がないぞ。全部、盗賊に取り上げられちまった。
「次に盗賊が来るのはいつごろですじゃ?」
「だいたい1週間に1回来ますから、次は3、4日後ですね」
「となると、今から弓矢を揃える時間はないですな。じゃが、スリングを覚える時間はある」
少女イノーがニヤリと笑った。
「皆さんには、この3日で最強の投石兵団になってもらいますぞ」




