11『伊能、盗賊退治を決意する』
3日後、再びナタンがやって来た。
「食料は……これだけか」
「昨日も最果ての村に盗賊が出たんだとよ」
ナタンのため息。
「まったく、度し難い話じゃ」
伊能は考える。
(食料確保は急務じゃ。小麦を刈り取るには7ヵ月かかる。ウサギだって、いつまでも獲り続けられるとは限らぬ。事実、森の浅いところではウサギが見つかりにくくなりつつあるしのぅ。西――迷いの森に入れば話は変わるじゃろうが、ジスカに止められておるし……)
「食料を増やしてもらうことはできぬのか?」
「増やしてもその分、最果ての村で買われるだけさ」
「こっちに先に来てもらうというのは?」
「気持ちは分かるが、付き合いがあるからなぁ」
「お主以外に行商人はおらぬのか?」
「いると思うか? こんな旨味のない商売をしたがる商人が」
「お主がいるではないか」
「俺は弱小だからな。東のほうじゃ大手が独占しちまっていて、俺みたいなのが入る余地がないんだよ。ま、今は嬢ちゃんという太客がいるが」
「馬車を大きくするというのは?」
「その代金は嬢ちゃんがミスリル鉱石で出してくれるってことかい? だとしても、無理だな。ここいらの道は細いうえにガタガタだから、今以上の荷物は運べねぇよ。夜にはオオカミが出るし」
「むぅ……すでに最善は尽くしてくれておる、ということか」
「結局、元凶は盗賊なんだよな。俺も正直、盗賊は怖い。嬢ちゃんのミスリル鉱石がなけりゃ、俺も手を引いてるところだぜ」
(ならば、付き合いなど無視してここにだけ食料を売れば……というのは、ジスカやテオの親を含めた村人たちを餓死させる選択なのじゃよなぁ)
このお人好し商人に、そんなことができるとは思えない。
今のナタンは、
『盗賊が出るから、できればここには来たくない』
『けれど、ミスリル鉱石は欲しいから、ガマンして来る』
『どうせ来るなら、最果ての村にも立ち寄る』
『立ち寄る以上は、付き合いの長い最果ての村を優先してやりたい』
(……と、このあたりの感情がごちゃまぜになっておるんじゃろうなぁ)
伊能はナタンに同情するようにうなずいてみせる。
「そうさな。元凶は盗賊じゃ」
「……え? ちょっと、イノーちゃん?」
そばで2人の会話を聞いていたジスカが、青い顔をした。
だが、伊能はあえて宣言した。
「決めた。盗賊退治じゃ!」
「待ってよ!」
ジスカが悲鳴に近い声を上げた。
「無謀よ、相手は13人! こんな女子供の集団で挑んでも、返り討ちに遭うだけよ! 盗賊に捕まった女がどれほど悲惨な目に遭うのか、イノーちゃんは知らないの!?」
「…………」
「それに、これは私たちの問題じゃなくて、最果ての村の問題じゃないの。どうして私たちが、あの人たちのために命を懸けなきゃならないの?」
ジスカがどんどん興奮していく。
そして、
「そもそも、あの人たちは私たちを売り飛ばしたのよ!?」
はーっ、はーっ……と、ジスカが肩で息をしている。
(そう。ジスカの根底には、『親に捨てられた』という深い絶望、恨みがある。反発するのは当然の話じゃ。じゃが、受け入れてもらわねばならぬ。ジスカはもう、ワシの右腕にしてこの集落の主要戦力なのじゃ。つらくとも、成長してもらわねば)
ジスカが泣いている。
伊能はジスカの頭を胸に抱いた。
「すまぬな、つらい思いをさせてしまって」
片手でジスカの頭をなでてやり、もう片方の手でジスカの背中をポンポンと叩いてやる。
「このように考えてはくれぬか? ワシらが盗賊と戦うのは、最果ての村を救うためではない。ワシら自身を救うためなのじゃ」
「…………」
ジスカが返事をしてくれない。
だが、手を払いのけるわけでもない。
「ワシらには食料が必要じゃ。それに、井戸を掘るにも家の風穴を塞ぐにも男手が必要。分かるか、ジスカ?」
「……うん」
「ワシらが盗賊を撃退すれば、対価として労役を求めることができるじゃろう」
「……うん」
「それに、戦うのはワシらだけではない」
「……どういうこと?」
ジスカが顔を上げた。
伊能はニヤリと笑ってみせた。
「最果ての村の者たちにも、一緒に戦ってもらうのじゃよ」




