忘却の宝物庫(2)
「な、なんで、アルヴェイン様が、ここに……?」
「ここは僕の宝物庫だ。僕がいてなにかおかしなことがあるかい?」
もう二度と会えないと思っていた彼がそこにいる。パクパクと口を開閉しながら、何も言えないままでいるわたしを尻目に、ルカ様が口を開く。
「投影魔術か。しかも具現化とは恐れ入る」
「ご名答。さすが僕の血を受け継ぐものだね」
また、魔術。そうか、魔術か。
「きっと、あなたは本物のアルヴェイン様ではないんですよね」
自分でもびっくりするほど、温度のない声が出た。ルカ様が少し目を見開いたのが、視界の端に映る。
「あぁ、すまない、君の言う通り僕はレグナード・アルヴェインの魔力の残滓からなるただの亡霊でね。これもご愛嬌の一つとして受けいれてくれ」
「死んでなおこの再現度。バケモノかよ」
パチリとウィンクするアルヴェイン様と、うげぇと嫌そうな顔をするルカ様。その対比がおかしくて、思わずくすくすと笑ってしまう。
「おや?なにかおかしいことがあったかな?」
「亡霊だろうとなかろうと、アルヴェイン様はアルヴェイン様なんだなって」
ルカ様が溜息を吐くのが視界に入る。自分でも、アルヴェイン様に甘い自覚は大いにある。
「それで?エレノア、アンタの最愛がなんでこんなところに」
「それはエリィが僕の宝物だからさ」
『何を当たり前のことを』といった顔で告げるアルヴェイン様に、ルカ様が深い深いため息を吐く。『ため息を吐くと幸せが逃げる』という言葉が本当なら、この人の幸せは今すごい勢いで逃げていっていることだろう。
「そんなことより」
なんでかはわからないが、アルヴェイン様も詳しく話す気はないのだろう。今度はルカ様の舌打ちが教会に響く。あの人が悪いとはいえ、忙しい人だな。
「キミに伝えたいことがある」
アルヴェイン様が、私に視線を向けてしゃべりだす。
「君を愛した宝を連れて行くといい。そうだな、あの髪飾りなんていいだろう。キミをとてもよく気に入っている」
くすくすと懐かしそうにアルヴェイン様が告げる。
「あの子はさみしがり屋だからね。厄介な時もあるかもしれない。ぼくもあの子を放置しすぎだと、帰るたびによく怒られたものだ」
優しく笑う姿から、まるで親心のようなものを感じてこちらまであたたかい気持ちになる。
「アルヴェイン様、私、大切にしますから!」
「あぁ、そうしてやってくれ」
少しほのぼのとした空気が続いたのもつかの間。
「ああ、そうだ。ここは僕が死んでこの扉が開かれた後、僕とエリィを遺して崩壊する手はずとなっているから、早く脱出した方がいいよ」
「「は!?」」
ルカ様と私の声が重なる。しかしアルヴェイン様は、驚く私たちを意にも介さぬようにそのまま続ける。
「そうそう。遺品整理に来てくれたようだが、宝たちは愛してくれる人のもとへ、勝手に足を運ぶように命じてあるから、心配しないでおくれ」
『それじゃぁ、またどこかで!』といってエレノア様の棺とともに一瞬にして姿を消してしまった。
「チッ、最後まで厄介なジジィだな」
「アルヴェイン様……」
「悲壮に暮れている場合か。早くいくぞ!」
軽いやり取りを交わし、ゴゴゴという宝物庫が崩れているであろう轟音を聴きながら、外へ向けて駆け出すのであった。
近頃は台風が猛威をふるって、気圧の暴力が酷いですね(っ◞‸◟c)皆様ご安静に……!
読んで頂きありがとうございました,,ᴗ ̫ ᴗ,,




