3-16. 『罠師』、『刀剣生成』と『銃器生成』を見守ってみる。
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ダンジョン内の休憩所を後にして、ケンたちが冷え冷えとした暗い洞窟を歩いていると、やけに奥が明るい穴を見つけたため、アーレスを先頭にして警戒しながらくぐり抜ける。
「あ、暑っ!? こ、これは!?」
不意に全身を包んできた熱気に驚いたアーレスが、反射的に声を出していた。
やがて、ケンたち全員が潜り抜け終わると、彼らの目には異様な光景が映る。
「海だね」
無遠慮に纏わりつくような熱気、先ほどまでの陰気臭さを塗り潰すかのように鼻を刺激する潮風、どこか落ち着かせるような潮騒、各々が目を動かせば、どこまでも広がっている青い空、天頂に見える大きな太陽、四方に水平線が見える大海原が見え、ケンたちはぽつんと存在する砂地の平坦な島に突っ立っていた。
「海ね」
「海ですね」
「海だな」
「どうしてこんなところに……」
「うわあ、すごっ……いけど、なにこれ……」
閉塞的な洞窟の中の圧倒的な解放感。この異常事態に、思わず全員が口を引きつらせて困ったような笑みを浮かべている。
「…………Mm」
「あれは、亀の姿をした魔物? まさか、サラタン?」
砂地で大岩のような何かが緩慢な動きでいくつか闊歩しており、ケンは思わず目を点にして言葉を漏らしていた。
「サラタン?」
アーレスが初耳とばかりに首を少し傾げてケンに聞き返してみると、ケンは彼女とメルを一瞥してから、サラタンと呼んだ魔物を指差す。
「そう、サラタン。島のように大きな亀の魔物のことだね。あれらは小さいから、生まれたてのベビーだろうけど」
「あれで、ベビー!?」
「ちょっとした宿屋よりも大きいですね」
ケンはメルとアーレスの驚きに満足げな様子で、その次にミィレやソゥラ、ファードの方を見る。
「どうしてウミガメ型の魔物がこんな森のど真ん中のダンジョンにいるのよ……いたとしてもリクガメ型じゃないの?」
訝し気に砂地を何度か蹴り上げるミィレの当然の疑問も、ダンジョンの前では無意味だとばかりにソゥラが口元に手を置きながら意地悪そうな笑みを浮かべる。
「んふっ♪ そりゃあ、ダンジョンはあ、何でもありですからあ♪ そもそも、この場所だって、洞窟の中だとはあ、とても思えないくらいに海ですし」
強い直射日光の中、服装を緩め始めたファードが、ソゥラに同意するように頷く。
「ふぅ、洞窟や森とも完全に違う空気だな。どうも空間ごと、別の場所に転移しているようだ。この世界のどこかなのか、はたまた、別世界の一空間なのかは判別できないけどな。ほら、あそこに別の出入り口があるぞ」
「この場所で延々と捜索するようなことはなさそうね」
ファードは奥に別の出入り口を見つけ、ミィレも安堵した様子で目を閉じて小さく息を吐いた。
「なんにせよ、サラタンベビーからは防御アップの魔石が手に入るようだから、この機会にアーレスとメルにはしっかりパワーアップしてもらわないとね」
ケンは全員が周りに気を取られている中、手近なサラタンベビーを既に罠で八つ裂きにしており、その中から橙色の魔石、物理防御力アップの魔石を取り出していた。
「いつの間に……」
「しかも、魔石まで……」
魔石はこの世界の勇者候補にしか使えないパワーアップアイテムであり、彼らが異世界勇者に少しでも肉薄できるために神から施された救済措置である。
「さあ、アーレスもメルも、自力でパワーアップの限界まで魔石をひたすら狩り続けてね」
ケンに特訓としてサラタンベビーの討伐を促され、アーレスとメルは1度頷いてからすぐさま戦闘態勢に入った。
「先手必勝!」
メルは赤銅色の瞳に自信を滲ませて『銃器生成』で手ごろな拳銃を両手に生成すると、すぐさまサラタンベビーに銃口を向けてから、目にも留まらぬ速さで引き金を何度も引く。
メルのスキルによって反動1つない銃撃は、照準も赤銅色の髪の毛1本も揺らすことなく、意図した場所へと銃弾を放っていた。
しかし、銃弾はすべて、サラタンベビーの強固な甲羅の前では無力とばかりに跳ね返されて、海に消えたり、跳弾としてメルやアーレスに襲い掛かったりする。
「くっ!?」
アーレスは迫りくる銃弾に黄金色の瞳を向け、短い声を発しながら、『刀剣生成』で数十本の大剣クレイモアを生成して、銃弾と自分たちの間に剣の壁を築き上げた。
金属の激しくぶつかり合う音が安寧の音色となって、2人の鼓動の速さを徐々に元の速さに戻していく。
「ふ、ふぅ……あ、ありがとう、あと、ごめん」
「いえ、謝らなくても。おかげで、相当硬いことが分かりましたし」
アーレスは肩を落としているメルに柔らかな口調で言葉を返す。
「だったら、これで、焼き尽くす!」
メルは名誉の挽回を図るべく、次の一手に移った。
彼が背中にタンクのようなものを背負い、タンクから伸びたノズルの先をサラタンベビーに向けて、再び引き金を力強く引き続ける。
火炎放射器。
メルが生成した火炎放射器は直線的な火を吹き、最も近い距離にいたサラタンベビーの身体を包み込む。
「……?」
しかし、サラタンベビーに焦った様子もなく、ゆっくりとした動きで海へと潜っていき再び砂地へと戻ってきた。
「そ、そんな……嘘でしょ?」
火傷どころか焦げ1つないサラタンベビーの甲羅や外皮を見て、メルは思わず膝から崩れ落ちてしまう。
「呆けていても仕方ないですよ! でやあああああっ!」
アーレスがメルに一言残した後、彼女は砂地を走り、そのままサラタンベビーの甲羅を駆けあがって大きく跳躍した後、茶色の髪を逆立たせながら再び手元に生成したクレイモアとともに強烈な落下攻撃を繰り出した。
しかし、クレイモアが甲羅に叩きつけられた瞬間に響いた音は、耳を劈くような金属音であり、肉を引き裂くような音でも、サラタンベビーの断末魔でもなかった。
「……?」
サラタンベビーは先ほどの大音量でも意に介さない。
のそのそと動き始め、アーレスを振り落とす素振りすら見せることもなかった。
「ぐっ これならどうだ!」
かすり傷さえない甲羅を見て、アーレスは腕に痺れを覚えつつも再び跳躍し、次の標的として比較的柔らかそうな前足に再び落下攻撃をお見舞いする。
だが、アーレスの渾身の一撃は、サラタンの薄皮一枚にさえ食い込むことなく、勢いよくはじき返されただけだった。
「……?」
気付きもしないサラタンベビーから離れ、アーレスは一旦メルの元へと戻っていった。
「アーレスの重たい一撃でも……傷一つ付けられていないなんて……」
「くっ……どう見ても硬そうな甲羅はまだしも、まさか手足も傷付けられないとは……」
メルとアーレスが汗を滲ませる中、ケンたちは騒ぎ立てるわけでもなく、2人を目で追っている。
「がんばっているけれど、あれじゃ、一生かかってもダメそうよ?」
「残念ですがあ、刃があ、まったく立っていないですね。アーレスはあ、目や手足の付け根みたいな弱点になりそうな場所も積極的に狙っていて悪くないですけど、そもそものパワーがあ、まだまだ全然足りないですね」
ミィレとソゥラが、淡々とした口調でアーレスの攻撃を評価する。
「メルも銃弾を弾き返された上に、火炎放射器でも燃やせなくて、すっかり打ち手なしで立ち尽くしているって感じだしな」
ファードもまた、出方を考えあぐねて銃の安全装置を意味もなく弄るメルの様子を見て、小さな溜め息とともに肩を軽く竦ませていた。
「うーん……外側が硬い敵のお約束に、2人が気付けるかどうかだけど、今までの敵は小回りを利かせた立ち回りや手数で押していたから、そのままの発想じゃ厳しそうかな」
ケンは、ミィレやソゥラ、ファードがこぼした言葉に首を縦に静かに振りつつ、視線を忙しそうに左右上下に向けている。
「メル、後ろ!」
「おっと! ありがとう! 動きがゆっくりだから、大丈夫!」
アーレスとメルが互いに笑顔で連携し合っていた。
再び全員が口を結んで小さく唸り始める。
「目立った危険もないから、危機感も徐々に薄れているわね……似たような攻撃ばかり繰り返すし、完全に思考停止状態だわ」
「あぁ、それじゃあ、気付かないかもですね。みんなでお昼寝でもしましょうかあ?」
ソゥラはしゃがみ込んで俯いたまま、砂を掴んでは零してを繰り返していた。
「どうするよ、ケン。埒が明かねえぞ」
気だるげなファードの紫色の瞳が、視線で突き刺すかのようにケンを見つめている。
「もちろん、タイムアップだよ。これ以上は待てないから、助け舟を出してあげないとね」
3人の視線を受けたケンは手を軽く振って、アーレスたちへと近付くのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




