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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第3部1章 『罠師』、大森林で獣人に会う。

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3-15. 『罠師』、神の創りしダンジョンへと潜る。

約3,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 翌朝。ケンたちは、ハイングバットに見送られながら、猫の獣人の案内で大樹城を出て神の創りしダンジョンへと向かっていた。


 スライムのいたダンジョンと異なる方角であり、鬱蒼としている森林を歩いて小一時間ほど経った頃に、猫の獣人が何の変哲もない場所を指差し始めた。


「ここがフォーテスの有する神の創りしダンジョンですにゃあ」


 そこはケンたちが一瞬騙されているのではないかと思い込んでしまうほどに、神に創られたダンジョンであるにも関わらず、大きな川の岸辺にある茂みの中でひっそりと佇む少し大きめの横穴に過ぎなかった。


 しかし、獣が近寄っている雰囲気もさせない辺り一帯の異様さから、すぐさま先ほどの疑念を払しょくして、ケンやミィレ、ソゥラが辺りを探り始める。


 生い茂る草木を掻き分け、木を登り樹上から周りを見渡し、川の流れを把握し、洞窟の穴の中に小さな紙片に付けた火を放り込んで問題ないかを調べる。


「神の創りしダンジョンだけど、普通の洞窟みたいだね」


「もっと言うと、昨日潜った洞窟と似ているわね」


「それ以外はあ、周りにも特に目立ったものはあ、ないですね」


 ケンとミィレ、ソゥラが肯く中、アーレスやメル、ファードはその成り行きを見守った。


 猫の獣人が鼻を鳴らすように得意げな顔で、ケンに向かって口を開こうとする。


「何の変哲もない洞窟に見えますが、我が国の言い伝えどおり、たしかに神の創りしダンジョンですにゃあ。ここだけ、何度か兵隊が入ってみては返り討ちに遭いまして、いまだに最後まで辿り着けていないですにゃあ」


「ふむ」


 ケンが顎に指を掛けつつ、ミィレやソゥラと目くばせをする。


「そして、この国には、いくつか似たような洞窟が十数個ほどありますにゃあ。仰る通り、皆さんが潜ったとお話をされている洞窟もその1つにゃあ」


 神の創りしダンジョン。


 それを模したとされる複数の洞窟。


 ケンはその関連性にどこか違和感を覚えたようで眉間にシワを寄せて、木々に覆われて見えるはずもない空を眺めるように上を向く。


「それで、ここだけがあ、神の創りしダンジョンということですかあ?」


「そう言われていますにゃあ。ほかの洞窟にも魔物は棲んでおりますが、昔からの言い伝えでは神が自ら認めたダンジョンはここだけとのことですにゃあ」


 猫の獣人の話に、ケンが顔を顰める。


「神が自ら……認めた?」


「となると、ほかの洞窟は失敗したもので、それを認めてないだけかもな」


「それか、大地に流れる魔力の関係か……いや、もしくは、ダミーのダンジョンをあえて創ったのかもしれないね」


 ケンの推測にファードが割って入り、いくつかの可能性を挙げてみた。


 いずれにしても、誰も回答を持ち合わせていない。


 ケンもファードも一旦、頷いて会話を打ち切る。


 しかし、アーレスが次に口を開いた。


「ダミー? どうしてそんなものを?」


「うーん……どれが事実かは分からないけど、僕たちのような勇者や魔王がいつか来ると思ってのことかもしれないね」


 不意に出てきた問いに、ケンは両手を肩の高さまで上げて竦めてみせる。


「あの神さまたちがねえ……」


 ケン以外で唯一、この世界の神様たちと邂逅を果たしているミィレが訝し気な顔で記憶を手繰り寄せていた。

ケンがミィレの言葉を聞いて、フッと笑う。


「それじゃあ、私はここで失礼しますにゃあ」


 自分の役目が終わったと理解した猫の獣人は、数歩下がった後に恭しいお辞儀をする。


 ケンたちも軽く礼を返す。


「ありがとう。ここでしたいことが終わったら、またハイングバット王とお会いしたいと思っています」


「承知しましたにゃあ。ハイングバット王にもお伝えしておきますにゃあ。あ、ハイングバット王に会うまでもないお話であれば、このニャットにお申し付けくださいませにゃあ」


 ケンやミィレ、ソゥラは、猫の獣人の名前を聞いた途端に、口の端が上がることを我慢するような笑みを浮かべる。


 そうして猫の獣人ニャットが去った後、ケンは思い出し笑いをするかのように軽く吹き出した。


「ニャットか……割と安直な感じが……ふふっ……さて、じゃあ、今回はアーレスとメルを先頭にしてみようか」


「私たち?」

「ボクたち?」


 ケンが突然アーレスとメルにそう提案したため、2人は目を見開いて彼を凝視する。


「そうだよ。いつも僕が罠解除した状態で進んでも、アーレスやメルの経験にならないからね。いつでも、いつまでも、僕たちがいるわけじゃないし」


 これも訓練だと言わんばかりのケンの言葉に、アーレスは意気込んで頷くも、メルはどこか面倒そうに頬をポリポリと掻きだした。


「すっかり慣れきっていましたが、そうですよね」


「えーっと、ボクはケンさんたちが魔王を倒していなくなったら、ダンジョンに潜るつもりもないから……」


 メルがいろいろと言い訳を呟き始めると、ファードが後ろからメルの肩を軽く叩いた。


「御託はいいから、がんばれ」


「ううっ……はい……」


 メルが大きな溜め息を吐いて嫌そうな顔を隠さないため、ほかの全員がドッと笑い出す。


「大丈夫。即死するような罠はないみたいだから」


「何らかの罠はあるわけですね……」


 ケンのフォローは、むしろアーレスとメルを引き締めてしまう。


 その後、ケンたちはケンの指示通り、神の創りしダンジョンの中をアーレスとメルが先行して進むことになった。その2人に続いて、中衛にミィレとファード、後衛にケンとソゥラという陣形である。


 神の創りしダンジョンの中は、昨日ケンたちが攻略した洞窟とほぼ同様で、黄土色の土が天井、壁、床となって、ところどころに灰色の岩が露出し、湿り気と陰気さが漂っていた。違いといえば、動物の糞尿の代わりに、魔物がいて、臭いはそれほど鼻につかないことくらいだった。


「っと、これで終わりか。おーい。ほとんど進んでないぞ?」


 しばらくして、頭上を舞うコウモリ型の魔物を撃ち抜いたファードが、揶揄うようにアーレスとメルに話しかけると、メルが勢いよく後ろを振り返る。


「えー……だって、魔物もいるし、何があるか分からないから」


 メルが口を尖らせて、両手の人差し指を目の前で合わせるようにもじもじとしていると、ファードが大きな溜め息を吐いた。


「あのな、ビクビクと罠を警戒し過ぎだ。そんなこんなでのらくらしている内に、逆に魔物に何回も囲まれて、ピンチになっているじゃねえか」


「そ、それは……」


 ファードが視線をズラしてから頭をガシガシと掻きつつ、メルの言い訳に追い打ちを掛けている。


「ケンの思っていたとおり、お前ら、ケンに甘え過ぎ——」


「まあまあ、ファード、弟子が可愛くて指導に熱が入るのも分かるけど、落ち着いて」


 ケンがファードの肩を叩きながらにこやかにそう言うと、ファードは委縮し始めたメルを一瞥してから、先ほどよりも強く頭を掻いた。


「……まあ、そうだな。メル、言い過ぎた。すまん」


 謝られたことが嬉しかったのか、メルは無言のまま安堵した様子で何度か首を縦に振る。


「さて、この先に休憩所みたいなところがあるね。おそらく、そろそろ中腹あたりだろう」


 ケンがそう言うや否や、ミィレとソゥラが休憩所の方へと向かっていく。


 そこはまるで住居スペースのように、いくつかの窪みと澄んだ空気を持つ場所だった。


「焚火の跡に、水浴びができそうな澄んだ泉がある窪みに、一人から二人が寝られる窪みが幾つもあって、普通ならあるわけもないふかふかの寝心地が良さそうな藁草? ダンジョンの中とは思えないほどに至れり尽くせりね」


 ミィレは澄んだ泉に青色の瞳を輝かせて、鎧の中に着込んだ布服を引っ張ってパタパタと動かし始める。


「神の創りしダンジョンはあ、こういうところが不思議ですよね」


 その隣で、ソゥラは早々と鎧を脱ぎ捨て、下着姿に早変わりしていた。彼女の桃色の瞳は、目の前の泉にしか興味を示していない。


「まあ、じゃあ、順番に見張りをつけるとして、先に休んでいいよ。ファードは奥の方を見ていて」


「あいよ」


 ケンが紳士然として、視線をソゥラから外して来た道の方を向き、ファードはケンに言われたとおりに、ソゥラの方を見向きもせずに奥の出入り口の方へと歩いていく。


「それじゃあ、先に水浴びしますからあ、ケンはあ、絶対に覗きに来てくださいね?」


 ソゥラの誘いに、ケンは思わず吹いた。


「……行かなきゃいけないの? 普通、逆じゃない?」


「逆? 私があ、行けばいいですかあ?」


「その『逆』じゃないよ……」


 ソゥラがニマニマとした様子で一糸纏わぬ状態でケンの方へと近付いていこうとするので、鎧を脱ぎ捨てた肌着状態のミィレが全力で阻止する。


「ソゥラ! みんな疲れているんだから、さっさと浴びて休むわよ! アーレスとメルも一緒に!」


「は、はい!」


「……いや、ボク、男ですから!」


 その後、ミィレとソゥラ、アーレスが先に身体を綺麗にした後、憤慨するメルが一人で水浴びをするのだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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