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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第3部1章 『罠師』、大森林で獣人に会う。

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3-13. 『色欲』、ようやく全ての能力を説明し終える。

約4,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 洞窟の奥底に潜んでいた異変の正体である毒持ちスライムを駆除したケンたちは、洞窟から出るために来た道を戻っていた。


 太陽が寝静まる頃に近づいているため、気温が先ほどよりも下がり、洞窟内の空気はいよいよ肌寒い感じを超えて寒々とした様相になる。


 前衛のソゥラが先頭に立ち、スキルの説明を受けるためにアーレスとメルが真後ろについていき、ファードが最後尾になって背後を警戒し、ケンは中衛位置で腰砕けの半覚醒ミィレをお姫様抱っこしていた。


 ミィレは薄目を開けて、冷える空気の中で火照った身体と頭のままボーっとしている。


「後はあ、『(タコ)の加護』、『色欲』、『分身生成』です♪」


 ソゥラは、女戦士の嗜みとばかりにきわどいビキニアーマーで、誰よりも寒そうな装備をしているが、メル以上に元気な様子でズンズンと進んでいた。


「『色欲』と『分身生成』は分かりますが……」


 アーレスが最初にケンやソゥラと敵として出会った頃を思い出し、意図せず顔を赤らめたり青ざめたりさせながらブルブルと身体を震わせている。


「そうなの? ボク、全部知らないや」


 一方のメルは、アーレスの様子を不思議そうに見つめつつ、首を傾げながらそう呟いた。


「え? 『色欲』も?」


「……そう言えば、メルにソゥラのことを説明していなかったけど、そもそも、メルって……男なのに、ソゥラの色香に惑わされている節が一切なかったような……」


「???」


 メルの言葉に、アーレスが驚き、ケンも今までの違和感を思い起こすようにボソボソと呟く。当の本人であるメルは、逆側に首を傾げて、変わらず不思議そうな表情のままに隣のアーレスや後ろのケンを交互に見ていた。


「とりあえず、ソゥラ、『蛸の加護』からお願い」


 ケンもまた不思議そうな面持ちでメルを見つつ、口はソゥラの方を向いていた。


 ソゥラが満面の笑みで右手を額に当てた敬礼ポーズをケンに返す。


「はあい。『蛸の加護』はあ、手足が壁や天井に貼りつけたり、周りに溶け込んだり、再生能力があったりします♪」


「補足すると、蛸の持つ吸盤や擬態などの能力を行使することができるよ」


 ケンの補足まで聞いて、アーレスがふと何かに気付いたようで眉を大きく動かす。


「つまり、ケンさんの『家守の加護』に近いのでしょうか」


「うん、その感覚はいいね。そうとも言えて、特に、壁や天井に貼りつけたり、少しなら再生能力で再生できたりするところが似ているかな」


 ケンが「よくできました」と言わんばかりにアーレスを褒めると、アーレスが嬉しそうに目を細めた。


「たとえばあ、こんな感じで壁や天井に貼りつけますよ♪ ペタ、ペタ♪」


 ペタ、ペタ、とソゥラの唇からこぼれる擬音と同じ吸着音が、静かな洞窟内に反響する。


 ソゥラの身体に変化はないが、迂回しなければならない壁を前にして、手足が壁に吸い付くように密着し、そのまま上へとよじ登っていった。


「すごい!」


「……ケンさんが見せたような壁や天井に立つ、というよりも、ソゥラさんは本当に貼りついているみたいですね」


 メルは真似ができないとばかりに壁を触りながら目を輝かせていて、アーレスは冷静に考え込むようにケンへと自分なりの感想を述べる。


 ケンは頷いた。


「そうだね。あくまで吸盤でベタっと貼りつくような感じになっていて、僕みたいに壁や天井に垂直で立つことは難しいかな。だけど、僕よりも貼りつく力が強いんだよね。さて、僕たちは無理せずに迂回しよう」


 置いていかれた全員がソゥラの所へ辿り着く。


 しかし、ソゥラの姿が見えず、彼女特有の甘ったるい匂いも漂ってこなかった。


「あとはあ、周りに溶け込むとこうなりますよ♪」


「え!? 声がする? あれ? ど、どこに!?」


「微かに気配がします」


「た、たしかに? でも、どこだろう?」


「……そこですね!」


 メルがキョロキョロと周りを見渡す間、アーレスはわずかな違和感や物音を頼りに何もない壁に向かって、鋭い視線とともに人差し指を指し示す。


 ケンが少しだけ顔を綻ばせた。


「バレちゃいましたあ」


「うわっ、出たっ!?」


 突如、壁以外に何もなかった所からソゥラが滲み出るように現れると、メルがギョッと目を瞬かせて小さな叫びを上げる。


「ちょっと、メル? 私はあ、ゴーストじゃないんですけど?」


 メルの反応に、ソゥラが頬を少し膨らませていた。


「擬態は色と匂いで周りの風景に溶け込めるけど、音や気配を消せるわけじゃないから、完全に消え去るようなことは難しいね」


「匂いもですか。かなり高度ですね」


 ケンは笑いをかみ殺しつつ、補足説明を口から発した。


「応用でこういうこともできますよ♪」


 ソゥラが両手を顔に当てて、自分の顔をむにむにと捏ね始める。


「うわっ、ソゥラさんの顔だけアーレスになった!? 髪が桃色のアーレスだ」


 メルの言葉の通り、徐々にソゥラの顔だけが変わり、口元に布を当てていないアーレスの顔が現れた。


 スレンダーな体型に貼りつくような服装のアーレスの前に、褐色肌に豊満な身体をビキニアーマーで包んでいて、まるで雑なコラージュのように顔だけ肌の色が異なるアーレスが現れる。


「……やめてもらえますか? 私の顔でそのような仕草をしないでください」


 くねくねと身を捩らせて色気が駄々洩れで悩まし気なアーレスを見て、本当のアーレスは眉間に思いきりシワが寄って、視線が冷ややかになっていく。


「顔だけじゃなくて、匂いも再現済みですよ♪」


「…………」


 アーレスが静かになり、アーレス顔のソゥラは対照的にイタズラっぽい仕草で動き回っている。


「これでケンにすり寄ると、まるでアーレスがあ——」


 ソゥラの言葉は最後の部分まで出てこなかった。


 耳を劈くような鋭い風切り音とともに、数十もの銀光がソゥラの肌をかすめて、彼女の輪郭どおりに背後の壁へと突き刺さった。遅れてやってくる金属の冷たい匂いと、ソゥラの柔肌を切り刻むようなアーレスの冷め切った殺気が、その場の空気を氷点下まで押し下げている。


 ソゥラの髪の数本がはらりと切り落とされて犠牲になり、アーレスの顔をしたソゥラの額からは小さな悲鳴すら出ずに、代わりに冷や汗がだらだらと滴り始めた。


「ソゥラさん? やめてもらえますか?」


「……はい、ちょっと調子に乗りましたあ、ごめんなさい……」


 実力差なら完全にソゥラが上だが、激昂間近のアーレスの眼光が有無を言わさないほどに鋭く、軽くからかうだけのつもりだったソゥラは気圧されるほかない。


「…………」


「……あははあ……」


 気まずい雰囲気が漂い、メルがファードとケンに目配せをする。


 ファードは我関せずと一番後ろで背後を探り、ケンは何度かミィレを持ち直すように揺らした後、小さな溜め息を吐いた後に笑顔で2人の間に割って入る。


「アーレス、もう許してあげてくれるかな? 反省は十分にしているようだよ」


「……はい。すみません、刃まで向けてしまって」


「こちらこそ、ごめんなさい」


 雰囲気が和らいだところで、ケンが脚を出口の方へと向けた。


「じゃあ、歩きながら、次はいよいよ『色欲』だね。主に2つで、老若男女問わず、自分へ性的な欲求を向けさせる誘惑的な能力と、行為によって得られたエネルギーを球状の塊で貯蓄して、好きなときにそのエネルギーを使うことができる能力だね」


 ソゥラが再び先頭に立って進み始める。


「はあい。『色欲』の誘惑はあ、基本ずっとしているんですけど、相手を一人に絞ってものすごく誘惑することもできるんですよ……こんな感じで♪」


 気を取り直したソゥラが『色欲』を説明するために、さすがにもうからかえないアーレスではなく、何が出るのかと楽しそうに目の輝きを取り戻したメルの方へと魅惑的な桃色の瞳を向けた。


 直視されていないアーレスでさえもソゥラの色香に当てられて頬を赤らめる中、メルは何が起こったのかよく分からない様子でソゥラをじっと見つめている。


「……?」

「……?」


 歩きながら見つめ合うソゥラとメル。


 やがて、何も起こらない様子に全員がきょとん顔になっていく。


「あ、え、あ……うわ、なんか、ソゥラさんが、いつもより色っぽい感じ!」


 いたたまれなくなってきたのか、慌て始めたメルがソゥラの色っぽい雰囲気を褒め称えてみるも、周りの様子が変わることはなかった。


「嘘でしょ?」

「嘘だろ?」

「嘘ですよね?」


 ケンやファードが効かない理由は長らく共にしてきたための耐性と抵抗する意志があるからであり、油断すると彼らでさえもソゥラの色欲に当てられることもある。


 しかし、メルは一切そのような素振りを見せることがなかった。


「あれ? どうやらあ、メルにはあ、効かないみたいですね? リプンスト王みたいに耐性持ちですかあ?」


 ソゥラがケンに訊ね、ケンは『観察眼』でメルをくまなく観察する。


 しかし、ケンは最終的に首を傾げるだけだった。


「いや、どうも耐性持ちには見えないけどな……そうすると、小さな子どもでも効くはずなのに……」


 よく分からないといった様子で途方に暮れているようにも見えるケンに、メルが口を真一文字に結んで眉間にシワを寄せ始める。


「むっ、ケンさん、今、ボクのことバカにしました?」


「いや、バカにしていない……と言うよりも、単純に驚いているだけだよ……メルは性別がメルなのかもね。すごいね」


「全っ然、嬉しくないんだけど……」


 メルの性別が超越しているといったケンの冗談に、メルはがっくりと肩を落とした。


 立て続けに居たたまれない雰囲気になり、ソゥラが気持ちを切り替えるために、パンパンと両手を叩いた。


「で、最後はあ、この世界で覚えた『分身生成』です。いろんな私が見られますよ♪」


 ここで、半覚醒のミィレがわずかにソゥラの方を向く。


 ケンはミィレの様子に気付き、ふっと笑みをこぼして、ミィレが見やすいように自身の身体の向きを変えた。


 ソゥラから半透明の影が分裂した後、影が濃くなって色も持ち始め、やがて、ソゥラが4人に増えたことで、ビキニアーマーの女戦士もまた4人もいる異様な光景が広がる。


「よろしくです! 戦闘はあ、ガンガン行くタイプのソゥラです!」

「よろしくお願いしますね。戦闘はあ、いろいろするタイプのソゥラです」

「よ、よろしくお願いします……。戦闘はあ、いのち優先タイプのソゥラです……」


 増えた3人のうち、1人がセミロングの髪を束ねて後ろに小さなおさげを作り、もう1人が両サイドに小さなおさげを作ってツインテール風に仕上げ、最後の1人が知的な丸眼鏡のフレームを掛けた。


 彼女たちなりに見分けがつくようにと配慮した結果である。


「性格が違うのが面白いよね。『百目鬼』と同様に、分身が受けたダメージを本人やほかの分身に共有されるのが難点だけど」


 ケンはソゥラの弱点に微笑むしかなかった。


 ソゥラもバツ悪そうに微笑みを返す。


「そうですね。あとはあ……と言いたいところですがあ! 実はあ、『分身生成』はまだよく分かっていないので、説明もこれで以上です♪」


 ソゥラがそう言いきると、ソゥラの分身体3人とメル、アーレスがズッコケるようなポーズをとった。


「ひどくないですかあ!?」

「ひどくないですかあ!?」

「ひどくないですかあ!?」


「おぉ、息ピッタリだ」


 メルが思わず唸った。


「はい、これで、ソゥラも説明が終わったね。よかった、よかった。ちょうど、洞窟からも出られるようだしね」


 ケンの視線の先には、炎のような緋色の光が洞窟内を照らすように差し込んでいて、洞窟探索がようやく終わることを告げていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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