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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第3部1章 『罠師』、大森林で獣人に会う。

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3-12. 『色欲』、『百目鬼』を長々と披露する。

約3,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 時間が経過し、気温が少し下がってきたのか、肌寒いほどの洞窟が冷え込んできて、ケンたちの吐息が白く濁り始める。


 その中で、ソゥラが召喚した浮遊する一つ目の魔物イビルアイたちは、目に映るものすべてを瞳に焼き付けようとしているのか、洞窟の中を縦横無尽に飛び回って凝視していた。


 もちろん、アーレスやメルのことも観察対象であり、イビルアイたちはぐるりと四方に回り込んで、眉の動き1つすらも見逃さんばかりにまじまじと見つめている。


「あはは……ちょっと怖いですね」


「ははっ……これ、不気味だよね」


 アーレスやメルは苦笑いを隠さずに、イビルアイたちへの苦手意識を言葉にする。


 すると、イビルアイたちが目をじわじわと潤ませて、ぼたぼたと涙を零し始めた。


「な、泣いている?」


「うぇ!? ボクたちの言っていることが分かるの!? 目しか分からないけど、耳がどこかにあるの!?」


 目を丸くしたアーレスやメルのセリフに、ソゥラはどこか自慢げに目を細めて仁王立ちで鼻息を荒くしている。


「ふふふ……イビルアイたちはあ、見たままで耳がないですけど、音を文字として目に見える形で認識するからあ、ちゃんと何を話したかは分かりますよ? あと、口もないからあ、鳴き声を発しませんけど、目があるので感情表現も豊かですよ♪」


 イビルアイたちは見た目に反して愛嬌もあるようで、ソゥラの説明に合わせて、目を細めたり、ウィンクをするような長めの瞬きを見せたり、くるくるふわふわとアーレスとメルの周りを浮いていたりと人懐っこい仕草を振りまいている。


「すごい……以外の言葉が見つからないや……スキル1つのボクたちと全然違う……」


「いえ、スキル1つ1つにしても、もはや別次元です。それは、ケンさんたちだけじゃない。ほかの異世界の勇者や魔王にしてもそう……」


「ふふん♪」


 自慢げに鼻高々でふんぞり返るソゥラ、感心を越えて戦慄するアーレスとメルを横目に、ケンが一度小さな咳払いをした。


「長くなってきたから、僕から補足説明するけど、ソゥラの『百目鬼』の能力は多い。まずはソゥラの全身に現れる目やイビルアイの召喚だよ。これらの目はすべてソゥラの目と同様だから、ソゥラに死角がないし、イビルアイからの視覚情報によって、遠隔監視や広範囲を俯瞰することもできる」


 ケンが至って真面目に解説をしていると、ソゥラが何かに勘付いて笑みを浮かべる。


「まさかあ、死角と視覚を掛けましたかあ?」


「おやじギャグってやつだな」


 ソゥラのからかいにファードまで乗っかり始め、ケンががっくりと肩を落とす。


「もう……頼むから話の腰を折らないで……ただでさえ、話が長くなっているんだから、僕は早く帰りたいんだよね……」


 ぶつぶつと文句も出始めているケンだが、愕然とし始めているアーレスやメル、その2人が畏怖する様子に満足げなソゥラ、何より自分のせいでまだ息も絶え絶えに腰砕けで寝転がっているミィレを見て、時間潰しに付き合っている節もあった。


「ま、(ソゥラ)のワガママに付き合うのも、(おまえ)の甲斐性だろな」


「はいはい、そうだね。で、さらにもう一つあるのは、視覚の共有だよ」


 ケンはファードに諭される形で頷いて、次にイビルアイとアーレスの目を指し示しながら「視覚の共有」と2人に告げる。


「視覚の……」


「共有?」


 アーレスとメルは、ピンと来ずにお互いに見つめ合った。


 ケンは小さく笑う。


「はは、分からないよね。百聞は一見に如かず。ソゥラ、見せてあげてよ。できるだけ、面白く、ね?」


「はあい」


 ソゥラがケンに促されるままに動き始める。彼女は視線をアーレスとメルに合わせ、身体にある複数の目がじろりと2人を突き刺すように凝視した。これには2人もおっかなびっくりといった様子で身体を縮こまらせている。


 次の瞬間、アーレスとメルが目を見開いて大きく口を開けた。


「うわっ!? 自分の背中が見える? え? 次はケンさん? の次に、空中!? でも、落ちない? これ、もしかして、イビルアイの? あれ!? 顔を動かしても見えるものが変わらない!? うえっ……視界がおかしくて、頭もおかしくなりそう」


 メルが自分の状況を説明し始める。


 彼は自身の赤銅色の瞳や頭を左右上下に動かして視界が変わらない違和感に苛まれつつ、自分の視界が次々と切り替わっていくことで、重心の取り方を忘れてしまったかのように身体がふらついていく。


「あ? え? こ、これは……片目が……左目はそのままで、右目だけが視点が目まぐるしく……見ている感じに……目を閉じても止まらない? うっぷ……あ、はあ……うっ……は、吐き気が……」


 アーレスもまた同様だ。


 彼女は眉間にシワを寄せつつ、次々に切り替わっていく右目の視界に平衡感覚を失っていき、それを拒むように目を閉じてみるもそれさえも一切許されずに、やがて膝から崩れ落ちた。


 ソゥラがケンにウィンクをして、一方のケンは「やり過ぎだ」とばかりに肩を竦ませる。


「えっと、なんか、ごめんね? 面白くの意味が僕とソゥラで違ったようだ。とりあえず、こうやって、ソゥラの目のどれか、もしくは、イビルアイのどれかが見ている映像を誰かと共有できるんだよ」


 ソゥラが視界共有を解除したからか、アーレスとメルがひどい顔をケンに向ける。


 ケンは申し訳なさそうに両手を上げていた。


「っはあ……いえ、おかげで、恐ろしさが身に沁みました。ところで、便利だと思うのですが、どうして今まで使わなかったのですか?」


 アーレスは、マスク越しに滲む涎を拭く仕草をしてから、ゆっくりと立ち上がってそう問う。


 その問いに、ソゥラが自分の身体やイビルアイたちを次々と指差していった。


「かわいくないからあ!」


 ソゥラの言葉に、繊細なイビルアイたちが瞼を全開にして、ひどいと言わんばかりに首を左右に激しく振って、どばどばっと滝のような涙を勢いよく流し始める。


「そ、そんな理由ですか?」


「いやいや……違うからね? 僕が使わせない理由は、弱点が増えているからだよ」


 アーレスの呆れかえった様子の声色に、ケンがしっかりとソゥラの言い分を否定した。


「弱点?」


 メルが近くにいたイビルアイの頭頂部を優しく撫でている。彼の手は、イビルアイに輪郭に沿って優しく這っていき、イビルアイのぐにぐにとした柔らかい肉のような感触を楽しんで軽く跳ねる。


 アーレスとケンは、その物怖じしないメルを見て、面を喰らっている。


「初めて見るそれをいきなり触れるの、すごいね。僕でも時間かけたんだけど……えっと、どの目もソゥラの目と同様というのは、比喩じゃなくて事実なんだ。つまり、目のどれかがダメージを受けると、ソゥラの目にも影響がある。このイビルアイでさえもね」


 ケンがメル同様に近くにいるイビルアイをポンポンと撫で始めたので、イビルアイがじゃれつく仔犬のように彼へとすり寄っていく。


 まるでソゥラの恋心もイビルアイたちに共有されているかのようだ。


「どれでも一突きされたら……」


「右目か左目か、その目が対応している方がダメージを受けるね」


「諸刃の剣という感じですね」


「そう。発動にも時間が掛かるし、『百目鬼』の目の数を増やしたり減らしたりはできないから弱点も減らない。それでも、どうしても使わざるを得ないとき、もしかしたら2人にもソゥラの護衛を頼むかもしれないから、そのときはよろしくね」


「……はい!」

「……はい!」


 不意に頼られて、思わず満面の笑みを浮かべるアーレスとメル。


 その2人の快い返事に満足した様子のケンは、ソゥラに視線を投げかける。


「はあい。じゃあ、やめますよ」


 ソゥラはゆっくりと頷いて、徐々に身体中の目を閉じていき、まつ毛のような毛や瞼のように割れていた皮膚が薄くなって消えていく。


 イビルアイはパチパチパチと目を瞬かせて、メルに合図のようなものを送る。


 メルは透明になって消えていくイビルアイに向かって小さく手を振った、


「バイバイ、またね」


 多くの視線からくる異様な雰囲気が引いていき、無意識に速くなっていたアーレスやメルの鼓動が平常時へと戻っていく。


 ソゥラが再び指折り数え始めた。


「それじゃあ、次に行きますよ。次はあ、えっと、4番目だから『蛸の加護』です」


「タコ? 吸盤があって、墨を吐いて、8本足のアレ?」


 メルは、以前見たことのあるタコを記憶から引っ張り出して、いくつかの単語をつらつらと並べ始める。


 ソゥラが首を縦に振った。


「これでようやく折り返しか……長いなあ……地味に寒くなってきたし、早く帰りたいんだけど……せめて、帰りながらにしない? 『百目鬼』じゃなければ、会敵してもリスクがほぼないし」


 ケンは白い尾のように伸びる吐息を指差して、ソゥラにそう提案する。


 ソゥラは顎に人差し指を当てて、少しだけ考えた後に朗らかな笑顔を返す。


「はあい。ではあ、道すがらで説明しますね」


 ケンはホッと胸を撫で下ろしつつ、自分のせいでいまだに動ける状態ではないミィレを見て、責任を取るために彼女をお姫様抱っこで抱える。


 彼の両腕にぐったりとしたミィレの重みがしっかりと乗ると、彼はふっと愛しいものを見る瞳で彼女の赤らんだ顔を見た。


「さて、じゃあ、行こうか」


 ソゥラがお姫様抱っこされるミィレを見て羨ましそうに指を咥えつつ、進み始めたケンの後へとついていった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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