3-11. 『色欲』、改めて『武器使い』を名乗る。
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
「ソゥラ、ソゥラの説明はまた今度にして、疲れただろうし、もう帰らない?」
ケンは、意気込むソゥラの肩に優しく手を置いて、「またの機会」と促してみるも、ソゥラが首を横に振って、桃色セミロングの髪を振り乱している。
「ダメです! 私への評価があ、ひどすぎます!」
閉鎖的な空間いっぱいに広がるソゥラの声が、ケンの提案を何度も断っているように反響していく。
ソゥラは桃色の瞳を潤ませて、ケンに抗議の意を示しており、両手の拳もグッと握りしめていた。
ケンは目を閉じてから、両手を肩の高さまで上げて、首を2度縦に振った。
「……そう……じゃあ、手短にお願いしてもいいかな? あと、アーレスやメルに向かって説明してね? 僕も補足するけど」
ケンとファードが目配せをした後、ケンがまだ自分にしがみついているミィレを撫でつつ、ファードが力を緩ませたミィレを引き剥がして壁際へと連れて行く。
「はあい♪ 私、ソゥラはあ、燃える火属性の情熱的な女の子です♡」
座り込んで、もぞもぞ、もじもじと身を捩らせているミィレを横目に、ソゥラの自己紹介タイムが始まる。
彼女は両の人差し指を両頬に沈みこませるように突いて、口角の上がった口元からはいつになくハキハキとした声が出てくる。
「ソゥラさんと私は属性が同じですね」
「火属性って割と攻撃特化な感じあるよね」
「まあ、そうですね。属性と性格の関係性は、まことしやかな話ですけど」
アーレスとメルが話し込み始めたので、ソゥラがかわいらしいポーズからすぐさま切り替えた。
彼女は背負っているハルバードを掴み、数歩跳び退ってから周りに気を付けるようにぶんぶんと振り回し始める。
風切り音が響き、土ぼこりが足元で舞い、澱んでいた空気が掻き混ざって漂う香りが少しずつ変わっていく。
「で、最初の世界でのスキルはあ、ケンが言っていたように『職業系』で、『武器使い』です! だからあ、私はあ、『武器使い』のソゥラですよ! 武器もケンが名付けてくれたあ、自由自在に変形する武器『千変万化』で何でもござれですからあ」
ソゥラは武器の形状をハルバードから、ハンマーに変えて振り回してみたり、鞭に変えて地面を抉ってみたり、大剣に変えて思いきり床に突き刺してみたりと一通りの武器は使いこなせるとばかりに披露していった。
メルは彼女のパフォーマンスにあまり表情を変えていないが、一方のアーレスは目をキラキラと輝かせている。
「『武器使い』? 戦士とかではなくて?」
「はい♪ 戦士や騎士、弓兵などはあ、武器に制限がありますけど、『武器使い』にはそういう制限はなく、武器にできるものはすべて扱えます♪ 『千変万化』じゃなくても使えますよ?」
アーレスが試しに自身の『刀剣生成』で顕現させた2本のロングソードを射出して渡してみると、ソゥラは難なくその2本の柄を握りしめてから、双剣士のように切り刻む剣舞をしてみせた。
流れる切っ先の1つ1つが空を裂き、風を震わせ、音は少し遅れてやってくる。
アーレスの目から瞬きが減っていき、眉根はわずかに中心へ寄っていく。
「補足すると、何でも扱える分、各武器の習熟度の伸びがかなり遅くて、いわゆる大器晩成型に相当するんだよね」
ケンの補足を聞いて、アーレスやメルは不思議そうな表情に変わり、ソゥラは目を閉じて、眉を八の字にしてから小さく嘆息した。
「大器晩成型? えっと、顔がなんだか浮かないようですが、最終的に強くなるから、それはいいのでは?」
「えっと、当時はあ、器用貧乏で大器晩成型だとも思われてない職業でしたからあ、だからあ、中だるみというかあ、序盤では重宝されても、中盤だとどうしても成長速度が遅すぎて……」
「成長速度……高みに上り詰めるまでの高すぎる壁……」
「遅すぎると、そこが天井のように思われちゃうのか……」
ケンのパーティーで攻撃の要であるソゥラの予想外の言葉に、アーレスもメルも目を丸くさせていた。
「ということで、初心者パーティーに入っては外されて、を繰り返していたんだよね」
ケンの言葉にソゥラは俯き加減で頷く。
「成長していく初心者さんたちがあ、羨ましくて、指を咥えて見ていた時期もありましたあ。それからあ、私とケンはあ、運命的な出会いをして、互いに傷を舐め合って♡ 夜にはあ♡ 火照った身体も重ねて♡ 咥えるものも指じゃなくなって——」
「あー、はいはい、本題から変に逸れるのはやめようね?」
ケンは、急に猥談を仕掛けてくるソゥラの口元に、右手を当てて制止した。
もちろん、ソゥラの頬は若干膨らんでいる。
「むー、はあい……というわけで、私はあ、武器なら何でも使いこなせますよ?」
ソゥラがそう言い放つと、アーレスの拳がぎゅっと握られている。
メルは彼女をちらりと一瞥した後、彼女の視線を奪うかのように、わざと少し前に出ておどけて見せた。
「何でもってすごいよね。一体どれだけの年月を——」
メルが笑顔で話していたら、ソゥラの鞭による攻撃で、メルの派手なオレンジのキャスケットがバシッと弾かれた後にポスっと地面に力なく落ちた。
突然のことに、全員が黙り、場が一気に静まり返る。
やがて、妖艶な笑みと笑い声とともに、ソゥラがメルの帽子を拾い上げて、そっと彼の頭の上に乗せた。彼は、ぶるぶると生まれたての仔犬のように震えて、膝をガクガクと笑わせていた。
「んふふ……女の子のことで、どれだけの年月、とか言っちゃあ……ダメですよ?」
「ソゥラ? スキルの説明で、時間が掛かり過ぎじゃないかな?」
ケンがソゥラに続きを促し、彼女が頷いて空気が変わると、メルの鼓動が安定し始める。
「そうですね。でも、最後まで。次に『強靭』ですね」
「きょうじん?」
「強いってことですよ」
ソゥラはキョロキョロと見回してから、まるで小石でも拾い上げるかのように、彼女の何倍も大きい岩をひょいと予備動作もなく持ち上げた。
「……相変わらずすごいですね」
「これも補足しておくと、自分のパワーアップはもちろんのこと、自分を中心とした一定の範囲内にいるどんな生物よりも、単純な膂力が確実に上回るというスキルだね。だから、どれだけ力自慢であっても、それを上回ってしまうソゥラに力比べで勝てる敵なんていない」
アーレスはソゥラの力自慢について出会った当初から薄々知っていたが、改めて説明を聞いた途端に、顔の下半分を覆う紺の布越しに口を大きく開けていた。
「普通に、強すぎません?」
半ば呆れているような口調のアーレスに、ソゥラは首を横に振る。
「それがあ、そうでもなくて……単純な力比べをするような場面って、終盤だとあんまりないからあ」
ソゥラは、片手で拾い上げていた大岩を、ひょいと地面に放るように転がした。
ズシンという音ともに、地面が揺れて、天井からパラパラと土が落ちてきて、全員が一瞬浮き上がる。
「鈍重な敵や考えなしに突っ込んでくる敵ならともかく、速度で撹乱するようなタイプや、遠距離から攻撃をしてくるようなタイプなんかだと、そもそも『強靭』の特性を発揮できないことが多いよね」
「そうなんですよね」
「魔王討伐は、一筋縄ではいかないわけですね。単純に強いだけじゃダメですか」
アーレスは口元に手を当てて、少しだけ頭を俯かせる。
「そうですよ。次はあ……順番的に『百目鬼』ですかあ」
ソゥラは指折り数えて、3つ目のスキルを思い出し、口をへの字、眉を八の字にして、露骨に顔を歪ませていた。
彼女の艶やかな身体の至る所から、肌がつーっと裂けて細い毛が生えて瞼のように見えてくる。やがて、その瞼のような裂け目から彼女と同じ桃色の瞳をした目が無数に現れ、各々が周りをくまなく見つめていた。
「どうめき? え? ソゥラさんの身体に無数の目が!? ど、どういうことですか!?それに、この魔物は一体どこから!?」
アーレスやメルは、ソゥラの身体に浮かび上がった目とバチっと視線が合って、背中に何かが這っていったように身体を逸らして肩を竦ませている。
また、アーレスが叫んだように、ソゥラの周りで3体ほど、浮遊している大きな一つ目の魔物が現れていた。
大きな一つ目の魔物は、眼球から爛れたような生肉色の肉体が地面の方へと少し垂れていて、ふよふよと高さを変えるように浮き沈みを繰り返しつつ、パチパチと瞼を何度も瞬かせていた。
「アーレス、驚くのは仕方ないことだけど、安全だから落ち着いて」
ケンの言葉に、アーレスが鼓動を落ち着かせるように胸元に手を当ててからゆっくりと頷いた。
「攻撃はあ、しないでくださいね? すっごく、かわい……くないですけど、これがあ、『百目鬼』の能力の1つ、イビルアイの召喚です」
ソゥラは、寄ってくる大きな一つ目の魔物イビルアイ、その頭頂部にあたるであろうてっぺんを軽く撫でている。
イビルアイは瞼を閉じてくるくると横回転をし始め、気が済んだとばかりにぴたりと止まってから、ギョロリとアーレスやメルを見ていた。
「ま、魔物を召喚する能力?」
「結局、僕よりも説明の時間が長くなりそうだ……」
アーレスの疑問の言葉と同時に、ケンのため息が勢いよく吐かれていた。
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