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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第2部1章 『罠師』、湖に浮かぶ国にて準備をする。

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2-2. 『重騎士』、『審美眼』を持っている。

約3,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 ミィレが選んだ食堂は規模の大きい大衆食堂だった。


 昼も終わりに近づいた時間帯だからか、手持無沙汰に待機中のウェイトレスが1人いて、ミィレが彼女の方へと寄っていく。既に知り合いのようで、彼女たちはそこそこに雑談した後に奥にある唯一の個室席へと通される。


「後ほど、先代が来ますので、座ってお待ちください」


「ありがとう! さあ、みんな、座って、座って。あ、私はケンの隣のどちらかだからね!」


 そこはVIP席と言うには落ち着きすぎた古めかしさがあるものの、ホールの喧騒がほとんど聞こえない静かな席で部屋にキッチンが備え付けられていた。


 ケンがこっそりとウェイトレスに聞くと、ここは先代店主の研究部屋を少し改装した場所とのことだった。


「ミィレさん、今回も当店をご利用いただきありがとうございます」


 その先代店主が料理人の格好で恭しく礼をして入ってくる。とても大衆食堂の雰囲気と言えるような感じではない彼の出で立ちと席の雰囲気に、ミィレ以外の全員がよく分からないといった様子だった。


「えっと、彼には……」


「ふむふむ……」


 先代店主とミィレが少しぶつぶつと話し合った後、彼はキッチンへと戻っていき一人で凄まじい勢いで料理を作り始める。


「ひとまず、アーレス以外の料理を注文したわ。アーレスは皆のを少し食べてみてから注文するわね。大丈夫、彼の腕は確かよ」


「は、はい」


「ミィレが言うならそうだろうね」


 その後、ケンたちが今後の方針について少し雑談も交えて話をしていると、料理が次々と運ばれてくるようになる。


「異世界の勇者様たちに料理を振る舞えるとは名誉なことです」


 先代店主が翻って、また何かを作るためにキッチンの方へと戻っていく。


「さて、彼の料理が冷めないうちに食べてみて」


 ミィレがそう言って促すと、全員がナイフやフォーク、スプーンを手に持って食事をとり始める。


「そうだね、いただきます。……これは間違いなく美味しいね!」


「でしょ! 特にこの料理はケンの好みだと思うのよね」


「……バッチリだよ!」


「ふふっ」


 ケンは満面の笑みをミィレに向ける。彼女は少し照れつつ、自分の目の前にある料理を食べ始めた。


「ケンさんがあれほど嬉しそうにご飯を食べるのは初めて見ました」


「ぐぬぬ……」


 アーレスは驚き、ソゥラはかなり悔しそうにケンとミィレの二人を見つめている。


「ミィレは世話焼き上手だからな。相手に合わせるのが得意だ。俺に寄越してきた料理や振りかけた調味料の量も俺好みだ。まあ、そのミィレの細かい注文に応えられるあの料理人の腕も確かってことだけどな」


 ファードもいつになく嬉しそうに食事を頬張る。ラースは彼の膝の上で丸まっていた。


「すごいですね」


「ぐぬぬ……」


 アーレスはミィレに素直な称賛を送り、ソゥラはいまだに渋い顔をしている。


「ほら、唸ってばかりいないで、あんたも食べなさい。これなら、あんたの口にも合うわよ?」


「……悔しいくらいにバッチリです」


「でしょ? ここまでいろいろと食材や味付けを変えて出せる料理人を探すのって意外と難しいんだけど、あの人は卓越した才能の持ち主ね」


 ミィレがまるで自分のことのように嬉しそうに先代店主を褒める。調理中の彼もまたそこまで言われると気恥ずかしいようで口元が少し緩んでいる。


「ところで、アーレス? みんなの食べている料理の中でどれが合いそうか試してほしいの。みんなの料理の端っこもらってみて」


 アーレスはミィレにそう言われ、周りも少し彼女の方に皿を寄せるので、藍色のマスクを外して小さく礼をしながら一部を取り分けていく。


「はい。ちょっといただきますね」


 アーレスは1つずつ、小分けにした料理を途中に水を挟みながら食べてみる。彼女は正直、どれも美味しいと感じて、優劣がつけ難いといった表情をする。


「ん-。どれも美味しいと思います」


「たしかにどれも合いそうな感じね……。ここまでアーレスの味の好みが広いと、ピンと来るものを探すのは少し難しいわね」


 ミィレはまじまじとアーレスを見つめながら、少しお手上げという感じである。すると、ケンが微笑みながらミィレの方を向いた。


「それじゃあ、ミィレを助けてあげよう。アーレスの好みは、ミィレに一番近いようだけど、僕にも少し似ているみたいだよ。ファードやソゥラの好みとは、ほんの少しだけ違うようだ。あくまで表情の微妙な違いで判断しているだけだけどね」


「さすが『観察眼』ね。えっと……それじゃあ……ちょっと待っていてね」


 『観察眼』は、ケンの持つスキルの1つで目に映している対象の状況を詳細に読み取るものである。力量差があれば、対象の考えも精度良く読み取れる。


 ミィレはそれを聞いてから少し考えた後に、先代店主に追加の注文をしている。しばらくすると、彼女の前に料理が一皿運ばれる。


「ミィレさん、これでいかがでしょうか」


「んー……うん! さすが、先代! 世界一の腕ね!」


 ミィレが軽く味見をした後に、笑顔のサムズアップで答える。先代店主も嬉しそうだ。


「来て1か月もしない世界で、相手を世界一で称賛するのか……」


 ファードが少しおかしかったのか、思わずツッコんでいた。


「で、これに……さて、アーレス、これでどう?」


 ミィレがテーブルにあった調味料を微調整しながらかけていく。アーレスはスプーンでその料理をゆっくりと口へと運んでいく。彼女はその料理を噛みしめた後、目を丸くして驚いている。


「……あ! 違う……今までの美味しいとこれの美味しいが全然違う! 今までここまで美味しいと思ったのは初めてです!」


「ふふっ……でしょ?」


「ミィレは元々モノの良し悪しを見極めるのが得意だったけど、『審美眼』を手に入れてからよりすごみを増した感じがあるね」


 『審美眼』は、ミィレのスキルの1つであり、目に見えるものの価値、その良し悪しを見分ける能力である。これにより、彼女は自分やパーティーにとって最善の選択を取れる。


 ケンの『観察眼』が対象の詳細を知ってから自ら判断するスキルに対し、彼女の『審美眼』は詳細が分からずともその価値を直感的に判断するスキルといえる。


「つまり、ミィレさんは常に良いものを選べるのですね」


「自分たちの意に沿わない最善ではなく、意に沿う中での最善を極力選べるって意味でも『審美眼』はとても都合が良いスキルだね」


 ケンとアーレスが和やかに談笑をしているため、ミィレが内心少し慌てつつ、自分の『審美眼』について補足を始める。


「『審美眼』って、名前からは想像できないでしょうけど、戦闘でも使えるんだからね」


「戦闘でもですか?」


「そうよ。私は重騎士といって、攻撃役を瞬時に庇う防御役なの。だから、この力を得られてからは守らなきゃいけない人がかなりはっきりと分かるようになったのよ」


 やがて、ケンたちは相談も食事も終えたため、食堂を後にする。


「さて、ごちそうさまだね」


 ケンが先頭になって移動を始めた直後、彼らの目の前に小柄な女の子が現れておずおずとした様子で話しかけてくる。


「あの……」


「あ、はい。えっと……どうしたのかな?」


 ケンがニコッと笑顔で対応すると、女の子は少し安心したのか、彼女も笑顔で口を開く。


「あの……ボクを皆さんの仲間にしてください! ボク、立派な男になりたいんです!」


「……え?」


 ケンは何から驚いていいのか分からなかったが、ひとまず、口をあんぐりと開けて塞がらなかった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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