2-1. 『罠師』、旅の仲間と前の世界の話を少しだけする。
約4,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ランドンケラ王国。ここの国土の半分以上が湖である。そのため、国民の大半および王族などは湖の上に浮いた島の上で生活している。湖の外側は砦が発展した港町のような所が多い。
その港町に5人の冒険者の姿があった。
「さて、馬車は冒険者ギルド支部直下の厩舎が預かってくれたからいいとして、これから昼ご飯でも食べながら、今後の相談をしよう」
そう話しかけるのはこの冒険者たちのリーダーであるケンだ。茶色のぼろきれマントで体全体を覆っている軽装姿の男で、黒い短髪、黒い瞳と優しそうな丸型の目をした20歳前後の若い風貌をしている。彼は精悍な顔つきと言えば聞こえは良いが、少し整っている程度の平凡といえば平凡な顔である。
彼は『罠師』と呼ばれるチートスキルを有しており、このスキルによって5つの異世界を救った勇者である。彼が様々な世界を救い続けるのは彼の願いを叶えるためである。
「賛成。お腹ペコペコだし」
そう呟きながら、お腹を擦るのは重騎士用の全身甲冑を身に纏った女騎士のミィレだった。
白い肌のスレンダーな体型に、釣り目がちな目の中に澄んだ青色の瞳が浮かび、金髪の長い髪が風に揺られる。重騎士用の鎧は、武骨な感じもなく女性向けに誂えたのかのような可愛らしいデザインをしていて、彼女の背中には大きな盾が背負われている。
「酒場があ、とってもおススメです!」
ミィレの隣からするっと出てきたのは、ミィレよりも背の高い女戦士のソゥラである。
褐色気味の豊満な身体つきを彩るような肌の露出が多い女戦士の鎧、自身の身長を超える長いハルバード、そのような装備が似つかわしくない純朴そうな可愛らしい顔、人の目を引く垂れ目がちな目の中に綺麗な桃色の瞳が見える。母音が「あ」の時に少しだけ語尾が伸びるのも特徴的だ。
「今後の話もあるってのに、昼から飲もうとすんなよ……」
ソゥラに思わずツッコミを入れたのは、男弓士のファードだ。
深紅の短髪、深紅の瞳、肌は少し浅黒く、所々に爬虫類の鱗のようなものが見えており、極めつけは背中に大きな翼を畳んでいる。服装は少し着崩されているスーツ姿であり、真面目と不真面目が共存しているのような出で立ちだ。
彼は龍神族という竜や龍の頂点に立つ種族の末裔であり、この世界で早速古代龍のラースを従えている。
「なんだか急に賑やかになりましたね」
最後に言葉を発したのは、女剣士のアーレスである。
顔を含む全身のほとんどを藍色の布で覆っており、割とピタリとしているその服装は暗殺者のようにも見え、スレンダーな体型をはっきりと表している。髪は明るめの茶色のショートヘア、目は猫目がちでくりくりっとした瞳が黄金色に輝いている。さらに、小麦色の肌が彼女を健康的に見せている。
この中では彼女だけがこの世界の勇者候補と呼ばれる存在であり、彼女はケンの下で修業中の身である。
「まあ、ミィレもファードもよく喋るからね」
ケンは賑やかになって少し嬉しそうにしている。彼はソゥラとアーレスとまず出会って、ミィレとファードとはつい少し前に再会したばかりだった。
「そうだ。アーレス、さん?」
ミィレが突如、アーレスの方を向いて、にこやかな笑顔を向ける。
「はい。ミィレさん、私は呼び捨てのアーレスで構いません。他の皆さんにもそうしてもらっていますし」
アーレスは恭しくお辞儀をした後に、ミィレにそう申し出る。ミィレは分かったと答える代わりに首を縦に振っていた。
「じゃあ、アーレス。唐突にね、こういうことを言うのもなんなんだけど……ケンとはどういった関係……なのかしら?」
ミィレは両手でアーレスの両肩を掴み、ずいっと顔を寄せる。彼女は笑顔だが、その笑顔はどこか凄みが感じられ、アーレスは思わずたじろいでしまう。
「あ、あの、か、関係ですか? 私は勇者候補なので、ケンさんのご指導を受けているという立場ですから、端的に言えば、師弟関係でしょうか?」
アーレスはそう言い切った後にケンを見る。彼はうんうんと首を縦に振って頷いていた。彼女は少しホッとする。
「そ、そうなのね。師弟関係。そっか、そっか。あはは」
ミィレは両手をアーレスから離して、少しバツ悪そうにしており、彼女の笑いがどこかぎこちない。
「ぷぷっ……『嫉妬』の魔王だあ♪」
ソゥラはまるでおもちゃを見つけたかのように、イタズラっぽい笑みを浮かべて、ミィレをそう言って茶化し始める。ミィレはその言葉に反応し、頬を膨らませる。
「誰が『嫉妬』の魔王よ! 私は『強欲』の……って、強欲でもないわよ!」
自分で言いかけて、自分でツッコミ訂正をするという忙しいミィレはソゥラを追いかけようとするが、ソゥラがすぐさまケンの後ろに隠れる。
「ははは。強欲って何でも欲しいだから、実際のところ、一番、欲深い気はするよね」
ケンが冗談でそう言うと、ひどく驚いた様子でミィレが肩を落とした。
「ケ、ケンまでそんなこと言うの……ひどいよ……」
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
ケンは慌てて謝る。
「『強欲』? 『嫉妬』? ……魔王?」
アーレスは今一つ分からずにケンの方を向いて首を傾げる。
「あぁ……置いてけぼりにして、ごめんね。1つ前の世界で、勇者として呼ばれたんだけど、そこは悪神が支配する世界だったんだ。そこで僕たちがその世界を解放するために、その世界にいた9……いや、7体の魔王の依り代……つまり、彼らの魂をこの身体に受け入れたんだ」
ケンは懐かしそうに、少しばかりの哀愁を漂わせながらそう説明する。アーレスは少しその様子に引っ掛かるも、余計な詮索になると考えて避けた。
「勇者でも魔王になることがあるんですね……。その、身体とかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、魔王と言っても、その世界でそう名乗っていただけで、一応、扱いは勇者だったからね。あと、その魂たちはその世界に返したの。まあ、勇者スキルはそのままもらっちゃったけどね」
ケンが少し考え事をしていたため、代わりにミィレがアーレスの質問に答える。その後、彼はニコリと笑みを浮かべて会話に再び参加する。
「そうなんですね。それで『強欲』とか『嫉妬』のほかは何があるんですか?」
「ソゥラのは知っているだろう? 『色欲』だよ」
アーレスの質問に、ケンが少し面白そうにソゥラの『色欲』を挙げる。途端に彼女の表情が何とも言えないものになる。
「あぁ……」
アーレスがようやく出した言葉もまた何とも言えないものだった。
「え、その顔……まさか……」
「えへっ♪ 既にしちゃいましたあ♪」
「マジかよ……」
ミィレとファードは笑みを浮かべるソゥラを見て、アーレスの方に同情の眼差しを向けている。
「なんですって! アーレスも大変な目に遭ったわね……。そう言えば、まさか、ケン、ソゥラと……」
「あぁ……まあ……ね?」
「もちろん♪」
ミィレは一番に気になっていたのは、ケンのことである。彼女とソゥラは双子の姉妹であり、2人とも彼のことを好きなのだ。
「う、嘘……ま、まさか、アーレスも、ケンとしたの!? 夜の指導!?」
ミィレの妄想が爆発したので、ケンが止めに掛かる。
「夜の指導って……いやいや、していないから……話が飛躍し過ぎだよ。っと、話を戻そうか。『強欲』、『嫉妬』、『色欲』まで言ったね。そのほかは『傲慢』、『憤怒』、『暴食』、『怠惰』だよ。『憤怒』はファード、『暴食』はシィド、『怠惰』は僕だね。『嫉妬』と『傲慢』はきっと前の世界でがんばっているさ」
7つの大罪を模した魔王のうち、ケンを含めた5人はこの世界に来て、残りの2人は前の世界に残っていた。
「そうなんですね。しかし、ケンさんが『怠惰』というのは面白いですね。そういう風には見えませんけど」
指導熱心で勤勉なケンを見て、アーレスは『怠惰』という言葉がどうもしっくりと来なかったようだ。
「ま、『怠惰』の解釈によるんじゃないかな? あと、いつでもってわけじゃないからね」
「そう、『怠惰』が一番厄介なのよね……他のと違うし」
「そうなんですか?」
ケンは説明に困った様な顔をし、ミィレもまたそれに合わせて、説明しづらいといった言葉を出す。アーレスは『怠惰』の複雑さを図りかねていた。
「ま、それは追々分かるさ。さて、もっと話を戻そうか。昼ご飯はお酒禁止、普通の食堂にするよ。ソゥラ、いいかな?」
ケンは最初の話、昼ご飯の話に戻し、酒場ではなく食堂を選ぶ。
「はあい……」
「それじゃ、決定だ」
ソゥラもよほど耐えかねていない限り、ケンが言うことには従う。
「それなら、私に任せてよ。美味しい場所知ってるんだから」
「さすがミィレ。期待しているよ」
ミィレはケンたちと合流する前に、この港町に居たことがあった。そのため、ある程度の地理と食堂の場所が分かっており、先導を買って出た。
「むむ……どんなに美味しいものがあ、出てくるんでしょうね」
「ふふん。後で驚きなさい」
ソゥラがミィレを焚きつけるように挑戦的な物言いをして、ミィレもまたそれを受けて立つと言わんばかりに少し踏ん反り返り気味に答える。
「あの、ファードさん」
「ん? なんだ?」
アーレスは近くにいたファードに話しかける。彼は少し面倒くさそうな表情でソゥラとミィレを見ていたが、アーレスの方を向く時には無表情に戻した。
「ミィレさんとソゥラさんって仲が悪かったりするんですか?」
「いや、姉妹仲は良いぞ。2人でよく出かけるしな。けど、ケンが絡むと最悪だ。ま、似た者同士ってことだろ」
アーレスはまだまだこの冒険者パーティーの距離感を掴み切れていないが、ひとまず、いつでも賑やかそうなのだけは理解した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この話から第2部の開始です。
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