2-3. 『罠師』、『銃器生成』と出会う。
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ケンたち一行は広場を抜け、ギルドの方へと向かっている。
「ボク、メルって言います。見た目でびっくりされるんですけど、男なんです! あと、勇者候補なんです! でも、うまく使えなくて……」
先ほどケンたちに話しかけてきた小柄な女の子のような見た目をした子は、自分をメルと名乗っており、自称が男で勇者候補である。
彼は自分の頭より大きい派手なオレンジのキャスケットを被り、カーキのジャケットと黒のズボン、手袋にブーツという出で立ちだった。
「メルさんは僕の『観察眼』でも性別が特定できないんだけど……。まあ、嘘は吐いていないことが分かるから、男なんだろうけど……」
ケンは『観察眼』が上手く発揮できなくて困惑気味で思わず肩を竦めてしまう。彼は人の声や動き、視線、身体つきなどから性別を特定できるが、メル相手だと特定に至らなかった。
この彼の発言は彼の仲間に衝撃を与える。彼の『観察眼』は、弱点を隠しきっていた魔王の弱点を看破できたり、誰もが諦めるような状況を打破できたりするほどに優秀なスキルであり、絶大な信頼を寄せられるものだったからだ。
「あまりにも特殊過ぎて、『観察眼』での判断ができてないってことね……」
ミィレはケンの困惑が伝播したかのように似たような困った表情をする。
「と、特殊!? ボク、特殊じゃないです! 普通に男なんです! たしかに少しだけ中性的な部分もあると思いますけど……。あ、あと、さん付けじゃなくて、呼び捨てか、くん付けがいいです!」
メルは、わーわーと叫びながら、両手をぶんぶんと振って否定する。その姿は誰がどう見ても男に見えない。
ケンは彼がわざとそういう行動を取っているのかと疑いたくもなるが、どうもそうでもないことが分かるため、より混乱するだけだった。まだまだ世界は広いと痛覚する。
「メルちゃんはあ……少しどころかあ、だいぶ中性的……というかあ、中性的というより女性的というかあ……女の子ですね……」
「まさかのちゃん付け! 女の子扱い! もう絶対に呼び捨てにしてください!」
メルは両腕を組み始めて、頬を膨らませながら怒っている。先ほどから仕草は完全に女の子である。アーレスは、彼を見ていれば簡単に女の子らしさを学べるのではないかと思うくらいだ。
その困惑と混沌の中、ファードは何かを思い出すかのような表情のまま静かに口を開く。
「……ところで、勇者候補ってのは本当か?」
「は、はい! ボクもスキルがあるんです! でも、うまく使えなくて……だから、異世界の勇者さんたちと一緒に冒険すれば、いつか使えるようになるんじゃないかって思って! だから、ちょっと怖かったけど、思い切って話しかけてみたんです! そしたら、思いのほか、笑顔で対応してくれたから安心しちゃいました!」
ようやく性別から話が進んだため、メルの顔がパっと明るくなって嬉しそうな顔で説明を始めた。彼の朗らかな笑顔はどう見てもかわいらしい女の子の眩しい笑顔である。
「どこからどう見ても女の子にしか見えませんね……」
「そろそろ、性別の話から離れてもらえますか!?」
アーレスが念押しの一言を言うと、ついにメルの声色が怒り始めた。
「あはは……ごめんね。ところで、まだ仲間にするとは決められないんだけど、そう、仲間にするしないの判断のために聞くんだけど、メルのスキルは何なんだい?」
ケンが乾いた笑いとともにそう訊ねると、メルは少し困った様な顔を返した。
「それが……えーっと、名前はなんだっけ……武器とかの生成なんですけど、よく分からないので……実際に見てもらった方が助かります……」
「そうか。じゃあ、ちょっと模擬戦してみようか」
「攻撃を受けるなら私が引き受けるわ」
ケンはメルの言葉に頷いて、模擬戦を提案し、その提案にミィレが乗る。
「いいんですか! お願いします!」
その後、ギルド支部に入り、ミィレの知り合いの受付嬢と話をつけて、訓練場を借りられた。
メルとミィレが向かい合う。ミィレは背負っていた大きすぎるくらいの盾を構え始める。一方のメルは深呼吸の後にすっと先ほどの会話中とは打って変わったかのような落ち着きを払った様子でミィレを見ている。
「それじゃあ、始めてください」
ソゥラの掛け声とともに模擬戦が始まる。模擬戦と言っても、メルの攻撃を受けることが主軸にあるため、ミィレから攻撃をせずに待ち構えている。
「いきます!」
メルの両手の辺りから武器が生成される。彼の手より少し大きいと見えるその武器は、刀剣でも槍や斧でもなく、弓とも異なる形状をしていた。
ケン、ミィレ、ソゥラ、ファードは驚き、アーレスは不思議な形だなと感じている。
その武器は拳銃と呼ばれるものだった。彼はそれを2丁構える。
「もしかして……拳銃?」
「拳銃?」
ケンの咄嗟の呟きにアーレスは反応する。彼は彼女がピンときていないことから、この世界では銃器がまだ珍しい武器の類だと理解した。
「いきますよ!」
「マズい! 罠発動」
ケンは見えない壁を罠で出した。ミィレが弾き返した場合、跳弾が飛んでくる可能性もあったためである。壁は跳弾が上に向かうような形で設置する。
メルはその拳銃をミィレに向かって、投げ始めた。
「ていっ!」
「……え?」
ポイと投げられた拳銃は弧を描きながら、ミィレの方へと向かう。しかし、悲しいことにメルの腕力が足りないようで彼女に届くことはなく、目の前でぽてっと無情にも地面に横たわっている。
誰もが絶句した。
「ていっ! ていっ! ていっ! うーん……もっと重たいのは投げられないし……」
ミィレは構えを解いたというより、力が抜けて、盾をうっかり落としたに近かった。
「すみません。あの武器は投擲物なのですか? たしかに当たると痛そうですが……」
「違うよ……」
「違うな……」
「違いますよ……」
アーレスの問いに、ケン、ファード、ソゥラのそれぞれの口から違うという言葉が出てきて、3人とも首を横に振っている。
「とすると……うまく使えないのではなく……そもそも使い方が間違っている?」
アーレスのその疑問にケンが頷き、彼はそのままメルの方へを駆け寄った。
「メル……ちょっと待って。一旦、模擬戦を止めさせてもらうけど、君、これが何か分かっているのかな?」
メルは苦笑いを浮かべた。
「それがよく分からなくて……えーっと……スキルは……思い出した! 名前が『銃器生成』というものなので、これらが銃器と呼ばれるものなのは分かります。でも、銃器が何なのか分かりません……ギルドに聞いてもよく分からないとのことで……神様も「これは遠距離武器だよ。強いからがんばって使いこなしてね」としか言ってくれないし……遠距離武器ってことですけど、弓矢みたいに見えないので、投げるのかなって……」
ケンは考えを改めた。この世界では銃器が珍しいのではなく、そもそも存在していないから使うことができないのだと。
「……まだこの世界に存在しない武器の生成か。この世界でも銃なら強力な武器なんだろうけど、説明せずには使えないだろうなあ……。神様も意地悪なことをするね。しかも、これ、きちんとセーフティがかかっているから、引き金が引けないし……。さて、そこから教育か……」
「おい、ケン」
「ん?」
「メルは俺が預かる。同じ遠距離仲間だ」
ファードが珍しく自ら指導役を買って出るので、ミィレやソゥラが驚いた顔をする。
「……いいよ。だけど、それだけかな?」
「あー、昔馴染みに少しだけ似てるんだよ。それで、ほっとけなくてな」
ファードはケンに隠し事をしても無駄だと分かっているので、理由をはぐらかさずに説明する。ケンはそれに納得して、了承の意味を込めてゆっくりと頷いた。
「……それが分かれば十分だよ。じゃあ、メルを仲間に迎え入れよう。指導役はファードに任せるよ」
「あ、ありがとうございます! ファードさん、よろしくお願いします!」
「おう、メル、よろしくな」
メルは感激のあまり、ぴょんぴょん跳ねながら嬉しさを表現している。周りはやはり彼が男だとは信じがたかった。
「ちなみに、分かっているだろうけど、フレンドリーファイアだけは勘弁だよ?」
「あー、まあ、気を付けるようにするわ」
「そんな気軽な感じはダメでしょ……」
ケンは適当にあしらおうとするファードに釘を刺しておいた。
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