3-18. 『罠師』、異世界勇者アメアステルと接する。
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
アーレスとメルの地獄の特訓2日目。
しかし、初日の体液塗れとは様相が大きく異なっていた。
「メルは手榴弾を生成できるようになって、だいぶ効率が上がってきたね」
ケンは顎に手を掛けつつ、メルの挙動を見る。
「どんどん行くよ! 破片手榴弾! 焼夷手榴弾!」
メルは昨日に何度も体液塗れになった結果、口の中へと銃弾を撃ち込んだり火炎放射器で口内を燃やしたりするスタイルを思いついた。しかし、殺傷力が今一つで時間もかかっていたために苦慮していたところ、ケンに手榴弾を生成するように促されたのである。
「GUUUUU……」
それが功を奏し、的確に破片手榴弾と焼夷手榴弾を生成して、サラタンベビーの口内へ両方とも放り込んで、体内から傷付け燃やしていく戦法を確立する。
その瞬間、メルはガッツポーズとともに涙を滝のように流しながら喜びの雄叫びを上げた。
こうして、メルの『銃器生成』に爆発物や投擲物が追加され、今では簡単な作業とばかりに鈍重なサラタンベビーが大口を開けた瞬間にそれらを放り込むだけになる。
「メルも発想力は悪くない。自分が嫌なことをどうやって避けられるかを考えさせるといいのかな。さて、次はアーレスだね。アーレスももう少し工夫の余地はあるけれど、少なくとも口の中へ突撃しなくてもよくなったね」
微笑みながら首を縦にゆっくり振っていたケンは、次にアーレスをじっと見つめる。
「飲み込め!」
アーレスは『刀剣生成』であるため、爆発物や火器を生成することができない。その代わりとばかりに、円月輪や小さなダガーナイフなどを数十本も生成して、そのすべてを勢いよくサラタンベビーの口内へと射出する。
「GAAAAA……」
サラタンベビーの体内がズタズタに切り裂かれ、吐血し横たわると、仕上げにメルの焼夷手榴弾で硬い皮膚や甲羅ごと丸焼きにする。
結果として、2人とも異臭の漂う体内へと入る必要がなくなる。
それだけでアーレスとメルの顔が徐々に晴れやかに輝きを取り戻していく。
「……しかし、食欲をそそるね」
海岸の方々からサラタンベビーの焦げる匂いがする。
焼けきったサラタンベビーの肉はすっかり臭みが消えて香ばしい匂いを放っていて、しっかりケンたちの食糧と化している。
昨夜の食事でサラタンベビーの焼き肉が出たとき、最初は顰め面をしていたアーレスやメルも、一口齧るとあまりの驚きに口の端を上げて目を見開いたのだった。
「あらあ、もう終わっちゃいますかあ?」
聞こえてきた声にケンが後ろを振り向くと、ビーチパラソルとレジャーシートで完全にバカンス気分のソゥラが際どいビキニ姿をケンに見せつけつつ、寝そべりながらサラタンベビーの串焼きを食べていた。
ケンは眉根を下げつつ笑みを浮かべ、ソゥラの方へと寄っていく。
「そうだね。ソゥラは日光浴や海水浴を楽しんだかい?」
寝そべっていたソゥラが串を皿に置いてから起き上がり、胸の谷間を強調するように両腕で挟みながら上目遣いでケンを見つめる。
「ええ、もっと時間があ、あってもいいですよ? ケンもビーチを楽しみましょうよ」
ケンは肩を竦ませて首を横に振る。
「残念だけど、もうそんなに時間は残されていないかな。アーレスもメルも魔石のステータスアップがそろそろ限界を迎えそうだよ」
メルが丸焼けにしたサラタンベビーをアーレスがクレイモアでぶった切りながら解体して、体内に眠っている魔石を取り出して、2人は交互に魔石を吸収する。
「それはあ、たしかに残念です。ところで、物理防御の魔石でしたかあ? どれだけ防御力があ、上がるのでしょう?」
ソゥラがデコピンやチョップの仕草をしてみると、ケンがまたもや首を横に振る。
「あくまで補助でしかないからね? 異世界勇者との間を少し穴埋めするくらいだから、決してソゥラの一撃を耐えられるようになるわけじゃないよ」
「なんだあ」
ケンの言葉に、ソゥラがつまらなさそうに再びレジャーシートの上でゴロゴロと横になる。
「でも、この世界の生物で限るなら、かなり硬い部類になったとは思うね。魔石と言うだけあって、2人の周りを覆うオーラ的なものが確実に分厚くなっているから」
ケンはじっと2人を見てから、彼らの輪郭よりも少し大きくなぞるように指を虚空で滑らしていく。
「そうですかあ」
ソゥラはうつ伏せになって、両足をパタパタとさせる。
「それはそうと、ミィレは相変わらずだね……」
ケンはふとミィレの方を向いて、半ば呆れ顔で話しかける。
呆れる理由はミィレの格好にある。
ミィレは、全身を覆う黒いゴムのスーツを着込んだ上でサングラスと大きな帽子をして、日焼けに対する完全武装を施しているのだ。
傍目には海水浴の準備をしているダイバーの容姿だが、まるで石膏像かデッサンモデルかのようにビーチパラソルの真下から一歩も動こうとしない。
「なによ! 笑うな! 長時間の日光なんて、美肌の天敵なんだからね!」
別の意味で重武装になって一切表情の読み取れないミィレだが、張り上げる声と力強く振り下ろす拳が感情を露わにしている。
ソゥラはその様子を見て臆面もなく笑う。
「ぷぷぷ……まるで岩下に潜む虫みたいですね」
ソゥラの辛辣な表現。
ミィレのぶんぶんと幾度となく振り下ろす拳の速度が上がった。
「む、虫ぃっ!? ソゥラ、あんた、言っていいことと悪いことがあるでしょ! だいたい、そんなに肌を焼いて知らないんだからね! おばあちゃんになったらシミだらけよ!」
ミィレがせいいっぱいの抗議をするも、ソゥラは何食わぬ顔でくねくねと身体を揺らす。
「あらあ? お姉ちゃん、知らないんですかあ?」
「な、何をよ」
ソゥラの不敵な笑みに、ミィレは思わず唾をごくりと飲み込んで言い澱む。
「ケンって、健康的な小麦色の肌に興奮しちゃうんですよ?」
ソゥラの勝ち誇った顔を見てから、ミィレがケンの方へとバッと向き直る。
ケンは思わず顔を逸らす。
「え? 嘘よ、だって、前に、色白が好きだって……」
ミィレが狼狽えていると、指を左右に振るソゥラが首を傾げながらにんまりと笑う。
「それはあ、色白『も』ですよ。でも、一番じゃないんです。ケンが一番好きなものはあ、色白じゃないんですよ?」
「え、あ、青色とか?」
ケンが思わず肩を落とす。
「なんで、青色? 急に異種族的な色を言わないでくれるかな? 僕をなんだと——」
「ケンはあ、色白の子があ、小麦色に焼けた後にできる色白の水着跡があ、大好物なんですよ? 見えるところと見えないところのギャップですよね」
ケンが文句を言い終わらないうちに、ソゥラが遮って豪語する。
「なっ……へ、変態……」
ミィレがへたり込みながらそう呟くと、ケンは落とした肩以上に頭を下げてうな垂れる。
「うん、好きなものはそうだけど、なんで急に僕の性癖をバラすかな? 後、ミィレも変態って、そんな直截的に言わないでほしいのと、そもそも、このやり取り、前の世界でもしたよね?」
ソゥラがイタズラな笑みを浮かべて、指でくるくると円を描く。
「復習や再確認はあ、大事ですよ?」
「そうね、様式美になりつつあるわね」
からかうソゥラと、いつの間にか結託して頷いているミィレの姿を交互に見て、ケンは大きな溜め息を吐く。
「いや、あのね、人の性癖を復習したり、性癖の暴露を様式美にしたりしないでくれる?」
ケンが眉間にシワを寄せて目を細めていると、彼以上に呆れた様子でアーレスとメルが凝視している。
「えっと、人が必死で戦っている時に何のやり取りをしているんですか……」
「そうだ、そうだ! ボクたちは一生懸命に特訓しているんだよ! いくらなんでも、ふざけているなんて言語道断だっ!」
ケンが肯いて申し訳なさそうな表情で口を開こうとすると、その前にソゥラが数回手を叩いて注意を引きつけ始める。
「アーレスも焼けるとちょっとだけ色が変わりますよね。小麦色のグラデーション♪」
固まるアーレスとケン。
2人は互いに見合わせて苦笑いを浮かべる。
「……黙秘します。ケンさんの目が怖いので」
「え、僕のせい?」
ジト目になったアーレスが自身を抱きしめて身体をケンから逸らしたため、ケンは自分を指差して首を傾げた。
「ケン?」
「ケン?」
「うん、なんで僕が怒られる流れなのかな?」
「くわぁ……お前ら、本当、似たようなやり取りしていて飽きないよな」
おふざけが長引いたため、ファードが大欠伸をかきながら半眼で全員を眺める。
すかさず、ケンが肩を竦ませる。
「ファードも見てないで助けてくれる?」
「興味ないな。それよりもお客さんだぞ?」
ケンの要請を振り払うように手を動かすファードが入り口を見つめてそう呟いた。
「そうだね。罠発動」
ケンが砂浜から無数のロープを飛び出させて、檻を作るように虚空を囲い込んで空間を狭めていく。
しかし、ロープが何も捕まえられずに交錯し始め、そのロープの動きをあざ笑うかのように、足跡の一本筋が砂浜に現れて、ケンたちへ近付いてくる。
「おっと、透明化までしたのにバレていたか。はじめまして、俺はアメアステル、異世界から来た勇者さ」
何も見えない場所からアメアステルと名乗る男の声がケンたちの耳に響いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




