3-19. 『罠師』、孤高の勇者とともに水の魔将に遭遇する。
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楽しんでもらえますと幸いです。
サラタンベビーたちが闊歩する砂浜にケンたち以外の人の足跡だけがぽつぽつと一列だけ残っており、その足跡が入り口からケンたちの方へと伸びている。
ケンは無数のロープを仲間の周りに這わせつつ、足跡の終点を睨む。
「透明化して近付いてくるなんて、よほど用心深い勇者のようだね」
ケンの言葉に、透明化している勇者アメアステルが高笑いをする。
「はっはっは! 正体も分からずにいきなり攻撃を仕掛けてくるのも、よほど用心深いと見えるな」
肩を竦ませたケンが首を傾げる。
「それはそうでしょ? こちらは大所帯だ。1人でも危険になりそうなら、相手の一時拘束くらい試みるよね」
ケンのロープが徐々に増え、アメアステルの周りやサラタンベビーの周りにも広がる。既に何匹かのサラタンベビーが気付かずに踏んでしまった結果、ロープにがんじがらめにされて一歩も身動きが取れなくなっていた。
「ま、そりゃそうか。とはいえ、この攻撃、今の俺には効かないようだがな」
「無駄かどうか、試してみる?」
ケンの不敵な笑みに、アメアステルはふっと息を漏らすような笑い声を出す。
「ふはっ、待て待て、わざわざ棺桶に入るような真似はしねえよ。そちらも魔王じゃないようだし、同じ目的の好敵手ではあれど、友好の証として姿をお見せしよう」
突如空間が滲むようにぼやけ、その中からアメアステルの姿が徐々に輪郭を現す。
全身を覆う白いローブは質素ながら、首飾りや耳飾り、額飾り、腕輪や指輪などは金銀細工で光沢のある輝きを放つ。やがて、顔の輪郭まではっきりすると、アメアステルが優男だと分かる。
その右手には、古びた革表紙の本を持っていた。
「ふむ、魔法使い然としていて、多少派手だけど、意外と普通だね」
ケンがまじまじとアメアステルを見てそう呟くと、アメアステルは目を閉じて笑う。
「別に奇抜な必要はないからな。身に着けたいもんを身に着けるだけさ」
「それもそうだね。ところで仲間は? もしかして、君は一人で勇者をしているのかい?」
アメアステルが静かに頷く。
「まあな。俺は孤独を愛する孤高の勇者ってわけさ」
「孤独を愛する、孤高、ね。それ、自分で言っちゃうものかな?」
「自身の美学や哲学を誤解されないように示しているだけだぜ?」
「……その癖の強さに仲間ができなかったんじゃないの?」
ケンの突然の物言いに、アーレスとメルが目を見開き、ファードやミィレ、ソゥラが半眼でケンを見て、アメアステルは腹を抱えて笑い出す。
「はっはっは、突っかかるな、突っかかるな。それで怒るほど短絡的じゃねえよ。だいたい、そっちだって……って名前を聞いていなかったな」
名前を聞き忘れていたアメアステルは言葉が途切れる。
「あぁ、それは僕が失礼だったね。僕はケン、僕の仲間で、ミィレ、ソゥラ、ファード、アーレス、メルだよ」
ケンは申し訳なさそうに手を動かして順番に仲間を紹介すると、それぞれがそれぞれなりの動きで挨拶をする。
アメアステルがそれぞれに手を軽く振ってから、再びケンの方を向く。
「改めて、アメアステルだ。よろしくな。それで、ケンだって、クセが強そうだけどな」
そのアメアステルの言葉に、ケン以外の一同が大きくしっかり強く何度も肯いた。
ケンがコケる。
「みんな、僕をどう思っているのかな? だいたいみんなだって大概……っと、それはともかく、アメアステルはどうしてここへ?」
ケンが自ら脱線しかけた話を戻すと、アメアステルは指を振りながらにやりと微笑む。
「なんてことはない。俺の直感がここでどこかの魔王の奴らと会えるって仄めかしたのさ」
直感。
その言葉にケンが胡乱気な表情を浮かべるも、アメアステルの自信たっぷりの様子に小さな溜め息を吐く。
「直感ね……で、僕たちが魔王の方だって思ったの?」
「いや? 見るからに勇者候補みたいなのを連れているし、特訓っぽい熱血しているから勇者だとすぐにピンと来たぜ?」
アメアステルが飄々としてそう告げると、ケンが険しい表情で睨む。
「それでも透明化を解かなかった、と」
「ケンも異世界勇者なら分かるだろ? 勇者にもいろいろいるってな」
アメアステルの不敵な笑みに、ケンもまた険しい表情から不敵な笑みと変えていく。
少しだけ冷めた雰囲気に、アーレスとメルが静かに息を呑む。
「……まあね。で、透明化を解除した理由は?」
「言ったろ? 友好の証だってな。まあ、この世界の若手を育成するなんて手間を惜しまないような奴なら大丈夫だろうってな」
アメアステルがアーレスとメルを指差して、はっきりと若手と言い切る。
「偏見も多分にあるけど、まあ、少なくとも今はアメアステルの見解どおり、僕たちが君と敵対する理由はないよ。攻撃されない限りね」
ケンとアメアステルのお互いが、先ほどまでの不敵な笑みから少し柔らかな笑みへと移り変わっていく。
「だろ? まあ、後は綺麗な女の子たちともお近づきになりたかったしな」
アメアステルが指を鳴らすと、ソゥラ、ミィレ、アーレスの目の前に色とりどりの花が集められた花束がポンという音ともに現れる。
「あらあ、なんて紳士。どこかの誰かさんにも見習ってほしいですね」
「ふん、キザな男ね。まあ、朴念仁よりマシだけどね」
「わ、私もですか? ありがとうございます」
純粋に花を見るアーレスと、何か言いたげにケンを見るソゥラとミィレ。
ケンは背後からの視線を感じつつ、アメアステルに拍手を送る。
「ありがとう……ところで、魔王はいたのかい?」
アメアステルの当初の目的。
直感を信じた魔王の手先との邂逅。
しかし、アメアステルは平然と首を横に振った。
「いや? というより、これからさ」
「これから?」
「俺が今ここで、ケンと出会ったのは偶然じゃないってことさ」
「……つまり、今ここに来るってことか」
ケンが言い終わった瞬間、再び空気が変わる。
暑いはずのこの空間に洞窟の中のようなヒンヤリとした空気が流れ込み、太陽の光を遮る薄い雲が姿を現す。
次第に周りの海がざわつき波を立て、今まであり得るわけもない氷までも浮かび始める。
「これは困りましたね。分断された次元によって、ここを進まざるを得なかったのですが、まさか勇者と鉢合わせになるとは」
静かで透き通るような声が響く。
その声の先に、目を閉じたまま佇む細身の美女がいた。
水色のローブとワンピースタイプの水着を加工したような少々きわどい格好に加え、彼女の身長よりも長い群青の柄を持つ杖、腰まで伸びた青く透き通る長い髪をしており、こちらもまた魔法使い然とした人物だ。
「なるほどね。ソゥラ、ミィレ、そろそろ戦闘準備して、バカンスは終わりだよ」
いまだに水着姿やダイバー姿の2人に呆れ顔を向けつつ、ケンが戦闘準備を促す。
「はあい」
「分かったわ」
2人の返事を聞いてから、ケンは静かに向き直る。しかし、その視線は鋭く、呆れ顔は無表情に近くなっていた。
「さて、僕はケン、後ろの仲間だよ」
「俺はアメアステル。孤高の勇者さ」
名乗る2人に、美女が悩まし気な表情を浮かべる。
「なんと、勇者が2組……本当に運が悪いですね。しかも、1組はあのケンたちですか……私は魔王ヴァーフェ様に忠実なる者、水の魔将トレーネと申します」
「またヴァーフェの軍勢か……」
ケンは漆黒を身に纏う魔王の姿を思い出して、1人で苦笑いを浮かべていた。
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