表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

26.新しいリーダー

 学院長から黒い海の調査を依頼された翌日――

 ……レクトたちは、パーティ活動室に集まっていた。


 剣聖であるレクトとエステル。

 聖女であるセシリア。

 召喚士であるリゼ。


「――それに加えて、学院長から指名された……リーダーが、ひとり」


 レクトの言葉に、ソファに座る面々が不満を漏らす。


「はぁ……。このパーティのリーダーはレクトでしょうに……」

「そうですわね……。

 3年生の天才が来る、と言われましても……」


 この場にいる全員は、レクトの憑依スキル……という点で繋がっている。

 本来は起こりえない、深い関係――

 そんなところに無関係な人間が入ってくるのは、明らかに異物感がある。


「まぁ、決まったことは仕方がない。何かあれば俺が言ってやるからさ。

 最初から敵意を出すんじゃないぞ?」

「敵意っていうか――……何だろう?」

「邪魔者……ですわね?」


 セシリアの笑顔に、エステルは返しようが無い。

 少なからず、エステルもそう思っているのだ。


「でも……ディアナお姉さまがいないのは、寂しいです……」

「ディアナさんは、錬金術師だからね。戦いの場に出ても、危ないっていうか――」


 ……そんな中、扉が突然開けられた。

 全員が驚いて視線を向けると、ディアナが鼻歌を歌いながら入ってくる。


「やぁやぁ♪ みんなお揃いで~。

 おやつ買ってきたから、食べる?」

「は、はぁ……」


 レクトは何とか返事をするが、ディアナだけ今回のメンバーに選ばれていないのは……かなり気まずい。

 本人は気にはしないだろうが、それでも周りは気を遣ってしまう――


「あ、あの……。ディアナさん?」

「んー? どしたの、えっちゃん?」

「おやつを準備してもらったのはありがたいんですけど……。

 あとで、この部屋にもうひとり来るんです」

「え、そうなの? ……困ったなぁ、5人分しか買ってきてないよ」


 ディアナは天井を仰いで、少しだけ考える。


「――それじゃ、あたしはいいや。その誰かさんとみんなの、5人で食べちゃって!」

「も、申し訳ありません、ディアナ様……」

「ディアナお姉さま、ごめんなさい……」


 セシリアとリゼは謝るが、ディアナは気にも留めない。

 軽く身振りでそれを伝えて、彼女は続けて話す。


「ではでは♪ 早速、用件を済ませちゃおうか」

「用件? ディアナ先輩、今日は何かあるんですか?」

「え? やだなぁ、学院長から聞いてない?」


 ディアナの言葉に、4人はきょとんとした。


「え? えーっと、何を……?」

「んん? 昨日、話があったんじゃないの?

 黒い海の調査に行くんでしょ?」

「ディアナ様は……何故それを、ご存じなんですの?」

「え? だって、あたしがリーダーなんでしょ?」


 4人は面を食らった。

 そんな話は聞いていないのだ。


「でも、学院長からは……3年生の、天才……って」

「あたし、3年生だよ?」

「て、天才っていうのは……?」

「あ・た・し♪ こう見えても、みんなが考えている以上に凄いからね?

 学院長も、ああ見えてもったいぶるところがあるから――

 ……それか、錬金術師がリーダーなのは嫌だ……って、レクト君が反発すると思っていたり、とか?」


 レクトとエステルの質問に、ディアナは機嫌よく答えていく。

 そんな中、リゼは納得の表情に変わっていった。


「ディアナお姉さまは、学業を既に終わらせて、研究も発明もトップクラスなんですよ!

 この学院にはいろいろな職才の人がいますけど、積み重ねた実績としては、超天才と言っても過言ではありません……!!」

「あーん、やっぱりリゼたんは分かってくれてるぅ~♪」


 リゼの熱弁に、ディアナは甘い声を出して抱き着いていく。

 その光景を見ながら――改めて、レクトが質問を飛ばす。


「で、でも……。ディアナ先輩って、戦えるんですか?」

「ちっちっちっ! 今回はあくまでも、黒い海の調査だよ?

 守護者っていうのが出れば、倒さなきゃいけないけど……まぁ、それは二の次!

 逆に言うと、戦闘のスペシャリストばかりで――調査はできるのかな?」


 ディアナはにやりと笑った。

 レクトたちだけであっても、出現する魔物や落ちているものの調査くらいならできる。

 しかし黒い海の正体を解析したり、想定外の何かを調査するのは……難しいだろう。


「……なるほど、腹落ちしました。俺たち、調査を甘く見ていたようです」

「あはは、そんなに謝ることはないよ。

 まぁまぁ、難しいことは先輩に任せておきなさい!」


 どん、と胸を張るディアナに、全員は安心してしまう。


「そうすると、残りのひとりというのは……ディアナ様のことだったのですね。

 でしたら、全員が知っている仲なので、今回の調査は楽しくなりそうです♪」

「楽しいかは分からないけど、変に緊張しなくても良さそう……。

 ディアナさんなら、言いたいことを言えるし」

「えっちゃんに頼られるのは新鮮な気分……!」

「ディアナさん、私のことを何だと思ってるんですか……。信用はしていますよ?」

「信用と信頼は、違うものだよ!」


 ディアナの言葉に、エステルは少しだけ首を傾げた。

 違いはいまいち分からないが――いや、何となくは分かるかも?


「結局、この5人で行くことになるんですよね?

 それならディアナお姉さまの持ってきたおやつ、みんなで食べませんか?」

「そうだね! 他の誰かさんって、結局いないんでしょ?

 それなら、食べよう食べよう♪」

「それでは、わたくしがお茶を淹れますわ」

「セシリア様、わたしも手伝います!」


 セシリアとリゼは、お茶の準備をするためにソファから立ち上がった。

 残されたのは、レクトとエステル、そしてディアナの3人――


「……それで?

 レクト君は、『何で俺がリーダーじゃないんだー!?』って、本当に思ってたわけ?」


 ディアナが面白そうに言う。

 それを聞いたレクトは……少し、気まずかった。


「す、少しは思いましたけど……。でも、ディアナ先輩なら納得です」

「レクトも、ディアナさんのことは認めていますしね」

「えー? 本当かなぁ?」


 口元に笑みを覗かせるディアナ。

 そして、その口から次に出たのは――


「ところで、もう仲直りしたんだ?」

「ま、まぁ……。昨日、許してもらえまして……」

「はぁ~……。何とも、予想通り……」

「え? ディアナさん、予想って……何ですか?」

「あはは、こっちの話だよ~」


 ――やはり、根元の信頼が厚い。

 ディアナはついつい、そんなことを痛感させられてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 お茶が入り、おやつも配られ――なごやかな時間が過ぎていった。

 しかしひとしきり歓談が終わった頃、ディアナが話を切り出していく。


「――それで、学院長から細かいことは聞いた?」

「え? いや、そこまでは……」

「ざっくりまとめれば、5人で調査に行け……って感じだったよね?」


 レクトとエステルの言葉を受けて、ディアナは溜息をついた。


「はぁ……。学院長ってば、美味しいところだけ持っていって……。

 細かい説明は、あたしからってことか……」

「ディアナお姉さま……がんばってください!」


 リゼの言葉に、ディアナは微笑む。


「まず、なんだけど。今回の調査は……この5人で向かうんだよ。何か思わない?」

「何か……って言われても。学院長の期待を受けているなぁ……とか?」


 エステルはレクトを見ながら、そんなことを言った。

 レクトは少し考えて、言葉を続ける。


「そもそも、5人である必要――

 学院の生徒だけである必要、というのはあるんですか?」

「確かに、そうですわよね。世の中には冒険者の方々もいますし、王国の騎士団の方もいらっしゃいます。

 派遣しようとするなら、選択肢はそれこそたくさん――」

「そうだよね?

 何なら、あたしの家門……オールストン家から、武力なり商団なりを出しても良いワケだし」


 その言葉に、レクトは思い出した。ディアナは伯爵家の令嬢なのだ……と。


「そうすると、どんな理由が?

 確か東のラヴィニア学院では……生徒だけで、守護者を倒したんですよね。もしかして、それが原因……?」

「ふふっ、さすがレクト君。

 その通り、今回のことは大人の事情なんだよ……!」

「大人の事情……って。そう言われると、何だか嫌な気がしますね……」


 エステルが、どこか不満そうに言った。

 しかし、理解はできるが世の中はそんなもの――ディアナはすぐに、そんな思考に入ってしまう。


「ま、決まったことには従わないとね。5人……っていうのも、向こうが5人だからってだけ。

 本当なら4人にしたかったみたいだけど……さすがに、かなり危険な調査だからね」

「わ、わたしは……役に立ちますか?」


 ディアナの言葉に、リゼが恐る恐る聞いてくる。


「もちろん! リゼたんの召喚獣のリンドブルムは……理論上、かなり強いからね!」

「理論上……って?」


 エステルが聞くと、ディアナはリゼを後ろから抱きしめながら答えた。


「小さい状態のは置いておいて、リゼたんは正式に、リンドブルムを召喚したことがない。

 魔力計測の結果と、伝承からの推察――そこから導き出される威力。下手に、召喚できないんだよね」

「あはは……。さすがに、召喚したら無差別に攻撃……とかは無いはずですけど……」

「どうかなぁ……。あいつ、プライドは高いからなぁ……」


 ディアナの言葉に、リゼとレクトは思ったことをそのまま言う。


「その、小さい状態……というのは、リルムという名前でしたわよね。

 わたくしはまだ見たことが無いのですが、召喚はしないのですか?」

「えっと……お兄ちゃんが、あんまり出すなって」

「え? レクト、それって酷くない? 可哀想!」

「だって……。いちいち俺に突っかかってくるから……」


 身体が小さくても、存在は喧しい。

 全員がそれを、何となく察した。


「あと、ポーターはレクト君にお願いするね。今は剣聖の道に戻ったけど、知識はあるでしょ?」

「ええ、任せてください。むしろ、1年生のときの学びが無駄にならなくて良かったです」


 フローラによって遠回りをさせられた道のり。

 しかしそれがあるからこそ、今の自分がいる……レクトはそう信じたかった。


「それじゃ、消耗品や野営の準備はよろしくね!」

「でも、ひとりで大丈夫ですか? 5人分の荷物だなんて、レクトだけじゃ……」

「そこは大丈夫だよー。収納の魔導具も準備してもらうから!」


 収納の魔導具とは、小さな鞄にたくさん物を入れられる……そんな感じのものだ。

 重量もほぼ無くなるので、何かを持ち運ぶにはとても重宝する――

 ……しかしその分、高価であり、所持や売買なども制限されている。


「はぁ……さすが、学院の肝煎りですわね。レクトさんの負担も、かなり減るでしょうし……」

「ははは……。実際、荷物はかなりの重量があるからな。

 ディアナ先輩、準備するものはあとで相談させてください」

「うん、よろしくね!

 ……あと、あたしの発明品もいくつか持っていくから」

「わぁ……。楽しみです!」


 ディアナの発明品――と聞いて、すぐに反応したのはリゼだった。

 彼女は幼い頃から、ディアナの発明品を見ながら育ってきたのだ。


「リゼがそんなに期待するなら、俺も気になるな……。どんなものがあるんですか?」

「んー? 何を使うか分からないからね……。いろいろ持っていくよ~。

 野営を楽にするグッズとか、あとは試作品だけど、キックボードとか……」


 キックボードというのは、車輪が付いた板に、ハンドルが付いた乗り物である。

 王都の一部では流行っている――レクトは、そんなことを聞いた覚えがあった。


「はぁ……。戦いには、関係なさそうですね」

「調査用の機材がたくさんあるから、面白いのはあんまり持っていけないんだよぉ……。

 それに、戦闘に使うものなら……もう、みんなに渡したでしょ?」


 レクトとエステルは武器を。

 セシリアは指輪を。

 リゼはブレスレットを。


 それぞれが戦いに使えるものであり、ディアナがいなければ……入手困難なものばかりだ。


「――た、確かに……! すいません、舐めた口を利いていました!!」

「おうおう、許してあげるよ~♪」



 いつの間にか、ディアナを中心に……5人は上手くまわり始めていた。


 ただ、パーティの中心がディアナであるなら――

 ……戦闘の中心は自分でありたい。

 ディアナが見切れない部分があるなら、それは自分で受け持っていきたい。


 頼りになるディアナを見ながら、レクトはそんなことを考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ