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24.大切な人への贈り物

 パーティ活動室では、ディアナとセシリアのふたりきりだった。

 今日はリゼも来る気配が無く、レクトとエステルも修練場に行っているようだ。


「……せっちゃんは、修練場に行かないの?」

「はい。そこでのレクトさんは、エステル様にお任せしておりますので」


 セシリアは優雅にお茶を飲んだ。

 ディアナの目から見ても、その所作は貴族の令嬢たちには負けていない。


「ふーん……。せっちゃんは、レクト君のことが好き?」

「ええ。お慕いしておりますわ」


 セシリアはあっさりと、ディアナの言葉を肯定した。

 こうも肯定してくるとは、エステルとはやはり違う――

 ……ディアナは、セシリアのことがとても頼もしくなった。


「でも、レクト君とえっちゃんは……最近、急接近してない?」

「そうですわね。剣気を発現させてから、剣術にもさらに熱が入りましたし――

 やはり、通じるものがあるのでしょう」


 ……そんな中、ディアナはレクトを舞踏会に送り出していた。

 あまり嫌な顔は――しはしたが、それでも嫌味は無く行ってくれた。

 その後、ディアナとしては困ったことになったものの……それはまぁ、自己責任だ。


「なるほど……。せっちゃんは、レクト君のことを諦めてるんだね」

「そんなこともないですわ」


 セシリアはカップの持ち手に触れながら、頬に笑みを浮かべて言った。

 獲物を狙う目――……少しくらい、そんなものを感じてしまう。


「確かに、今は入り込む余地はないですが――こう見えて、わたくしは後方支援の魔法に秀でておりますの。

 レクトさんのこれからの冒険に、必要な人材だとは思われません?」

「まぁ……人数を絞らないと行けない場所もあるからねぇ。

 あのふたりが同じ剣聖であることは、メリットでもあり、デメリットでもある……か」

「ディアナ様とリゼ様も同じこと。

 常に一緒に居られるのは、聖女であるわたくし――……と、そういうことです」

「そうなる前に、ふたりがくっつかないことを祈るのみだねぇ」


 ディアナの言葉に、セシリアの身体が固まった。

 将来的には自分が有利かもしれないが、ごく目先では……やはりエステルが有利なのだ。

 しかし直近の状況では、敢えて傍観しているのではなく、傍観せざるを得ない――というのも正しい。


「今、無理に割り込んでも……逆効果ですから」

「あはは、わかるわかる。レクト君は、一途で猪突猛進だからね」

「そういうディアナ様は? レクトさんのことは、どう思っていらして?」

「婿に欲しい!」


 途中の説明をすっ飛ばしたような答えに、セシリアは少しだけ笑う。


「……恋愛の過程は要らない、と?」

「そんなの要る? 憑依されれば記憶は混ざるし、お互いのこと、わからない?」

「それは……そうかもしれませんが。ディアナ様は、それで良いのですか?」

「良いけど?

 ……うーん、あたしとせっちゃんは、ある意味似た者同士だと思ってたけど……やっぱり違うんだね」

「いえ。わたくしはディアナ様と似てるだなんて、思ったことも――」

「えー? 寂しいなぁ?」


 ディアナは少し拗ねながら、セシリアを眺める。


「――そういえば、レクト君に憑依中のレポートを書いてもらったんでしょ?

 あたしにも見せてくれない?」

「ダメです。あれはわたくしの宝物なので……誰にも、お見せすることはできません」

「ちぇー」


 ディアナはさらに拗ねて、天井の片隅に目を移す。

 年上なのに、どこか子供っぽい――そんなことを思いながら、セシリアは言葉を続けた。


「ところで、ディアナ様は……黒い海、のことはご存じですか?」

「もちろん。レクト君、討伐に行きたがっていたもんね。

 学院長が今、向かわせる生徒を選抜してるらしいよ」

「そのために、新しい剣を――リベリオンを作っているのでしょう? ディアナ様を通じて」

「あれ、この流れは……もしかして、情報収集されてる?」

「情報収集だなんて、悲しいことを言わないでください。

 わたくしたちは、同じパーティの仲間でしょう?」

「言い方だけ変わっても、結局は何も変わってないんだよなぁ……」


 ディアナは溜息をついてから、鞄からひとつ、箱を取り出した。

 そして、それをセシリアの前に置く。


「……これは?」

「あたしたちはパーティだからね。レクト君にだけ、プレゼントするのは不公平でしょ?

 だからこれは、あたしからせっちゃんへのプレゼント」

「よろしいんですの?」

「もちろん! 開けて開けて!」


 セシリアが箱を開けると、そこには綺麗な指輪が収められていた。

 いつの間に指のサイズを……と思いながら、ゆっくりと嵌めてみる。


「――レクト君からの贈り物だったら、もっと嬉しかっただろうけどね!」

「それは将来の楽しみに取っておきます。……これは、魔導具ですか?」

「うん。使えるのは1年……ううん、2年くらいかな?

 魔法の発動をサポートするようにできてるの。効果を強くしたり、遠くまで使えたり――みたいな」

「……それって、とても貴重なものなのでは……?」

「貴重だよ。だから、仲間にあげるんじゃない」

「仲間――」


 セシリアは、嵌められた指輪を改めて眺めた。

 先ほどは自分でも仲間……という言葉を口にしたが、他人からも口にされるとは。

 ……正直、この場所は全員がレクト目当てで集まっているだけ――そう思う節もあった。


「……わたくし、ディアナ様が好きになってきましたわ」

「え? 女性はちょっとなぁ……。

 せっちゃんも有望株だけど、結婚できないとなぁ……」

「そ、そういう意味では無いのですが……」


 セシリアは指輪に魔力を込めると、そこから強い力を感じた。

 支援魔法には自負がある。しかし、この指輪があれば……もっとレクトを助けることができる。

 有効期限があるとはいえ、それでも自分の卒業までは十分にもつ――

 ……それまでに、指輪が要らないくらい、自身を高めていけば良い。


「――とにかく、ありがとうございました。この指輪、ずっと大切にしますわ」

「うん。そうしてねぇ♪」


 セシリアは、ぎゅっと手を握った。

 自分の力で、何を、どこまで手に入れられるかは分からないが――

 ……レクトやエステルと同様。自分にはまだまだ、手に入れなければいけないものがたくさんあるのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ディアナは女子寮の、リゼの部屋を訪れた。

 突然の来客に、リゼは喜びを隠せない。


「ディアナお姉さま、今日は何か?」


 そわそわとしながら、リゼが聞いてくる。

 そんな彼女を眺めながら、ディアナは心がきゅんきゅんとしてしまう。


「リゼたんは今日も可愛いね~♪」

「そそそ、そんなことはっ!?」

「そんなリゼたんに、今日はプレゼント!」

「これは――ブレスレット、ですか?」

「うん♪ 早速、つけてみて?」


 ディアナの言葉に、リゼは緊張しながら……ブレスレットを手首に付けた。


「やったー、可愛い!!」

「あ、ありがとうございます……! ずっと、大切にしますね!」


 ずっと大切にする――セシリアもそう言っていたが、ディアナはこの言葉に感激していた。

 思い返せば……ずっと懇意にしていたリゼに対しても、今まで贈り物をしてこなかったのだ。

 その辺り、自分も変わったのかもしれない……ディアナはふと、そんなことを考えてしまう。


「このブレスレットは、魔導具なんだよ。魔力の調整補助をするんだけど――

 リゼたんはまだ成長期でしょ? 手首に付けるなら、ずっと使えるかなって」

「そんなお気遣いまで……! えへへ……嬉しいなぁ……」


 顔を赤らめるリゼに、ディアナも喜びを隠せない。

 他人のため――という言葉もよぎるが、それがどこから来たのかは分からない。


「ところで、魔力の調整っていうのは……付けているだけで、大丈夫ですか?」

「魔法を使うときに、できるだけ魔力をそこに集中させる感じかな?

 感覚的な話だから、やってみれば分かると思うよ」

「うぅ……。でもわたし、魔法は……召喚術しか使えなくて。

 それに、契約が終わっているのはリンドブルムだけですし……」

「リンドブルムって、竜なんだよね?

 ……そういえば、召喚したことはあるの?」

「本来の姿では、まだなんです……。小さい状態なら、たまに……」

「ふうん? 小さい状態なら……魔力消費は少ないのかな?

 それならずっと、出し続けられるかも……?」


 その言葉に、リゼはデフォルメ化したリンドブルムを手早く召喚した。

 以前、レクトたちの前で出したときと何も変わらない姿――


「――うむ。呼んだか、我が娘よ。

 ほう……? お主はディアナだな。我が娘を大切に思ってくれて、ありがたく思うぞ」

「はじめまして!

 へぇ……。今は小型だけど、本来の姿とくれば……さぞ、見事なものなのでしょうねぇ」

「ははは、嬉しいことを言ってくれる! いずれ、我が雄姿を見せつけてくれるわ!」

「よろしくお願いしますねぇ。

 ……ふふっ。リゼたん、素敵な召喚獣と契約してるじゃない?」


 リゼは照れながら、リンドブルムに手を伸ばす。

 リンドブルムはリゼの膝の上に収まり、その姿が何とも愛おしい。


「――ところで、その召喚獣のお名前は?」

「え……? えぇっと……『リンドブルム』?」

「それって、種族名じゃなくて……個体名なのね?」

「うむ、誇り高き名前であろう!?」

「でも、呼びにくいんだよねぇ。あだ名、付けちゃお♪」

「な、なんだと……!? 我にはそんなもの――」


 リンドブルムが吠える中、ディアナはさっさと話を進めていく。


「――……リルム。

 あら、可愛い♪ あなたの名前はリルムに決定~!」

「可愛い……ッ! リルム、これからもよろしくね!」

「いや、その……我の威厳が、だな……」


 断ろうとするリンドブルムに、ディアナとリゼの視線が集中する。

 本来であれば圧倒的な破壊力を轟かせる竜も、日常の中にあっては怯んでしまう。


「――ええい、分かったわ! しかし、その名前はこの小さき身体でのみ許そう。

 我が本来の姿に対しては、今まで同様、敬意を払ってリンドブルムと呼ぶが良い!」

「うん、わかった! ディアナお姉さまも、素敵なお名前をありがとうございます!」

「何の何の。それじゃリルムちゃん、リゼたんのことをよろしくねぇ♪」

「……おい。呼び方が、少し変わってないか……?」


 リンドブルムの不満な顔を見ながら、ふたりは楽しいひと時を過ごしていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 リゼの部屋を出て、ディアナは自分の研究室へ歩いていた。

 ……セシリアとリゼには、渡すものを渡した。

 セシリアにはレクトへの想いを聞いたが、リゼには――

 

 ……ディアナは足を止めて、女子寮を振り返った。

 あの子には恋愛は早すぎる――……深い傷を負ったあとでの恋愛は、あまりに危険すぎる。


 危険なことも大好きなディアナではあるが、妹のような可愛い子には、そんなことを求めていない。

 だから、このままレクトのことは忘れて欲しくもあるが――


「……魅力的だもんね、レクト君は」


 恐らく自分は、他のみんなと見方が違う。

 しかし、他のみんなの中でも、見方はそれぞれ違う。


 レクトのまわりにいる4人は、それぞれがそれぞれの立場や価値観で――

 ……レクトのことが、大好きなのだ。


「――ある意味、そういう仲間なんだよ。あたしたちはさ。……ふふっ、厄介なものだねぇ」


 ディアナは自然と、困った手振りをした。

 誰もいない場所で、誰にも見られず――

 ……ディアナは溜息をついて、再び歩き出した。


 セシリアとリゼにはプレゼントを渡したから、あとはレクトとエステルのふたりだけ。

 渡すのが楽しみではあるが、どこか気が重い……。


「……嫉妬かな? あたしともあろう者が――」


 空が夕闇色に染まる中、ディアナは少しだけ……遠回りをすることにした。

 特に深くは考えていなかったが――その足は、自然とどこかに向かっていった。

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