第89話 再会
マーレと一緒に天空の島本部の自室に転移すると、直ぐにミルフィーが駆けつけて来た。
「ライル様ーー! 」
ミルフィーの慌てぶりが普通じゃない。
「やぁ、ただいま」
「ただいま、じゃありません。海の底に消えてしまって心配してたんですからね」
流石に海の底までは『衛星』は機能しない。
心配をかけてしまっていたようだ……
だが、ミルフィーの背後には目を光らしたルナがいた。
「魚の匂いニャー! 」
咄嗟に俺の背後に隠れたマーレには被害がなかったが、ルナは俺の足に噛み付いた。
「ルナ、それは俺の足だ! 」
「ニャー! 」
ミルフィーも状況を判断してルナを止める。
「ルナ、やめなさい! ライル様の足ですよ……そう言えば、なんで魚になってるんですか? 」
「ルナ、噛むのはやめろーー! 」
俺は、足を風魔法で乾燥させ元の人の足に戻す。
ルナは、やっと正気を取り戻したようだ。
足にはルナが噛んだ歯跡がくっきり残っていた。
「ライル様、そちらの女の子はどなたですか? 」
「あぁ、紹介が遅れたね。人魚族の族長の娘でマーレと言うんだ。人族の世界が見たいと言うから連れて来た。仲良くしてあげてくれ」
「それは構いませんが……」
ミルフィーは、マーレの裸姿が気になるようだ。
すると、俺の背後に隠れていたマーレが、
「ねぇ、ここどこなの? 」
「空に浮かぶ島だ。この島を貰ったから海龍神王の封印を解きに行ったんだよ」
「そうなんだ。凄いね、パパ」
パパと言う言葉を聞いたミルフィーは、
「ラ・イ・ル・様! どういうことか説明してくれるのでしょうね〜〜」
般若の顔になっていた。
そして……
……ミルフィー捜査官とルナ捜査官による尋問が始まった……
「そろそろゲロっちゃいな……はぁん? 」
「良く覚えていないんです……」
「覚えてないで済んだら衛兵はいらねぇんだよ〜〜。証拠はあがってんだ! 」
「そうだニャー。魚の揚げ物は最高ニャー」
「何でパパって呼ばれてんだよ〜〜? 」
「わかりません。知らぬ間にそう呼ばれてました……」
「お天道様が差し込まねぇ海の底で何してたんだ? はぁん? 」
「幽霊船を退治して、それから海龍神王の封印を解いてました」
「で、あの人魚の女の子にパパって呼ばれたのかい? 」
「途中で気を失って、それからは良く覚えてないのです」
「海には魚がたくさんいるニャー」
「よぉ〜、お前のそんな姿を見たら田舎のお袋さんはどう思うだろうなぁ〜〜」
「……………」
「おい、答えられねぇってんなら、それでもいいさ。あの子にちゃんと聞くからよ〜〜」
「今日の夕飯は魚がいいニャー」
「まぁ、腹が空いてたら何もしゃべれねぇか。ほらっ、カツ丼だ。うめぇぞ〜〜」
「海鮮丼が最高ニャー」
尋問はミルフィーの気がすむまで続くのだった。
………………
◇
翌日、ミルフィーの誤解が解けぬまま、俺は、メンデルさんとリールを連れて王城に赴いた。
王城の応接室で待っていると、執務長のロバートさんがやってきて
「待たせたね。おや、本当にメンデルなのか? 」
「ご無沙汰してます。ロバート執務長」
「あのやんちゃな娘がこんなに綺麗になって……」
「昔話は恥ずかしいです」
「いやいや、ラビス君の口から君の名前が出た時は驚いたよ。剣を教えたんだって? 」
「はい。生きてくために必要だと思いまして」
「メンデルが冒険者になって、行方が分からなくなってしまった時は心配したんだ。君のお父様もね」
「父がですか? 」
「そうだよ。君の父上は、必死になって探し回っていたよ」
「そうだったのですか……」
メンデルさんにも抱えている問題があるようだ。そんなメンデルさんの気持ちを察したのか、ロバート執務長は、
「ラビス君、そちらがダークエルフの方だね」
「そうです。リール、こちらがミスティナ皇国の王家の執務長をされているロバートさんだ」
「はじめまして、リールと申します」
「そうか、私は、この歳になるまでダークエルフの方とお会いした事がない。今日、リールさんに会えて嬉しいよ」
「そんな〜〜、ラビス、嬉しいなんて言われちゃったよーー」
そんな砕けた話をするリールをメンデルさんは呆れながら、
「すみません。この子には何度も言葉遣いを教えたのですが……」
「わははは、気にしなくて構わないよ。こんな可愛い子に会えたのだからね」
ロバート執務長は寛大な人のようだ。
俺達は、しばらく世間話をした後、皇都にある王家の別宅に案内された。
別宅と言っても、王家の屋敷は物凄く大きい。
広い庭は、迷いそうなほどだ。
ここには、ソフィア王女とソレイユ王女のお祖母さん、皇太后様も住んでいるようだ。
「リール、わかってるな。失礼のないようにするんだぞ」
メンデルさんは気が気ではないようだ。
失礼な物言いで不敬罪になる場合もあるからだ。
「わかってるってば〜〜ミルフィーに教えてもらったし〜〜」
まぁ、リールは賢いから心配はないと思うが……
別宅の応接室に通され、しばらく待っていると侍女と思われる真面目そうな女性が入ってきてソフィア王女とソレイユ王女が来た事を告げた。
「やぁ、ラビス君、来てくれたんだね」
そう気軽に話しかけてきたのはソフィア王女だ。
「今日はお招き頂きまして、王女様達に紹介致します。私の剣の師匠のメンデルと精霊魔法の使い手リールです」
「噂には聞いているよ。学院の武術大会で右に出るものはいなかったそうだね。メンデルさんに会えて光栄だよ」
「いいえ、昔の話です。メンデルです。こちらこそ宜しくお願い致します」
「私はリールと申します。宜しくお願い致します」
「こちらこそ。リールさんは精霊魔法を使えるんだね。妹のソレイユに使い方を教えてあげてほしい」
「はい、畏まりました」
すると、ソレイユ王女が、
「ソレイユです。よろしくお願いします。あの〜〜ラビスさんとは、どのようなご関係でしょうか? 」
「ラビスの妹的な存在です」
「妹さんですか……」
「リールは、3歳の時、親を亡くし、それからラビスと一緒にいます。当時のラビスも記憶を無くして天外孤独でした。そんな2人は兄妹のように育ったのです」
メンデルさんが上手く話してくれた。
「そうだったのですか。お二人共苦労されたのですね」
ソレイユ王女は、それ以上は何も話さなかった。
みんなで話し合い一週間に一度、ここに教えに来るという事になった。
俺は用事があるので先に王家の別宅を出る。
依頼が、かなり溜まっているようだ。
人気のない場所で転移して本部に戻ると、ニュイが本部自室のベッドで寝ていた。
起こさないように静かに司令室に行こうとしたら目を覚ましたようだ。
「ライル、勉強、楽しくない」
「そうか……今、何を教えてもらっていたんだ? 」
「掛け算、五の段まで覚えた」
「凄いじゃないか」
「そう? 」
「あぁ、凄いよ。もう掛け算までできるなんて」
「……うん、もう少し、勉強してみる」
「司令室に行くけどニュイも行くか? 」
「行く」
俺とニュイが司令室に行くと
「ライル様、マーレの事何ですが……」
「マーレがどうしたの? 」
「服を着てくれないんです。下着だけはどうにか着けてくれるようになったのですが……」
服を着る習慣が無かったから仕方がないが、裸でウロウロされるのも困る……
「そうか、迷惑かけるな。ミルフィー」
「いいえ。構いませんが、例の件は別です」
まだ、怒ってるようだ……
「ところで依頼があるって聞いたんだけど」
「そうでした。クロウ勇国の首都と皇国のニトの街で依頼の手紙が掲げられています。クロウ勇国の方は、ユオ様が明日以降なら受けれるそうです。ライル様は、ミスティナ皇国のニトの街をお願いします」
「わかった」
返事を返すと同時にマーレがやって来て
「パパ、どこ行ってたのよ! 」
「マーレ、パパはやめてくれないか? 前みたいにライルって呼んでくれ」
「何で? 」
「何でもだ」
「わかったわよ〜〜」
「マーレ、俺はまた出かけるけど大丈夫か? 」
「何処に行くの? 」
「街だよ」
「私も行くーー! 」
街に行けば人族の生活習慣がわかるかもしれないな……
「わかった。だが、服を着るのが条件だ」
「えっーー! だって、身体が締め付けられるようで窮屈なんだもん」
「今の下着の姿だと衛兵に捕まってしまうぞ」
「衛兵って何? 」
「街の治安を守る兵士だ」
「私、何も悪い事してないよ」
「それでも服を着ないと連れてかないぞ」
「もう、しょうがないわね〜〜わかったわ。服を着るわ」
裸族のマーレに服を着させるのも大変だ……
ニュイは俺の袖を引っ張っていた。
一緒に行きたいようだ。
「ニュイも一緒に行こうか」
「うん」
嬉しそうに頷くニュイを見ると心が癒される……
「ミルフィー、悪いがマーレの服を見繕ってくれないか? 」
「はい。私の服を着させます」
マーレはミルフィーに連れられて何処かに行ってしまった。
しばらく時間がかかるだろう。
「ニュイも着替えておいで。街に行くからね」
ニュイの着替えをセレーネに頼み、俺は転移して竜の里に行く。
◇
ここは竜の里のいつもの丘だ。
吹き抜ける優しい風が気持ち良い。
リールの母親の石碑に果物とジュースを供える。
「やはり、ここは落ち着くな……」
「ライルはここが好きだよね」
背後に聞こえた声を聞いて俺は驚いた。
その声は、決して忘れる事は出来ない、俺が探し求めていた声だ。
「ノーチェ……」
「私もここが好きだよ」
「ノーチェ、何で黙っていなくなったんだ」
「それは言えない。でも、これ以上封印を解かないで」
「それはどういう意味なんだ? 」
「何でもよ。またね、ライル……」
「ノーチェ!! 」
声の主は消えてしまった。
姿は一瞬しか見れなかった。
懐かしい金色の髪が風になびいていた。
ノーチェ……
俺はどうしたらいいんだ。
君さえいてくれれば、他に何もいらなかったのに……
今は、大切なものはたくさん増えた。
それは、君が進むべき道を示してくれたからだ。
どうしたら前のように君と一緒にいられるのだろうか?
教えてくれよ。ノーチェ……




