第86話 人魚族の里
孤島のジャングルの中を進み、やっと目的地のひとつと思われる入江にやってきた。
太陽に照らされて、海が白く輝く。
砂浜には、波に流されてきた流木やら海藻のような黒いものが落ちていたが、肝心の人魚に関する手がかりはない。
「この入江じゃないようだ」
「違うの? 」
「残念だがね」
歩きなれないジャングルをきたせいか、それとも茹だるような暑さに慣れないせいか、ニュイも俺も疲れている。
「ここで少し休んでいこう」
「うん」
日陰を探して、流木を集めて簡単な椅子とテーブルを作る。
水と食料を取り出して2人で食べていると腕輪の連絡が入る。
…………………………
「はい」
「ライル様ですか? 」
「ソレイユ王女ですか? 」
「はい。今大丈夫でしょうか? 」
「構いませんが、どうかしましたか? 」
「実は、姉が一緒に別宅に住もうと言うのでどうしたら良いか悩んでいます」
「そうですか。何故、悩む必要があるのですか? 」
「それは……姉にどう接したら良いかわからないからです」
「ソレイユ王女はお友達がおりましたよね」
「はい。ステラですか? 」
「そのステラさんと同じように会話したりすれば良いと思いますよ」
「ですが……また、嫌われたりしないでしょうか……」
「それはないと思いますよ」
「そうですね……わかりました。頑張ってみます」
「仲良くなれるといいですね」
「はい」
……………………………
ソレイユ王女からの連絡は人生相談のような感じだった。
俺の事は聞いてないようだ……
「ライル、女、たらし、なの? 」
「ニュイ、そんな言葉どこで覚えたの? 」
「ルナ、言ってた」
ルナには、あとでお仕置きしないと……
「そんな事はないよ」
「そう……」
「ニュイ、疲れたなら本部に帰るか? 」
「ライル、どうする? 」
この暑さでニュイは限界に見える。
「俺も帰るよ」
「ニュイも」
ここで、少し休んで、2人で本部上階の自室に転移する。
「ニュイ、疲れただろう。お風呂すぐ沸かすから待ってな」
「うん」
俺は浴室に行き、湯船にお湯を張る。
その間にニュイには冷たいりんごジュースを飲ませておいた。
ニュイと2人でお風呂に入り、島には俺1人で行く事を話した。
暑さに慣れていないニュイには、亜熱帯の気候は厳しいだろう。
「ニュイ、わかってほしい。あの場所はニュイにはキツイだろう」
「平気……」
「ニュイには、ここに残って少し勉強をしてもらいたい」
「勉強? 」
「そうだ。算術とかこの世界の事とか、いろいろな事だよ。リールも勉強してただろう? 」
「勉強、勉強、勉強……」
「いろいろ覚えると楽しいぞ」
「わかった。勉強する」
お風呂から上がると、ミルフィーがお茶セットを持って来てくれた。
そこで、ミルフィーにニュイの事を話すと
「わかりました。私の知ってる範囲で良ければ」
「それで十分だよ」
「では、お任せ下さい」
ニュイを早速連れて行ってしまった。
少し可哀想な気もするが……
俺は、お茶を飲んでもう一度あの島に転移する。
◇
場所は、違う入江の近くの森の中だ。
いきなり、入江に転移すると警戒心の強い人魚達は二度と姿を現さないと古竜に言われていたからだ。
先程と同じように、森の中を風魔法で下草を刈って入江を目指す。
すると、磯の匂いと共に声が聞こえてきた。
この入江だったみたいだな……
俺は衛星で確認して入江にいる人魚を確認する。
さて、どう接近するか……
ソレイユ王女に言ったように正攻法が一番良いと思い、声をかけた。
「すみません。ライルと言うものです。古竜様から海龍神王の封印を解いてほしいと頼まれました。話を聞いてもらいたいのですが……」
森の中から、少しだけ身体を見せる。すると、人魚達は直ぐに海に飛び込んでしまった。
ダメか……
会話が通じなかったのか?
しばらく、この入江にいたが戻ってくる様子はない。
長期戦覚悟で、この場所にテントを張った。
……1日目……
ダメだ。姿を現さない……
……2日目……
波の音しか聞こえない……
……3日目……
夜中、遠くの方が歌が聞こえたが姿は見えない……
……4日目……
その夜、また、歌が聞こえる。昨日より、近くのようだ。
「すみません。どうか出てきて話を聞いて下さい」
俺としては大きな声で話しかけたつもりだ。
ナハトなら、もっと大きな声を出せるだろうが……
すると、入江の海から顔を出す女の子がいる。
俺は、驚かさないように……
「古竜様から島をもらった代わりに海龍神王の封印を解いてくれと頼まれたのです。どうか、話を聞いてくれませんか? 」
すると、その女の子は、
「貴方、何者なの? 」
やっと話してくれた……
「ライルと言います。竜神様と大精霊の封印を解いた者です」
「本当に貴方が封印を解いたの? 」
「はい。それで古竜様から頼まれたのです」
「どっからどう見ても普通の人族よね? 」
「見た目はそうですがアステル神の使徒です」
「えっ、本当に? 」
「はい」
「そっか〜〜だから私の歌が効かなかったのか〜〜」
歌って? そう言えば、ブラドが精神攻撃がどうのこうの言ってたな……
「私には、多分効かないと思います」
「わかった。長に聞いてくる」
人魚はまた海に潜って消えてしまった。
小一時間ほどそこで待っていると、今度は大人の女性の人魚が2人とさっきの女の子が海から顔を出した。
「里に案内するわ。貴方、泳げるの? 」
「里ってどこにあるのですか? 」
「もちろん、海の底よ」
これは困った。泳ぎは得意ではない。
それに、海の底なら息が続かない。
「泳ぎは得意ではありません。海の底では息も出来ないから難しいです」
「では、これを飲むといい」
騎士のような大人の人魚は、飴玉のような物を俺に投げた。
「これを飲むとどうなるのですか? 」
「水中でも息ができる。魚のように海に馴染む」
胡散臭いが仕方がない。
俺は、その飴玉を口に入れ飲む混む。
すると足が魚になっていた。
マジか……
「さぁ、ついて来なさい」
人魚達は海に潜ってしまった。
恐怖心はあるが、仕方なく俺も海に入る。
すると、地上にいるより楽に動ける。
海に潜ると息も普通に出来る。
どういう原理なんだ……
人魚男となって女性の人魚達の後を追う。
普通に泳げているのが嘘みたいだ。
すると、初めに接触した人魚の女の子が
「どう? 楽に泳げるでしょう? 」
「確かに、これ元に戻れますよね? 」
「問題ないわ。でも貴方みたいな平凡な顔でどうやって封印を解くの? 」
「顔で解くわけではありませんよ」
「それもそうね」
人間なら中学生ぐらいだろうか、生意気盛りという感じだ。
「ほら、あそこ。あそこが私達の里よ」
「本当だ。普通に家がある」
海底に広がる普通の家並み。
まるでファンタジーだ。
俺はやっと4日目にして人魚の里を訪問する事が出来た。
◇
案内されたのは、長の棲む屋敷だ。
もちろん、海の底なので俺は人魚男のままだ。
屋敷は、魔石を含んだ石を積み上げて出来てるようで、明るく輝いている。
「ここで待て! 」
怖い顔をしながら、2人の女性人魚は、銛のような槍を携え俺の両脇に付き離れようとはしない。
警戒されているようだな……
活発な女の子の人魚が屋敷の奥に入り、1人の女性人魚を連れてきた。
「御主がアステル神の使徒か? 」
「そうです。ライルと言います」
「そうか。我は、長のラメールと言う。これは、娘のマーレじゃ」
あの子は、長の娘だったのか……
「古竜から海龍神王の封印を解いてほしいと言われました。島を貰った恩もありますし海龍神王が封印されている場所に案内してほしい」
「確かに、古龍が島を持っていった時に話は聞いている。だが、御主がその使徒だとどうやって証明する? 」
「証明の方法など知らない。逆にどうしたら信じてもらえるのでしょう? 」
「そうだな、アステル神の使徒ならこの界隈で悪さをする船をどうにかしてもらいたい」
「船ですか? 」
すると、娘のマーレが
「母上、いくらこいつが使徒でもアレを退治することなんか出来るわけないじゃない」
「マーレ、お前には聞いていない。我は、その人族に聞いているのだ」
「わかりました。その船をどうすれば良いのですか? 」
「ほほう。御主が退治出来るというのか。面白いやってもらおう。もし、退治できたら御主を使徒と認め海龍神王の元に案内しよう」
また、面倒くさい事になってしまった……
「で、その船とは何なのでしょうか? 」
「それは、度々この界隈で悪さをする幽霊船じゃ」
「幽霊船? そんなファンタジーなものが出るのですか? 」
「そのファンタ何とかという言葉は知らんが、その幽霊船には我らの仲間もやられた。御主、聞いたからには逃げるではないぞ」
「わかってます。で、どこに行けばその幽霊船に会えるのですか? 」
「今宵は新月じゃ。奴がこの界隈に出るだろう」
「そうですか。夜になれば分かるという事ですね」
幽霊船、魔法で吹き飛ばせば良いのか?
「案内役に、そうだな……」
「私が行く」
「マーレ……わかった。これも次期、長の勤めじゃ。この者を案内してやれ」
「そうするよ。宜しくね。ライル」
「あぁ、頼むよ」
海龍神王の封印を解く前にひと仕事しなければならなくなったようだ。




