第84話 祝賀会(2)
祝賀会が中盤に差し掛かる頃、シェリーさんが来賓のシュプール公爵を連れ立って俺のところに来た。
「君がラビス君だね。シェリーがお世話になったようだ」
「初めまして、シュプール公爵。シェリーさんにお世話になったのは私の方ですよ。それに姉さんと仲良くして頂いて、こちらこそ感謝しかありません」
「シェリーも良い友人を持ったものだ。冒険者になったと聞いた時は肝を冷やしたがね」
「そうですね。危険な仕事ですから心中お察し致します」
「シェリーが君の事を気にいっててね。どうだい。ライアット国にも遊びに来ないか? 」
「是非とも行ってみたいです」
「そうか、そうか、では、その時はお世話になった分、十分なもてなしをしよう」
「ありがとうございます」
「どうだい? シェリーと踊ってやってくれないか? 娘の踊りを見てみたい」
「シェリーさんがよろしければ構いません」
「私も構わないわ」
「では……」
今度は、シェリーさんと踊る事になってしまった。姉さんの視線が痛い。
曲に合わせて身体を寄せる。
今度は少し激しい曲だった。
「シェリーさん上手ですね」
「社交界で踊るなんて何年ぶりかしら」
「迷宮はどうでしたか? 」
「順調だったわよ。みんなもいたしね」
「姉さんが無理言って連れて来たのでしょう? すみません。我儘な姉で」
「そんな事ないわ。一緒にいて楽しいし」
「奇特な人ですね。シェリーさんは」
「メリーナには内緒にしておくわ。それで弟君、迷宮の時の約束覚えてる? 」
「はて? 何でしたっけ? 」
「私を貰ってくれるって話よ」
「あっ、そう言えば歯茎からの血は治りましたか? 」
「弟君が言ってた歯槽なんちゃらとか言うやつ? 」
「そうです。ほっとくと歯が抜けやすくなりますよ」
「この歳で入れ歯なんてゴメンだわ。あれからしっかり磨いてます」
「そうでしたか。それは良かった」
「後で確かめてもいいのよ」
「姉さんに蹴られそうですから遠慮しときます」
曲のテンポが変わったー今度はゆっくりした曲調になる。
「弟君、上手ね。さっきから女性のお相手ばかりしてるせいかな? 」
「こういう場所は、正直苦手です」
「そう? たまには良いのでは? 」
身体の密着具合が……
「王女様とお知り合いなの? 」
「いいえ。それ程ではありません」
「そうなの? さっきからラビス君ばかり見てるわよ」
マジか……
「お父上に会われたのはお久し振りなのでしょう? 」
「そうよ。5年振りくらいかしら」
「随分、心配されてたご様子でしたね」
「そうね。別に嫌って家を出たわけではないから、ただ、意に沿わない婚約とか、結婚とかがいやなだけだったのよ。女性でも自分のしたい事をしてメリーナのように輝いて生きてみたかったの」
「メリーナ姉さんのようにですか? 」
「そう。弟君のお姉さんは私の目標なのよ」
目標を誤ったのではないか……?
「そうでしたか」
「だから、弟君と結婚すればメリーナともずっと一緒にいられるでしょう? 」
「はい!? もう、シェリーさんは冗談がうまいんですから〜〜」
「本心よ。弟君の頭の片隅にでも置いといてね」
これはどういう状況なのだろうか?
前世では経験した事がないので理解できない……
曲が終わると大きな拍手が会場を包む。
今度は、立花がユオと踊るようだ。
これは、これで面白そうだ。
しかし、またまた難敵が現れた。
「ラビス君、一緒に踊ろう」
「畏まりました。ソフィア第1王女」
何故、王女がダンスに誘ってきたんだ?
曲が始まると王女と共にダンスを踊る。
「君は妹と仲が良さそうだな」
「ソレイユ王女とですか? 」
「そうだ。あのような大胆な行動をする妹を今まで見た事がない。だから、確かめにきた」
「私の人物評価とかでしょうか? 」
「そこまでするつもりはないよ。でも、妹が君に惹かれているのは見ていてわかる。今まで接点のなかった君と妹の間には何があるんだ? 」
「ソレイユ王女は、黒竜の御伽話が好きなのではないでしょうか? 黒竜の事を聞いていましたが、あまり覚えてないので答えられませんでした」
と、誤魔化そう……
「そうなのか? だが、それだけでは不自然だ。君は剣の才能もあるし来賓のライアット国のシュプール公爵とも仲が良いみたいだ。顔が広いと言う事は人望もあるという事だと私は思う。どうだ。しばらく私達と一緒に住まないか? 」
「王城にですか? そんな大それた事無理ですよ」
「では、皇都に別宅がある。そこに妹と3人で住んでみたい。そうすれば君の事がわかるかもしれない」
「ご提案は嬉しいですが王様がお許しになるわけありませんよ。王家の年頃のお嬢様方と一緒に暮らせば、変な噂が立ってしまいます。きっとソフィア様やソレイユ様に迷惑がかかります。この件はお断り致します」
「私達が迷惑に思わなければ構わないのだな? 」
「もちろん君と3人というわけにはいかない。侍女もいるだろうし執事もつくからね」
「ソフィア様、私は準男爵を拝命されたばかりです。そんな者を簡単に信用されてはなりませんよ」
「君は真夜中、寝込んでしまった私達を襲うつもりなのか? 」
「そんな事をしたら首が飛びますよ」
「そうだろうな……だが、本当はそうすれば妹と仲良くなれるのではないかと考えての事なんだ」
「そうでしたか……是非とも妹さんとお話をして下さい。そうすればきっと分かり合えるはずです。たった2人の姉妹なのですから……」
「そうか、そうだな。君には教えてもらってばかりだ。妹と言わず、私とも仲良くして欲しい」
「それは願ってもない話です」
「そうなのか? 」
「はい。お美しいソフィア様とお話し出来るだけで光栄です」
「な、何を言うんだ。私のような男勝りの女性を美しいなんて……」
社交辞令に失敗したようだ……
「お美しいし、とてもお心が優しい方だと私は思っています」
「き、君はなんでそんなに口がうまいのだ? そんな事を言われたのは初めてだ」
嘘、みんな社交辞令で言わないのか……?
「そうか、是非とも例の計画を実行してみたくなった。あとで連絡するよ。待っててくれ」
「えっ、それは無理ですよ。王女様達に迷惑がかかりますし私は王様に首をはねられます」
「父上はそんな方ではないぞ。でも、それも面白そうではあるがな……」
「ソフィア王女、楽しんでおられるでしょう? 私の困った顔を見て……」
「うふふふ。でも同じ年頃の男性と気軽に話せる相手など今までいなかったからな。少し楽しいのだ」
王女ともなるとそういうものなのか……
「まぁ、楽しみに待っていてくれ」
ダンスは終わり、爽やかな顔をしてソフィア王女は、王様のいる席に座った。
こちらを見て微笑んでいる。
周囲からの重圧がかかる。
特に姉さんの視線が一番凄い。
仕方ない……
俺は女性をダンスに誘う最上級の礼儀を尽くして、
「メリーナ姉さん。一緒に踊ってくれませんか? 」
「いいの。ラビスーー!! 」
今日のラストダンスだ。
軽やかな曲からムーディーな曲に転調された。
「やっと夢がかなったわ」
「何の夢なの? 」
「ラビスと社交界でダンスをする夢よ」
「散々屋敷で踊ったじゃないか? 」
「それは小さい頃の練習でしょう。そうじゃなくって本番でよ」
「そうだったんだ。じゃあ、これで姉さんの夢がかなったんだね」
「そうよ。あと89個あるけどね」
「えっ、それって夢の数なの? 」
「そう。ラビスとしたい事」
そんなにあるのか……
「しょうがない。姉さんに付き合うよ。そうじゃないとシェリーさんが可愛そうだ」
「もう、それどういう意味よ〜〜」
姉さんの足が俺の足を思いっきり踏んだ。
「痛たた……ワザとじゃないよね〜〜? 」
「どうかしらね〜〜」
そんな小悪魔な顔をする姉さんが可愛らしく思えたのは、死ぬまで内緒にしておこう……
ラストダンスを最後に祝賀会も終盤になる。
するとヘンリー辺境伯が父さんとシモンズ伯爵を連れてやってきた。
「ラビス君、かなり注目されているぞーー」
「これは、ヘンリー様。先日はありがとうございました」
「いやいや、あんな事で礼を言われる筋合いはない。それで、どうだ? リアスとは話ができたか? 」
「はい。随分、心配をおかけしたようで謝罪しました」
「君は律儀だね。謝罪など必要あるまい。それより、別の話をした方がリアスも喜ぶ」
「はい……」
別の話? 何だろう……
「父様、子爵になったのですね。おめでとうございます」
「あぁ、私は何もしてないのだがね。面喰らっているよ。ラビス。こちらはシモンズ伯爵だ。お前に挨拶したいそうだ」
「ラビス君、まずは準男爵の拝命おめでとう」
「ありがとう御座います」
「君が使者様から資料を預かったのだね」
「はい」
「そうか、今回は私の不徳の致す所を君に助けられた。感謝するよ」
「いいえ。私は何もしておりませんので」
「そんな事はない。その資料をスミス経由とはいえ直接王に届けてくれた。もし、良からぬ思いを抱いている貴族達に渡ったらと考えると恐ろしいよ」
「そうなのですか? 」
「あぁ、貴族の間には派閥のようなものがある。いずれ君も体験するだろうがな」
「そうなのですか……では、その時、困ったことが起きたらお力を頂くと言う事でこの話を終わりにしませんか? 」
「ラビス! 失礼な事を言うではない! 」
「すみません。父様……」
「わはははは、君は面白い子だ。それに裏表もなさそうだ。好感が持てるよ」
「すみません。シモンズ伯爵。愚息がとんでもない事を口走りまして……」
「いいや。構わない。その方が私も気が楽だ。わかった。その約束を飲むとしよう」
「ありがとうございます」
すると父さんは
「こらっ、ラビス。シモンズ様に謝りなさい」
「スミス、その必要はないよ。ブリュッセル家はお取り潰しになっていたのを首ひとつで存続させてもらったのだ。これは奇跡だと私は思う。奇跡の体現者同士仲良くしたいものだ」
シモンズさんは外交でロワード帝国に赴き、ハニートラップに引っかかり夜を一緒に過ごした女性を殺した罪をきせられてしまった。もちろん、冤罪で全てロワード帝国のガイブール伯爵の差し金だが、それを揺すりのネタにされて逃げ場がなくなってしまった。
幾度となく、己の罪を裁こうと悩んでいた事が手帳に記録されていた。
今の彼の顔は清々しく迷いのない顔だ。
元々、頭の良い人なのだろう……
「そうだ。ラビス君、うちの娘を貰ってくれないか? 名前はステラと言うのだが ……」
「えっ、まだ、お会いした事もないので何とも……」
「そうか、ちょっと待ってておくれ。今、呼んでくるから」
シモンズ伯爵は、ソレイユ王女と一緒に席に座ってお菓子を食べているステラを呼びに行った。
「父様、どう言う事? 」
「いや〜〜俺に言われてもな〜〜」
「まだ、婚約とか結婚とか無理だよ。いろいろしなければならない事がたくさんあるし」
「わかってるが、これも貴族の務めだ。頑張れ〜〜」
そう言いながら逃げて行く父さんを見ているとステラがソレイユ王女と共にやってきた。
「ラビス君、これがうちの娘。ステラだ。幼少の時、ソレイユ王女と親しくさせてもたったんだよ。どうだい? 」
「ラビスです。この度準男爵を賜った新参者ですが仲良くしてください」
「ステラと申します。こちらこそ仲良くして下さいね」
「お互いの挨拶は終わったようだな。良い報告を待っているぞ」
シモンズ伯爵はそう言いながら父さんのいる方に行ってしまった。
残された俺達はどうすればいいのやら……
「ラビスさんはソレイユと仲が良いのね。一緒にダンスを踊っていたじゃない。そんな積極的なソレイユを見たのは初めてよ。2人は、どんな関係なの? 」
「どんな関係とおっしゃられても……新参者が困らないようにとソレイユ王女様が率先して場に和ませてくれたのです。ソレイユ王女様のお優しさがそうさせたものだと思います」
「もう、ラビスさんはわかってないわね〜〜。ソレイユは優しいけど自分から男性に近づく事なんて絶対しないのよ。余程の事が無い限りね」
「ステラ、もう辞めにしましょう? ラビス様が困ってらっしゃるわ」
「ほらっ、そう言うところよ。ラビスさんの事を様付けで呼んでるところ。それってソレイユが憧れてる使者様に対する口調と同じでしょう? 私も使者様には助けて頂いたからとても感謝してるけど、ラビスさんは関係ないでしょう? 」
「もう、ステラはそんな事言わないで」
うつむいて赤くなった少女に声をかけた方が良いのか?
「それは、ソレイユ様のお優しさです。私のような者にまで、高貴な扱いをなさってくれるなんて光栄の至りです」
そうフォローするが……
「そうね。ソレイユは優しいからね」
ステラが垣間見せる笑顔は前には無かったものだ。
性格は姉さんみたいだけど……
これで、【ミッション・コンプリート】かな……
だが、俺の足を踏んでるニュイともう片方の足を踏んでるメリーナ姉さんをどうすれば良いのだろう……




