第82話 終結
打ち合わせ通り、みんなは予定の行動に移る。
仮面をかぶり身バレしないようにしていた。
ユオは結界の発動と時の鐘周囲で戦闘。
ナハトは、五芒線の先端である教会前広場で溢れ出た魔物の殲滅。
リールとニュイは、王立学院と闘技場の防衛にあたる。
俺は、貴族席に戻って試合を観戦していると一段上の来賓席に立花達がいたのが目に入った。リアナ嬢やリアス嬢もそこにいる。
また、ロワード帝国の奴は、シモンズ伯爵の横にいる娘のステラをイヤらしい目でジロジロ見ていた。
闘技場全体に大きな歓声が鳴り響いた。
午前の試合が終わったようだ。
「さて、そろそろだが……」
時の鐘が鳴り出した。
「ラビス、そろそろか? 」
「多分……父さん。お願いします」
「あぁ、わかった」
すると、その鐘を合図に時の鐘から光の線が走る。
それは、五芒線の先端にある魔石を通じてある魔法陣の軌跡を描いた。
「来るぞ……」
ユオの結界が発動する。
その時、時の鐘を中心とした魔法陣が完成した。
その大きな魔法陣は、地中に潜り始める。
するとそれと引き換えに魔獣が溢れ出てきた。
100体、200体と次から次へと溢れ出てくる。
殲滅担当のナハトは、教会前広場で大剣を振りかざし、ゴブリンやオークなどの魔物を薙ぎ払う。
リールは、群れをなして襲いかかる素早いウルフを斬り裂いていた。
ニュイは、近寄るオークを宙に浮かせ、うさぎが殴り飛ばしていた。
皇国の近衛騎士達は王城の防衛に当たっており、街中は軍が防衛を担当している。
闘技場内では、外の様子はわからない。
衛星を展開しながらその様子を見ている。
王家の観覧席のところに1人の近衛騎士が近寄る。
王様に何か耳打ちをしている。
恐らく魔物が溢れ出た事を知らせているのだろう。
ヘンリー辺境伯と父さんは席を立ち、王様と来賓席にいる者達の警護に当たる。
さて、俺も動くか……
俺も席を立ち人目のない場所で仮面をかぶり、ユオ特製の銀髪のかつらをつける。
隠密と気配遮断そして魔力遮断の3段重ねの魔法を行使し王家の貴賓席に潜んだ。
◇
ナハトは、ゴブリンを殲滅し今度はゴブリンキングと対峙していた。
森の中に棲む魔物なら倒すのに造作もない事だ。
『おりゃ〜〜!! 』
気合の声をあげ大剣を振り回して、一気に両断する。
それを見ていた軍兵士は、驚きの声を上げていた。
リールは、持ち前のスピードを生かして目にも留まらぬ速さで魔獣を殲滅する。リールの通った後には、両断された魔獣の遺体が転がっていた。
ニュイは、うさぎの殴打攻撃で魔獣をボコボコにしていた。
近寄ってくるものは、浮き上がらせて放り投げていた。
ユオは、時の鐘にいた兵士を避難させ、大物が出てくるのを待っていた。
ザコ魔獣の召喚がひと段落すると、魔法陣から金色に輝く一際大きなミノタウルスが出てきた。
「うん、これでいいか〜〜」
ユオは、そのミノタウルスに近づき転移させた。
場所は闘技場のアリーナだった。
突然、現れた金色のミノタウルスに闘技場にいた人々は驚愕する。
悲鳴をあげる者、逃げ出そうとする者、立ち竦んで動けない者……
しかし、観覧席には闘技場の結界が張ってあるので住民達の命の危険はない。
そして、ミノタウルスは、大きな咆哮を上げた。
「あのミノタウルスは……」
俺は、それを見た事がある。
迷宮のボス部屋にいた亜種のミノタウルスだ。
確か、黒い霧に飲まれて消えてしまったが……
王家の人や来賓席にいた者も突然の魔獣の襲来に驚いていた。
すると、即座にその討伐に動き出したのは、来賓席にいた立花達だ。
彼は客席から飛び降り、剣を抜きそのミノタウルスと対峙した。
しかし、立花に倒されてしまっては計画が台無しだ。
俺は、シモンズ伯爵の元に行き、小声で囁く。
「伯爵、あの手紙を見てくれてますね」
「だ、誰だ。もしかして使者か? 」
「そうです。あれを倒さなければ、家の存続は難しいでしょう。期待してます」
「無茶を言う。だがもう後には引けないな……」
シモンズ伯爵は剣を携えミノタウルスの前に立ちふさがる。
俺は、立花のところに行き、
「危なそうなら手を貸してやってくれ」
「えっ、誰? どこにいるんだ? 」
立花は周りをキョロキョロして俺を探していたが、完全に気配を消して入り俺を見つけるのは困難だろう。
俺は、また、王家の貴賓席に転移した。
「あの者はシモンズか? あの大きな魔獣と戦うつもりなのか? 」
王様は、驚いたようにその成り行きを見守っている。
ソフィア王女は、自分が戦いたいようでウズウズしていた。
ソレイユ王女は、下を向いて両手を合わせてお祈りしているようだ。
シモンズ伯爵には、迎賓館の自室から証拠となる資料と手帳を預かった後、また、忍び込んで手紙を渡してある。
今までの状況、王様の意向そして家を存続させる為の唯一の手段。
それが、ユオに転移させてまで運んでもらったこの魔獣、ミノタウルスとの勝利だ。
シモンズ伯爵も覚悟を決めたようだ。
ミノタウルスの攻撃が始まった。右手に抱える大剣を振り下ろた。
シモンズ伯爵の前の地表が地割れする。
伯爵は、それを辛うじて避けた。
シモンズ伯爵がミノタウルスと戦っている頃、王家の貴賓席でも少しトラブルが起きた。
「ソフィア様、どうか落ち着いて下さい。あの魔獣は、ミノタウルス。しかも亜種のようです。戦いを望むなどソフィア様が危険です」
「何を言う。民に危険が迫っているのだぞ。王家の者としてここで黙って見ていることなどできない」
護衛に当たっている近衛騎士団長の言葉も聞かず、剣を抱えて貴賓席を出て行こうとするソフィア王女を外で待機していたヘンリー辺境伯が諌めた。
「ソフィア様、シモンズは剣の使い手です。それにあの教会の聖騎士も只者ではありません。見ることも鍛錬ですぞ」
密かに尊敬しているヘンリー辺境伯の言葉でどうにかソフィア王女は落ち着いたようだ。
しかし、オリバー第1王子は、
「行かせたければ行けば良いではないか! 」
と、投げやりに行っていた。何故か落ち着かない様子だ。
「まぁ、ソフィア、見てれば良い。ヘンリーが言ったように見ることも勉強になるぞ」
場をまとめたのは王様だった。ソフィア王女も席に着く。
アリーナでは、戦闘が佳境に入っていた。
シモンズ伯爵は、左腕を怪我して血を流している。
助太刀に入った立花は、ミノタウルスの振りかざした剣を上段で防ぎ止めていた。
そこに、シモンズ伯爵が己の体重をかけ、剣をミノタウルスの胸の部分を狙い突き刺す。
ミノタウルスは大きな咆哮を上げた。
一般観覧席からは、大きな声援が鳴り響いている。
片膝をついたミノタウルスに今度は立花が剣で腕を斬り裂く。
床に鈍い音と共に大きな腕が落ちた。
胸から剣を引き抜いたシモンズ伯爵はその剣をミノタウルスの首筋に当てた。
スキルを使ったようだ。
皮一枚となったミノタウルスの首は、その重さで『ドスン』と床に落ちた。
会場に大きな歓声が鳴り響く。
シモンズ伯爵は、どうやら目的を果たせたようだ。
怪我をしている腕を駆けつけてきたリアス嬢が魔法で治癒する。
その姿を見た観客は、まさに聖女の降臨だと騒いでいる。
立花がうまくフィローしてくれたようだ……
俺はそう思いながら動向を見守っていた。
まだ、全て終わったのでは無い。
問題はこれからだ。
来賓席にいたロワード帝国のガイブール伯爵は、いつも間にかそこから居なくなっていた。今回の依頼者であるシモンズ伯爵の娘ステラの姿もない。
衛星で確認すると、ステラを伴って馬車に駆け込んでいた。もちろん、ロワード帝国からの留学生である息子とその連れも一緒だ。
シモンズ伯爵がミノタウルスと戦うのを見て、計画がバレたのではないか、と思いステラを人質にとって逃げ出したのだろう。
だが、問題はそれだけではない。今回の件には、もっと大物が控えている。
それは……
「シモンズの奴、見事にやりおったな」
王様がそう話すと貴賓席にいる者達は、
「上手く連携が取れてました。初めて組んだ相手とあんなにも呼吸を合わせることができるのですね」
ソフィア王女は感心しながら2人の勇姿を見ている。
「おそらく、あの教会の者の腕が良いのでしょう。シモンズを上手くサポートしていました」
ヘンリー辺境伯は立花の事をベタ誉めしていた。
まぁ、確かに助かったがな……
俺は、そう心で思いながらある行動を見逃してなかった。
王様の首筋に向かって振るう剣を俺は片手で掴んだ。
そして、消していた姿を現す。
「とうとう尻尾を出したな? 」
「貴様、何者だ!! 」
俺は、その剣を取り上げてその場にいたヘンリー辺境伯の方に放り投げる。
焦ったそいつは、後退した。
「王の首を狙うとは、貴様こそ何者だ? 」
俺はそう言いながら既に正体は謁見の日に知っていた。
「何を言う。怪しい奴、皆の者。こいつを捕えよ! 」
「今、王の首を狙ったお前よりも、俺の方が怪しいのか? 観念しろ!オリバー第1王子」
そう、俺はこのオリバー第1王子を初めから注視していた。
謁見の日、それぞれ鑑定を使って王家の能力は把握済みだ。だが、このオリバー第1王子だけは鑑定できなかった。つまり、何かしらの魔法遮断装置を使っていたことになる。
王家の者達は、ヘンリー辺境伯と近衛騎士団長が守ってくれている。そこには父さんもいた。
背中に突き刺さるようなソレイユ第二王女の視線が痛いが……
「計画が失敗して功を焦ったようだな? そろそろ正体を現したらどうだ」
「何を言う。お主こそ何者だ。奇妙なお面をかぶり第1王子たる私にそのような事をぬかしおって! 」
「俺は、使者と呼ばれている。それに第1王子だと? ミスティナ皇国の王家には、男子たる第1王子など存在しないはずだ」
俺がそう言い放つと、少し考えるような素振りをしたオリバー第1王子は
『ふ、ふ、ふっふ、わははははは。せっかく3年もかけて忍び込んだのに全ておじゃんだぜ〜〜』
声が変わった。地の底から響くような低い声だった。
「とうとう本性を現したようだな? 貴様の目的は何だ? 」
『使者って言ったな。そうか、お前が魔王様が言っていたライルか? 』
ノーチェを知っているようだ……
貴賓席にいる王家の者達も訳がわからないようだ。
第1王子が謀反を起こすなどと考えているようだ。
「どうしたのだ! 兄上よ。何故、父上の命を狙った? 」
ソフィア王女はそう言うと、俺は
「王女様、よく思い出してください。貴女に兄はいましたか? 何故、王女が聖剣を扱えるのですか? 」
「聖剣は、王家を継ぐ証だ。そう言えば何故、兄上ではなく私が授かっているのだ……」
「王女、こいつは兄ではないからですよ。先程、3年とこいつが言ったように長い間、皆さんはこいつの事を兄だと信じ込まされていたのです。特殊な魔法でね」
その場にいる魔法の解けてないもの達は驚愕した。
「そうだろう? 魔族よ」
『そこまでわかってるなら話は早い。魔王様がお主を気にかけていた事がわかるような気がするわ。俺はオリバー。魔王様配下の12使徒の1人だ』
「お前の目的は何だ? 」
『初めは興味だった。人族がどのような暮らしをしてるかとな。だが、魔王様が復活された今は違う。この世界は、全て魔王様のものだ』
内側から国を乗っ取るつもりだったのか……
「そんなくだらない理由か……。魔王は今何処にいる? 」
『誰が貴様に教えるか? さて、目的は達せられなかったが思う存分楽しめたよ』
「待て!! 」
俺が叫ぶと同時に黒い霧の中に消えてしまった。
すると、魔法が解けたようで王家の人々も記憶が鮮明になる。
「な、何故、兄がいると信じていたんだ? 」
ソフィア王女は驚いている。
ソレイユ王女は俺をジッと見つめていた。
「魔法が解けたようですね。では、また」
俺は、そう呟き時の鐘付近に転移した。
あとは父さんがどうにかしてくれるだろう……
溢れ出した魔獣は殲滅されたようだ。
俺は、司令室にいるミルフィーに、連絡を入れる。
……………………
「あいつらはどうした? 」
「はい。国境を目指して馬車を走らせています」
「ステラは無事か? 」
「気絶してるようですが命に問題はないと思います」
「わかった。国内ではダメだ。国外に出たら連絡してくれ」
「わかりました! 」
……………………
ミルフィーは、いつもより大きな声で話していた。
さて、みんなはと……
すると、ユオが時の鐘の上から降りてきた。
「魔法陣は壊しておきました。魔石も回収済みです」
「ありがとう。ナハト達は? 」
「ヒュール商店で休んでいます。ニュイちゃんも一緒です」
「そうか、じゃあ、俺達も行こうか? 」
「はい。主任」
ユオと2人でヒュール商店に転移してみんなのところに向かった。
………………
そして真夜中……
国境を通り越した街道を物凄い勢いで走る馬車があった。
森を抜け、もうしばらく走れば、近くの村に到着する。
「ここまでくれば手出しはできまい」
「父上、この女はどうするのですか? 」
「そうだな。お前の兄の嫁にと思っていたが計画が潰えた今、そんな事をする必要もなくなった。あとで、回して奴隷にでも落とせば良い」
「わかりました」
「最初は私からだ。お前らはその後、好きにすれば良い」
「楽しみです……」
馬車の中では下衆な会話がなされていた。
すると、急に馬が止まる。
何が起きたのかと馬車に乗る者達は、御者に文句を言っている。
「わかりません。ですが、あそこに人影が……」
野盗でも出たのかと思い下衆な男達は馬車から降りて剣を構えた。
暗くてよく見えないが仮面を被った男女が道を塞いでいた。
「貴様ら、何者だ。私を誰だと思っている。ロワード帝国のガイブール伯爵だぞ。控えろ!! 」
暗闇の中、その男女は近づいてきた。そして、女性がお面を外して
「お久しぶりですね。ガイブール伯爵」
「私と知っての狼藉か? ただではすまんぞ! 」
「私の顔を見てわかりませんか? そうですよね。私は幼かったですから」
「貴様、誰だ? 」
「私の両親と兄弟、それに領地まで奪ったのに忘れるなんて酷いですわ」
「両親と兄弟……領地……ま、まさか、あのロジェスター家の奴隷に落とした娘か……」
話をしている途中で馬鹿息子達が襲いかかってきた。俺は、剣を抜きその者達を両断する。
『うわぁーー! 』
その攻撃に驚いて腰を抜かしたガイブール伯爵は、
「待て、金ならやる。それとも地位が欲しいのか? 領地でも何でも叶えてやるぞ」
「私が欲しいのは貴方の命です」
仮面を被った男は、己の剣を女性に貸し与えた。
女性は魔力を通して黒竜のブレスを纏わせた。
そして、その剣は腰を抜かしているガイブール伯爵めがけて振り下ろされた。
鈍い音と短い人の断末魔が聞こえた。
静まり返った街道に女性の嗚咽が聞こえる。
その場には、月明かりに照らされた男女が抱き合うシルエットが映し出されていた。




