第80話 皇都での依頼(6)
審判役を務めたイケメン騎士は、俺とニュイの前に立ち塞がった。
「貴様、名を何と言う? 」
「私ですか? 私はラビス=ランドルと言います」
「あぁ〜〜、あの辺境のランドル家か。確か黒竜に連れ去られた息子が生きて帰ってきたと言ったが貴様だったのか」
嫌味な奴だ……
「私は貴方様の事を良く知りません。もしよろしかったらお名前をお聞きしてもよろしいですか? 」
「私は、アンドレア=レオナルド。レオナルド伯爵家の次期当主となるものだ。今は、近衛騎士団副団長を務めている。ソフィア様が貴様に騎士団に入れとおっしゃったが騎士団は、得体の知れない我流の剣は受け付けん。そこのところ肝に命じておけ」
近衛騎士団って、謁見の時にレッドカーペット脇に並んでたよな。
俺を知ってて知らぬふりをしたのか……
「かしこまりました。元より騎士団の入るつもりはありませんので……」
「ふん。わかればよろしい。貴様は武術大会に出るのか? 」
「いいえ、そんな気はありません」
「まぁ、臆病者の剣では参加もできんだろう。それに王女はたまたま調子が悪かっただけだ。良い気になるなよ。何なら私が稽古をつけてやろうか? 」
「私では、騎士団の皆様のお相手にはならないでしょう」
「まぁ、確かにな」
嫌味で言ったのに、自分の都合の良いように勘違いしやがって……
元より依頼ではない事には関わらないのがポリシーだ。
「それでは、失礼させて頂きます」
「おい、待て! そう遠慮をする事はない。私が稽古をつけてやる」
面倒な奴だな……
「すみません。今日は他に予定がありまして今度にでもお願いします」
「逃げるのか? 臆病者にはそれも良いか。わはははは」
「確かに私は臆病者ですけど。アンドレア様は武術大会に出られるのですか? 」
「騎士団の者は毎年全員参加だ。だが今回は別の重要な仕事を任されている。貴様のような者にはわからないだろうがな」
「そうでしたか」
「武術大会にも参加せず、私との稽古も拒否するとは正に臆病者だな」
「すみません。急いでますので失礼します」
あいつ、何が言いたかったんだ?
ニュイは、顔を真っ赤にして怒っている。
手出しをしなかったのは褒めてやろう……
俺とニュイは足早に城を後にする。
そして、向かった先は、ヒュール商店だ。
ヒュール商店に入ると、支店長のレレリーが気づいて
「ライル様、いらっしゃいませ。ユオ様なら応接室におられます」
「ありがとう。それから、今度はライルではなくラビスと呼んでくれないか。いろいろとややこしい事態になっていてね」
「そうでしたね。聞いております。準男爵の爵位を賜わったと。おめでとうございます」
「うん。面倒なだけで嬉しくないけどね。今度からそう呼んでくれたら助かる」
「かしこまりました。ラビス様、ニュイちゃん、どうぞ奥へ」
レレリーに案内され、応接室に向かう。ユオは、座ってお茶を飲んでいた。
「主任、元気そうで何よりです。ニュイちゃんもこんにちは」
「ユオも元気そうで良かったよ」
「聞きましたよ。準男爵になったそうで〜〜」
「成り行きでね。それより、例の件はどうした? 」
「早速、仕事の話ですか〜〜まぁ、主任らしいですけど……」
俺はユオに魔獣が溢れる装置の設置場所と解明を依頼していた。
ユオは、密かにその任務に当たっていたのである。
「調べましたところ、時の鐘を中心とした五芒線が展開されているようです。その先端部分に赤い魔石を確認しました」
「設計図通りだな……。それで、どれくらいの規模の魔法陣が発動するんだ? 」
「魔石の大きさ、描かれた五芒線の大きさから言って、200〜300匹の魔獣が溢れ出そうです」
それなら対処できるか……
「しかし、これを人族だけで計画したとは思えません。何せ魔獣を確保をして亜空間に閉じ込めておく事は無理ですから」
「そうだろうな……背後にはやはり……」
「そうだと思います。きっと、魔獣を確保し亜空間に閉じ込めておく事までは手を貸していると思います。それ以降は人族でも可能です」
「時間帯はどうだと思う? 」
「時の鐘を選んだ時点で、鐘が鳴らされる時間。つまり、昼か夕刻が濃厚です」
午前中には学生の武術大会が終わる。午後からは一般部門だ。
「わかった。ユオはこのまま皇都にいるのか? 」
「はい。皇国の購買部門に呼ばれていますから、このまま例の日までいます」
「そうか、じゃあ、頼むぞ。それと仮面と丸盾を作ってもらった。みんなで分けてくれ」
「ありがとうございます。確か、これには変装機能がついてるんですよね」
「そうだ。悪戯するなよ」
「分かってます。主任に化けて女性を口説いたりしませんから〜〜」
しそうで怖いな……
「それとガイブール伯爵の息子はどんな奴だ? 」
「アニタさんが言うには、人を見下すような男だと言ってました。ロワード帝国の貴族は殆どがそういう気質みたいですが」
「そうか……、引き続き調査を頼む。それと……」
「わかってます。被害の出ないように結界の構築ですよね」
「理解が早くて助かるよ」
「主任とは、前世からのお付き合いですからネ」
「それと、立花が武術大会に出るらしいぞ。今日あたり皇都に来るんじゃないかな? 」
「げっ……でも、この姿では私だってわかりませんよね」
「でも、立花は直ぐにわかるぞ。イケメンだけど残念さが出てるところがあいつらしい」
「話のタネに見ておきますよ」
ユオと打ち合わせをして、俺達は一緒に皇都のレストランで食事をとる事にした。
ここもユオがプロデュースした店だ。
店の名は『黄昏の貴婦人』というらしい。
「ユオ、店の名前どうにかならないのか? 」
「え〜〜素敵じゃないですか〜〜貴婦人ですよ。黄昏ているんですよ」
意味がわからん……
「ここは私にお任せでいいですよね」
「構わないよ。ニュイが食べれそうなものを頼む」
「わかりました〜〜」
オーダーして、しばらくすると料理が運ばれてきた。
「随分、豪華だな? 」
テーブルには所狭しと豪華な食事が並んでいる。
「ミルフィーに言われたんです。主任はあまり食べなから心配だって」
「そうか……」
これ、食べきれるのか……
個室のようになっているこのレストランでは、秘密の会話もある程度ならできる。
俺は、今後の予定を食べながら話した。
ユオが席を立ち、俺とニュイがお腹を抱えながらいると、ユオが顔色を変えて走ってきた。尻尾が左右に激しく揺れている。
「主任、主任。いました。いましたよ〜〜」
「はぁ? 何がだ」
「アレです。イケメン立花先輩です」
俺は、奥の宴会席を覗くと見知った者達の顔があった。
「本当だ。リアス嬢も無事合流できたようだ。どうしたユオ。そんなに驚いて……」
「だって、あの顔ですよ。超イケメンじゃないですか。あれが立花先輩なんてズルいです」
「そうか、確かにイケメンだけど、この世界、みんなあんな感じじゃないか? 」
「そうですけど、なんか納得できません」
ユオは何が言いたいのだ……
「別にイケメンでもいいだろう? 昔の同僚が幸せそうにハーレム築いて暮らしているんだ。ここは安心するところだぞ」
「それはわかっています。でも、立花先輩があんなイケメンでは主任との絡みの薄い本を訂正しなければなりません」
薄い本ってなんだ?
「ユオ、何か俺に隠し事をしてないか? 」
「はっ……別に? 」
口笛を拭こうとして誤魔化すな……
「まぁ、いい。立花達がここにいるのでは、俺とニュイは会ったらマズい。気配を消して先に店を出るよ」
「わかりました〜〜では、また後ほど」
俺とニュイは隠密と気配遮断を使い店を出る。
人気のない路地に入り、重ねがけした魔法を解こうとすると、何やら路地の奥の方で助けを求めている女性の声がした。
「ニュイ、何かわかるか? 」
「男、たくさん。女、襲う」
そうか……こんな昼間から……
ニュイと一緒に奥の路地に行くと王立学院の学生服を着た男子学生3人が女性を襲い始めていた。
隠密を解かず、そのまま近づき首を『トン』して男達を気絶させる。
貞操は守れたようだが、女性は、衣服の乱れを直し何が起きたかわからず逃げて行った。
この3人放置しておくか……
よく見ると、こいつらは見覚えがある。
1人は王立学院のテラスで魔石らしきものを落としていった奴だ。
すると、こいつらは、ロワード帝国の留学生か……
それとターゲットの息子もいる。
とりあえず、こいつらを縛り上げここに放置した。
今は、まだ生かしておいてやる。
こいつらを裁くのは例の日だからな……
◇
その日の夜、ランドル家の客間でニュイとともに休んでいると腕輪の通信が入る。
………………………………
「あの……ライル様ですか? 」
「そうです。ソレイユ第2王女」
「私、お聞きしたいことが御座いまして……」
謁見の時、気づかれたか……
「何でしょうか? 」
「ライル様は、ラビスさんではないのですか? 」
うむ、誤魔化すしかないか……
「いいえ。そのような方は知りませんが、どうかしたのですか? 」
「実は、先日ラビスさんという方と謁見室でお会いしたのですが、精霊視で拝見するとライル様と同じように虹色の人型に見えたものですから……」
それってかなりマズいよな……
「そうなのですか? 私は精霊視というものがどのように見えるのかわかりませんが、似たような人もいるのですね」
「……そのラビスさんは、アステル神の加護をお持ちのようです。だから、似たように見えてしまった可能性があります」
「そうですか。それならわかります」
「本当にラビスさんではないのですね? 」
同一人物と思っていたようだ……
嘘はつきたくないが……
「いいえ。そのような方は知りません」
「そうですか……」
残念そうにソレイユ王女は言う。
「王女様、そのような者は知りませんが、王女様が予知した件を王様を始め皆さんが信用して行動していますよ」
「そうなのですか? 」
「はい。王女様の予知は確かなものです。自信をお持ち下さい」
「……それは素敵な事です。私の忌み嫌われた能力も役に立つのですね」
「それと……」
ソフィア王女の件は今はまだ機会じゃないか……
「何でしょうか? 」
「いいえ。こちらの事です。お気になさらずに」
「そうでしたか……あの……ライル様とお会いする事はできませんか? 」
うむ……そうきたか……
「今はまだ時期ではありません。時期が参りましたらそのような機会もあると思います」
「そうですか……」
残念そうだが、仕方がない。今、身バレしてしまえば動きが取れなくなる。
「それから、また予知を見ましたら教えて頂ければありがたいです」
「わかりました。ライル様のお役に立つなら頑張ります」
…………………………………
ソレイユ第二王女との通信が終えると、侍女のエリスが部屋にお茶を運んで来てくれた。
「ラビス様、ニュイちゃん、お茶をお召し上がりください」
「ありがとう。エリス」
エリスとたわいない会話を交わしながら夜は更けて行った。




