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我、異世界にて暗躍ス  作者: 聖 ミツル
第2章 暗躍編

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第77話 登城




 翌日、皇都にあるランドル男爵家では、


「ラビス様、よくお似合いです」


 俺は、エリスに城に赴く服を着せてもたっていた。

 エリスの仕草や声が5歳の時の気持ちに引き戻された。


「エリス、こんな堅苦しい服苦手なんだけど〜〜」

「いいえ。旦那様のお古の服ですがとても良くお似合いですよ」

「でも、懐かしいよ。エリスにこうして着付けてもらえるなんて」

「私もそう思っておりました。また、ラビス様のお世話ができるなんて夢のようです」


 確かにこんな機会はもう訪れないと思っていた。

 しかし、困ったことになった。俺には他にもやる事が沢山ある。

 こんな事をしてる暇はないのだが……


「ラビス、そろそろ行くぞ」


 事前に書簡を王家に届けておいたらしい。

 謁見の時間はもう直ぐだ。


 俺と父さんは馬車に乗り込む。

 御者はフリードさんが務めていた。


「ラビス様、似合ってますよ」

「馬車で行くとは思わなかったよ」

「こうした公式の謁見の場合は皆さん馬車で向かいますよ」

「そういうもんなんだ……」


 改めて貴族の生活は良く分からないと感じる。

 馬車の中で父さんが


「ラビス、昨夜の事は覚えているね」

「はい。でも、良いのですか? 本当に。出来ればこのままどこかに逃げたい気分なのですけど」

「何を言う。ブリュッセル家を救いたいと言ったのはラビスだろう」

「そうですが、私の生還とブリュッセル家の存続がどうしても結びつかなくて……」

「それは、父さんに任せろ」

「不安しかありません」

「生意気言うようになったな。こいつ」


 父さんは嬉しそうに俺を肘で突いた。

 昨日の今日でこう言う展開になるとは俺も想像できなかった……


 馬車が王城正面門のところで止まる。


 衛兵が一礼して中に通された。


 王城正面玄関で馬車を降り、城の中に入って行く。

 レッドカーペットが敷き詰められた通路を歩き大きな扉の前で立ち止まった。

 両脇には甲冑を着た騎士が扉を挟むように立っている。


 場違いだよ。こんな場所……


 すると、騎士が扉を開け、俺と父さんは中に招き入れられた。

 謁見室に入ると、廊下と同じようなレッドカーペットが敷き詰められた、その上を静かに歩いて行く。

 部屋の両脇には、王城に努める貴族たちが勢ぞろいして並んでおり、近衛騎士たちもカーペットに沿って綺麗に並んでいた。


 目の前をチラ見すると王様と王妃、それと王家の家族が座っていた。


 げっ! ソレイユ第二王女までいるぞ……


 許しが出るまで王家の人達の顔を見てはいけない決まりなので、俺は赤い絨毯ばかり見ていた。そして、父さんが片膝を付くのを見習って俺も同じ動作をする。


 両脇に立ち並んでいる貴族たちの中にリアナ嬢、リアス嬢の父親であるヘンリー辺境伯と今回のターゲット、ブリュッセル伯爵もいた。


 すると、王家執務長のロバートさんと言う50代の人が


「スミス=ランドル男爵、その二男、ラビス=ランドル。王家との謁見の儀、ここに許可する」


 すると父さんが、


「王家の皆様にはお忙しい中、謁見をお許しくださってありがとうございます。ここに控えますは、我が二男ラビス=ランドルであります。11年前、黒竜に連れ去られその消息を絶っておりましたが、先日、生還致しました事をここにご報告させて頂きます」


「ラビス=ランドルで御座います。今日は私めの為に、お忙しい中お時間を頂きまして光栄に存じます」


『うむ、スミスそしてその息子ラビスよ。苦しゅうない。面をあげよ』


「はい」


 そう言われたら、王様と目を合わさず鼻と口の間を見ろと言われたので、その通りにした。


『よくぞあの黒竜の元から生還を果たした。褒めてつかわすぞ』


「ありがたき幸せに存じます」


『スミスよ。なかなかの好青年ではないか? 』


「もったいないお言葉です」


『それでどうやって生還を果たせたのだ? 』


「はい。ラビスから聞き及んだ事。父である私が申し上げます。黒竜に連れ去られた時はラビスは5歳でありました。本人の記憶が曖昧な点もありますが、大森林上空で別の獲物を見つけたらしく、その時に掴んでいたラビスを森の中に落としたそうです。奇跡的にもエルフと獣人の里が近くにあったそうで、そこで生活をしていたそうですが、落ちた時に記憶を失ってしまい帰るに帰れなかったそうです」


『ほぅ、記憶を無くしたと、それは難儀であったな』


「最近まで、記憶を失っておりましたが、巷で噂の使者様に記憶を戻して欲しいと願いを立てたところ、薬を頂きそれを飲んで記憶を取り戻したそうです」


『記憶を戻す薬とな、そんな奇跡のような薬をその使者というものが持っていたのか? 』


「本人はそう申しております」


『ラビスに問う。その使者という者はどの様な人物であった? 』


「はい。使者様に手紙を書き、翌朝にその薬を飲めというメモとともに薬が置いてありました。どのような効果があるのかわかりませんでしたが、藁にもすがる思いでその薬を飲んだところ、昔の記憶が戻ったという次第であります」


 会場の者達がざわめき始めた。王様も驚いたような顔をしている。

 ソレイユ第二王女はなるべく見ないようにしていた。


 すると、執務長のロバートが


「静粛に、静粛に願います」


 と声をかけると会場のざわめきは収まった。


『私からもよろしいですか? 』


「はい。エマ王妃様」


『森の中の生活で困ることはありませんでしたか? 』


「はい。エルフや獣人達が幼い私を可愛がって育ててくれました。不自由を感じた事はありませんでした」


『そうでしたか。それは良かったですわ』


『私からも良いだろうか? 』


「はい。オリバー第1王子様」


『黒竜とはどの様な魔物だ? 』


「はい、幼かった故、詳しくは覚えてませんが黒くで巨大な存在でした。近くにいるだけで、死の恐怖を抱かせるような魔物です。様相などはよく覚えてませんが、死の恐怖だけはいつまでも心の中にあります」


『そうか、それほどの魔物か。伝説通りだ』


『私もよろしいですか? 』


「はい。ソフィア第1王女様」


『使者様にお会いになられていないと言いましたが、その方は存在するのですね』


「はい。私はそう思います」


 もう、勘弁してほしい……

 この王女、依頼の手紙を書きそうで怖い……


『私からも質問があります』


 すると会場がまたざわめき出した。慌てて執務長が静粛を促す。


「はい。ソレイユ第2王女様」


『ラビスさんという名前ですのね。ライルという名前をご存知ですか? 』


 そうきたか……

 あの時、声を変えて無かったから気づかれたか?


「いいえ。存じ上げません」


『そうですか……』


 会場はまたざわめき出した。そんなに第2王女が発言するのが珍しいのか……


『ラビスよ。其方は、アステル神の加護を持っておるな』


「はい。祝福の時にそう聞いております」


 すると会場は、一気に騒がしくなる。


『今後はどうするつもりだ? 』


「はい。まだ、考えておりません」


『教会に仕える気持ちはあるのか? 』


「いいえ。教会に仕えるつもりはありません」


『それはどうしてだ? 』


「私の様な森育ちの人間では、教会には相応しく無いと思うからです」


『そうか、そうか』


 何故、嬉しそうなんだ……


『黒竜に拐われ奇跡の生還を果たしたラビス=ランドルよ。ミスティナ皇国は森育ちの人間でも優秀な人材なら構わない。伝説の黒竜と相対し、その元から生きて帰ってきた。其方に準男爵の位を与える。今後ミスティナ皇国の為に、尽力を尽くすと良い』


 えっ、どういう事?


 父さんを見ると首を縦に振れと言っている。


「はい。準男爵の爵位を賜りありがたき幸せに存じます」


 会場は拍手喝采となる。


 なんで帰って来ただけで爵位がもらえるんだ?

 そうか、アステル神の加護が原因か……

 父さんはこれを狙っていたんだ。

 神の加護をもつ者を国が囲っておけば、教会に対する武器にも使える。

 そういう事か……


 全く父さんを始め貴族はしたたかな奴らばかりだ……





 謁見が終了すると父さんと俺は執務長に呼ばれた。

 その部屋に入るとさっきの王様が座っている。


 父さんの真似をして礼をし、ソファーに腰掛ける。


「ラビス君、生還おめでとう」


 さっきとは違いフランクすぎる対応で王様が話しかけて来た。


「ありがとうございます」


「ラビス君が準男爵の爵位を受けてくれてよかったぞ」


「もったいないお言葉です。こちらこそありがとうございます」


 さっきと全然違うじゃねぇか……


「それで、スミス。話とは? 」


「王様、そして執務長、この件は内密にお願いします」

「わかった。その資料はなんだ? 」

「はい。どうぞご覧下さい」


 王様と執務長は俺が集めた資料を読みだし、そして真剣な眼差しとなった。


「これはどうしたんだ? 」

「はい。ここにいるラビスが持ち込みました。使者様から薬を頂いた時にこれも一緒に添えてあったそうです」


「そうか……その使者様とは何者なのだ? この様な私物を容易に盗み取れる人物という事になるが……」


「全く、油断なりませんな」


 王様と執務長の顔は真剣だ。


「凡その内容はわかった。早速、手を打とう」


「それなのですが、使者様とかいう人物から伝言がありましてそのまま黙認せよという話です」


「そんな事は出来ない。皇都に魔獣が溢れ出たら予想できない被害が出る」


「それを踏まえての事だと存じます。魔獣が溢れ出ても使者様という人物が始末してくれる手はずになっております」


「その得体の知れない人物を信じろと? 」


「ロワード帝国が絡んでいる以上、迂闊な行為は戦争の引き金になりかねません。そしたら、皇都の魔獣騒ぎより被害が大きくなります」


「ロバートはどう思う? 」


「僭越ながら申し上げますと、これだけの資料を気付かれずに持ち出せる手腕、それと組織力ですか。それは我々の想像を超えております。事前に資料を私達に届けたという事は、ミスティナ皇国を敵とは考えておらず、むしろ救いたいとの意思表示と受け取れます」


「そうか……確かにそう捉えるのが妥当か」


「それと、使者というものがこれを事前に渡したという事は、ブリュッセル家の問題に絡むからだと思います。できれば温情の裁決をご決断頂きたいと願います」


「わかっている。しかし、何もお咎めなしという訳にはいかぬぞ」


「ごもっともです」


「ラビス君、君はこの資料を見たのだね。どう思った? 」


「はい。ブリュッセル伯爵様は半年前、外交でロワード帝国に赴き、過ちを犯しました。ですが、それは仕組まれたものだと思われます。それをゆすりのネタにして長女であるステラを息子の婚約者にし、今後は人質としてブリュッセル伯爵様を思うがままに操ろうと考えての事です。ロワード帝国の手招きをしたのも家族の命がかかっていたとの認識で間違いないでしょう。となれば、断罪するべきはロワード帝国、ブリュッセル伯爵には罪は無いと考えます」


「ふむ。ラビス君は優秀だ。本当にミスティナ皇国に迎え入れて良かった。だがね、ゆすりや脅迫を受けても国に謀反を働く行為は、許されないのだよ。これは貴族の誇りに関わる問題だ。だから、私は決断しなければならない」


「そうなのですか……」


 その時、父さんが


「本人は覚悟を持っての行動でしょう。罪はその者にあり、ブリュッセル家には関係がないと思います」


「君達の意見はわかった。だが、国家反逆罪は、家を潰しただけでは収まらない。通例なら家族もろとも晒し首だ。でも、シモンズがそれを反省して溢れ出た魔物を倒せばそこまでの罪は問えない。自ら招いたとしても民の命を救った事には変わりないからね」


「確かに……」


「それでも爵位は伯爵家ではいられないだろう。男爵家に降格がいいところだ。残念だよ。シモンズとは学院の同期だった。彼は真面目で優秀だったが……」


 それでもブリュッセル家は存続する。

 あとはその家の者たちの努力だ。


「こちらも気付かれない様に準備だけはしておく。使者様とやらに頼ってばかりはいられない」


「はい」


「ラビス君、君の爵位の披露パーティーは、その日にしよう。全て片付いて綺麗になってからの方が良いだろう」


「はい。ありがとうございます」


「ふむ。優秀な子がミスティナ皇国に仕えてくれて嬉しい。それとソレイユとは顔見知りなのか? 」


「いいえ。今日お会いしたのが初めてで御座います」


「君が現れたら雰囲気が変わったんだ。それに、言葉もかけていた。あの子の声を聞くのは久し振りだった。よかったら仲良くしてあげてほしい」


「はい」


「それでは、今後の予定だが……」


 この応接室でしばらく計画を話し合った。

 王様の態度がフランクなのが気になったが、話がわかりそうな人物だったので少し安心する。


 ランドル家の屋敷に帰ったのは午後3時頃だった。

 俺は、慣れない場所にいて疲れていたが、まだ他にもやる事がある。


 侍女のエリスに伝言を頼み本部に転移する。


 すると、司令室には、迷宮探索を終えたメンデルさんとリールが待っていた。






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