第75話 皇都での依頼(4)
依頼主であるステラの部屋に転移した俺は、寝ているステラを起こさないように日記を探した。
しかし、机の上はもちろん引き出しの中を探しても日記は見つからない。
どこにあるんだ?
タンスやベッド脇のチェストを見ても服や下着そして宝飾品があるだけでお目当ての日記は見つからない。
ふとステラの寝姿を見ると大事そうに何かを抱えている。
マジか……
ステラは日記を胸のあたりに大事そうに抱えて寝ていた。
これは見れないな……
俺は諦めて帰ろうとした時、ステラが寝返りをうった。
日記は両手から離れ胸の部分に置かれたままだ。
気づかれないように静かに日記に手を触れる。
小指がステラの柔らかな突起部分に触れてしまい、ステラの身体がビクンと動いた。
マズい、起きるか?
そのままの体制で見ていると起きる様子はない。
ふぅ〜〜良かった……
少しづつ日記をステラの身体から離すこと約10分、俺はようやく日記を得ることが出来た。
そのままテラスから屋敷の屋根の上に移動する。
月明かりを頼りに日記を開いて読んだ。
初めはどうでも良い日常のことを書いている。
そして卒業してロワード帝国の貴族のところに嫁ぐ為の覚悟も示されていた。
だが、読んでいくとある人物のことが多く書かれていた。
その人が微笑んでくれたとか、綺麗な指をしているとか、思春期を迎えた女の子が抱く異性への憧れのような綴りだ。
ステラはその人の事を好きなのだろう……
さらにページを進めて読み込み。
今からひと月前の事が記されていた。
学院の研究室に忘れ物をしたのを思い出し取りに行く途中、偶然にもある光景を目撃してしまったようだ。
それから、自分でいろいろ調べその目的が恐ろしい事だったので、どうしたら良いか悩んでいたと記されていた。
そうだったのか……
俺はステラの気持ちがようやくわかった気がした。
日本で15歳といえばまだまだ子供だぞ。それなのに自分の命をかけて俺に依頼をしてきたのか……
「わかった。この依頼『ナイト・フォグ』No1ライルがその願い聞き届けよう」
日記に依頼を受けた旨の手紙を挟み、ベットで寝ているステラの脇に置いた。その後、宿屋に転移する。
そして、俺の怒りは最高潮に達していた。
◇
感情任せで動けるほど若くない俺は、心の中に怒りを収めさらなる情報を求めて動き始める。
翌日、ニュイを連れて王立学院の近くにある時の鐘を見に行った。
石造りでできており、ビルの3階程の高さがある。
「ここに魔獣がポップするのか……」
すると、ニュイが
「これ、何? 」
「これは時を知らせる鐘だよ。朝、昼、夕方と1日3回鳴らすんだ。朝、宿屋で聞いた鐘の音はここで鳴らしていたんだよ」
「私も鳴らしたい」
「鳴らせてあげたいけど関係者以外は中に入れないんだよ」
「……そう」
ニュイは、がっかりしたようだ。
すると、時の鐘を管理する職員が俺達を見ていたようで声をかけてきた。
「お嬢ちゃんは、鐘を鳴らしたいのかい? 」
「うん」
「そうか、鐘の音が好きなんておじさんも嬉しいよ」
「すみません。お仕事の邪魔をしてしまって……」
「構わないさ。鐘を鳴らす事は出来ないけど、お昼に来れば鳴らすところを見せてあげる事はできるよ。興味があったらお昼に来ればいい」
「ありがとうございます。時間があれば寄らせてもらいます」
親切な管理人だ……
何気ない優しさが心を温かくしてする。
ニュイと共にその場を離れる。
管理人のおじさんは、手を振ってくれた。ニュイも手を振り返す。
こうした何気ない日常は、昨日今日で作れない。安心して暮らせる平和な環境がないと人の気持ちも穏やかになれないものだ。
それを私利私欲で壊そうとする奴らはタダではおかない……
そう思いながらその足でヒュール商店に向かう。
ユオに連絡を入れるには、この店からの方が都合が良い。
店に入ると、俺を見た女性が駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ。ライル様、ニュイ様」
どこかで見た顔だ。
「私はこの皇都支店を任されておりますレレリーと申します。どうぞ奥においで下さい」
他の客の目がある為か、俺達は言われるまま奥の部屋に通された。
応接室で座っていると支店長のレレリー自らお茶を持ってきてくれた。
「えーーと、君は確か……」
「はい。ミルフィー様と一緒に奴隷商人に捕まっていたところを助けて頂いた者です。その節は私達の命を救って頂きましてありがとうございます」
「そうだったね。元気そうで何よりだ」
「はい、これもライル様達のおかげです……」
レレリーは、少し涙ぐんでしまった。
「そこまで感謝しなくてもいい。お礼を言われるのは好きじゃない」
「はい……でも、これで、きちんとライル様に感謝を伝える事が出来ました。私は嬉しいです」
「そうか……」
すると、ニュイが
「ライル、女の子を泣かした。成敗」
「えっ、ニュイ、誤解だぞ」
「誤魔化す。男らしく無い」
そう言ってうさぎの体当たりを喰らった。
痛くはないがえらい衝撃だ。
ドドンパッチ、こんな物騒な物に改造しやがって……
そんな俺達の様子を見てレレリーの顔に笑顔がこぼれた。
まぁ、良しとするか……
「レレリー、悪いんだけどユオに連絡を入れたいんだ。この部屋を使わせてもらってもいいかい? 」
「もちろんです。ごゆっくりなさって下さい」
部屋を出て行こうとするレレリーを引き止め、ユオに連絡を入れる。
……………………………
「ユオ、聞こえるか? 」
「あ、主任。聞きましたよ。大変な事になりそうですね」
「あぁ、その件でユオの意見を聞きたい」
「何でしょうか? 」
「今回の件、人族が魔獣をポップさせる事は出来ると思うか? 」
「無理ですね。呼び出せたとしても1体か2体がせいぜいだと思います」
「何かしらの魔法具を使ってもか? 」
「う〜〜ん。それならアリかもしれません。でも、きっと大掛かりな仕掛けが必要となります」
「そうか……」
「皇都の魔獣ポップは魔王若しくはその配下の仕掛けでは無いと言う事ですか? 」
「察しがいいな。背後まではわからないが、直接には関わっていないようだ」
「う〜〜ん。となると敵さんも相当の準備期間が必要だった事になります」
「そうだろうな」
「他国の陰謀なら皇都にも協力者が必要となりますし〜〜」
「その辺りは、凡その検討はついている」
「そうでしたか、流石、主任ですね。頼りになります」
「おだてても何も出ないぞ」
「えへへへへ。私も明後日にはそちらに行けると思います」
「わかった。それとナハトはどうしてる? 」
「兄貴は、サウザンド国にまだいると思いますよ」
「そうか、わかった。じゃあ、またな」
「はい。主任に会えるのを楽しみにしてます」
…………………………………
きっと、俺の困った顔を見たいだけだろう……
「レレリー、知っているだろうけど、今の話の通り、学院の武術大会の日に時の鐘付近から魔獣が溢れ出す。それとなくみんなに注意を呼びかけてくれ」
「はい、かしこまりました」
「あまり目立つと狙われる可能性がある。周囲には注意を払え」
「はい。心得ました」
大掛かりな仕掛けか……
俺はふとさっき見てきた時の鐘が気になった。
まだまだ、解明まで道半ばだな……
◇
ヒュール商店から天空の島の本部に転移装置を使って転移する。
ここに来たのはシドさんに盾を渡すためだ。
司令室に向かうとセレーネが来て
「ライル様、お帰りなさい。ミルフィーは、今、竜の里に行ってますよ」
「そうなんだ。それから、セレーネを留守番させてしまって悪かった。これ、お土産だ」
俺は皇都で買ったお菓子を渡す。
「お土産、お土産、おみや、べ! 」
おっ、ニュイが噛んだぞ……
少し気恥ずかしそうにしているニュイが可愛い……
「そうだ。シドさんいるかな? 」
「いますよ。でも今は島を走り回っています」
「えっ!? 」
「何でもここが居心地よすぎて、最近お腹が出てきたんだそうです」
「それでか……。じゃあ、セレーネ、悪いけどシドさんが帰ってきたら呼んでくれるか。本部の自室にいるから」
「わかりました。それとニュイちゃん、服乾いたからお着替えしましょう」
ニュイは、セレーネに引っ張られて別室に行ってしまった。
助けを求めるように俺を見ている。
頑張れ、ニュイ……
本部の自室に戻りテラスに出て外の風に当たる。
目の間には、青く澄んだ空が広がっている。
下を見ると湖畔の本宅が見えるが、大き過ぎて自分の家というか感じがしない。
ここも気持ちいいな……
でも、そうのんびりもしてられない。
衛星を展開して、ターゲットを確認する。
迎賓館の事務室にいるようだ。
よし、今なら迎賓館の私室に潜り込める。
俺は座標を確認してシモンズ伯爵の私室に転移した。
着いたと同時に隠密と気配遮断を重ねがけする。
衛星は展開したままだ。
机を漁り、書類に目を通す……
「ここにあったか……」
シモンズがしてきた事、どうして手を貸したまではわからないが半年前から動いていたようだ。
やはり、ロワード帝国か……
俺は、関係者と思われる名前をチェックし証拠となりそうな書類をバックに入れる。
今度は本棚を探る。すると何かの設計図が出てきた。
魔法陣らしきものまである。
これが例の仕掛けか……
その書類もバックに入れた。
ベッド脇のチェストを覗くと手帳のようなものを発見する。
中を覗くとスケジュールと日々の様子が細かく書かれていた。
こんなとこに置くなんて不用心過ぎないか……
きっと本人しかこの部屋に入れないのだろう。
中身を見て、シモンズが何故協力したかが書き込まれていた。
そうか……そう言うわけだったのか……
「さて、どうするか……」
俺はその手帳をバックに入れ本部の自室に転移して戻った。
ベッドに横になり、集まった資料を頭の中で整理する。
依頼主の依頼は『私を殺して下さい』だ。
そう書くしか無かった背景には、ブリュッセル伯爵家の存続と貴族の誇りを天秤にかけ悩んでいたからだ。
自分が死ねば全ては収まると考えていた。
となると、事前に告発して事件を防いでもブリュッセル伯爵家の存続は難しいだろう。
これでは、依頼を完遂できない。
では、どうするか……
ブリュッセル家を存続させる為には、王様に面識のある父さんの協力が必要だ……
そうだな。計画通り皇都には魔獣が溢れ出てもらおう。
そうすれば、上手くいくはずだ……
俺は、頭の中で1つの結論が出した。




