第73話 皇都での依頼(2)
王立学院で依頼主の情報を得た俺達は、街を歩きながらミルフィーと話をしていた。
「普通に考えれば結婚が嫌で死にたいという事なのでしょうけど、どうにも腑に落ちません」
「確かにね。それならミルフィーが言ったように依頼に結婚が嫌だから助けて、とか書いてもおかしくない」
「それに先生の話では貴族の鏡らしい子と言ってました。そのような子なら政略結婚でも貴族の責務を第一にと考え、結婚を嫌悪するのはおかしいです」
「他に理由はあるようだね……でも、どうやって調べようか」
「一層の事、本人に確かめるというのはどうでしょう? 」
「それは最終手段だ。もう少し情報を集めよう」
「はい。わかりました」
今回の件はロワード帝国が絡みそうだ。ミルフィーを連れてきたのは早計だったかな……
「ミルフィー、アイス食べるかい? 」
「はい。食べたいです」
俺は露店でアイスを4本購入した。
「ライル様、私そんなに食べれませんよ」
「これは後ろの人達の分だよ」
「えっ! 」
ミルフィーが後ろを向くと建物の影から尻尾とうさぎの耳らしき物が見え隠れしていた。
「あーー! ルナとニュイちゃん」
名前を呼ばれて観念したのか、建物の影に隠れていたルナとニュイが出てきた。
「あ〜〜まずったニャン」
「アイス食べたい」
俺はルナとニュイにアイスを渡す。2人は美味しそうに舐め始めた。
「も〜〜う、いつから付けてきたのよ? 」
「2人で美味しそうなお店の入ったあたりからだニャン」
「ライルとミルフィー、腕組んでた」
ミルフィーは、見られて恥ずかしがっている。
アイスが溶けそうだ。
「あそこのベンチでアイスを食べないか? 話はそれからだ」
『は〜〜い……ニャン』
ベンチに座りながらアイスをかじり、2人がここにきた理由を聞いた。
ニュイが俺がいない事に気付き後を追うと言い始めたので、シドさんが1人で行かせるのは危ないと注意されルナと一緒にここに来たようだ。
「せっかくのデートを邪魔するつもりは無かったニャン」
「ルナ、そんなんじゃないから、仕事だからね」
「わかってるニャン。朝から落ち着きがなくて何度も服を着替えていた事は内緒ニャン」
「ルナのバカーー! 」
ミルフィーは、恥ずかしがって下を向いてしまった。
ルナは嘘をつけない性格だ。隠し事には向いてない。
「ミルフィーがそんなに楽しみにしてくれてたなんて連れてきた甲斐があったよ」
俺がフォローするとミルフィーは
「も〜〜う、不意打ちはダメって言ったじゃないですか〜〜」
と、恥ずかしそうに呟く。
「でも、みんなここに来てしまっての司令室に残ってるのは、セレーネとシドさんだけでしょう? 大丈夫なの? 」
「平気だって言ってたニャン。のんびりしてこいとも言ってたニャン」
「セレーネには、お土産を買って帰れば平気じゃないか。今度はセレーネを連れて来れば良いと思うし」
「そうですね。依頼を片付けて留守番しているセレーネに美味しいお土産を買って帰りましょう」
「お土産、お土産、お土産……」
ニュイはお土産が気になるのか……
「まぁ、来てしまったものはしょうがない。用はあれば通信が入るだろうし少し皇都でのんびりするか」
『やったーー!!……ニャン』
◇
アイスを食べた後、女性達の買い物が始まった。
男の俺には少し辛いが日頃の感謝を込めて最後まで付き合う。
お昼は、ルナがお肉を食べたいと言うので焼き鳥を扱っている店に入る。
串に刺さった肉が美味しいかったのか、みんなの食欲に火がついたようだ。
1人で10本以上食べていた。
それから宿屋に入り今日の寝床を確保する。
部屋割りに少しもめたが最終的には女性達と俺に分かれた。
さて、仕事を再開しないと……
俺は、みんなに言ってもう一度依頼主の屋敷を訪れる。
もちろん、隠密と気配遮断を忘れてはいない。
依頼主のステラの部屋に侵入すると本人が机で何かを書いていたようだ。
今は、机に臥して寝てしまっている。
どうやら日記のようだ。
他人の日記を見るのはルール違反だが、依頼の内容が明確でない為ステラの背後で書いている内容を覗く。
『私は、どうしたら良いのでしょう。これ以上、見過ごすわけには行きません。でも、私が告発したらお家は断絶してしまうかもしれません。長く続いたブリュッセル家を私が潰す事になります。でも、罪のない民を犠牲にするわけにはまいりません。使者様、どうか私を罰して下さい。何もできない私を罰して下さい……どうか……』
依頼主の腕が日記を抑えてこれ以上は読めない。泣いていたようで字が涙で滲んでいた。
家の絡みがあるようだな……
でも、これだけでは内容がわからない。
過去の日記を読めれば良いのだが、今は見れる状況ではない。
俺は、ステラの部屋を出て屋敷を探る。
家の断絶というからには、ブリュッセル家が不正を働いているという事だ。
その不正がわかれば……
昨夜、父親の書斎に入り込み書類を漁ったがめぼしいものは出てこなかった。
何の不正を働いているんだ……
依頼主の家族、主に父親をマークする必要がある。
一旦、宿に転移して戻り今後の対策を考える。
依頼主はかなり追い詰められている。
時間はあまり残されてない感じだ。
さて、次の段階に行こうか……
◇
宿に戻りみんなに状況を伝えた。
ルナとニュイは、依頼主の見張りを、ミルフィーは街でブリュッセル家の噂を聴き込む事になった。
俺は、王城に忍び込みブリュッセル家現当主をマークする事になった。
まだ、陽が沈むには早い時間だ。この時間なら王城にいるはずだ。
隠密と気配遮断を重ねがけし正面から城に入り込む。
しかし、立派な城だ……
俺は男爵家の次男だったが、ここには一度も来たことがない。
幼少時、病弱だったので仕方がないが……
俺はブリュッセル伯爵家当主の顔は知らない。
それらしい人物を見かけたら鑑定を施しターゲットを確認する。
王城内を探索し、いろいろ見て回ったがそれらしき人物はいなかった。あとは執務室と王家のプライベートルームだけだ。
ここから執務室に向かうには、一旦外に出て渡り廊下を通らなくてはならない。
外に出て渡り廊下を通ると、中庭でベンチに腰掛けている桃色の髪をした美少女がいた。
花壇に咲いている花を見ているようだが、その顔に少し陰があり気になって鑑定を施す。
……………………
ソレイユ=ミスティナ(14)女性
ミスティナ皇国第二王女
Lv 11
HP 38/38
MP 66/66
……祝福……
精霊視
未来予知
……スキル……
精霊魔法(光・水・火・風・土)
礼儀作法
……………………
なっ! ……第二王女だと……
しかも、ギフトに精霊視と未来予知まで……
「どなたですか? 」
ソレイユ王女は明らかに俺を見て話しかけている。
隠密も気配遮断も精霊視には通用しないのか……
「貴方様は使者様ですね」
この子は、全て理解しているようだ。
観念した俺は、
「初めまして、ソレイユ第二王女」
王女はニコっと俺を見て笑い
「今日、ここで使者様に出会う事は分かっておりました。お名前を伺ってもよろしいですか? 」
「ライルと申します」
「ライル様……」
「王女は、精霊視をお持ちですね。それに未来予知も」
「はい。神の使徒たるライル様には全てお見通しのようですわね。その通りです」
「それは、どのようなものなのですか? 」
「はい、精霊視は言葉のごとく精霊を見ることができます。ライル様が魔法で姿をお隠しになっていても私には虹色に輝く人型に見えます。ライル様は精霊にとても好かれていらっしゃるようです。未来予知は時々未来を見てしまう事があります。頭の中に映像として映し出されるのです」
顔は見られてないという事か……
「それで俺がここに来る事を知ったわけですね」
「はい、今日、ここでライル様に会う事が分かっていました」
すごい能力だ……
でも、この能力は本人には……
「神も悪ふざけが過ぎたようですね。その能力は凄いですが生きるにはお辛いでしょう? 」
「……そうですね。確かに良い事は殆どありませんでした。でも、こうしてライル様に出会う事が出来ました。それはこの能力のおかげです。初めてこの能力を得た喜びを感じております」
「俺にそんな価値はないですよ」
「そんな事はありません。ライル様はそのお力でこの国のみならず多くの国を影から支えて下さいました。ライル様がいらっしゃらなかったらこの国の存亡も危うくなっていた事でしょう」
「予知として見えていたのですか? 」
「はい。お仲間と一緒に戦っている姿を何度も見ました。あいにくライル様のお顔まではわかりませんでしたがお面をつけていらっしゃったのは知っております。ミツトの街の魔獣騒動も解決してくださいました」
「王女には嘘はつけないようですね。それで、ここで王女と俺が出会う事が決まっていたなら、何か俺に知らせるためですか? 」
「その通りです。一週間後、皇都に魔獣が溢れ出ます。それをお知らせしたかったのです」
皇都に魔獣がポップするのか!……
まさか、ノーチェが……いや、ノーチェはそんな事はしない。
あの吸血鬼の親父か……
それにこんな人の多いところで魔獣が溢れ出たら大変な事になる。
「軍には知らせたのですか? 」
「私の言うことは誰も耳を貸してくれません。小さい頃から忌み嫌われていましたから……」
そう言うことか……
「王女は、この王城では1人きりなのですか? 」
「侍女のミルキーは私を信用してくれます。あとはお祖母様と小さい頃からの友人であるステラも私の事をわかってくれています」
そうか、依頼主はここで絡むのか……
「魔獣が現れるのは一週間後なのですね? 」
「はい。学院で武術大会があります。その日だと思います」
「武術大会ですか……」
「はい。予知した情景からそう判断しました」
「主に皇都のどの辺で魔獣が現れるのですか? 」
「王立学院の近くにある時の鐘の付近からです」
「わかりました……できるだけの事はしてみます」
「ありがとうございます。お礼は私自身を差し上げます」
「はい!? それはどう言う意味ですか? 」
「私には何も差し上げられるものはありません。ですから私をライル様のお好きなようになさって結構です」
「すみません。ちょっと頭が混乱してます。報酬の件は後ほどという事でよろしいですか? 」
「はい。私を自由にして下さい」
その自由とは鳥籠の中でもがく少女を大空に羽ばたかせると言う意味を含んでいるのだろうか……
「そうだ。王女様、これを差し上げます」
王女の腕を取り、手首に『ナイト・フォグ』の腕輪をつける。そして封印の水晶を施したペンダントと回復薬や食料が入った亜空間ポーチを渡す。
「これは……」
「腕輪は俺達と連絡が取れる通信機です。人目のないところでお使い下さい。首にかけたネックレスはそこから魔力を補充できます。精霊魔法を使える王女ならこれは必要だと思いました。魔力切れを防いでくれますし手を触れて魔法を発動すれば威力が増大されます。それとポーチの中身は亜空間になっています。この城にある荷物なら全てその中に収める事ができます。中に回復薬と食料が入っています。必要な時にお使い下さい」
「私のような者に、こんな大切な物を頂けるのですか? 」
「情報を頂いた報酬とでもお考え下さい」
その時、渡り廊下から王女の名を呼びながら女性が走ってきた。
「ソレイユ様、ここにおられたのですか、お部屋にいらっしゃらないからいろいろ探し回ってしまいました」
「ミルキー、少し外の風にあたりたかったのよ」
「そうでしたか、ここは少しお冷えになりますからお部屋に戻りましょう」
「わかったわ。それでは、ありがとうございました」
「えっ!? 誰にお礼を言っているのですか? 」
「ミルキー、頼もしいお花によ」
「花ですか? 頼もしいって、おかしくありませんか? 可愛いならわかりますけど」
「殿方に可愛いは失礼でしょう」
「花にも男と女の区別があるのですか? 初めて知りました〜〜」
そんな事を話しながら王女達は渡り廊下を歩いて城の中に入って行った。
うむ、思ったより厄介な依頼になってしまった……
俺は、更なる情報を求め王城を探索しだした。




