第72話 皇都での依頼(1)
依頼の手紙を受け取った俺は、ブリュッセル伯爵家の屋根の上でその内容を確認した。
『私を殺して下さい』とはどういう意味だ……
単に死にたがりの人と言うわけではなさそうだ。
俺はその意味を理解するため、屋敷内の潜入する。
手紙が掲げられてた場所のテラスから入り込みその部屋で寝ている女性を鑑定した。
……………………………
ステラ=ブリュッセル(15)女性 人族
ブリュッセル伯爵家長女 王立学院5回生
Lv 16
HP 55/55
MP 58/58
……祝福……
水魔法
……スキル……
礼儀作法
魔力操作
魔力感知
槍術
算術
……………………………
この子が依頼主のようだ……
王立学院に通っているのか……
俺もそこに通っていたらこの子は1つ下の後輩だったわけか……
でも、どうして殺してほしいと願うんだ?
失恋してヤケになってるとか、望まぬ相手と結婚させられるとかの理由かな?
少し調査が必要のようだ。
俺は、屋敷内をうろつき問題がありそうな事を調べる。
しかし、何も出てこない。
わかったのは、ブリュッセル伯爵家は祖父さんと祖母さん。ステラの父親と母親それに2つ下の男の子と4つ下の男の子の兄弟がいる7人家族という事だ。
それと父親はミスティナ皇国の外交担当をしており、頻繁にロワード帝国に行っている。
ロワード帝国か……
何かキナ臭い感じがする……
俺は一先ず屋敷を出て、一度本部に戻る。
公爵家出身のミルフィーの意見を聞きたかったからだ。
本部の自室に戻り、司令室に顔を出す。
「この時間じゃミルフィーは寝てるだろう……」
だが、司令室を覗くとミルフィーはモニターを操作していた。
「ミルフィー、まだ起きてたのか? 」
「はい、ライル様。お帰りなさい」
「挨拶より、早く寝た方がいいよ。もう、日付が変わってるぞ」
「もうそんな時間ですか……」
「そうだよ。身体を壊すぞ」
「でも、今ライル様に頼まれた北の大地を調べていました。怪しい場所3ヶ所しか見つけられませんでしたけど……」
あの広くて何もないところから3ヶ所もピックアップしたのか……
「すまなかった。ミルフィーに仕事を頼んでしまって……」
「ライル様がなぜ謝るのですか? 私は、好きでこうしているだけです」
「それでもだ。今日はもう遅い。寝たほうがいいよ」
「わかりました。でも、ライル様はなぜここへ」
「ミルフィーに聞きたい事があったのだが、明日にするよ」
「そんな事を言われてしまっては気になって寝つけませんよ」
しかし……
「ライル様、お気になさらないでおっしゃって下さい」
「わかった。今日の依頼の件なのだが、ミスティナ皇国の伯爵令嬢からの依頼だった。内容は、私を殺して下さい、という抽象的なものだ。ミルフィーはこの依頼の文言をどう解釈する? 」
「貴族の令嬢が遊び半分でそのような事を書くとは思えません。男女の色恋でも使者様に頼るならその内容を書くはずです。『私を殺して』というなら貴族の誇りに関わる問題だと私は思います」
「貴族の誇りか……」
俺には無いものだから理解がしづらい……
「貴族は民の税金でその生活を賄っております。ですので戦争や魔物の襲来など民が危険な状態になれば己の命をかけて守るのが仕事です。ですが、中には欲望にまみれ己だけが得をすれば良いと考える者たちもおります。私からすれば貴族の風上にも置けない輩です」
「まぁ、そういう者達の方が多いのではないか? 」
「悲しいですが私もそう思います。ですが、その依頼者が私のような貴族の誇りを大事にしている者でしたらそれを裏切る行為を目にしたり、聞いたりするだけで許せないはずです。それが自分の大切な家族だとしてもです」
「そうか……でも、何で殺して下さいなのだろう。もし、死ぬ程辛い事があったら自ら命を絶つという選択はないのだろうか? 」
「ライル様いた世界はそのような選択があるのかもしれませんが、この世界では自ら命を絶つという選択はありません。神から祝福を受けた身体を自らの手で終わりにさせるという事は神を冒涜する行為です。伝えでは、その血筋のものは二度と祝福を得られないと言われています」
「そうなんだ。だから殺して下さいと依頼をだしたのか……何かわかったような気がするよ。ありがとう、ミルフィー」
「いいえ。少しでもライル様のお役に立てて嬉しいです」
「ミルフィー、良かったらこの件一緒にやらないか? 皇都ならミルフィーを知っているものはいないだろうから」
「えっ……良いのですか? 」
「あぁ、その方が助かる」
「やります。やらせて下さい」
「じゃあ、明日一緒に皇都に行こう。朝、9時にここに迎えにくるよ」
「はい。お待ちしてます」
俺は、ミルフィーに息抜きをしてもらいたかった。
真面目なミルフィーは、嫌なことでも引き受け一生懸命取り組む。
街の雰囲気を味わえば少しはストレスの解消になるのでは、と考えての事だった。
俺は司令室を後にし自室に戻った。
ニュイはルナと一緒に寝ているようだ。
俺は、ベッドに入り目を閉じた。
◇
翌朝、司令室に行くとシドさんが
「ミルフィーと皇都に行くんだって? 」
「はい。ミルフィーの力が必要なので、すみません。忙しい時に」
「構わないさ。こっちは大丈夫だからのんびりしてこい」
「はい」
ミルフィーを見ると随分お洒落をしているようだ。
薄く化粧もしている。
「良く似合うよ」
「……そうですか」
ニュイを探したがルナと一緒にどこかに行っているようだ。姿が見えない。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「俺にしっかり捕まってくれ」
そう言うといきなり腕を組まれた。
怖いのかな……
俺はそう思っていた。
皇都にある人気のない路地に転移するとミルフィーは、嬉しそうな顔になった。
まず、どこに行くか……
路地を抜けて大通りに出る。そこは、いろいろな商店が集まっている通りだ。
「わ〜〜綺麗です」
「そうか? 」
「はい。本部に来る前も街に出る事に憧れてました」
「そうか、公爵家のお嬢様は自由に街に出られないものね」
「そうなんです。ですが、今は自由です。こんなに嬉しいことはありません」
こんなに喜んでくれるならもっと早く連れてきてあげれば良かったな……
「ミルフィー、先に何か食べようか? 」
「はい。朝食食べてないので助かります」
俺は通りの中で立派そうなお店に入る。
するとイケメンの店員が出てきて
「2名様ですか? 」
「そうだけど、軽く何か食べれるかい? 」
「はい。ご用意できます。こちらにどうぞ」
案内された席は、2人切りになれる個室までとはいかないが、他の人達からは見え難い席に通された。
「ミルフィー、好きなもの頼んでいいよ」
「本当ですか? でも、迷います……」
ミルフィーは、散々迷った挙句スパゲティにした。俺はパンとスープだけだ。
「ライル様、それだけで足りるのですか? 」
「あぁ、俺はこれで十分だよ」
「少食なのですね。もっと食べないと身体がまいってしまいますよ」
「それを言うならミルフィーこそ仕事をセーブしないと身体がもたないぞ」
「私は好きでしてるので大丈夫です」
「まぁ、ほどほどが一番だよ」
食事が終わり店員がお茶を持ってきた。
りんごの香りがするアップルティーだ。
「美味しい」
「うん、良い香りだ。この店は当たりだったようだな」
お茶を飲みながら今後の予定を話す。
「この後、王立学院に行こうと思う」
「学院ですか? もしかして依頼者が通っているとか」
「その通りだ。学院の講師に知り合いがいる。彼女から依頼者の様子を聞こうと思う」
「女性の知り合いですか」
ミルフィーの眉間にシワがよる。
「メンデルさんの同期の人だよ。本部の転移装置を作るときに設置型の魔法陣をユオに教えてくれた人物だ。ミルフィーも名前くらい知ってるだろう? 」
「そう言えば、私が本部にきてからの事ですものね。確か……アニタさんでしたっけ? 」
「そうだよ。良く覚えてたね」
「ちょっと危なかったですが、あの頃は本部に来たばかりだったので周りの雰囲気に慣れるのに精一杯でした」
「そうだよね。ミルフィーはなんでも一生懸命頑張ってたからね」
「あまり昔の事は言わないで下さい。恥ずかしいです」
その後、店を出て王立学院に向かう。
ここからだと10分歩く程度で着いてしまう。
ミルフィーは楽しそうに街を見ながら歩いていた。
すると、背後に気配を感じる。
衛星で見るまでもない良く知っている人物だ。
俺は、構わず王立学院に向かった。
王立学院の門兵に、アニタさんと面会したい旨を伝えしばらく者のところで待っていた。
アニタさんは授業中らしく、面会の予約は取れなかったが門兵が気を利かせて学院内のテラスまで案内してくれた。授業が終わったらここに連絡が来るそうだ。
「王立学院は良心的なのですね。でも身分証を確認しないとは些かセキュリティに不安を感じます」
「ロワード帝国の学院は違うのかい? 」
「はい。まるで軍隊のようでした。セキュリティも厳重でしたし」
「そうなんだ……」
俺はこの世界の学院に通った事がないのでよくわからないな……
すると、俺達の前を重そうな鞄を持った男子学生が遮る。
今からだと遅刻みたいだが……
その時、鞄から赤い結晶のような物を落とした。
「君、これを落としたよ」
「はっ! そ、それを早くこちらによこせ! 」
その男子学生は、俺の手から結晶を奪い取り走り去って行った。
「何なのでしょうか? わざわざライル様が拾って差し上げたのに、あの態度ときたら!! 」
「遅刻しそうで急いでたんじゃないか? 気にすることはない」
「そうですか……でも、ライル様は優しすぎると思います」
「俺がかい? そんな事言われたの初めてだよ」
しばらくすると授業の終わりを告げるベルが鳴る。
すると向こうから見知った顔がやって来た。
魔法講師のアニタさんだ。
「やぁ、君は確かメンデルのところのライル君だっけ? 」
「そうです。一度しかお会いしてないのによく覚えてましたね」
「これでも教師だからね。生徒の顔と名前を覚えるのが仕事だと言ってもいいくらいだよ。メンデルとあの獣人の子ユオちゃんだっけ? 元気にしてるかい? 」
「はい。メンデルさんは迷宮に潜ってます。ユオは商売の方が忙しいみたいです」
「へ〜〜メンデルってこの歳で迷宮にね〜〜元気な人だよ。全く」
「はい。そう思います」
「で、そちらのお嬢さんはライル君の恋人かな? 」
そう言われてミルフィーは顔を赤くした。
「ミルフィーと言います」
いつもより声が小さいぞ……
「彼女は仕事仲間です。今日は、ちょっとお聞きしたい事がありまして……」
「私に分かる事なら協力は惜しまないよ。君達には、こちらもいろいろ勉強させてもらったからね。じゃあ、私の部屋に行こうか。すぐそこだし」
「良いのですか? 」
「あぁ、構わないよ」
俺達はアニタさんの部屋という名の研究室に案内された。
その部屋は、いろいろな面で凄いことになっている。
本やら薬品やらが無造作に置かれていて足の踏み場も無い状態だ。
「いや〜〜ここんとこ忙しくてね。片付ける暇も無かったから〜〜適当に空いてるとこに座ってくれたまえ」
前来た時も同じようだった気がするが……
「で、聞きたいことって何だい? 」
「この学院に通っている5回生のステラ=ブリュッセルさんの事について教えてもらいたくてきました」
「ステラの事が聞きたかったのか? 君達に何か関係があるのかい? 」
「詳しい話はできませんが最近の様子や変わった事など無いかと思いまして……」
「あまり個人の情報を外部に漏らすのは良くない事だけど、君達なら教えても大丈夫だろう。実は、彼女は私の研究室に入っていてね。良く知っている人物なのだよ」
「そうでしたか。それで最近何か思いつめた様子はありませんでしたか? 」
「うむ。まさにあるんだよ。ひと月前の事だったかな。雨が降っているのに傘もささず、濡れたまま研究室に来た事があった。とても落ち込んだ様子で何があったのか尋ねたのだが、教えてはくれなかったよ」
「ひと月前ですか……」
「そうだ。その時、彼女はもう死んでしまいたいと物騒な事を言っていたので、早まるなと諭したんだ。きっと、恋人にでも振られたのだろうとその時は思っていたのだけど、あれから学院を休みがちになってしまって私も心配していたんだよ」
「そうだったのですか……」
「君達は、ステラの知り合いかい? 」
「いいえ。そういうわけでは無いのですが、私の知人がステラさんの友人で最近の様子を心配してたものですからちょっとお節介を焼きにきました」
「そうだっったのかい。ステラも素敵な友人を持ったものだ」
「他に気になった事とかありますか? 」
「彼女は今年卒業だからね。卒業後は、結婚すると聞いた覚えがあるよ。まぁ、貴族の世界では当たり前の事だけどね」
「卒業後に結婚ですか……お相手は誰なのですか? 」
「確かロワード帝国の有力貴族と聞いた事があるような、ないような〜〜、すまない。そこまでは良く知らないんだ」
「いいえ。ありがとうございました。助かります」
「もう、良いのかい? 」
「はい。最近の様子がわかれば良かっただけでしたから」
「できれば力になってあげてほしい。あの子は、真面目な子なんだ。授業態度も研究に取り組む姿勢も貴族の鏡のような子なんだよ。ライル君、頼む」
「私に出来ることしかできませんがお約束します」
「ありがとう。私も肩の荷が降りたようだよ。本当は教師の仕事なのになぁ。不甲斐ないよ」
「そんなことはありませんよ。先生は1人だけの先生では無いのですから」
「それは、そうだが、教師はそれを口にしてはいけないんだ。誰にでも平等の立場でいなければならないからね」
その後アニタ先生と世間話しをして俺達は学院を後にした。
ここで得た情報は有意義に活用させてもらう。
キーワードは「ひと月前」「卒業」「結婚」「ロワード帝国」
彼女に何が起きてるんだ……




