第71話 新たな依頼
俺とニュイは、40階層を出たところにある転移水晶に触れ地上に出た。
ここ何日もお風呂に入っていない為、迷宮都市にある浴室完備の高級な宿屋に泊まることにした。
室内にある浴室で迷宮の汚れを落とす。
ニュイは1人で入れないので一緒に入って身体を洗う。
すると、待ち兼ねたようにミルフィーから連絡が入った。
……………………………
「ライル様、お疲れ様です」
「連絡取れなかったけどそっちは大丈夫か? 」
「こちらは問題ありません。それとお耳に入れたい事がございます」
「何だ? 」
「実は竜の里に迷い人が入り込みました」
「そうか、メンデル長官以来だな」
「はい。その迷い人なのですが……」
「どうかしたのか? 」
「ライル様のお知り合いのリアス様です」
「えっ!? 」
「迷宮から迷い込んだ模様です」
「そうか……」
何かあったのか……
立花がいるから安心していたのだが……
「それでシエルとチエロを案内役として向かわせました。連絡によりますとリアス様は自分が死んだと思いこんでる様子みたいです」
メンデルさん時みたいだ……
「わかった。落ち着くまで屋敷で過ごしてもらおう。迷宮にいる者達にはこちらから連絡しておく」
「はい。よろしくお願いします。それと、お風呂は気持ち良いですか? 」
「あ、え〜〜と。見てたの? 」
「はい。ニュイ様と仲良く身体を洗いっこしてましたネ」
「う、うん。深い意味はないから……」
「わかっております。では、後ほど……」
……………………………
ミルフィー怖いんだけど……
でも、リアス嬢が竜の里に転移したのなら迷宮にいるリアナ嬢や立花達は心配しているはず。
無茶をしなければ良いけど……
「ニュイ、お風呂に入り終わったらまた迷宮に行くけどここで待ってるか? 」
「行く」
「そうか……」
ニュイは、亀の甲羅を湯船に浮かばせて遊んでいる。
迷宮であれだけ活躍したんだ。疲れているだろうに……
俺も子供の頃、湯船に船やアヒルのおもちゃを浮かばせて遊んだっけ……
それから俺達は、お風呂から出て着替えを済ませ食事をとる。
ニュイは、疲れたようでベッドで寝てしまった。
立花や長官達は、どの階層にいるんだ?
時間を計算すれば15階層あたりだと思うが……
俺はリアス嬢の無事を記した手紙を書き、14階層の橋の手前の広場に転移した。一度でも行った場所なら迷宮でも転移できる。
隠密と気配遮断を重ねがけして15階層を目指す。
15階層は、ミノタウルスを主軸とした魔物が存在する。
剣や石棒を振り回し力も強い。
15階層の中程でみんなの魔力を感じる。
俺は、リールにわかるように少しだけ魔力を解放した。
しばらくここで待っているとリールがやってきた。
「何、ライル。今、いいとこなんだけど〜〜」
「すまん。でもよく気づいたな? 」
「私がライルの魔力を察知できないわけないじゃん」
「そうか……迷宮攻略は順調か? 」
「うん、ちょっと人が増えて自由がきかないけどそれなりにネ」
「そうだ。これを騎士団の人に渡してくれ」
「何、ライル。愛の告白でもする気なの? 誰? もしかして髪の赤い子? 」
「バカ言うな。騎士団の仲間リアス嬢が竜の里に迷い込んだらしい。心配してると思って伝えに来ただけだ」
「そうなんだ。長官の時みたいだね〜〜わかった。うまく言っとくよ」
「あ〜〜頼む。それとリール、無茶するなよ」
「うん。無茶できる相手が出てくればいいんだけどね〜〜」
俺は、リールの頭をちょんと殴る。
「油断は禁物だ」
「は〜〜い」
リールは頭を撫でながら消えてしまった。
俺もその姿を見送って宿屋に帰る。
宿ではニュイが目を覚ましていた。
「どこ、行ってた? 」
「迷宮に手紙を届けに行ったんだ」
「私、行くと言った」
「すまん、気持ちよさそうに寝てたんでな」
「罰、ライル。今日は一緒に寝る」
「わかったよ」
ニュイは1人になるのが苦手だ。
昔の辛い記憶が蘇るのだろう。
俺は、ニュイとうさぎに挟まれ朝まで過ごすはめになった。
◇
翌朝、ミルフィーに呼び出され天空の島にある司令室を訪れる。
「ライル様、お帰りなさい」
「うん、で、リアス嬢の様子は? 」
「はい。完全に自分は死んだと思い込んでおりまして、どうしたら良いか戸惑っています。こちらの情報を与えてもいけませんし……」
「シエルとチエロが面倒をみてるのか? 」
「はい。それとテプタちゃんが手伝ってくれてます」
リアナ嬢に会わせれば問題は解決するのだが……
迷宮を攻略するまで、まだ時間がかかるだろうし……
「しばらく屋敷で過ごしてもらう他はないな。リアナ嬢が迷宮から出てきたら会わせるように手配を頼む。もし手に余るようだったら他のメンバーも同行してもらうしかないか……」
「わかりました。そのように取り計らいます」
「すまないな。いつも面倒ごとを押し付けてしまって」
「構いません。それと依頼があるのですが……ユオ様もナハト様も他の依頼で手一杯なようで……」
「わかった。受けるよ。場所はどこ? 」
「ミスティナ皇国の皇都です」
「わかった。今晩にでも行ってみるよ」
皇都か……父さんは元気にしてるかな……
「それまでお部屋でお休みになりますか? 」
「本部上階の部屋にいるよ」
「わかりました。あとでお茶をお持ち致します」
「ありがとう」
俺とニュイは、本部上階の自室に向かおうとすると
「ニュイちゃん。お着物が汚れています。着替えをお持ち致しますのでこちらに来てくださいね」
ミルフィーは、ニュイの手を掴んで別の部屋に連れて行かされた。
ニュイが何かを訴える目をしていたが、ここはミルフィーに任せよう。
「ニュイ、着替え終わったら遊びにくればいい」
「う、うん」
その声は助けを求めているかのようだった。
ニュイ、頑張れよ……
俺は1人で自室に向かう。
豪華な部屋だが自分の部屋という感覚は未だ無い。
どちらかといえば狭い方が落ち着く。
6畳1間でいいのに……
そんな贅沢な事を思いながらベッドに横になった。
迷宮で会った亀から聞いた事、北の大地に魔族。
この世界は、俺の知らないことばかりだ。
『衛星』を展開して北の大地を探す。
荒れ果てた荒野、さらに北に行けば一面の雪景色だ。
人がいる気配すらない……
この場所のどこに魔族がいるんだ?
ノーチェはどこに……
おそらく迷宮みたいに地下にあるのかもしれない。
なら、衛星での確認は無理だ。
きっと阻害されていて探知できない。
直接乗り込むにしても広すぎて探すのは一手間だ。
何か目印になるような物でもあれば……
すると、正方形突起物に雪が覆われているような箇所を見つけた。
ピラミッドに雪が積もったような感じだ……
もしかしたらここに手ががりがあるかもしれない……
その箇所をチェックしておき、さらに不自然な箇所を探す。
その時、ドアをノックする音がした。
「はい」
「ライル様、お茶をお持ち致しました」
ミルフィーが、お茶とお菓子を持ってきてくれた。
ベッドから起き上がりそこに座ったまま
「ありがとう」
礼を言うとミルフィーが、俺の隣にちょこんと座ってきた。
「ライル様、こちらのお菓子は私が焼いたのです。どうぞお召し上がりください」
「うん、美味しそうだね」
「ライル様、あ〜〜んして下さい」
「はい!? 」
「あ〜〜んです」
口を開けろと言うことか?
だが……
ミルフィーの気迫に押されて口を開けた。
その中に焼き菓子がそっと押し込まれる。
「うん、美味しいよ」
「ありがとうございます。では、こちらもどうぞ。あ〜〜んです」
マジか……いつまで続くんだ……
口を開けると今度は柔らかい食感と甘い香りが口の中を覆う。
「うん、これも美味しい」
「ありがとうございます。嬉しいです」
上目遣いはやめてくれ……
「そう言えばニュイはどうしたんだ? 」
「はい。今髪をセットしております」
「そうなんだ……」
「はい……」
「…………」
「あの〜〜ライル様、今度は私にあ〜〜んして下さい」
これは何の罰なのだろうか……
「わかった。どれがいいんだ? 」
「どれでも……」
俺はアップルパイをフォークで刺してミルフィーの口に運ぶ。
「あ〜〜ん」
ミルフィー、自分で言うのは変じゃないか……
ミルフィーは美味しそうに食べている。
そこへニュイが駆け込んできた。
ニュイは、俺とミルフィーの間にちょこんと座って口を開ける。
もしかして、千里眼で見てたのか……
俺はニュイにもお菓子を食べさせた。
嬉しそうにニコニコしている。
「ニュイ、その服と髪、よく似合っているよ」
ニュイは白いワンピースに髪はツインテールにしていた。
「そうだ、ミルフィー。頼みたい事があったんだ」
「何ですか? 」
なんだか少し機嫌が悪い……
「北の大地に人工物らしいものがあるか確認してくれないか。もちろん時間のある時で構わないから」
「はい。直ぐに取り掛かります」
「いやいや、時間のある時でいいよ。いつも遅くまで起きて仕事してるんだろう? ミルフィーが倒れたりしたら大変だから……」
「ライル様、不意打ちしないで下さい」
「えっ、本当の事だよ」
「もう、わかりました。時間のある時、調べておきます」
「感謝してるよ」
「だから、そういう不意打ちは困ります」
ミルフィーは何を言ってるんだ……
理解できない。
ニュイが登場したのでミルフィーは、部屋から出ていった。
「何だったんだ……」
◇
真夜中、俺はミスティナ皇国の皇都にいた。
依頼の手紙の内容を確認するためだ。
ニュイは、ルナに任せた。
猫人族のルナは子供の扱いが上手だ。
まぁ、精神年齢がニュイと同じくらいだからだと思うけど……
手紙は、皇都の貴族街にある屋敷にある。
「この屋敷は、ブリュッセル伯爵家の屋敷だ……」
その屋敷の2階のテラスに手紙が笹に吊るされていた。
何か嫌な予感がする……
貴族相手の依頼は、正直碌なものではない。
だが、依頼は依頼だ。中身を確認してから受けるかどうかを決めれば良い。
俺は隠密と気配遮断を使って屋敷に忍び込む。
2階のテラスに向かって跳躍しその手紙を受け取った。
屋敷の屋根の上でその内容を確認する。
すると……
………………………
使者様
私を殺して下さい
ステラ=ブリュッセル
………………………
「穏やかじゃないな……」
やはり、貴族達の依頼は碌なものじゃない……




