第70話 その後……
リヒトこと立花とアステル教乙女桜騎士団の者達は、14階層と15階層の間にある安全地帯にいた。
この安全地帯地帯は、階層主がいる5階層や10階層程のスペースは無いが、魔物が襲ってこないだけでも冒険者にとっては安息地でもある。
「やはり、早く迷宮を潜ってリアスを助けるべきだ」
リヒトは、大切な仲間を失って自分の不甲斐なさ思い知った。
リアスの救出を最優先に考えているようだ。
「ですが……」
乙女騎士団の1人が言葉を濁す。
あの崖に落ちたら命は無いだろうと誰もが思っていた事を話せないでいた。
それに先の魔物の大群との戦いでみんな疲れ切っている。
「予定通り行軍する。目標は20階層の突破だ」
そんな状況の中、冷静にリアスの姉であるリアナ団長はそう言った。
「リアナ、それってリアスの事は……」
「リヒト殿、リアスはきっと大丈夫です。小さい頃から誰よりもアステル神を好きでいたあの子を神が見捨てるはずがありません」
姉であるリアナがそう言ってしまえば、他の者は口を出せない……
「わかった。でも、俺はリアスを探すよ。もちろん目標の20階層は突破する。だが、それ以降は俺1人でもリアスを探す」
「わかりました」
リヒトもリアナの気持ちを察していた。教会の命令に逆らえば他の団員達にもそのしわ寄せがきてしまう。
「じゃあ、直ぐにでも出発しよう」
「リヒト殿。それはダメです。みんな疲れ切っています。ここでしばらく休息を取ります」
「でも、それでは……」
「大丈夫です。リアスはきっと……」
その言葉の後に会話を続ける者は誰もいなかった。
◇
一方『ナイトフォグ』のメンデル長官をはじめとする一行は、14階層まで来ていた。
乙女桜騎士団の副団長であるセイシャル、腕を負傷したサーラそれと街に買い出しに行っていたルールラと一緒に行動していた。
「弟君がいないとメリーナは大人しいわね」
「シェリー、そういうわけじゃ無いけど……」
「黙って行っちゃったのが悔しいんでしょう 」
「そうよ。悪い? 」
元気のないメリーナをシェリーは気遣っていた。
「悪くはないけど弟君の事情もあるのよ。メンデルさんが言ってたじゃない」
「わかるけど、言ってくれれば私だって……」
「付いて行ったんでしょう? 」
「だって〜〜」
「だから、弟君は何も言わないで出かけたのよ」
「わかってるって、そんな事……」
2人の会話に口を挟むようのメンデル長官が
「おい、そこの2人。お喋りしている暇はなさそうだぞ」
前方から石の魔物ロックストーンがこちらに向かってくる。
「私がやる〜〜」
そう言うとリールは、魔物めがけて走り出した。
そのスピードは、見えないほどだ。
あっと言う間にロックストーンは両断される。床に上半身が落ちる鈍い音が響いた。
「しかし、大したものだ。是非とも乙女桜騎士団に入ってもらいたい」
副団長のセイシャルは、事あるごとにリールを勧誘していた。
リールは聞く耳持たない素振りだが……
「長官は、この階層でギブアップしたの? 」
「リール、違う。15階層だ! 」
「えへへへ、そうだったっけ? 」
先に進むとリアスが落ちた橋が架かった広い場所にでる。
「そうそう、この橋を渡ればすぐに15階層に出られたはずだ。そこに狭いが安全地帯がある。そこで休憩しよう」
「は〜〜い」
長官の言葉にリールが気の抜けた返事をする。リールにとっては物足りないようだ。
みんなは橋を渡りしばらく行くと下の階段がある。
その階段を下りると15階層の安全地帯に出た。
「先客がいるよ」
一足先に向かったリールがみんなに報告する。
すると、副団長のセイシャルが
「みんなーー!! 」
休憩していた立花達に追いついたようだ。
「わーー、副団長!! 」
休憩していた乙女桜騎士団達も驚いたようだ。
彼女達は腕を怪我したサーラを街に送り届けているはずだったからだ。
乙女桜騎士団のみんなは副団長や腕が治ったサーラそしてルールラと抱き合って再会を喜んでいた。
メンデル長官達も自己紹介をしてお互いの交流を図る。
そして、サーラの腕が治った経緯やリアス嬢が崖に落ちてしまった状況などを話し合った。
リアナ嬢は、団長としてサーラの腕の件でお礼を述べた。すると、そこに懐かしい顔を発見したようだ。
「もしかして、メリーナ? 」
「そうよ。今は冒険者をしてるわ」
「そうか……会えて嬉しいわ」
「……どうしちゃったの? 貴女リアナよね? 」
「そうだが、あっ、昔は少し粋がっていたからな。今は、私も責任ある立場だ。昔とは違う」
「そうなんだ〜〜」
メリーナはリアナの対応に驚いたが、それ以上は何も話せなかった。
先程、妹のリアスが崖から落ちたと聞いたばかりだったからだ。
ラビスがいなくなった時の事を考えると今のリアナに何を話したら良いか言葉が見つからない。
「ここで会ったのも何かの縁だ。もしよかったら20階層の攻略をみんなで成し遂げようじゃないか! 」
メンデル長官は、少し沈んだ空気を読んでそう話す。
乙女騎士団の面々も反論はないようだ。
しばらく休憩を取った後、みんなは15階層の攻略を始めた。
◆
「ここはどこなのでしょう……」
崖から落ちたリアス嬢は、見たことも無い草原で目を覚ました。
周囲を見渡しても橙色の実がなっている木があるだけで他には何も無い。
「私はあの時崖から……そう、このネックレスが外れて崖から落ちたんだわ」
手には封印の水晶が嵌め込まれた飾りを握りしめていた。
「じゃあ、私は……そうか、死んだのね……ここは、天国なの? 」
その言葉は虚しく風に消されてしまった。
リアス嬢は自分が死んだと思い込んでいるようだ。
立ち上がり、周囲を見渡す。
身体は怪我もしていないようだ。
「魂だけの存在なのですもの。身体に痛みがあるはずないわ」
そう思い歩き出す。
遥か向こうに煙が立ち上っているのが見えたからだ。
「あそこに行けば何かわかるかも……」
すると、
『ギュルルルル』
「やだ、お腹が空くなんて……」
リアスは、橙色の木の実を取って匂いを嗅いだ。
「これ、食べれるのかしら……」
口に近づけ少しかじってみた。
「ペッ、ペッ! 何て渋いの〜〜」
何度も口に広がった渋みを取るように唾液を吐き出した。
「天国って辛いところなのね。お母様が天国に行く時は可愛らしい天使が迎えに来るって言ってたけど、私のところにはきてくれないのかしら」
仕方なしに煙が出ている方に向けて歩き出す。
しばらく歩くと汗が出てきた。
「魂だけの存在でも汗が出るなんて、生きてる時と同じだわ。でも、これは天国に行くための試練なのね。私、頑張るわ」
行けども行けども煙の出ている場所に近づけない。そこまでかなりの距離があるようだ。
リアスは疲れて腰を下ろす。そして、大の字になって横になった。
「空が綺麗……風が気持ち良い……みんなに心配かけちゃったよね……お父様、お母様、リアナ姉様……」
いろいろ考えると涙が出てきた。
「もう、みんなと会えないなんて……ラビス君……」
横になっているリアスの元に珍客が現れた。
『見つけた。見つけた』
「えっ、何、天使様? 」
リアスの上で羽根の生えた可愛らしい双子の幼女が飛び回っている。
「天使様が来てくれた……ありがとう」
『天使? 天使? 』
可愛らしい天使が迎えに来て本当に自分は死んだのだと実感したリアスだった。
『あっち。あっち』
双子の幼女は、指を指して行くべき道を示している。
「わかったわ。向こうに行けば良いのね」
『そう。そう』
リアスは、羽根の生えた双子の幼女に導かれ歩き出す。
疲れはあるが歩けないほどではない。
リアスは天使様の可愛らしさに癒され少し元気が出たようだ。
「ねぇ、天使様。天国ってどんなところなのでしょう? 」
『天国? 天国? 』
「お空にあってとても綺麗な場所だとお母様が話してくれました」
『綺麗、綺麗』
『美味しい、たくさん。美味しい、たくさん』
「やはりそうなのですね。綺麗で美味し物がたくさんあるのですね」
『そう。そう』
魂の存在になっても美味しいものがわかるなんて素敵だわ……
「どうすればそこに行けるのでしょうか? 」
『転移。転移』
「そうですか……天の意思が導いてくれるのですね」
『違う。違う』
「血が……血が必要なのですか? でも、私は魂だけの存在。肉体は奈落の底に沈んでしまってます……どうしたらよろしいのでしょうか? 」
『血はいらない。血はいらない』
『転移。転移』
「そうでしたか……全ては天の意思のままというわけですね」
リアスの勘違いは続く。
可愛らしい双子の幼女は飛びながらよくわからない事を言っている女性を諦めもせず丁寧に案内していた。
しばらく歩くとお腹が空いていたことを思い出したようだ。
リアスのお腹が大きな音をたてて鳴った。
「天使様の前でごめんなさい」
『これ食べる。これ食べる』
双子の幼女はポーチからホットドックを取り出しリアスに渡す。
「天使様。これを頂いてもよろしいのですか? 」
『美味しい。美味しい』
「ありがとうございます」
そうお礼を言いリアスはホットドックを食べた。
「美味しい……」
お腹が空いてたので食べる事に夢中になってしまった。
『これ飲む。これ飲む』
双子の幼女は、今度は瓶に入ったオレンジジュースを差し出す。
「ありがとうございます。これは、オレンジジュースですね。とても美味しいです」
『美味しい、良かった。美味しい、良かった』
双子の幼女は嬉しそうに飛び回った。
その姿を見てリアスも喜んだ。
こうしてリアスは、双子の幼女に導かれ、また歩き始めた。




