第68話 迷宮(5)
……迷宮14階層……
洞窟に中にいくつもの脇道が存在する14階層は、入り組んでいて走り難い。
ニュイの千里眼で迷宮出口をある場所を教えてもらった俺は、ニュイを背負いながら最善のスピードで走り抜けていた。
行き止まりになっている箇所も多く、迷路のような階層を地図無しで突破するには骨だろう。
迷宮では『衛星』地図表示にノイズがかかり上手く表示されない。
その為、ニュイの千里眼に頼っていた。
「ニュイがいてくれて助かったよ」
「そう。役に立ってる? 」
「あぁ、感謝しきれないほどにな」
「…………」
背負っている為ニュイの顔はわからないが、モゾモゾ背中で動いていたのできっと恥ずかしかったのだろう。でも、その時ニュイが、
「向こう、いる、人」
冒険者? いや、この魔力の波動は……
おそらく立花達だろう。
リアス嬢の魔力の波動がさっきから俺にも伝わっていた。
「どんな様子だ? 」
「石、おもちゃ、遊んでる」
石? 石の魔物か?
助けてやる義理もないが……
差し入れぐらいしてやるか……
俺は、バックから回復薬と食料、水を入れた皮袋を取り出し、
「ニュイ、悪いけど、これをあいつらに届けてくれるか? 」
「わかった。石、遊んでもいい? 」
石の魔物なら剣では相性が悪いだろう……
「あぁ、頼む」
「うん」
ニュイは、皮袋を持たせたうさぎをふわふわ浮かばせて立花達のところに向かわせた。
しばらくすると、うさぎが戻ってきた。
手には何かを抱えている。
見ると手紙で『うさぎさん、ありがとうございます』と書かれていた。
ニュイに読んであげると、嬉しそうにニヤっと笑った。
さて、先に進むか……
俺は、また、ニュイを背負って迷宮を走り出す。
俺達は、少し遠回りになるが、立花達とは別ルートで進んだ。
この階層は、ロックストーンという石の魔物とキラービーという蜂の魔物それとポイズンバタフライという毒を持った蝶の浮遊魔物がいる。
前に立ち塞がる魔物は、風魔法で斬り刻み、隠れて襲いかかろうとするものには、魔法弾を撃ち込む。数は多いが対処しきれない程ではない。
「毒が厄介だな」
ポイズンバタフライの鱗粉が洞窟内の気体中に塵として浮遊している。
体内に取り込まれると痺れの症状として現われるようだ。
バッグから毒消しの丸薬を取り出しニュイに飲ませておいた。
風魔法で洞窟内に含まれる鱗粉を吹き飛ばしておく。こうしておけば、立花達も少しは楽に進めるだろう。
14階層の中程まで来ると広く開けた場所にでた。圧迫感のあった通路と比べればこの場所は一安心できる。だが、安全地帯ではない為油断はできない。それに、ここから先に進むには、奈落の底にまで通じていそうな崖に架けられた石の橋を渡らないといけないようだ。
俺達は崖の下を覗き込みながら、
「随分深そうだな」
「暗いネ」
どこまで深いかわからないが、この崖を降りれば一気に最下層近くまで行けるのではないか?
俺の頭にとんでもない考えが浮かんだ。
俺が見えない崖の底を覗きこんでいるとニュイが、
「ライル、どうかした? 」
俺1人ならどうにでもなるがニュイを危険な事に巻き込めない……
だが、この迷宮は思ってたより広いし厄介そうだ。ショートカットできるならそれに越した事はない。
「ニュイ、悪いがここを降りる。しっかり掴まってくれ」
「わかった」
俺はニュイを背負って崖に架かる橋から飛び降りた。
ライトの魔法と重力魔法をかけ、ゆっくり落ちていく。
思った通り、下の階層につながっている場所もあるようだ。
出来るだけ深く潜る為、中腹にあった洞穴を無視して更に下に落ちていく。
しばらく下に落ちていくと水の流れる音がしてきて。
どうやら底に近づいたようだ。
崖の底は、岩の割れ目から湧き出た地下水が貯まった地底湖になっており、俺は着地できる場所を探す。
ちょうど、地底湖に崩れたと思われる大きな岩があり、そこを目指して着地した。
「ニュイ、大丈夫か? 」
「平気」
ニュイの体調が大丈夫か確認して、周りを見渡す。
周りは切り立った崖になっており、抜け道が無い。
「何処にも行けそうもないな……」
「あそこ、穴、ある」
ニュイが指差したところは、地下水が湧き出ている崖の切れ目だ。
「ニュイなら通れそうだが、俺には無理そうだ」
「平気、中は広い」
「そういう事か」
俺は、その切れ目に火魔法【ファイヤアロー】を撃ち込む。
轟音が崖の底で鳴り響く。
崖に反響して通常より大きな音になったようだ。
いくつもの火の矢がその切れ目を広げた。
横になれば通れそうな穴に入る。
ニュイが言ったように中は、広かった。
「鍾乳洞みたいだ」
「何、それ? 」
「長い年月をかけて地下水が侵食して作り出した洞穴のようなものかな」
「地下水、侵食? 」
「そう。水が岩を削ったりして出来たんだよ」
「そうなんだ」
理解できたかはわからないが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
さっきの破壊音で魔物が寄ってくる。
「ニュイ、行くぞ」
「うん」
俺達は、その穴の奥に進んだ。
◆
リヒトこと立花と乙女桜騎士団は、順調に迷宮を進んでいた。
魔物も苦戦を強いられるほど、数も多くなかった。
ライル達が風魔法で倒していた事を立花達は、知らなかっただけなのだが……
しばらく行くとライル達が降りた崖前の広場に出た。
ここで少し休息をとるようだ。
崖の底を覗きこむ者、周囲を警戒する者、腰掛け疲れを癒す者、人数が多ければ休息の仕方も様々だ。
でも、休息中の話題はさっきのニュイのうさぎの事ばかりだった。
「それにしてもさっきのうさぎさんには助かったな」
リヒトこと立花達は、14階層の崖にある橋の手前の広場で休息をとっていた。
疲れた様子だが、ここまで誰も大きな怪我はしていない。
乙女桜騎士団の日頃の鍛錬の練度は相当高いようだ。
リヒトの言葉にリアス嬢がさっきのうさぎを思い出していた。
仲間の傷を回復できなかったリアスは、落ち込んでいたが可愛らしい訪問者に少し心が癒されたようだ。
「とても可愛らしかったです」
「でも、あれは何なんだ? 目から見たこともない光を放ってあの固い石の魔物を粉々にしてしまったんだぞ」
リアナ嬢は、不可解な救援者に戸惑っていた様子だ。
「あれは『目からビーム』って言うんだぞ」
「目からビームですか? 」
「そうだ。俺のいた世界では、機械でできたロボットから良く発射されていたものだよ」
「リヒト殿のいた世界は、とても危険な世界のようですね」
「まぁ、実害はないけどね……」
きっと、アニメや漫画の話だろう。
思い出したかのようにリヒトは郷愁に浸っていた。
すると、崖の底から大きな音がする。
地響きがし地面が揺れた。
『キャッーー! 』
「何の音だ? 」
乙女桜騎士団のみんなの悲鳴が響き渡る。
周りが怖がっているなか、割と冷静なのがリヒトだ。
「地震かな? 」
「リヒト様、地震とは何なのでしょうか? 」
「そうか、リアス達の世界では、地震はないのか〜〜」
「地面が揺れる地走りなら知ってますけど」
「こっちでは、地震の事を地走りって言うんだ」
リアス嬢の言葉に納得するようにリヒトは顔を頷いていた。
「でも、これは、少し様子が違うみたいだぞ」
でも、いつもの地走りと様子が違うと思っていたのはリアナ嬢だ。
それに、この音で魔物は活性し始めていた。
「隊長、向こうから魔物が押し寄せてきます」
隊員の指差す方向からは、ロックストーンを始め、キラービーなどの魔物の群れが押し寄せてくる。
「橋を渡れーー! 向こう側で迎え撃つぞ! 」
『はい』
リアナ隊長の言葉に隊員は従い、橋を渡り始めた。
しかし、崖の穴のからも魔獣が湧いて出てきた。
リヒト達は、剣で対処しているが、数が多い。
騎士団の魔法使いが風魔法を詠唱する。
リヒトは、ロックストーンの攻撃を剣で捌き、その胴体部分に思いっきり蹴りを浴びさせた。
騎士団長のリアナは、キラービーの群れを得意の剣技で払いのけていた。
しかし、背後から襲いかかってきた蜂には、気づいてないようだ。
そこにリヒトが、リアナに襲いかかる背後のキラービーをナイフを投げて仕留める。
「確かった。リヒト殿」
「おい、キリがないぞ。さっさと奥にいくんだ! 」
仲間の魔法使いの詠唱が終わったようだ。
風魔法が発動しつむじ風が浮遊する魔物を巻き込んでいく。
「さぁ! 今のうちに橋を渡るぞ! 」
浮遊魔物は風魔法の影響をうけて壁に当たり悶絶している。
だが、岩でできたロックストーンは、遠方に吹き飛ばされただけでその効果は無いに等しい。
体勢を整えたロックストーンは、また、襲いかかってくる。
乙女騎士団の者達は殆ど橋を渡りきっていた。
リヒトが殿を務め、リアナ、リアスが橋を渡ろうとしていた。
でも、リアス嬢が橋の中央きた時、崖から湧いて出てきた魔獣が橋の裏にぶつかった。
『キャッ! 』
橋は崩れはしなかったが、その衝撃で大きく揺れる。
その揺れで身体がよろめいたリアス嬢は、杖を橋につき体勢を整えた。
リアス嬢の杖は、魔法を発動するときに使う錫杖のような形の杖だ。
杖の先につけていた飾りが胸にかけていた封印の水晶を加工したネックレスの革紐に触れた。
『プチ……』
ネックレスは、胸から外れ橋の上を跳ね、奈落底へと落ちそうになる。
リアス嬢は慌ててそれを手を伸ばし掴んだが無理な体勢をしたためバランスを崩してしまった。
「リアスーー! 」
リアナ嬢の叫び声が聞こえた。手を差し伸ばしたが間に合わない。
その声でみんなも崖から湧き出た魔物と対峙しながら、リアスの状況を確認した。
その時、リアスは、
『キャッーー……』
リアスの悲鳴は、奈落の暗闇に消えていった。




