第65話 迷宮(合流)
「シェリー、早く〜〜」
メリーナとシェリーは、首都にあるヒュール商店本店を目指して走っていた。
「メリーナ、迷宮行くのでしょう? ここ、ヒュール商店じゃん」
「いいの、早く中に入って」
メリーナとシェリーが店に入ると、
『いらっしゃいませ』
と、店員から挨拶される。
「これは、メリーナ様、シェリー様、ようこそヒュール商店へ」
メリーナ達を出迎えたのは、ユオの元で働くレイラさんと言う人だ。
店の仕切りは、殆ど、このレイラさんが行なっている。
「えっ、何で私の名前知ってるの? 」
シェリーは、自分の名前が知られている事に驚いた。
「メリーナ様のご友人は、私共、皆、知っております。では、奥にどうぞ」
レイラさんに案内された場所は、店の奥にある階段のところだった。
「地下には、ユオ様もいらっしゃいますよ」
「そうなんだ。わかった。ありがとう」
メリーナがそう受け答えすると、シェリーを誘って階段を降りていく。
そこには、広いエントランスのような場所があり、ユオが隣接の研究室から出てきた。
「あっ、お姉さん、いらっしゃい。ってさっきも挨拶したわね」
「そうよ。ねぇ、ユオさん、シェリーと一緒に迷宮に行きたいんだけど」
「主任の後を追う気ですね。いいでしょう。きっと、面白い事になります。主任の困った顔でご飯3杯はいけますし〜〜」
「ねぇ、ゲートって本部しか行けないの? 」
「そんな事はありませんよ。でも、ちょっと待ってて下さい」
ユオは、研究室に戻ってしばらくガサガサしていたが、戻ってきて、
「これ、あげますから持って行って下さい。お姉さん達は、迷宮に潜る準備をしてないでしょう? この、ポーチは、亜空間収納と言いまして、中には、食料、水、それと薬、その他にも迷宮に行くのに必要な物を入れときました」
そう言ってユオは、2つのポーチをメリーナとシェリーに渡した。
「それと、シェリーさんには、一応、通信機能を備えた腕輪をあげます。これで、ゲートを利用できますよ」
「わ〜〜い、何から何までありがとう」
「いいえ、これで、私も楽しみが増えました」
「ねぇ、これ何なの? それに、通信って? 亜空間収納って? 」
「それは、後で私が説明してあげる。じゃあ、ユオさん。ゲートを借りるわね〜〜」
「はい、行ってらっしゃーーい」
メリーナとシェリーは、研究室の隣にある、小さな部屋に入って行った。
『キャッーー! 』
その部屋からは、シェリーの悲鳴が聞こえてきた。
「主任の困った顔が思い浮かびます……ウシシシ」
ユオの顔から悪代官のような笑みがこぼれていた。
◇
5階層のボス部屋の奥には、広い場所があり、中央には、水晶の結晶ような門柱が床から出ていた。
「この水晶に触っておくんだ。すると、次回からは、ここまで直接来れるようになる。それと、ずっと触れていると、迷宮入り口まで戻してくれるんだ」
「転移ゲートみたいですね」
「あぁ、仕組みはよくわかっていないがな」
迷宮の機能は、竜の里や俺が持ってる機能と似たものが多い。
これは、誰かの意図で作成されたものだ。
その謎を解けば、ノーチェの居場所がわかるのか?
「結構、冒険者がいるね〜〜」
その場所には、既に3箇所、テントが張られていた。
リールの言葉に長官が
「あ〜、ここは、安全地帯だから魔物も襲ってこないし、休憩するには、もってこいの場所なんだ。私達もテントを張って休もうか? 」
「はい」
それから、適当な場所を見つけてテントを張り、中で休む事になった。
俺がテントの中で横になっていると、ニュイが入ってきた。
「うむ、ニュイのテントは、あっちだよ」
「ここがいい」
「構わないけど……」
すると、今度は、
「やはり、ここにいた〜〜じゃあ、私もここにいる〜〜」
「リールのテントもあっちだぞ」
「いいの、妹的存在は、兄であるライルのそばにいるのが当たり前でしょう? 」
妹的存在ってなんだ……
「まあ、構わないけど、向こうのテント、長官1人になってしまうぞ」
「あ、それ、大丈夫、きっと、ね」
リールは、何が言いたいんだ?
すると、長官が、
「みんな〜〜食事の用意ができたぞ〜〜」
長官は、1人で、食事を用意してくれたらしい。
料理に関しては、ニュイは問題外として、俺もリールも得意ではない。
「すみません。長官1人で用意させてしまって……」
「構わないよ。あり合わせのものしかないから」
しかし、テーブルの上には、ぎっしり料理が置かれている。
ハンバーグにサラダ、それとコーンポタージュスープとパン。
どこかの外食チェーン店並みだ。
これに、ドリンクバーがあれば、ここが異世界だと思えないだろう。
「わ〜〜い。美味しそう〜〜」
リールは、ご機嫌だ。ニュイも嬉しそうだった。
「長官、これ、あり合わせってレベルじゃない気がしますけど? 」
「あ〜〜、それは、作り置きをポーチに入れておいたんだ。まだ、たくさんあるぞ」
そうか……真面目な女性は、普段から準備をしてるようだ……
「じゃあ、食べよう。いただきます」
『いただきます』
リールは、猛獣のような食べっぷりだ。
ニュイは、ナイフとフォークが使いづらいのかこぼすことも多いが自分のペースでゆっくり食べている。
遠巻きに見ていた他の冒険者も俺達が迷宮に似合わない豪勢な食事を食べてるのを見て羨ましそうに寄ってきた。
「あの〜〜」
その中で、声をかけてきた女性の冒険者が、
「うん、どうした? 」
「失礼かと思いますが、メンデル様ではないですか? あの、Aランクパーティー『四面楚歌」の? 」
「そうだが、よく覚えているな? もう、活動を休止して10年は経つというのに〜〜」
「やはり、メンデルさんなのですね。昔、私が駆け出しの冒険者だった頃、貴女に命を救ってもらいました。もう、覚えていないかもしれませんが、ミスティナ皇国の森の中の事です」
「そうか、だけど、すまん。私には、その記憶があまりなくてな」
「いいんです。いつかお会いしてお礼を言わなければと思っていました。ここで、会えたのは奇跡です」
その冒険者の女性は、感動して涙を浮かべていた。
「よかったら、食事をどうだい? まだ、たくさんあるから、君のパーティーのみんなも呼んで食べてってくれ」
「そんな、迷宮での食事は、命の源です。そんな貴重なものを頂くわけにはいきません」
「そんな事を言わないでくれ。食事は、皆で食べた方が美味しいに決まっている。遠慮は無しだ」
長官の言葉で、ここの安全地帯では、ささやかな宴会場となった。
酒を飲み、食事をしながら、お互いの情報交換して話し合い大いに盛り上がった。
食事を食べた物は、
『美味い! こんな料理、初めてだ』
『ここが迷宮なんて信じられない』
『街のレストランより、美味いぞ、これ』
そんな賞賛が飛び交っていた。
そんな様子を見て長官は、1人、酒が進み、いつのまにか酔って寝てしまった。
「あ〜〜もう、歳なんだから、お酒を控えればいいのに〜〜」
リールは、長官を担ぎ、テントに寝かす。
宴会は自然解散となった。
翌日、目を覚ますと、何故か息苦しい。
俺の隣には、左隣にはリールが寝ている。
そして、右には、ニュイがいるのだろう、と思って顔をそちらに向けると、
『なっ!! 何故、姉さんが……』
ニュイの隣に姉さんとシェリーさんが寝ていた。
これ、酸素足りてるのか……
俺は、テントの開閉口を開き、外の空気を入れる。
少し、寒かったのかシェリーさんが目を覚ました。
「シェリーさん、おはようございます」
「あ、弟君、おはよう〜〜」
「あの〜〜、付かぬ事をお聞きしても良いですか? 」
「うん、な〜〜に? 」
まだ、シェリーさんは、ボケているようだ。
「なんで、ここに姉さんがいるのでしょうか? 」
「それは、メリーナが迷宮に行きたいって言ってここに連れてきたのよ〜〜」
あの通信でそう思ったのか……
どうりで諦めが良かったはずだ……
「すみません。シェリーさんにまでご迷惑をおかけして……」
「そんな事ないよ。メリーナに迷宮に誘われて嬉しかったし〜〜」
シェリーさんは、もしかしたらMっ気があるのかもしれないな……
俺ならあの強引な姉さんの所業は耐えられそうにない。
でも、あれから迷宮に来てここまで辿り着いたのか?
もしかしたら、転移ゲートを使ったか……
そういえば、シェリーさんは腕輪をはめてるし、この裏で暗躍したのは、ユオだな。
俺は、1つの結論を得た。
ユオにも困ったものだ。
あとでたっぷりお仕置きしないとな……
きっと、俺の顔は、悪代官と結託する悪商人と化していただろう……
気を取り直して、俺は、テントを出て、顔を洗う。シェリーさんもそれに続いた。
「ねぇ、弟君、転移ゲートってすごいわね。あっと言う間に首都から迷宮都市に来れちゃうんだもの」
「便利ですけど、危険もあります。悪用されると困るので、この話は、内密にお願いします」
「うん、わかってる。メリーナにも言われたしね。それに、ユオさんからこのポーチと腕輪もらったの。でも、私が持ってていいのかな? 」
「構いませんよ。いつも、あの姉のそばにいてくれてるのですから、こちらこそ、感謝してもしたりないくらいです」
「わははは、そうね、きっと、弟君、小さい頃から大変だったんだね」
「おっしゃる通りです」
「でもね。私は、メリーナのそばにいられて嬉しいのよ。それは、本当だから」
「そうなのですか? う〜〜む、少し、理解し難いですが、姉をよろしくお願いします」
「いいえ、こちらこそ」
すると、ニュイが起きてきて
「お邪魔? 」
「邪魔じゃないよ。ニュイ、おはよう」
「ニュイちゃん、おはよう。相変わらず可愛いね」
「……うん」
ニュイは、可愛いと言われて恥ずかしがっているようだ。
感情がどんどん豊かになっていく。
そんなニュイを見て微笑んでいると、
「もしかして、弟君、ニュイちゃんの事好きなの? 」
「シェリーさん、ニュイの事は好きですけど父親目線で見てますから、誤解を生むような言動はちょっと……」
「そうね、そうかもね。面白いわね。弟君は」
俺は、人におもしろいと思われるような人間ではないはずなのだが……
今日の迷宮探索は、大変な事になりそうだ。
俺は、姉さんに引っ張られ大変な思いをしている自分を容易に想像できてしまった。




