第64話 迷宮(2)
……迷宮2階層……
迷宮2階層は、主にコボルトが主体でゴブリンや一角うさぎといった魔物が出るそうだ。
1階層ほど、横幅があるわけではなく、地面から天井に延びる突き出た岩の柱で区分けされていた。
見通しが悪くなる分、物陰から魔物に襲われて命を落とす冒険者もいるそうだ。1階層とは違い、少し冷たい空気が張りつめている。
「ねぇ、ここ、私が狩ってもいい? 」
リールは、物足りないのかそんなことを呟く。
「そうだな。時間も惜しいし。ここはサッサと行くか」
長官も物足りないようだ。
俺は、ニュイを背負って、リールを先頭に、みんなで身体強化をかけ、駆け足で2階層を突破した。
序盤で『背水の陣』のパーティーを抜いてしまったが、気づかれていないので問題はないはずだ。
……迷宮3階層〜5階層……
迷宮3階層は、ゴブリンが主体だ。地上のゴブリンと違うのは、数はいてもそれを指揮するゴブリンがいないことだ。だが、ゴブリンは、弓を使い、棍棒で殴り飛ばしてくる。油断は禁物だ
ここでも、リールを先頭に、それぞれ、身体強化をかけ、駆け足で走り抜けた。
迷宮3階層は、ゴブリンを始め、ウルフ系も登場する。そして、4階層は、ウルフ系を主体とした階層だ。動きが素早い上、徒党を組まれたら厄介である。
そして、今、俺達は、今日の目標の5階層にいる。ここでは、1階層から4階層までの魔物が入れ替わり出てくる。臨機応変な対応が要求され、初心者にとっては、厄介な階層である。
「また、ゴブリンだ〜〜」
リールは、剣で斬り裂く。なんかつまらなそうだ。
「5階層から先は、割と骨のある魔物は出てくる。文句は言うな」
「文句じゃないよ〜〜、でも、これじゃあ、ストレスがたまるだけだよ」
長官とリールは、親子のように仲が良い。
幼かったリールを長官が育てたと言ってもおかしくない。
勉強や常識、剣技などリールは、教えられたものを吸収していった。
だが、戦闘狂になってしまったのは、竜の里にいた面々を見ていたからだろう。その中で、リールの才能は目を見張るものがある。今では、俺を含めて剣術だけでは、リールを負かすのは、困難だろう。
俺の背中でうたた寝をしていたニュイが、俺の腕輪が光っているのを見つけた。俺も、気づいていたのだが、相手が誰だかわかるので無視していたのだ。
でも、必要な要件かもしれないと、長官に言われ、通信を開始した。
……………………………
「なに、ラビス、迷宮に潜ってるのよ〜〜」
やはり、姉さん……
「迷宮に用ができたんだよ」
「私も行く」
「無理、もう5階層だし、迷宮は通信も阻害されてて上手くできないんだ」
「も〜〜う、私も行きたかったのに〜〜でも、良いわ。またね」
……………………………
全く、自由な姉だ……
「メリーナちゃんの用は、やはり、ここか? 」
「そうみたいです。長官は、用事を知ってたの? 」
「そりゃあ、冒険者なら、迷宮に反応するさ」
「そういうことですか……」
俺は、できればこんなところ来たくない。ノーチェの件が無かったら一生来なかっただろう。迷宮より、湖でのんびり釣りでもしてた方がマシだ。
「5階層には、ボス部屋と呼ばれる場所が4個所ある。一部屋目は、スライムのボス、二部屋目は、コボルトのボス、三部屋目は、ゴブリンのボス、四部屋目は、ウルフ系のボスがいるんだ。冒険者は、どこか1部屋選んで攻略する。そこを抜ければ、安全地帯に出られる。今日は、そこで、すごそう」
「へ〜〜ボス部屋あるんだ〜〜」
急にリールが元気になった。
「ボス部屋が4部屋もあるなんて、何ででしょう? 」
「ここを訪れる冒険者が多いから、待たずに済むという意味があると聞いた。これが、自然にできたとは、思えないよ」
「確かに、誰かの意図が絡んでますね。冒険者を呼び込むシステムが整いすぎています」
「そうだろう。それについては、ギルドも調べているようだが、結論が出るまでには至ってないらしい」
そこで、ニュイが大きな伸びをした。
そして、俺の背中から降りて自分で歩き出す。
「どうかしたか? 」
「聞こえた……」
「何が? 」
「助けて、言ってる」
「誰か危険な目にあっているのかも知れない。場所は特定できるか? 」
「わからない。でも、ここ、場所」
「この階層のどこかのようだな。では、散開しよう。集合場所はボス部屋の前だ」
「ラジャー! 」
リールは、右方向に一目散に走り出した。
きっと、物足りなかったのだろう。
長官は、リールと逆方向に行く。俺達は、そのまま、真っ直ぐ進んだ。
「ニュイ、まだ、声聞こえるか? 」
「聞こえる」
戦闘中って事か、他にも仲間がいるだろうから、大丈夫だとは、思うが……
「ライル、うさぎ、使う」
「そうだな。構わないぞ」
「うん」
ニュイの返事とともに、うさぎのぬいぐるみが宙に浮かび、物凄いスピードで飛んでいく。
もう、耳も見えない……
「どうだ? 」
「いた。攻撃……終わった」
「はい!? 」
もう、終わったって事か……
あのドワーフのオッさん、とんでもないものを作りやがって……
すると、うさぎのぬいぐるみは、ニュイのところに戻ってきた。
ニュイは、ぬいぐるみを抱えて、頭を撫でている。
「ニュイ、遠隔でも操作できるのか? 」
「うん、見える」
確か、ニュイには、千里眼のスキルがあったはず。
当初は、開放できなかったはずだが、レベルが上がって使えるようになったのか?
「ニュイは、遠くまで見通すことができるようになったのか? 」
「うん、この前、街、魔物、いっぱい」
ミツトの街で戦った時にか……
「じゃあ、テレポーテーションも使えるのか? 」
「何、それ? 」
「行きたい場所に、一瞬で移動できる能力だよ」
「ライル、使う、やつ? 」
「やってみる……」
すると、ニュイは、消えた……
使えるようになったんだ……
でも、どこ行った?
そう考えていると、ニュイは、ポップコーンを持って戻ってきた。
「それ、どうしたの? 」
「お金、払った。くれた」
「どこ行ってたの? 」
「鳥、たくさん、いた? 」
まさか、ポップコーン欲しさにシャルダンの街まで行ってきたのか?
ここは『ビシッ』っと言わなければ……
「ニュイ、あのね〜〜」
「わ〜〜ニュイちゃん、美味しそう。私にもちょうだい」
リールがどこからか湧いて出た。
「はあ〜〜」
俺が、呆れた様子で大きなため息をつくと、リールは、
「何、ライル、文句あるわけ? 」
「そうじゃなくって、今、ニュイにきちんと教えなければって思ってたんだよ」
「何を? 」
「転移してポップコーンを買ってきたことだよ」
「それの何がいけないの? こんなに美味しいのに、ねぇ? 」
「うん、美味しい」
ダメだ……このままでは、ニュイが、リールの二の舞になってしまう。
ニュイは、お淑やかに育って欲しいのに……
「ところで、あっちで、冒険者達が、うさぎに助けられたって言ってたけど、ニュイちゃんかな? 」
「そう」
「だと思ったよ。やるね〜〜ニュイちゃんは〜〜」
「……へへ」
おーー! ニュイが少し笑ったぞ〜〜
俺、すごく嬉しい……
「何、ライル、涙流してんの? キモいよ」
台無しだよ。リール……
「まぁ、でも、良かったよ」
「何、綺麗にまとめてるの? 何が良かったわけ? 」
本当、何が良かったんだ……
俺は、話を切り替え、
「それより長官はどうしたんだ? 」
すると、ニュイが、左前方を指差して、
「あっち、うぉ〜〜とか、この野郎〜〜とか、言ってる」
「あちゃーー、長官、ストレス溜まってるね〜〜更年期障害か? 」
「リール、それを言ってはいけないよ。ここで、カエル跳びするハメになるからね」
「それは、男だけでしょ〜〜う、私、女だし、関係ないもん」
リールは、どうしてこうなってしまったんだ……
小さい時は、すっごく可愛かったのに……
きっと、ナハトとユオのせいだな、と俺は思う事にした。
「さっさと先行こう、じゃないと、長官が魔物全部狩っちゃうよ〜〜」
「わかったよ」
リールの言う通り、俺達が、ボス部屋の前に行くまでに、魔物は1匹も現れなかった。
◇
ボス部屋の前に行くと1つの大きな扉の前で、スッキリした顔の長官が待っていた。
「遅いぞ、ライル達」
そう言って、大きく手を振る様は、遠足に行く子供のようだ。
「もう〜〜長官が魔物狩っちゃうから、ここまで1匹も魔物いなかったんだからね! 」
「そうか〜〜それは、すまなかったな。じゃあ、ボス戦は、リールに任せるよ」
「やったーー!! 」
戦えるのがそんなに嬉しいものなのか?
理解できないな……
「この扉のボスは、ブラックウルフのボスと、その群れなんだ。5階層のボス部屋では、一番難易度が高いとされているんだぞ」
「本当? 嬉し〜〜い」
長官の言葉にリールも大はしゃぎだ。
また、遠足に行く子供が増えたぞ……
「じゃあ、開けるよ〜〜」
大きな扉を開き、中に入ると、入ってきた扉は、自動的に閉まった。
部屋の中は、ほぼ円形状で天井も高い。
それに、床は、岩などがあり、デコボコしていた。
すると、奥の床に魔法陣が現れ、大きなブラックウルフと、その配下と思われる10数体のウルフが、現れた。
「じゃあ、私、行くね〜〜」
そう言ったリールは、敵めがけて剣を振るう。
すると、なぎ払った剣は、魔物を斬り裂いた。
「えっ!? もう、終わったのか……」
リールの剣は、黄竜の牙で造られたレイピアだ。
魔力を通せば、黄竜のブレスを纏う。
しかし、さっきのは、速すぎだろう〜〜
「終わったか、では、奥に進もう」
長官は、そう言って奥に行ってしまった。
リールは、まだ、消化不良のようだ。
「次、早く行きた〜〜い」
俺とニュイも後からついて行く。
どうか、ニュイだけはリールみたいになりませんように……
俺は、心の中でそう願っていた。




