第63話 迷宮(1)
翌日、俺とニュイは、竜の里によってから迷宮に向かう。
長官とリールは、先に迷宮都市にあるヒュール商店の転移ゲートを利用して、買い物をすると言っていた。
俺達は、ドワーフの工房に行くと、
「おう、待ってたぜ。先に、お嬢ちゃんこっちに来な。着替えてもらうから」
ニュイは、奥の部屋に連れていかされた。
そして、着替えを終わったニュイは、嬉しそうに俺のところに来る。
「よく似合ってる」
「……うん」
うさぎのぬいぐるみもちゃんと抱いている。
ドドンパッチさんが、
「これで、迷宮でもお嬢ちゃんを傷付ける魔物なんていないだろうぜ。それに、お嬢ちゃんにも説明したが、そのうさぎは、武器に改造したからな」
「えっ、このうさぎがですか? 」
「小僧も奥に来い。少し広い場所がある。そこで、見せてやる」
俺は、ドドンパッチさんの工房を抜け、裏庭に出た。
そして、
「さぁーー、お嬢ちゃん、うさぎに魔力を通してみな。そして、この木に向かってさっき教えた通りにやってみるんだ」
そこには丸太が立てかけてあり、ニュイは、うさぎを浮かべてその丸太に向かって飛ばせた。
うさぎは、拳を繰り出し、丸太を粉々に砕く。
「よし! 今度は、こっちだ」
ドドンパッチさんが言う方にも丸太が立てかけてある。そして、今度は、うさぎの目から黄竜と同じレーザーのブレスが放たれる。
丸太には、くっきり穴が空いていた。
「……………………」
マジか……うさぎ、最強じゃないか……
「どうだい、小僧、このうさぎは? 」
「凄いの一言です、ってやりすぎじゃないですか? 」
「そうか〜〜、でも、それぐれーーのものは、お前達も持ってるじゃねぇか? そうだろう? だから、このうさぎには、黄竜様の繊維を編みこんでおいた。それに目は牙で出来てる。骨格も仕込んどいたから少し柔らかさには欠けるが、手足もお嬢ちゃんの思いのままに動かせるぜ。それに、目のブレスは、結構魔力を使うものだから、封印の水晶を仕込んである。まぁ、撃ち続けて10年、いや、魔力を補充すりゃ、数百年は持つだろうぜ! 」
「はあ〜〜」
凄いというより呆れる。ドドンパッチは、ニュイに何をさせたいんだ?
「料金は後でいい。迷宮で大暴れしてこい! 」
これじゃあ、迷宮を破壊しそうなものだが……
「ありがとう御座います」
すると、ニュイも
「……ありがと……う」
と、お礼を言えた。
ドドンパッチとガガンボッチは、照れてたが、嬉しそうだ。
全く、子供に甘すぎだろう!
店を出て、俺とニュイは、迷宮都市の人気のない場所に転移した。
◇
俺の隣には、手を繋ぐロリーターファッション全開のニュイと勝手に歩くうさぎがいる。
「ニュイ、うさぎは、人気のある場所では、抱いているんだよ。盗まれちゃうからね」
「うん、わかった」
と、俺の前のうさぎが喋った。
「えっ!? 今のニュイがやったの? 」
「そう、念思を使った」
と、うさぎが喋る。
これは、人目につかせてはマズい類のものだ。
きっと、知られたら大騒ぎになる。
「ニュイ、無闇にそれを使ったらダメだよ。きっと、大騒ぎになるから」
「ダメ? 」
「知らない人の前ではね。でも、自分や誰かが危険な目に合っている場合はいいよ。じゃないと、守れないからね」
「うん、そうする」
ニュイは、歩いているうさぎを抱えていつも通りに抱っこする。
そして、迷宮の入り口で待っている長官とリールに合流した。
「お待たせしました」
「いや、私達もさっき来たばかりだ。それにしてもニュイちゃんは、可愛らしいなぁ。それで迷宮に潜るのか? 」
「はい。竜の里のドワーフ達の選りすぐりの防具と武器です」
「そうか、あのドワーフ達のねぇ。その機能を知るのが怖いよ」
「俺は、それを知って迷宮が破壊されないか心配してました」
「はあ〜〜やはり……」
長官は、頭を抱え出した。
リールは、ニュイとジャンケンをして遊んでいる。
「じゃ、行こうか? 今日中に5階層まで行きたいものだ」
長官の言葉に、俺は、
「それって、どのくらいのペース何ですか? 」
「Sランクの冒険者が到達するペースだよ」
俺は、その倍以上行けるものだと思っていた。
迷宮とは、結構、大変なのかもしれない。
「じゃあ、私こっちね〜〜」
リールが俺の右腕を掴む。
ニュイは、俺の左腕を掴んだ。
「待て待て、これでは、両手が塞がって俺が戦えないだろう? 」
「大丈夫、私がいるし〜〜」
「……うさぎ、いる」
それを見た長官は、
「わはははは、モテモテだな、ライル君は、わははは。でも、こんな楽しい迷宮攻略は初めてだよ」
「前は、悲惨だったですしね……」
少しの毒気は許容範囲だろう……
「言われてしまったな。でも、今度は、そうはいかないぞ! さぁーー出発だ! 」
1人、熱くなっている長官を尻目に俺達は、その後をついて行く。
周りの冒険者は、頭のイカレタ死にたがりの変わった奴らだ……、と思っていたのだろう。
遠巻きに目も合わせず、ただ、俺達の様子を伺っていたのだから……
……迷宮1階層……
迷宮1階層は、思ったよりも広く幅も100メートルはありそうで天井も高い。
露店を開いてるものもいて、街中だと勘違いしてしまいそうだ。
それに、地下だということを忘れてしまいそうになるほど明るかった。
「迷宮が明るいのは、壁に埋め込まれている魔石のおかげなんだ。魔力に反応して光を放つようになっているんだ。ただ、それは、20階層のボス部屋までらしい。それ以降は、よくわからないと冒険者達は、言ってたな」
21階層までしか到達できてないことを考えれば当然の話だろう。
でも、灯りの魔法、ライトも覚えているし、暗闇に怯える事は無い。
1階層に現れる魔物は、スライムとコボルトだそうだ。
「リールもここまでは来たんだろう」
「うん、でも、つまらなかったよ〜〜魔物より、冒険者の方が面倒くさかったし〜〜」
「そうなんだ……」
何かあったのか?
「天井高いけど、これなら、長官の槍も使えそうですね」
「そうなんだ。でも、とりあえずは、剣で戦うかな。久々だしね」
なんだか嬉しそうだ。
すると、スライムが2匹出てきた。水色をした水系のスライムだ。
ニュイは、それを見て、
「……かわいい」
と言って触ろうとした。
そこにリールが
「ニュイちゃん、魔物だよ。可愛いからって安心できるものじゃないよ〜〜」
剣を抜いて両断してしまった。
ニュイは、少し落ち込んでいるようだが、リールの方が正しい。
俺は、
「リールの言う通りだ。スライムだって油断してれば人を殺せる。だから、可愛いからって躊躇っちゃダメだ」
「わかった」
次に出てきたのもスライムだった。今度は3匹だ。
するとニュイが、スライムを宙に浮かせた。
長官がそれを剣で斬り裂く。
「ニュイちゃん、良くやった。偉いぞ! 」
長官にも褒められて少し嬉しそうだ。
「さてと、今度は私だ〜〜」
壁の岩に隠れていたコボルトをリールが斬り裂く。
「コボルトには、魔石があるぞ」
長官がそう言いながら、コボルトの遺体から小さな魔石を回収する。
遺体は、不思議なことに床に吸収されるように消えていった。
「今のは? 」
「あぁ、地上とは違い、遺体は迷宮に吸収されるんだ。だから、急いで素材を取らないといけないんだよ」
「そうなんですか……」
迷宮とは、不思議な場所だ。ここでは、俺の能力の衛星も機能しづらい。
俺の持つ能力はアステル神から授かったものだとすれば、迷宮は、その逆、悪魔種の能力で作られているのかもしれない。
1階層の攻略は、順調に進んでいる。ここが、広過ぎる事を除いてだ。
「なかなか、下に降りれませんね」
「ここの迷宮は、広いんだ。だから、1階層でも、疲労からの油断で命を落とす冒険者もいるんだよ。でも、もう直ぐだ」
長官が指差す方には、幾人かの冒険者が集まっている。
下に降りる階段待ちらしい。
「ここの階段は狭いんだ。だから、順番で下に降りるんだよ。でもそれは、1階層から5階層までだけどね。恐らく、魔物が地上に出てくるのを防ぐ意味もあると思う。これが、自然にできたとは、考えづらいからね」
「長官は5階層までだ、と言った意味がわかった気がします」
「そういう事。実際、知識だけだから実際の様子はわからないからね」
すると、リールが、
「私も、この順番待ちが面倒で引き返したんだ。結局、長官に呼び出されたけど〜〜」
「そうだったんだ」
確かに、順番待ちをしていると、他の冒険者達がジロジロ見てくる。
女の子1人だと、面倒事に巻き込まれる可能性もありそうだな……
すると、前に並んでいた若い冒険者の男が
「君、そんな格好で2階層に行くのかい? 」
ニュイを見てそう話す。
はて!? 何処かで見た顔だ……
誰だっけ……
すると、長官が、
「私の連れだ。深追いはしないつもりだよ。忠告ありがとう」
長官の威厳に、相当な冒険者だろうと、察したようだ。
「いいえ。こちらこそ、でしゃばった事を言ってすみません」
「君達は、4人パーティーかい? 」
「はい。『背水の陣』というDランクパーティーを組んでます。俺は、リーダーのジョージです」
「そうか、私は、メンデルだ。よろしくな。この者達は、冒険者では無いが、迷宮を潜りたいと言うので私が引率役を引き受けたんだ」
「あ〜〜君、どこかで見たと思ったら、この前、森で会った素材売りの人だよね〜〜私、ファニー、覚えてない? 」
「はい、確かに森で会いましたね。ライルです。確かオークの調査に来ていたと言っていたパーティーでしたよね」
『背水の陣』という危険なパーティー名で思い出した……(38話)
「そうそう、こんなとこで会うなんて奇遇ね。良かったら、一緒に行かない? 」
「そうだな〜〜君達は、どれくらい潜る予定なんだ? 」
長官が、そう聞くと、
「10階層のボス戦をしてから、決めようと思ってました」
「そうか、今回は、遠慮させてもらうよ。見ての通り君達とペースが合わないと思うからね」
「そうか〜〜残念〜〜」
長官が言うペースは、もちろん、俺達のペースが早すぎるって事だ。でも、『背水の陣』のメンバーは、それを逆に捉えたようだ。
「ファニー、無理を言うな。小さな女の子もいるんだから無理もないよ」
「そうね〜〜ごめんなさい」
「気にしないでくれ。君達、パーティーは、なかなか息が合って良さそうだな? 」
「えぇ、最高のメンバーです」
『背水の陣』のリーダーは、誇らし気にそう言う。
危険なパーティー名と一緒だと絶対、何か起こりそうだ。今までそうだったし……




