第62話 お祝い
俺とニュイは、竜の里のドワーフの工房に向かう。
「こんにちは。ドドンパッチさん、いますか? 」
奥から、髭面のオッさんが登場した。
「お〜〜小僧、久し振りじゃねぇか。元気してたか? 」
「はい、今日は、この子の防具を作って欲しいと思って寄ったのですが」
「また、メンコイ女の子連れてきたな。でも、こんな子に防具作ってどうするんだ? 」
「迷宮に潜ろうと思って」
「はあ!? この子連れてか? 」
「はい」
ドドンパッチは、頭を掻きながら何かを思案しているみたいだった。そして、
「そうだ! ちょっと、待ってろ! 」
奥に駆け込んで、1着の服を持ってきた。
「これ、どうだ。そのお嬢さんに良く似合うと思うんだが」
確かに、ドドンパッチさんが広げてみせた服は、今、ニュイが着てる服と然程変わらない。でも、何で、オッさんが、黒のゴシック調のロリータ服を持ってるんだ?
「何でこんな可愛い服、ドドンパッチさんが持ってるんですか? 」
「あ〜〜、これな、これは、お宅のユオちゃんの依頼で作ったんだが、一部分、身体と合わない大きさで注文してきてな、なかなか、それが思うようにいかないらしく、キャンセルされたんだよ」
「ユオですか〜〜 」
何が思うようにいかなかったんだ?
「でも、良いんですか? それ、結構、良さそうな素材で作ってあるんでしょう? 」
「それは、間違いねぇ、ベビーモスの繊維と黄竜様の鱗の繊維を使ってある。そんじょそこらの剣や魔法でもビクともしないぜ! 逆に斬りつけてきた剣の方が折れちまう」
ドドンパッチは、ドヤ顔だ。
何故か、ニュイも真似してるし……
対抗しなくていいから……
「ニュイ、これで良いかい? 」
「うん、可愛い」
「じゃあ、これお願いします」
「お〜〜わかった。でも、サイズを調整しねぇとならねぇから、明日でもいいか? 」
「そんな早くできるんですか? 」
「おう、任せとけ、あとで、嬢ちゃんのサイズを測らせてもらうけどな。それと、武器はどうするんだ? 」
「武器は、考えてませんでした」
「武器も持たねぇで、迷宮に潜るのか? こんな、可愛い女の子を死なせるつもりか! 小僧! 」
「そういうつもりはありませんよ。もちろん、死なせません」
「なら、良しとするか、で、お嬢ちゃんは、何か得意な攻撃ってあるのか? 」
「ニュイは、物を動かせる能力があります。ニュイ、見せてあげてくれる?」
「うん」
ニュイは、抱いていたうさぎのぬいぐるみを宙に浮かべた。
「お〜〜こりゃすげーーな。よし! これでいこう! 」
「えっ、何が? 」
「小僧、まだ、黄竜様の牙と鱗持ってんだろう? 」
「鱗は、まだ、あるけど、牙は、武器ができるほどの大きさはないですよ」
「親指大の物が2個ありゃいい。それと、封印の水晶のカケラもくれ。取って置きのを作ってやる」
俺は、ドドンパッチさんが、言った素材を渡す。そして、ニュイは、寸法を測るために奥に連れていかれた。
しばらくして、ニュイが出てきた。でも、肌身離さなかったうさぎのぬいぐるみを抱いていない。
うむ、どうしたんだ?
「ニュイ、うさぎのぬいぐるみは? 」
「…………改造? 」
ニュイも良くわからないらしい。すると、今度は、ドドンパッチさんの弟子のガガンボッチさんが来て、
「明日にはできやすので、取りに来て下さいと親方が言ってます」
もう、作り始めたのか……
「あっ、そうだ。これで、盾を作れますか? 」
「作れやす。でも、盾は、明日には、無理です。一週間は、かかりやす」
「それで良いです。お願いします」
「大きさは、どうしやすか? 」
「大楯をお願いします。プレゼントなんで」
「わかりやした」
俺は、黄竜の鱗を渡し、ニュイとともに店を出た。
明日となると、今日は、天空の島の本部に戻るか……
長官に迷宮の事も聞けるし……
俺は、街で食料品を買い込み、天空の島の本部にある自室に戻った。
◇
ニュイと本部に戻った途端、ミルフィーから連絡が入る。
………………………………
「ライル様、本部に戻られたのですね」
「あぁ、今ね」
「では、ニュイちゃんと一緒にライル様のお屋敷の方にお越し頂けますか? 」
「屋敷って、島の屋敷? 」
「はい。お迎えに上がった方がよろしいですか? 」
「大丈夫、ニュイと歩いて行くよ」
「はい、お待ちしております」
………………………………
「ニュイ、お散歩行こうか? 」
「行く」
ニュイを誘って、本部の自室から出る。階段を降り、建物の外に出ると、少し、冷たい空気に晒された。
俺達は、のんびり、遊歩道を歩き、湖のほとりに出た。
その湖の外周を行けば、10分ぐらいでこの島にある屋敷に着く。
俺は、ニュイと湖の中で泳ぐ魚や亀を見ながら遊歩道を歩いていると、
「よ〜〜ライルよ。先方以来じゃな」
そう声をかけてきたのは、湖からチョコンと顔を出している錦鯉だった。
確か、先方と言っても、一週間以上は経ってるぞ……
鯉にとっては、一週間もさっきの事のようだ。
「あれ、青竜様のご主人ですか? 何でここに」
「儂は、水のある場所ならどこにでも行ける。前もそう言ったはずじゃぞ」
「そうでしたね。で、どうしてここに? 」
「それは、まぁ、後でな……」
「はあ!? 別に無理に聞くつもりもありませんけど」
「ライル、魚、お話、できる? 」
「うん、ニュイは、初めてだったね。お世話になってる青竜様という方のご主人なんだよ」
「そう、魚、ご主人……」
ニュイは、思案顔になった。ニュイなりに何かを理解しようとしてるのかもしれない。
「ライルよ。海龍王の封印を解きに行く時、これを、孫娘に渡してくれんかのう〜〜」
錦鯉のご主人は、ジャンプして尾ヒレで何かを蹴り飛ばし、俺に渡した。
「これって、何ですか? 」
「儂の髭じゃ。一本渡してくれれば良い。あと一本はお主にやる」
髭を渡されても〜〜
「わかりました。確かにお渡しします」
「任せたぞ、では、またな」
そう言って、ご主人は、湖を気持ちよさそうに泳いで行った。
わざわざ髭を渡す為に来たのかな?
再び、ニュイと共に屋敷を目指す。
屋敷のエントランスに着くと、中が騒がしい。
声のする方に行くと
「おーーやっと、ライルがきたぜーー」
ナハトが俺がやってきたのを見つけてそう言った。
「どうしたんだ、これは? 」
広い応接室には、みんなが揃っていた。なんと、竜神様までいる。
「ライル様、ニュイちゃん、こちらです」
ミルフィーが俺達を壇上に誘う。
『ライル、この前振りじゃのう。その女子は元気か? 』
「はい。ニュイは、落ち着いて、今は、いろいろな事を吸収しています」
『そうか、そうか、それは、良かったの〜〜う』
「ところで、今日は、何なの? 」
「ライル様、今日は、新本部のお祝い式ですよ」
「ミルフィー、俺、そんな事聞いてないよ」
「はい、驚かそうと黙ってました」
すると、長官がやってきて挨拶が始まった。
「今日は、新しい本部の建造祝いだ。この本部を造るために、ご協力頂いた竜神様をはじめ、古竜様、黒竜様、青竜様、黄竜様、炎竜様、竜人族の方々、本当に感謝致します。それと、ライル君をはじめ、スタッフのみんなも忙しい中、尽力を尽くしてありがとう。これで、皆の思いが実現しました。これからは、多くの迷える者達に、手を差し伸べる事ができます。それは、ここには、いないが、その者の言葉で始まったと言えます。そして、我々は、種族、身分に関係なく、公平にその手を差し伸べる事を誓います。
では、ライル君、乾杯の音頭を頼む」
「俺ですか? 」
「当たり前だろう! ビシッときめるんだ」
もう、何が何やら……
「僭越ながら、乾杯の音頭をとらせて頂きます。『ナイト・フォグ』の新本部完成をお祝いして、カ ン パ イ !! 」
『カ ン パーーイ!! 』
そして、宴が始まった。
みんな。楽しそうに歓談しながら食事を楽しんでいる。
それは、良いけど、なんで姉さんがいるんだ?
俺は、姉さんがシエルとチエロをお追いかけ回している姿を目撃してしまった。
ニュイは、ルナに手を引かれケーキのある場所に連れていかれた。
俺のところには、シドさんが来て
「ライル君、驚いたかい? 」
「え〜〜いつの間に、用意したんですか? 」
「それは、仕事の合間にちょこっとな。それより、驚いてくれて嬉しいよ。この間は、俺が驚かされたからな」
うむ、これは、その敵討ちか……
「まぁ、でも、みんな楽しそうで良かったです」
「使者様のお兄ちゃん」
「テプタちゃん、少しは、慣れた? 」
「うん、村にいるより楽しい」
「それは、良かった。それより、お婆ちゃんには会えたかな? 」
「うん、お婆ちゃん、喜んでたよ。お父さんは、叱られてたけど」
テプタちゃんは、素直にそう言うと、シドさんが、
「テプタ、頼む。それは、内緒だ」
「え〜〜だって、本当のことだもん」
「でも、シドさんがお婆さんに会えて俺もよかったです」
「あぁ、これもライル君のおかげだ。もう、会えないと思ってたけど、相変わらず、元気だったよ。君が、その依頼を受けたんだって、聞いたよ」
「え〜〜最初は、神樹の実が欲しいって依頼でしたけど、話を聞いて驚いたのは、俺の方でした」
「願いもぶっ飛んでるけど、それを叶えるライル君には頭が上がらないな」
「たまたまですよ」
今度は、長官がやってきて
「ライル君、そういえば、教会ではどうだった? 」
「はい、誰も到達してない迷宮の最下層にヒントがあると言われました」
「迷宮か……それは、ミスティナ皇国の迷宮か? それで、行くのか? 」
「はい、そのつもりです」
「海竜王の封印を先に伸ばそうか? 」
「いいえ、どの道、最下層までは、辿り着けませんので行けるとこまで行くつもりです」
「しかし、ライル君1人では……」
「私も行く〜〜」
「リール、お前、さっき、迷宮都市から帰って来たばかりだぞ」
「だって、時間がなくて一階層しか潜れなかったんだもん。呼び出した長官のせいだからね」
「全くお前は、戦闘狂に育てた覚えはないのだが……」
「ライル達と一緒に暮らしてたら誰だってそうなるよ」
「まあ、確かにな」
長官、納得しないで欲しい。
「でも、ライルとリールだけではな〜〜あの数をこなすとなると〜〜」
「それでしたらニュイも行きますよ」
「ニュイちゃんがか? 連れてくつもりなのか? 」
「そうです」
長官は頭を抱え出した。
「ナハトもユオも忙しそうだし〜〜では、私も行こう」
『えっーー! 』
「何を驚いている。私だって、元冒険者だ。それに、15階層で奈落に落ちてしまった苦い経験を上書きしないとな」
「本部はどうするんですか? 」
「リーダーがいるから心配ない。ね、司令室長」
「メンデル、迷宮に行きたいだけじゃないのか? 」
シドさんの言葉は、間違いではないだろう。
その証拠に長官の目は泳いでいた。
「仕方ないだろう。私だって、あの迷宮に関しては、消化不良でモヤモヤしてるんだ」
「はぁ〜〜、まぁ、いいけど、迷惑かけるなよ」
「リーダー、私がみんなの足手纏いになるといいたいのか? 」
「だって、もう、歳だし……」
シドさん、それ、禁句……
長官の顔は赤くなり、そして、その繰り出した蹴りは、シドさんの急所に当たった。
会場では、カエル跳びをするシドさんの目撃情報が相次いだ。




