第60話 メリーナ姉さん
メリーナ姉さんに本部のみんなを紹介した俺は、姉さんをみんなに任せ、ニュイと共に竜の里に向かった。
特に用事は無いのだが、ニュイがつまらなそうな顔をしていたので、いつもの丘に行く。
「これ、何? 」
ニュイが尋ねたのは、リールの母親が眠っている墓碑だ。
「そこには、リールのお母さんが眠ってるんだよ。その石は、ここにいるよっていう目印さ」
「死んだの? 」
「あぁ、リールを魔物から守ってね」
「私も、マリア、死んだ」
「確か、ニュイの母親的な人だよね」
「そう……」
人の死はきちんと理解できるようだ。
でも、そんな辛いことは、幼少期に覚えて欲しくはない……
「ここ、好き」
「俺もここは、大好きだ」
風がニュイの銀髪をなびかせた。
その横顔が一瞬、ノーチェに見えたのは、気のせいだろう。
ニュイは、うさぎのぬいぐるみを宙に浮かべて遊んでいる。
俺は、そんなニュイを見ながら微笑ましく思う。
すると、いきなりユオがやって来た。
「主任、先程、本部でお姉さんに会いました。きちんと説明されたのですね」
「あぁ、隠しておくには、限界だったしね」
「良いと思いますよ。私も嬉しいです」
「そうだ、ユオ、立花らしき人物に会ったぞ」
「マジですか! きっと、ハーレム築いてウハウハしてたんでしょう」
「なんでわかるんだ?」
「それは、立花先輩ですから〜〜」
「逞しく、生きてたぞ。会いたいか? 」
「う〜〜ん、どうしても、っていうなら会ってもいいですけど、積極的に会いたいわけではないですし、今は、パスですね」
「そうなのか? 2人は、息が合ってたと思ってたのだが」
「まぁ、悪い人ではないのは、認めますけど、息が合っていたというのは、完全に主任の誤解です」
「そうか、誤解だったか、人の気持ちは、見た感じだけでは、判断できないものだな」
「そうですよ〜〜特に女性の心を理解するのは、数百年はかかりますよ」
「それは、絶対無理という事か? 」
「はい、正解です」
俺は、ノーチェの心を理解してなかったのか……
その時、丘に吹いた風は、心地良さと寂しさを運んできた。
◇
司令室に戻ると、姉さんが探査システムをミルフィーに教わりながら夢中で操作していた。
「ねぇ、ここを拡大したいときは、どうすればいいの? 」
「はい、画面横にある埋め込まれた球体を転がすように回せば拡大できます」
「あっ、本当だ。凄い、これなら、ここから、どこでも見れるね〜〜」
「はい」
「姉さん、楽しそうだけど、戻らなくていいの? 冒険者の仕事とかあるんでしょう? 」
「大丈夫、私、しばらくここにいるから、ライルは、帰っていいわよ」
「はい!? 」
姉さんは、衛星システムに夢中になってしまったようだ。
「ライル様、先程、長官がおさがしでしたよ」
「そうなんだ」
「長官室にいると思います」
「わかった。行ってみるよ。ニュイは、どうする? 」
「ニュイも行く」
長官室に行くと、シドさんと長官は、シドさんと話し合っていた。
「ライル君、ちょうどよかった」
「どうしたんですか? 」
「海龍神王の封印を解く件の日程を、今、シド室長と話し合っていたんだよ」
「そうだったんですね」
竜神様と古竜に頼まれた海龍神王の封印を解く為には、海に出なければならない。
「いつ頃、予定されてますか? 」
「2週間後でどうだろうか、あまり、遅くなっても失礼だし、その前に、準備もいるからね」
「わかりました。では、2週間後でお願いします」
「そうか、では、日程を調整するよ」
ここで、俺は、先日のミツトの街の襲撃の件について長官に話しておいた。
「ノーチェ君の父親が、そんな事を言っていたのか? 」
「はい、ノーチェを管理してると……」
「こちらも、居場所を含めて足取りを探ってはいるのだが、発見に至るまでにはいっていない。それに、その父親の吸血鬼は、サタンの眷属という称号があったのだな? 」
「はい、確かにありました」
「という事は、冥府の住人か……それでは、今の探査システムでは、探すのは難しそうだ。冥府とは、死者の魂が訪れる場所だからな」
「そうですね……」
するとシドさんが、
「ライル君は、アステル神の使徒なのだろう? いわば、冥府の住人と対極の存在だ。そのアステル神とは、連絡が取れないのか? 」
「わかりませんが、教会に行けば、もしかして連絡できるかもしれません」
「そうだな、一度教会に行って試してみるのも良いかもしれない。流石に、私達では、神の世界や冥府の世界など知らないからね」
「わかりました。教会に行って試してみます」
そう言えば、5歳の時の祝福以来、教会には行っていない。
あの爆弾を抱えた少年の姿を思い出すと、嫌な気分になるからだ。
みんなと話している間、ニュイは、うさぎのぬいぐるみを宙に浮かばせて遊んでいた。
◇
司令室に戻った俺は、
「姉さん、帰るよ」
「嫌だ。ここにいる」
「みんなに迷惑をかけるから〜〜」
「ライル様、そんな事はありませんよ。それに、いつでも地上に降りれますから、お姉さんの事は私達にお任せ下さい」
「えっ、大変だよ。ミルフィー」
「ラビス、何が大変なの? 言ってみなさい! 」
姉さんは、今にも殴りかかってきそうだ。
「え〜〜なんでもないよ。ニュイはどうする? 」
「ライルと行く」
「わかった。行こう」
俺は、さっさと、ニュイを連れて、サスケ家に転移した。
サスケ家の寝室に転移すると、
「孫よ。帰ってきたか? 」
祖父さんが天井から逆さになってぶら下がっていた。
「何、してるんですか? 」
「頭のたいそうじゃ。こうすると、血が頭に登り、ひらめきが生まれるのじゃ」
「そうですか……」
すると、祖父さんは、ニュイを目掛けて、
「ニュイちゃ〜〜ん、にょほほ〜〜い」
遅いかかってきた。
そんな祖父さんをニュイは、宙に祖父さんを浮かべ上下に動かして遊んでいる。
「こ、これは、くるものがあるの〜〜う、おえっ」
そんな祖父さんをほっといて、俺とニュイは部屋を出る。
教会に行こうと玄関に向かうと母さんがやってきて、
「ラビス、メリーナ知らない? 」
「姉さんなら……」
俺は、事情を話すと、
「全く、しょうがないわね。お見合いの話があるのに〜〜」
そうか、それで、本部に残ったのか……
「飽きたら帰ってくると思うよ」
「そうね〜〜、全く、自由なんだから、あの子は〜〜」
「ラビスは、どこか行くの? 」
「ちょっと、教会に行ってみようと思ってるんだ」
「そうなの、場所わかる? 」
「うん、問題ないよ」
母さんとの話を切り上げ、俺は、ニュイと教会に向かった。
街中は、いつも通り賑わっている。ちょうど、学校が終わったようで、学生も街中を行き交っていた。
「みんな、同じ、服」
ニュイが学生達を見つけてそう話す。
「あれは、学校に通う為の服だよ」
「学校? 」
「勉強するところだよ」
「勉強? 」
「文字とか計算とか習うんだぞ。剣や魔法も教えてくれるんだ。ニュイも通ってみるか? 」
「遊び? 」
「遊びではないけど、友達ができて遊べるかもよ」
「友達、友達、友達……」
ニュイを学院に通わせるのも良いかも知れない。
そう思いながら、歩いていると姉さんから通信がきた。
…………………………
「ラビス、そこのお店入って」
姉さんが入れという店は、喫茶店のような店だった。
「何で? 」
「いるのよ。シェリーと他の仲間達が」
「それって、姉さんの冒険者仲間でしょう? なんで俺が? 」
「いいの、とにかく入りなさい! 」
…………………………
姉さんは、何をさせたいんだ……
「ニュイ、喉乾いた? 」
「少し」
「何か飲もうか? 」
俺は、ニュイと一緒にその店に入った。そして、適当な席に座り、飲み物を注文する。
「オレンジジュースと紅茶を下さい」
注文を取りに来た若い女性に話す。すると、
「この、ミラクルアイスクリームが人気ですよ。妹さんにどうですか? 」
「ニュイ、アイス食べる? 」
「食べる」
「では、それ、1つお願いします」
姉さん達のパーティーは、窓際の席に座って楽しそうにおしゃべりしている。
他にも、学生のグループや商人らしき人物が商談をしていた。
「お待ちどうさま」
そう言って店員が持ってきたものを見て仰天する。
オレンジジュースや紅茶はともかくミラクルアイスクリームは、とてつもなく大きかった。
「こ、これなの? 」
「そうです。人気なんですよ」
ここは、ぼったくり喫茶か……
誰が、こんな大きいアイス食べるんだ?
周りを見渡すと、驚いた事に商人を除いたみんなは、このアイスを注文している。
マジか……
「ニュイ、食べるか? 」
「問題ない」
「そ、そうか……」
幼いとはいえ、女の子だ。
アイスは好きらしい。
ニュイは美味しそうに食べている。
それを見て、
胸焼けがしそうだ……
そう思いながら見ていると、店の入り口のドアが開いた。
「あ〜〜間に合った〜〜」
そう、姉さんが駆け込んできた。
「あれ、メリーナ、どうしたの? 」
「メリーナだ」
「相変わらず、忙しないな、メリーナは」
仲間のシェリー、チップ、タミンは、メリーナの行動がいつもの事らしく慣れているようすだ。
そして、姉さんは、俺達の席の来て、店に響き渡る程大きな声で言ったのだ。
「みんなに紹介するわ。私の弟なの」
『えっーー! 』
「この前、帰って来たんだ〜〜」
「あの、行方不明の弟さん? 」
「あの、頭が良くてイケメンの弟さん? 」
「あの、可愛い顔しているって自慢してた弟さん? 」
姉さん、俺をどんなイメージで話してたんだ。
あ〜〜胃が痛い……
「そう、弟とこっちにいる子がニュイちゃん。みんなよろしくね〜〜」
慌てて司令室からここまで来たのは、俺をみんなに紹介したかったらしい。
その気持ちは、嬉しいが、もう少し、お淑やかにできんのか!
と、俺は、思っていた。




