第58話 天空の島
本部が地上に転移し、無事、運行を確認するとみんなから、歓声の歓声が鳴り響いた。
この天空の島は、古竜が海から持ってきたものだ。
人や獣人などはいないが、小動物や鳥、それに、淡水でできた少し小さめの湖には魚もいる。
広さは、約6㎢、伊豆諸島の青ヶ島程の大きさがある。
形状は、楕円形で中央には、標高500メートル程の山があった島である。
地上からは見えないように認識阻害がかけられており、島の周りには魔力障壁が施されている。
転移でしか、この島に来ることができないのは、竜の里の屋敷と同じだ。
動力は、大精霊を解き放った時の封印の水晶を使っている。
このままの状態でも数百年は、運航できる計算だが、俺がたまに水晶に魔力を補充すれば、さらに長い年月運航できる。
何故、空に浮かぶ事が出来るのか、詳しい事はわからないが、ユオが言うには、地下に魔力のか素になるマナの流れがある龍脈が存在するように、空にも標高5千メートルと1万メートル付近に大気のマナの流れがあるそうだ。
そこは、マナの濃度が高く、そこまで重力魔法で島を上げれば常時展開の重力魔法消費量が極端に減るらしい。だから、天空に浮かぶ事が出来るらしいのだか、この島クラスの重量だと普通は無理らしい。俺の魔力無制限の能力と封印の水晶があるおかげだと言っていた。
そして、ユオから新本部完成と共にみんなに新しい腕輪が配られた。
これは、今までの通信機能に加えて、個別の魔力を認識する機能を持つ。
地上にあるヒュール商店の転移ゲートを利用するには、この腕輪か、それを持つ同行者がいなければならない。
これは、対魔王対策でもあるとユオは言っていた。
ノーチェが操られている場合、ノーチェの持つ腕輪が第三者に渡った場合、転移ゲートを使って、この本部に乗り込まれてしまうのを阻止するためでもある。
「ユオ、悪いけどその腕輪の予備はあるか? 」
「ありますよ。誰に渡すんですか? 」
「ニュイにも必要かと思ってね」
「そうですか。では、予備に5つ程渡しておきます」
「うん、ありがとう」
「ライル様」
突然、ミルフィーに声をかけられた。
「ミルフィー、お疲れ様。何も手伝えず悪かった」
「いいえ、ライル様は、地上での仕事をされてましたし、謝る必要はありませんよ。それよりライル様の部屋に案内します」
「俺の部屋? 」
「ここで寝泊まりできる個室です。みんなの部屋もあるのですよ」
「わかった。お願いするよ」
「では、こちらです」
ミルフィーに案内された場所は、この司令部の上層階に当たるワンフロアーの部屋だった。
机や椅子、応接セットとベッドそれにキッチンとトイレ、風呂までついていた。
「随分、豪華な部屋だね。高級ホテルのスウィートルームみたいだ」
「ユオ様が監修されました」
「そうか、ユオが……」
少しは、自重しろよ……
「ここは、本部のライル様の部屋です」
「俺には、勿体無いな」
「いいえ、ライル様あってのナイトフォグですから、これくらいは当たり前です」
「では、次です」
「えっ!? 次って? 」
「はい、ライル様のお屋敷です」
「屋敷! そんなの聞いてないよ」
「ユオ様、監修です」
「そうなのか? 」
「はい。こちらの転移ゲートをお使いください」
部屋に転移ゲートまであった……
俺は、ミルフィーに言われるまま、そのゲートに入る。すると、一気に見晴らしの良い場所に出た。
「ここなの? 」
「はい、そうです」
山の中腹にあるその屋敷は、目の前には湖がある、リゾートホテルのようなものだった。
「こんな広い屋敷なの? 」
「そうです。あちらに白い建物が見えますか? あそこがユオ様の屋敷件研究所です。その隣がナハト様の屋敷になります」
「そうなんだ……」
広すぎて言葉も出ない……
「ミルフィー達のもあるんだよね」
「はい。ここまで広くありませんが、司令室上層と島の中にあります」
「それなら良かったよ。俺だけ、こんな屋敷持ってたら、気が引けてしょうがないから」
「ユオ様もライル様ならそう言うだろう、って言ってました。だから、みんなの分も造りました」
「そうなんだ……」
だから、自重しろって、ユオ!
「この屋敷は、徒歩でも来れますが、転移ゲートをご利用くださればすぐ来れますよ」
「そうだよね〜〜」
「島の中には、街を作ってあります。今は、誰もいませんけど」
「そうなんだ。時間があったら周ってみるよ」
「はい、その時はお供させて頂きます」
そのあと、屋敷を見て周り、ミルフィーと共に司令室に戻った。
事務員さん達は、もう仕事をし始めていた。
ナハトとブラドは、帰ったらしい。
ここにいるのは、長官とリール、そしてユオ、それに事務員さん達だ。
俺は、長官にサウザンド国の内情を話した。
ミルフィーからの報告も受けていたようだ。
それと、ミツトの襲撃の時に会ったニーチェの父親の件も耳に入れといた。
「わかった。こちらでも調べておくよ」
「それと、王家に関する問題はどうすべきでしょう? 」
「現国王と王子の命は救った方が良いと思う。ライル、任せても良いか? 」
「はい、わかりました」
俺は、みんなに挨拶をしてサスケ家に戻った。
◇
本部が竜の里にあろうが、天空にあろうが、俺の仕事は変わらない。
依頼を受けその願いを叶える手伝いをするだけだ。
「ニュイ達は、まだ帰ってないようだな」
俺は、その間にサウザンド国の件を片付けようと、衛星を展開して情報を探る。
現国王と王子が病で寝ている部屋はわかった。見張りは、ドアの外に2名待機している。
部屋の中では、看護役のものが出たり入ったりしていた。
夜ならいけるか……
でも、姉さんがいるし、自由になれる保障もない……
「今、行くか……」
俺は、まず現国王の部屋に転移し、即座に認識阻害と隠密を発動する。
気付かれたか?
大丈夫だったみたいだ……
上手く看護役の目を誤魔化せたようだ。
俺は、現国王のそばに行き、鑑定をする。
やはり、プリメラ王女と同じ魔力枯渇の呪詛がかかっている。
看護役の隙を見計らって【ディスペル】をかける。左手から小さな魔法陣が浮き上がり、砕け散った。
あとは、薬を飲ませるだけだが……
看護役のものが水を取り替えに部屋を出た。
俺は、薬を現国王に飲ませる。
すると、顔に赤みがさし、熱も引いてきたようだ。
俺は、今度は王子の部屋に転移し、同じ処置を施した。
王子も、魔力枯渇の呪詛がかかっており、隙を狙って【ディスペル】をかけ、薬を飲ませる。
王子の方がが具合が悪かったようだが、荒かった呼吸も落ち着き、今は、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。
俺は、そこで転移して首都に戻る。
現在、プラダ王子とその母親を以外、誰が敵なのかわからない以上、これ以上の介入は難しいと判断した。
2人が回復すれば、敵も動き出すだろう。その時、こちらも動けば良いと考えていた。
サスケ家に戻ると、母さんに呼ばれた。
母さんの後をついて、居間に入ると、サマンサ叔母さんもそこにいた。
「こんにちは」
「ラビス君、こんにちは。昨日は、慌ててどうしたのかしら? 」
そういえば、みんなといるときに呼び出されたんだったな……
「少し、用事ができまして……、みなさん、落ち着きましたか? 」
「おかげさまで、プリメラ王女もみんなと街に買い物に出かけてますわ。普段、外に出る事もないから嬉しそうだったわ」
「危なくないのですか? 」
「ミッシェルもついてるし、メリーナちゃんもいるでしょう」
護衛としてなら十分か……
「ラビス、貴方、10年前に一度しか帰って来なかったけど、身体とか大丈夫だったの? 」
「もっと、帰ろうと思ってたんだけど、忙しくて、つい……」
「それなら良かったわ。お母さんからは、貴方が元気でいてくれれば何も言うことはないわ」
「ラビス君、貴方に用があるのは私なのよ。ほら、これ……」
手には、手紙を持っている。少し紙に折り目がついていることから、前に書いた依頼の手紙だと思われる。
「ラビス、サスケ家で育った私達には、看破のスキルがあるの。その人がどういう人物かある程度わかるわ。もちろん、嘘をついてるとかもね」
そうか、それで……
「ラビス君は、使者様なのでしょう? 」
「それは、答えられません。いろいろ知ればみなさんを危険な目に合わせてしまう可能性があるからです」
「そうね、確かにそうだと思うわ。でも、血縁なのに少し淋しいわ。これは、正直な私の気持ちね。アマンダ姉さんはラビス君を思って何も聞かない。ラビス君はアマンダ姉さんや家族、大事な人達を思って何も言わない。お互い、大切に思っているのに、なんだか悲しい気持ちがするの。私が、変なのかしら〜〜」
「そんな事ないです。確かに、歯車が噛み合っているのに、動けずにいるような感覚はあります。それは、仕方がないと思っていました。でも、その淋しいという言葉は、妙に胸に入ります。多分、俺もそう思っているのだと思います」
「私も淋しいわ。でもね。私はこれで良いと考えているわ。確かに、ラビスの事を知りたいけど、知る事によって、もし、私達に何かあれば、ラビスは、死ぬより辛い目に合うはずです。だから、親として何も言わなくていい。ただ、たまに顔を見せにきてくれればね。今回は、少し、間が空き過ぎだったけど、できれば、一年に1回、ううん、一月に1回は、元気な顔が見たいわ」
「そうね、私が口を挟む問題ではなかったわ。ごめんなさい、少し、でしゃばりすぎたわね」
「そんな事はありませんよ。それと、1つ情報があります。サウザンド国の国王と王子の病気が治りました。どうしてかは、知りませんけど」
「えっ!? 、それ、本当なの? 」
「はい、早ければ、今夜にでも、いろいろな動きがありそうです。でも、きっとその使者様とやらが何とかしてくれると思いますよ」
「あ、ありがとう……ありがとう……使者君」
『ただいま〜〜 』
みんなも買い物から帰ってきたようだ。
俺も、こんな穏やかな日々がいつまでも続けばいいと、思っていた。




