第57話 引越し
サスケ家の朝は、早い。
辺りが白ける頃には、もう、祖父さんは起き出し、井戸の水で行水を行う。
その時の気合を入れる声が鳴り響く為、みんなも起きてしまうようだ。
家の作りは純和風で、庭は日本庭園のようだ。
池があり、そこには、いろいろな魚が泳いでいる。
俺、祖父さんの気合の声を聞きながら起き出す。
姉さんの寝相は相変わらずさ。
抱き枕代わりにされていたのは、ニュイだった。
それに、布団もグシャグシャになっている。
姉さんの事、妖怪布団荒らしとでも言おうか……
俺は、弾き飛ばされた布団を拾い、まだ夢の中にいるであろう2人にかけて顔を洗う為、祖父さんのところに行く。
「おはようございます」
「お〜〜孫ではないか、ラビスも行水せぬか? 」
「顔だけで結構です」
朝から元気な祖父さんだ、と思いながら俺は顔を洗い出す。
「お祖父さん、このサスケ家って忍者の家系なのですか? 」
「そうだ。初代、サスケ=サルトビ様は、勇者、クロウ様、軍師カンベイ様と共に魔王と戦った凄腕の忍者でもあったのだぞ」
猿飛佐助、転生、イヤ、転移してきたのか?
確か、架空の人物ではなかったか?
もしかして、実在してたのか?
それに軍師カンベイってのは、もしかして、黒田官兵衛の事か?
じゃあ、クロウって勇者は?
「勇者クロウは、正式な名前があるのですか? 」
「よくぞ、聞いてくれた。クロウ様とは、源九郎義経とも言われ、こことは別の世界から参った人物じゃ。我が、先祖も同様なのだぞ」
まさか、源義経が、転生、または、転移してここに来たというのか……
まるで、小説や映画の世界だ。
しかも、黒田官兵衛や猿飛佐助とも時代が違う。
まさに、ファンタジーだな……
「魔王と戦ったと聞きましたが、魔王とは、どんな存在なのでしょう? 」
「悪の限りを尽くして、この世界を混沌に導いた存在と言われておる。詳しく知りたければ、首都には、図書館がある。誰でも銅貨5枚で閲覧できるぞ。調べてみるのも一興じゃろう」
「図書館があるのですね。わかりました。後で見に行ってみます」
確かに、クロウ勇国は、他の国とは、違い住民には過ごしやすそう国だ。
差別も少ないとなれば、獣人達も安心だろう。
俺は、祖父さんと話しながら、屋敷に入る。すると、慌てたようにメリーナ姉さんが走ってきた。
「ラビス〜〜、どこ行ってたのよ〜〜、また、いなくなっちゃったと思ったじゃない」
「どこか行く時は声をかけるよ。それにニュイをおいてどこか行くはずはないだろう? 」
「そうか〜〜、そうか〜〜」
何だか嬉しそうである。
「孫娘、朝の挨拶はどうしたのじゃ」
「煩い、ジジイは、黙ってて! 」
なんで祖父さんの扱いが酷いんだろう?
そんな事を思っているといつのまにか、ニュイが俺の背後にいた。
ニュイの姿を見た祖父さんは、
「ひょほほ〜〜い。ニュイちゃん、おはようなのだ〜〜」
と、いきなりジャンプして襲いかかる。
ニュイは、そんな猿顔祖父さんを念動力で吹き飛ばした。
祖父さんは松の木に引っかかって逆さまになっていた。
俺は納得した。
これが原因なのだと……
◇
今日は、本部の引越しだ。
俺も行かなくてはいけない。
「姉さん、悪いけど……」
「ダメ! 」
速攻、拒否られた……
「まだ、何も言ってないぞ」
「どうせ、どこか行く気なんでしょう? それくらいわかるわ」
姉さんは、心の中が読めるのか?
「実は、今日は、今まで住んでた家の引越しなんだよ。みんなが忙しくしてるのに、俺だけ何もしないなんて無責任だと思うだろう? 」
「引越しなんだ〜〜、でも、ダメ! 」
「もう、そういうわけにもいかないんだよ。出来れば、ニュイに服を買ってあげたかったけど、今日が終わらないと買いにも行けないんだ」
「じゃあ、私が、ニュイちゃんの服を買いに行くわ。ニュイちゃんがいればラビスは、戻ってくるわよね? 」
「もちろん、終わったら帰って来るよ」
「じゃあ、決まり」
姉さんに人質にされたニュイ……服を買うために家に残ったニュイは、少し、機嫌が悪かったが、姉さんに美味しくて甘い物をご馳走してあげる、と言われご機嫌が治った。
それと、ルシーの事も姉さんに頼む。
ルシーもサスケ家に住む事が昨夜、俺達が、留守してる間に決まったようだ。
「じゃあ、ニュイ、大人しく待っててくれ」
「わかった」
姉さんに餌付けさせられそうなニュイを少し哀れに思いながら、俺は、本部に転移した。
◇
竜の里の屋敷は、ガランとしていた。
荷物は、もう、新しい本部に運んでしまったようだ。
俺が、荷物が運び込まれた屋敷を見て回っていると、ブラドが、転移してやってきた。
「ライルよ。気配を感じたのでな〜〜」
「ブラド、物があっても広かったけど、物がなくなると、数倍広く感じるよ」
「そうか、わしにはわからぬ感傷だ」
ブラドと話しながらも、俺は、ノーチェの事を考えていた。
ここは、思い出が多過ぎる……
廊下に、無造作に置かれた服……
時が経つにつれ、それは、白い下着だけになった。
今は、霧化もできるようだ。
そんな成長をこの屋敷は知っている。
「そうだ。ライルは、西の海龍王のところに行くのだったな? 」
「竜神様に頼まれたし、古竜にもお世話になったしね」
「海龍王の配下は人魚族だが、少し厄介だぞ」
「それは、どういう事? 」
「あやつらの声、つまり、人魚が発する声や歌は、人族にとっては、精神を撹乱させる能力がある。人族の多いお前達では、近づく事もままならん」
精神操作ができるのか……
「確かに厄介そうだ。でも、それは、今までだって大変だったし、どうにかなるよ。きっと」
「お主ならそう言うであろうな。そろそろ、新しい本部を案内しよう」
「あぁ、頼むよ」
俺は、まだ、見たことないその本部がある場所にブラドが転移してくれた。
◇
「おーー、すごい眺めだ。竜の里って、こんなに広かったんだな」
その場所は、見晴らしの良い場所で、竜の里が360度のパノラマで見る事が出来た。
遥か遠い先には、地平線まで見える。
「我らにとっては、これぐらいの広さがなければ、窮屈で困る」
「それもそうだな」
竜の巨体なら不思議ではない。
「ライル、ライル、黒竜、黒竜」
シエルとチエロが空から降りてきた。散歩でもしてたかのようだ。
「ライル来た。ライル来た」
「シエル、チエロ、どこ行ってたの? 」
「結界、結界、確認、確認」
そうか、仕事をしてたのか、悪い事をした。
「仕事中だったみたいだな。邪魔したね」
「平気、平気、終わり、終わり」
「そうか、じゃあ、みんなのところに案内してくれる? 」
「わかった、わかった」
俺とブラドは、シエルとチエロの後をついて行き、みんなが集まっている本部に顔を出した。
「ウォーー、これは、すごいな〜〜」
『あっ、ライル様、お帰りなさい。ブラド様もようこそ』
事務員さん達は、細かい調整を行なっているようだ。
目の前には、ライブ会場にあるような大きな画面が設置されている。
それに、十数台程、事務員さん専用の画面が設置されたデスクと椅子が並べてあった。
「お、ライル、来てくれたか? 」
「長官、手伝えずにすみません」
「それは、構わん。ライルには、画面が表示されるように能力の転写をお願いしたい。こっちだ」
長官に案内された部屋には、ユオが何かをしていた。
「あっ、主任、良いところに来ました。これです。この水晶に手をかざして、能力を発動して下さい」
「わかった」
突き出た球体の水晶に手を翳し、衛星を展開する。
すると、吸い取られる感覚を抱く。
ユオが、小さな画面を見て、確認している。
「はい、主任、ご苦労様です」
「もう、いいの? 」
「はい、これで、全て終わりました」
ユオがそう言うと、さっきの画面の部屋から『わ〜〜』という感嘆の声が聞こえてきた。
きっと、衛星の画面が繋がったのだろう。
「さぁ、主任、行きましょう。処女航海です」
俺は、ユオに誘われ、先程の大型画面のある部屋に移動する。
そこには、みんなが集まっていた。
「ライル、遅かったじゃねぇか〜〜」
「ライル、何やってたのよ〜〜」
ナハトやリールもそこにいる。
「主任、封印の水晶を使うのも良いのですが、今日は、目出度い処女航海の日です。中央にある水晶に魔力を通してくれませんか? そうすれば、本部が転移して地上に出られます」
俺は、その水晶玉のところに行く。
みんなは、ゴクリと息を飲んだ。
俺は、手を翳し水晶に魔力を通す。
「えっ!? 凄い勢いで魔力を持ってかれるのだが……」
体内を巡る魔力が奔走する。
封印の水晶を解き放った以来だ。
「行けーー!! 」
俺は、気合を入れ魔力を充填した。すると、水晶は光輝き、本部は、全システムが起動した。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
でも、みんなの歓声が聞こえる。
『お〜〜やったーー! 』
「地上だ。地上に転移したぞ」
長官までも嬉しそうだ。
10年前、みんなで話しあった事がまた、1つ達成した。
それは、地上に基地を作る事。
最初は、どこかの国の一部に屋敷を建てる事を検討した。
しかし、地上のどこに建てても、誰かの目に触れる。
それに、国や領主との関係も無視できない。
となると、『ナイト・フォグ』本来の活動が思うようにできなくなる可能性もある。
まだ、問題はある。この本部のシステムは、この世界では、異常な程、高度なものだ。
悪用されれば、世界を治めることも可能になる。
これが悪人の手に渡らないためにも、本部を設置する場所には、神経を使った。
みんなの知恵を合わせ、古竜の力を借り、ようやくここまで辿り着いたのだ。
それが、この本部を含む島『天空の島』だ。




