第51話 川辺の村(3)
「俺は、旅人のライルと言います。こちらは、妹のニュイです」
一応、王女に聞かれたので自己紹介をしておく。
「旅人のライル、ニュイ……サマンサ、私、どうしちゃたの? 何だか、記憶が曖昧で……」
「一週間ほど、高熱で意識が朦朧としていたのですよ。本当に治って良かったです。この、ライルという人物がお薬を分けて下さったのです」
俺は、サマンサが王女に説明している間に、今後の対策を考える。
「そうだったの……ライル様、お救い頂きまして有難うございます」
「いいえ。依頼でしたので、構いません」
「き、貴様は、何者だ。見たことも無いバッグを所持し、重症だったお方をあの薬1本で全快させてしまうなど、普通の人族にできるものではない。本性をあらわせ! この、バケモノ! 」
「ライル、バケモノ、違う」
ニュイは俺を庇ってくれたようだ。
「ミッシェル、助けて頂いたのに、バケモノ呼ばわりは、失礼ですよ。控えないさい! 」
「で、ですが……」
「ミッシェル! 」
「…………」
「ミッシェルは、私の姪なのですけど、責任感が強すぎるので困っています。貴方に失礼な事を申し上げました。お許しを……」
「当然の反応です。失礼ですが、あなた方は、これからどうするおつもりだったのですか? 」
「クロウ勇国の首都に私の生家があります。この方を、そこにお連れしようと考えてました」
クロウ勇国の首都か……
「サマンサ叔母さん。情報をこの者達に与えるのは、危険です」
「そうですね。よく知らない人物に余計な情報を与えるのは、俺も感心しないです」
「まぁ、でも、ライルさんに助けて頂いたのですから、これくらいの事何でもありませんよ」
「いいえ、こちらこそ、不躾な物言い、失礼しました」
「ライルさんは、不思議な方ですね。貴族のような喋り方をすると思えば、普通の方のような振る舞いをする。それに、なんだか昔からの知り合いのように思えますよ」
「すみません。あまり、高貴な方と話す機会がありませんので、挙動不審になりました。失礼しました。でも、これで大丈夫なはずです。ゆっくりすれば、体力も回復すると思いますよ」
「はい、ありがとうございます」
「いいえ、これも縁ですから」
「縁、縁、縁……」
「そうだよ。よく言えたね。えらい、えらい」
「妹さんですか? 」
「はい、ちょっと、いろいろありまして、会話が苦手なものですから……」
「そうですか、兄妹で旅をしてるなんてえらいですね。苦労も多かったでしょうに……」
「まぁ、それなりにですが……では、これで、失礼します」
「この礼は、必ずさせて頂きます。ありがとう御座いました」
さて、敵さんはどうでるかな……
◇
「なに〜〜、プリメラ様が全快されただと〜〜! 」
そう大きな声で喚いたのは、王女を護衛する騎士団長である。
「はい、この者のおかげです」
「そ、そうか、よくやった。褒めてつかわす」
「たまたま、持っていた薬が効いただけです。魔力の永続的な枯渇も治りました。本当に良かったです」
「…………」
騎士団長は、俺をキリッと睨んだ。
こうあからさまに、顔にでるなんて、暗殺者には向かないな……
俺達は、そそくさとその場所から立ち去る。
俺とニュイは、少し、村を出て河原の方に行った。
目的は、本部に連絡を入れるためだ。
「ニュイ、誰か来たら教えてくれる? 」
「わかった」
…………………………………
「ミルフィー聞こえる? 」
「…………」
忙しいのかな?
「ルナは、いるかい? 」
「…………」
引っ越しで手が回らないのか?
「セレーネ、いるかい? 」
「は、はい」
「良かった。忙しいところ悪いんだけど、サザンド国の王女の侍女から緊急依頼だ」
「えっ! ちょっと、待って下さい。今、長官に変わります」
しばらくすると、
「ライル、どういう事だ? 」
「長官ですか、実は……」
さっきまでの内容を長官に説明する。
「そうか、わかった。緊急保護をしても構わん。王女なら特別だ」
「わかりました」
「それと、リールを向かわせようか? 」
「そうですね。でも、今、忙しいのでしょう? 」
「構わん。人命の方が大切だ」
「その時が来たらお願いします」
「わかった。いつでも連絡をくれ」
………………………………………
「今の、何? 」
ニュイは、俺が本部と通信しているのが気になったらしい。
「あぁ、これかい。これは、離れた人と連絡できるものだよ」
「それ、私もできる」
ニュイがそういうと、俺の頭に『愛人、愛人、愛人………」と流れてきた。
「ニュイ、ニュイ、ちょっと待った。今のは、ニュイがしたの? 」
「そう、離れてもできる。会話」
ニュイの能力か……凄いな……
「俺の方からもニュイに連絡できる? 」
「わからない」
「ちょっと、やってみるね」
俺は、頭の中で、ニュイを意識しながら
『ニュイ、聞こえる? 』
『聞こえる」
おぉ〜〜出来たぞ。
「凄い、ニュイと頭の中で会話できたよ」
「嬉しいの? 」
「あぁ、嬉しいよ」
「ニュイも」
これは、テレパシーというやつか、ニュイの能力には、驚かされるな。
俺にとって、ニュイは、自分の子供のような存在になっていた。
◇
ロジー君の家で、一晩お世話になる事になった俺とニュイは、少し、元気になったお母さんと一緒に、食事をしていた。
パンとスープという簡単なものだったが、みんなで食べると美味しくなるものだ。
「具合はどうですか? 」
「おかげさまで、体調の方は、大変良くなりました」
「それは、良かったです」
ロジー君も嬉しそうだが、やはり、お母さんは、顔が少し優れない。
ご主人を亡くしたショックによる心の病なのかもしれない……
心の病は、風邪のように直ぐには良くならない。それは、前世で、知り合いが鬱病を患っていたのを見ていたからだ。
薬をもらって飲んでも、強く効きすぎて頭がボッーッとなったり、慢性頭痛のような症状を訴えたりと見ていて本当に辛そうだった。
少しでも、力になれたらと酒に誘ったが、人と会いたくない、と言われてしまって、力になれない自分の無力さを嘆いたものだ。
さて、どうしたものか……
時間がかかるかもしれない……
暇を見つけて通うか……
そんな事を考えながら、衛星を展開して見てると動きがあったようだ。
兵士の1人が村を出て河原の方に行った。
この時間では来るはずのない船が到着している。
兵士ではなく傭兵崩れのような見るからに下品な者たちが13名程乗っていた。
合流されたらマズイな……
俺は衛星上から魔力砲をその船に向けて撃ち込む。
突如、天空から放たれたその攻撃を避けるすべはない。船は、乗組員もろとも川に沈んでいった。
兵士1人は、陸にいたお陰で確かったようだ。
「ニュイ、悪いがここにいてくれるか? 」
「どこ、行く? 」
「この人達を守ってくれ。できるな? 」
「わかった」
俺は、ニュイをロジー君宅において、家を出る。
奴らは、村に火を放つつもりらしい。
エゲツない事する……
工作している、兵を背後から叩き、気絶させる。
命は奪ってないと思う……わからないが……
5名程、村に潜んでいた。
あの女性兵士以外、みんな敵かよ……
俺は、次々と兵士を気絶させて、縛りあげて行く。
俺は、認識阻害と隠密をかけて、離れに向かう。
そろそろ団長が行動するだろう……
俺は、王女達がいる離れに気づかれないように侵入する。
引き戸だった為、わからないように入り込む事が出来た。
おっと、団長が来たようだ。
こいつをわざと残しておいたのは、王女達に敵の存在を確認してもらう為だ。
俺や村人があらぬ誤解を受けても困る。
離れの扉をノックする。
「誰だ。こんな夜中に」
ミッシェルが扉の前に立とうとした時、俺は、ミッシェルを横に押した。扉には、剣が刺さっている。
「なんだ。何事だ」
王女の前には、侍女が庇うように前に立つ。剣が引き抜かれ扉が無造作に開いた。
そこには、剣を構えて立つ騎士団長の姿があった。
「団長、何をされてるのですか? ここは、王女の部屋です」
ミッシェルは、まだ、疑ってないようだ。でも、様子がおかしいことは気づいてるだろう。
「そんな事は百も承知だ。王女と連れの者達は、ここで死んでもらう」
「ま、まさか、貴方は裏切るというのですか? 」
「私は、プラダ王子派だ。王女が生きていては困るのでな。せっかく、呪いのアイテムを入手し、王女に施したというのに、あの者が解除しおって、癪に触る」
「呪いですと、では、王女が具合悪かったのは……」
「そうだ。私がやった事だ」
なんで悪人ってのは、こうも良くしゃべるんだ?
やるならさっさとすれば良いものを……
おっと、そんな場合ではなさそうだ。
「王女、ご覚悟を」
その団長は、剣を抜き向かって来たミッシェルの剣をさばき、その脇腹に一撃を入れ……
もちろん、俺が防ぐ。
「何? 貴様、何をした? まあ良い。王女、死ねーー! 」
俺は、騎士団長の腹に思いっきり拳を入れる。
『ぬぐっ……』
それだけで、騎士団長は、倒れ、口から泡を吹いて気絶してしまった。
「何が、何が起きたんだ」
ミッシェルは、騒いでるが、
「ミッシェル、落ち着きなさい。この者を縛りあげるのです」
「はい、叔母様」
ミッシェルは、訳がわからない様子で、団長を縛りあげる。
そして、
侍女のサマンサは、
「ありがとう、使者君……」
そう、小さな声でつぶやいていた。




