第50話 川辺の村(2)
泳げるようになりたいという依頼を出したロジー君の話を聞くことができた俺は、その願いを聞き届けるため、まずは、ロジー君の母親に会って見ようと思った。
病気の重さによっては、別の対処も必要になる。
「ロジー君、果物があるんだけど、ロジー君のお母さんは、食べられるかい? 」
「うん、食べると思う」
「じゃあ、ロジー君の家に案内してくれるか? 」
「わかったよ」
ルシーと一緒にロジー君の家に行くと、ルシーは、
「あまり大勢だと気を使うから、私、家で待ってるね」
「わかった。あとで、ルシーにも果物渡すよ」
「うん。ありがとう」
「お兄ちゃん達、こっちだよ」
「お邪魔します」
ロジー君のお宅に上がると、奥から母親らしき人物の声がかかる。
「ロジー帰ってきたの? 」
「うん、お兄ちゃん達も一緒だよ。お母さんに果物持ってきたんだって」
「お兄ちゃん達? お客さんなの? 」
「お邪魔します。ライルです。妹のニュイもいます。素材を売って旅をしています。今は、村長さん家に厄介になっています」
「そうですか、すみません。こんな若いのに苦労してるのね。私、ちょっと体の具合が悪くて……」
「構いませんよ。もし、よろしかったら果物を食べますか? 今、皮を剥きますから」
「そんな、私には、もったいないです」
「たくさんありますから、ロジー君の分もね」
ニュイも食べたそうに指を舐めてる。
「ニュイも食べる? 」
「食べる」
俺は、バッグから取り出したリンゴを皮を剥きロジー君と母親に持って行く。もちろん、ニュイにもだ。
母親は、ベッドで起き上がっていた。
頬がほつれ、少し顔が青白い。
目は充血気味だ。
「はい。こちらです」
「どうもありがとうございます」
「失礼ですが、お母さんは、具体的にどこが悪いのですか? 」
「よくわかりません。身体が、だるくて、時々、熱が出ます。頭も痛くなるので、ほとんど寝てばかりです」
「それは、お辛いでしょう」
「この子には、迷惑かけてしまって……」
俺は、医者ではないから、その症状で何の病気か判断する事は出来ない。だが、身体は、衰弱しているのはわかる。
俺は、バッグから回復薬を取り出して、それを渡す。
「これは、旅で使う滋養強壮剤です。飲むと少し楽になりますよ」
「頂けません。これは、高いものなのでしょう? 」
「そんな事ありませんよ。ただ友人が薬師なので、旅をしてる俺達を心配してたくさん持たせてくれたのです。いつでも、もらえるものですから、心配いりませんよ」
「そんな、見ず知らずのお方に高価なお薬をもらうなんて……」
「では、これは、ロジー君にあげます。ロジー君は、お母さんに元気になって欲しいでしょう」
「うん」
「そう言ってますよ」
「何から何まで申し訳ありません」
「いいんですよ、たくさんありますから」
お母さんは、その薬を遠慮がちに飲んだ。
すると、顔色は良くなり、少し、元気が出てきたように感じた。
お母さんに渡した薬は、神樹の実を加工した最上級回復薬エクサリーだったりする。身体の欠損も、どんな病も治してくれる優れものだ。
「なんだか、身体が楽になりました」
「そうですか、良かったです。少し、休んだ方が良いかもしれませんね。私は、これで失礼します。ロジー君、またね」
「うん、お兄ちゃん、ありがとう」
ロジー君宅を出て、村長宅に向かう。
母親の病気の件は、これで解決しただろう。だが、依頼は、ロジー君が泳げるようになる事だ。
依頼は、まだ、完了していない。
その時、村長宅では、見慣れない兵士が10名程居た。俺がロジー君宅にいる間に、船着場から先程着いた船に乗ってきたようだ。
胡散臭そうに、俺達をジロジロ見ている。
中からルシーが俺のところに来て
「ライル、ごめんね。今日、離れにこの人達を泊めることになったらしいの。ライルは、私の家で泊まってくれる? 」
「それは、構わないけど、どちら様なんだろう? 」
「大きな声では、言えないけど、サウザンド国のお姫様なんだって」
「えっ!? わかった。その方がいい」
「ライル、無理言ってごめんね」
「構わないよ。それに無理言ってるのはこちらの方だしね」
「お兄ちゃん、ニュイちゃん。じゃあ、今日は、うちに泊まりなよ」
ロジー君は、俺達の後をついて来たらしい……
「ロジー君、話を聞いてたのかい」
「お母さんも喜ぶし」
「うむ、じゃあ、そうするか、ルシーさん、そういう事です」
「わかった。悪いわね」
「そうだ。ルシー、これ、果物だよ」
「わぁ、ありがとう」
俺は、衛星で確認して、中の様子を探る。
どうやら、王女は、具合が悪いようだ……
ナハトが定例会議の時、言ってたな。サウザンド国でゴタゴタがあったと……
◇
しかし、俺は、ここで失態をしてしまった。
バッグの大きさからあり得ない程の量の果物を出してしまったのだ。
それを、見ていた女性の兵士が、
「貴様、今、何をした。どこから、その量の果物を出したのだ」
と、詰問されてしまった。
「これは、俺のギフトです。特定のものをある程度入れられるんです」
「そんなギフトなど知らないぞ」
「そうなのですか? 俺は、普通に使ってました」
「その中には、何が入ってる? 」
「旅に必要な素材とか薬とかです」
「薬だと……、ちょっと待ってろ」
その女性の兵士は、中に入っていき、侍女らしき黒髪の人物、40歳前後の女性を連れてきた。
髪が黒いせいか、雰囲気が母さんに似てる気がする……
「貴方ですか、薬を持っていると言うのは? 」
「はい。旅に必要な物を持ち歩いてます」
「そうですか、そのお薬は、高熱の病にも効きますか? 」
「私の友人が薬師が作ってくれたものなので、効くと思います」
「申し訳ありませんが、譲って下さいませんか? 」
「構いませんが、どなたか具合が悪いのでしょうか?」
「はい。身分は言えませんが高貴なお方です」
「何種類かあるのですが、直接、そのお方にお会いして話を聞く事は出来ますか? 」
「………わかりました。見てもらえますか? 」
「お待ちくだされ。いけません。こんな、誰ともわからない者をお会いさせるなど、どうかしてますぞ! 」
別の偉そうな兵士が割り込んできて、侍女を制止させた。
「今は、緊急事態です。それに、無理を言ってこちらから、お薬を分けてもらうのです。ここは、どうか、お引き下さい」
「そんな前例はありません。万が一の事があればどう責任を取られるおつもりか! 」
「前例など関係ありません。責任は私が取ります。これも、あの方の為です」
「うぬ〜〜、そこまで申すなら致し方ありませんな。私が立ち会いましょう」
「団長、お待ちください。女性の部屋に入るのですから、私が立ち会います」
「そうだな。仕方あるまい。頼んだぞ」
「はい」
「では、申し訳ありません。こちらです」
俺とニュイは、侍女と女性兵士に連れられて、さっきまでいた離れに通された。
◇
離れには、ベッドに寝ているピンク色の髪をした15歳前後の女性が、寝ていた。
顔が黄色く変色して、意識が朦朧としており、どう見ても重傷だ。
「随分、お加減が悪いように見えますが、いつからこのような状態なのですか? 」
「はい。もう、一週間になります」
「この状態で移動されていたのですか? 」
「少し、混みいった事情がありまして……」
「おい、貴様。事情などどうでも良い。詮索すれば、良い思いはしないと思え」
女性の兵士は、事情を俺に聞かれたくないようだ。さっきとは、違い、言動が荒々しい。
「お小水は出てますか? 」
「いいえ、思うようには出ていないと思います」
熱で臓器がやられたのか……
だが、何かおかしい。
俺は、鑑定を施す。
…………………………………………
プリメラ=サウザンド(人族)14歳 女性
サウザンド国第1王女
呪詛による永続的魔力枯渇状態
多臓器不全
Lv 10
HP 3/30
MP 0/35
*祝福 (ギフト)
土魔法(3)
*スキル
剣術(2)
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「これは、ひどい……」
「貴方の薬で良くなりますか? 」
「はい。ですが、病気を引き起こしている原因がありそうです」
「それは、どういう事でしょう? 」
「この状態になったのは、1週間前と言いましたが、その前は、どんな状態だったのですか? 」
「はい。普段通り、とてもお元気でした」
「では、1週間前に何かありましたか? 直接、その方に触れて何かされるとか……」
呪詛をかけるには、直接肌に触れる必要があると、前に、闇精霊術を操れるリールが言っていた。
「そういえば、団長と剣術の稽古をしていた時に倒れられたのです」
「その他には? 」
「特に、ないと思います」
「そうですか……」
その団長が、剣術の稽古と称して、手取り足取り教えた時に、何らかの呪詛をかけたのか……
「あれ、その手紙は? 」
ベッド脇に不自然な手紙が置いてあった。
「あっ、これは、その、お恥ずかしい話なのですが、噂を耳にしたものですから……」
「噂ですか? 」
「はい、何でも手紙を、夜空に掲げると、使者様が助けてくれると……」
「そう言えば、そんな噂が広まっていますね」
「それで、この方を助けて欲しいと藁にもすがる思いで書いたのですが、噂を信じるなど言語道断と言われてしまいまして……」
「そうでしたか……」
そうか、この者は依頼者か……
では、遠慮する事はない。
この依頼『ナイト・フォグ』No1ライルがその願い、聞き届けよう……
「簡単な見立てですが、この薬でその方をお救いできます。ですが、そこの女性の兵士の方は信頼できる方ですか? 」
「貴様、何を言ってる! 」
「待ちなさい! えぇ、もちろん信頼しています。生まれた時から知っている私の縁者ですので」
「そうでしたか、失礼をお詫びします」
この人は大丈夫そうだ、でも、団長をはじめとする男の兵士達は信用ができない。
呪詛を黙って解除して、薬を飲ませて全快させれば、きっと、今夜にも動きがあるはずだ。
「すみません、もう少し、近くに寄ってみ構いませんか? 」
「そうですね。仕方ありません」
俺は、王女のそばに行き、黙って【ディスペル】をかける。
みんなから見えないようにニュイを立たせてあるから大丈夫だろう。
右手から小さな魔法陣が浮き上がり、砕けた。
「これを、飲ませて下さい。直ぐに効果が出るはずです」
「わかりました……」
侍女は、王女を抱きかかえ、口に少しづつ薬を流し込んだ。
すると、王女の身体から淡い光がその身を包み次第に消えていった。
「お、お〜〜」
女性兵士の感嘆の声が漏れる。
「プリメラ様、プリメラ様」
「あら、サマンサどうしたの? 」
目を覚ました王女は、サマンサという侍女に抱きかかえられているのが不思議だったようだ。
「良かった、良かった〜〜」
「何驚いているの? ここは、どこかしら? 」
「失礼します。お身体の具合はどうでしょうか? 」
「貴方は誰? 身体の具合は、大丈夫よ」
身体の具合は、問題なさそうだ。
だが、まだ、依頼は、完了してない。救って下さいという願いは、これからが本題だ……




