第42話 ショルダンの街(偶然)
暴力父さんを家の前に放置した俺は、宿に戻り、ベッドに横になった。
あれから、何度も衛星でノーチェを探したけど、その行方はまたわからなくなっていた。
俺は、いろいろ考えながら過ごしているうちに、眠れないまま夜明けを迎えてしまった。
「ふぅ〜〜、仕事をするか……」
起き上がり、残りの2件の案件を考える。
白くて可愛い鳥なんて、主観が混じっているのでわかりずらい。詳しい特徴を聞かないと……
先に、食堂の件をかたずけるか……
俺は、街に出て依頼の食堂に入る。
ガランとした店内の窓際の席に腰掛けると、小太りの親父が出てきて俺に注文を聞いてきた。
「スープとパンを頼む」
「わかりやした〜〜」
小太りの親父が厨房に入って、ガチャガチャしていると、しばらく経って注文のスープとパンを運んできた。
パンは普通だ……
スープは……!?
肉の臭みが酷い……
入っている野菜がクタクタだ……
スープが濁っている……
俺は、不味くても出された物を食べる主義だ。
だから、料理の事は、正直よくわからん。
「どう説明したらいいか……」
俺は、そう悩んでいると、また緊急事態が発生した。
「ここ開いてるよ」
「あ〜〜お腹空いた」
「私、スープだけでいいわ」
「メリーナ、昨夜、飲みすぎだよ。控えないとダメだよ」
そう、メリーナ姉さんとその仲間等が店に入ってきたのだ。
俺は、慌てて、カバンから取り出したひょっとこお面を被り、目立たないようにじっとしていた。
「いらっしゃいませ〜〜ご注文は? 」
「え〜〜と、朝定3つとスープを単品で1つお願いします」
「はい、朝定食3人前とスープを単品で1つですね。少々お待ちください」
小太りの親父は、厨房に入り、忙しそうにガチャガチャ音を立てて仕事をしている。
姉さん達は、
「今日の午後1の便で首都に戻れば、夕方には着くでしょう? 」
「え〜〜戻りたく無い」
「メリーナは、イヤだったらイヤって言えばいいじゃない? 」
「だって、しつこいんだよ。あの祖父さん」
「それだけ、メリーナの事を心配してるのよ」
「イヤだ、イヤだ。お見合いなんてしたくない! 」
メリーナ姉さんがお見合いか……
そういえば、もう20歳だもんな……
結婚してても、この世界ではおかしくない年齢だ……
そんな事を考えていると、
「はい。お待ち〜〜」
小太り親父が料理を運んできたようだ。
その料理をメリーナ姉さん達が食べ始めると……
「何、これ〜〜ちょうマズいわ! 」
「そうね〜〜これ、お店に出せるレベルじゃないわね」
「ゲロまずだよ〜〜」
「ちょっと、おじさん、おじさん! 」
今、ここに、クレーマー姉さんが誕生した。
「何でしょうか? 」
ビクビクしながら出てきた小太りの親父がそう聞くと
「何なの、これ! 超不味いんだけど! 」
「そんな事言われましても……」
「こんな料理じゃお金払えないわ。逆にもらいたいほどよ」
「そりゃ〜〜困りますよ。お客さん」
「だって、このスープ、肉の臭みが酷いじゃない? それに野菜も煮込み過ぎだし、スープも泥のように濁ってるわよ! 」
「あっしは、ちゃんと料理しただけですけど……」
「こんなの料理とは、言わないわ。肉の臭みは取ったのかしら? 」
「それは、肉が臭いだけです。いつも肉屋に文句言ってんですが、聞いちゃくれねぇもんで〜〜」
「肉のせいじゃないわよ。肉の臭みを取るには、一旦、肉を入れた水を沸騰させ、下ごしらえするの。その肉をスープに使うのよ。それに、この濁り、灰汁をこまめに摂ってないでしょう? 」
「灰汁は旨味ですんで、摂らないで混ぜるのが一般的です」
「誰が、そんな事、教えたの? 全部、間違ってるわ。灰汁は、苦味やエグ味など不要な部分が出てるのよ。それを混ぜてしまったら、不味くなるのは当然よ。ちょっと、厨房貸しなさい! 私が手本を見せるわ」
「そんな〜〜困ります〜…」
「メリーナが言い出したら聞かないからなぁ〜〜親父さん、少し厨房貸してあげて」
「厨房は、あっちね。さぁ、何してるの! 私が手本を見せるから良く見てなさい! 」
何か始まってしまったぞ……
それにしてもメリーナ姉さん、料理なんていつ、覚えたんだ?
厨房では、メリーナ姉さんが親父に指図しながら喚いている。
そして、しばらくして料理が出来上がったようだ。
「ほらっ、飲んでみなさい! 」
両手を腰に当てて立っている姉さんは、椅子に座ららせた小太り親父を上から見下ろしている。
親父は、恐る恐るそのスープを飲む……すると、
「美味い! なんでだ。材料は同じだったのに〜〜」
「ねっ、さっき見たとおりにすれば美味しくなるの? わかってくれた? 」
「はい、わかりやした。もしかして、貴女は、使者様何ですか? 」
「使者様!? あぁ、あの噂の件ね。そんな奴、いるわけないでしょう? 努力もしないで人に頼るなんて以ての外だわ。自分を研鑽して、努力し高めるものなのよ。内容にもよるけど、人に頼ろうとした時点で、もう、その人の成長は止まってるわ! 」
「そうですか〜〜すまね〜〜、お嬢ちゃんに教わったやり方でやってみるよ」
「今度、この街に来た時、また不味いもの食べさせたらタダじゃおかないから! 」
「わかった。努力してみるよ。でも、嬢ちゃん、何でそんなに料理の事、詳しいんだ? 」
「それは、弟に食べさせる為に勉強したの。今は会えないけど、会った時、私の料理を食べて『美味い』って言わせるのが、楽しみなのよ! 」
「そうかい。これなら、きっと、その弟も美味いって言うに違いねーーよ」
「そうでしょう? だって、本当に努力したんだから」
姉さん……
「メリーナ、もう、こんな時間よ。早く、行かないと」
「そう? 本当だ。じゃあ、おじさん、ちゃんと努力するのよ」
「わかったよ。今度、来た時、美味いもの食わせてやるよ」
メリーナ姉さん達は、慌てて店を出て行った。
チラッて俺を見たけど、ひょっとこお面を被っていたから大丈夫だろう……
「そこの兄ちゃんもすまなかったな〜〜今日のお代はいいや。今度は、もらうけどな」
「そうか、ごちそうさま」
「おいよ。また、来てくれよ」
俺は、店を出た。
もしかして、代わりに姉さんが解決してくれたのか……
一応、【ミッション・コンプリート、報酬は、パンとスープ代】か……
「ありがとう、姉さん……」
◇
俺は、その足で、屋敷に向かっていた。鳥の特徴を聞くために、今回は、依頼主に直接介入しなければいけなそうだ。
しかし、どうやって会ってもらおうか、普段は、真夜中、忍び込んで任務を果たすのだが……
屋敷に向かう途中、屋台で珍しい食べ物を見つけた。それは、
「親父さん、ポップコーン1つくれ」
「へい。ちょっとお待ち下さい」
出来上がったばかりのポップコーンをお金を払い受け取る。
食べ歩きするのも、はしたないので、ベンチを見つけてそこで座って食べ始めた。
「ほぉ〜〜塩味がちゃんと効いてる。前世と同じ味だ」
感心しながら食べていると目の前に『ヒュール商店』の店を見つける。
そうか…ユオのプロデュースなのか……
どうりで味がそっくりだ。
ユオは、いろんな事を手掛けてるようだな……
その成長を嬉しくもあり、哀しくも感じた。
俺だけ取り残された気分だ……
俺は、首を振りながら今の感情を否定した。
素直に嬉しいと思う。それは、間違いないからだ。
「さてと、、どうアポイントとるか? 」
すると、足元に白い毛玉の犬みたいなものが寄って来ていた。どうやら、このポップコーン目当てのようだ。
俺は、その毛玉にポップコーンをわけてやる。
それを見ていた、街の鳩やカラスなどが寄ってきてしまった。仕方がないので、ポップコーンをわける。
すると、可愛いらし白い文鳥みたいな小さな鳥が混ざっている。
もしかして、この鳥か……
俺は、そう思い捕まえようとすると、
「あっ、ピーちゃんがいたーー! 」
屋敷の方からものすごいスピードで駆けてくる少女がいた。
この子が、依頼主か……
その子は、俺のところに来て、白い鳥を見て、
「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん。ピーちゃん、私、探してたの。良かった〜〜」
「そうなんだ。でも、捕まえないと、また、逃げちゃうよ」
「大丈夫。直ぐ捕まえられるから」
そう言って少女は、腰をかがめると、捕まえたのは、はじめに餌をあげた、あの白い犬のような毛玉だった……
「そっちかい! 」
思わず、ツッコンんでしまった。
大人げない事をしたと反省する。
「この白い毛玉の方なの? あっちの可愛い小鳥じゃないの? 」
「ううん、この子だよ。ねぇ、ピーちゃん。お兄ちゃん、ありがとね」
「ううん。ポップコーンをあげただけだし、見つかって良かったね」
「うん」
少女は、思いっきりの笑顔をプレゼントしてくれた。
そして、少女は、その白い毛玉を抱えて屋敷に戻って行った。
これでいいのか?
まぁ、偶然でも結果は良好だ。
【ミッション・コンプリート、報酬は、少女の笑顔】
俺は、余ったポップコーンを餌を欲しがっている鳥たちに分けてあげる。すると、
「わぁ〜〜鳥さんいっぱいいるよ。ねぇ、お父さん、僕も餌あげたい」
「じゃあ、待ってな。今、買ってくるから〜〜」
俺は、慌てて、ひょっとこお面を被る。そのお父さんは、あの暴力父さんだった。
「あなた、こんなとこにいたの? お財布持ってかなかったでしょう」
「そうだったか? ウッカリしたよ」
「本当、慌てん坊さんなのね」
「ねぇ母さん、僕も餌あげるんだ〜〜」
「そうなの? じゃあ、お父さんに買ってきてもらいましょう」
「うん」
そこには、微笑ましい家族がいた。
俺は、静かにベンチを立ってその場を離れる。
【ミッション・コンプリート、報酬は、家族愛……か】




