第41話 ショルダンの街(再会)
俺は、ターゲット、暴力父さんの家に侵入した。
家の中は、想像した通りだ。
殴られる母親……
それを見ながら泣く子供……
俺は、認識阻害を外す。
「だ、誰だーー! てめーー、人ん家に勝手に入ってんじゃねぇ〜〜」
うむ、怒ってるな……
その男は、俺を見て、殴りかかろうとする。
その時、俺の通信の腕輪が『ピーー! 』と鳴った。
マジか……このタイミングで緊急招集だと……
音の鳴り方で、その通信内容が決められていた。
俺は、少し屈み、殴ろうと襲いかかってきた暴力父さんの攻撃をそらす。
泣きながら俺を見る子供、多分、依頼主のビリー君だ。
俺は、暴力父さんの手を取りグイッと関節技を決めて、その腕を背中に持ってくる。
「離せ!この泥棒やろう〜〜! 」
失礼な! 俺は泥棒ではない……
暴力父さんに関節技を決めたまま、俺は本部に連絡を取る。
………………………
「俺だ。どうした? 」
「良かった、繋がった。魔獣がポップしました。場所は、ライアット国内、北西部です」
「わかった。直ぐ行く」
………………………
俺は、一瞬迷ったが、このまま暴力父さんをこの場所に置いていくわけにはいかない。
俺は、その暴力父さんを連れて転移した。
◇
「痛っ、ここはどこだ? 」
魔獣ポップ地点に暴力父さんを連れて来てしまったのは失態だ。
そんな俺を見て、リールが、
「何、ライル、一般人連れてきてんのよ〜〜」
「仕方がなかったんだ。それより、うむ……」
「どうしたの? ライル」
「すまん、リール、この男、頼む」
「えっ何言ってんの! ライルーー! もう〜〜マジ勘弁してよ〜〜」
俺は、暴力父さんをリールに任せてしまった。
それには、理由がある。
そう、魔王と呼ばれる者。ノーチェの存在を確認したからだ。
群で襲って来る魔獣に対し剣に魔力を通す。黒く変色した刃は、黒竜のブレスを纏っていた。
襲いかかる魔獣を斬り裂き、俺は最短距離で、ノーチェの元に向かった。
居た……
「ノーチェ……」
俺とノーチェとの距離は約10メートル。あと一歩踏み出せば、お互いの間合いに入ってしまう。
「ノーチェ、随分探したんだ。どこに行ってた。何で黙って消えた。それに、何やってんだ。答えろよ。ノーチェ」
ノーチェは、何も答えず俺と見つめ合ったままだ。
そして、
「ライル……またね……」
そう言葉を残して、消えてしまった。
衛星の反応は無い。
転移?
それとも霧化か……
俺は、呆然としながらノーチェが消えた場所を眺めていた。
◇
「おい、ここはどこだ〜〜! 」
「うるさいなぁ〜〜おじさん、死にたくなかったら私から離れないでね」
「何を言ってやが……る……なんだ、あの魔物の大群はーー! 30体は、いるぞ〜〜」
「もう〜〜魔獣は、全部で238体、その中にSランク魔獣キメラが20体だよ。そろそろ来るよ〜〜。おじさん、離れないでよ! 」
「ぎゃ〜〜、死ぬ、死ぬよ。俺が悪かった、悪かったから〜〜」
襲いかかって来る魔獣をリールは、レイピアで斬り裂く。
リールのレイピアは、黄竜の牙から造ったものだ。魔力を通すと、黄竜のブレスを纏い光り輝く。その効果は、高周波ブレードのように軽く触れただけで、その物を両断できる。
「もう〜〜数が多いなぁ〜〜、あれは、ユオ姉ちゃんかな。あぁ〜〜魔獣が吹き飛んでるよ〜〜」
ユオの放った火魔法で、魔獣の群れが大破した。
それでも、魔獣の群れは、まだ残ってる。
「ひっーー! 勘弁してくれ、死にたくない。死にたくない〜〜」
暴力父さんの叫びは、魔物の咆哮でかき消される。
リールは暴力父さんを庇いながら戦っているので、持ち前のスピードが活かせない。
その場で襲いかかる魔獣を斬り捨てるだけだった。
「きりがないなぁ〜〜魔法を使うか【ウィンドバースト】」
リールの放った風魔法は、目標地点で風爆発を起こした。四方に肉片が飛び散る。
「わぁ〜〜肉が、肉が〜〜」
「おじさん、本当、うるさいよ」
雑魚魔獣がほとんど肉片になった頃、キメラの群れが現れる。
「な、なんだよ〜〜あのデカイのはよ〜〜死んじまうよ〜〜」
暴力父さんは、段々元気が無くなってきた。
「キメラか〜〜面倒だなぁ、毒あるし〜〜」
すると、その時、
『俺様、参上ーー! 』
「遅いよ、もう終わるよ、ナハト〜〜」
「しょうがねぇだろう。これでも、急いで来たんだ。あの雑魚は、俺に任せろ! 」
「雑魚じゃなくってSランク魔獣キメラだよ」
「俺様にとっては、みんな雑魚だ! 行くぞーー! 」
ナハトは、大剣担いで、キメラの群れに突っ込んで行った。
「あぁ〜〜、ナハト、結構、ストレス溜まってんのか? キメラの肉片が花火みたいに飛び散ってるよ〜〜」
リールは、ナハトの豪快な暴れっぷりを見て、ため息をつきながら横から襲ってきた雑魚魔獣を両断する。
暴力父さんはもう言葉も出ず、ただ震えているだけだった。
少し、股間のところが濡れていたようだ……
動いている魔獣がいなくなった頃、リールの元にユオとナハトが駆け寄ってきた。
「リールちゃん、そのおじさん誰? 」
「知らない。ライルが連れてきたんだけど〜〜」
「そういえば、ライルの奴、見ねぇな」
「うん、きっと、ノーチェお姉ちゃんのとこ行ったんだよ」
「なっ! ノーチェがいたのか? 」
「うん、ずっと先の方で気配がしたから……」
「そうか……」
「主任も直ぐ戻って来るでしょう。お兄ちゃん、生き残ってる魔獣がいないか確認してくれない? 」
「わかった。ユオは、相変わらず可愛いなぁ〜〜」
「いいから、早く! 」
「おう! 」
ナハトは、倒れている魔獣を確認している。
ユオは、リールに、
「ノーチェがいたんだよね」
「うん。確かだよ」
「主任、大丈夫かな? 」
「そうだね、きっと、辛いよね……」
その後、ユオとリールは亜空間収納に魔獣の遺体を収納した。
その頃、ライルがその場に戻って来たのだった。
◇
ノーチェ……
俺は、しばらく何も考えられなかった。
ノーチェが生きてて良かった。
でも、なんでこんな事に……
後ろの方では、魔獣の咆哮が聞こえる。
そうだ。みんなのところに行かないと……
しかし、思うように足が動かない。
少しでも、この場にいたい。
ノーチェが消えたこの場所に……
そんな思いが身体を動かすことを拒否していた。
そうか、俺はノーチェの事を……
一年前、消えてしまったノーチェを探して旅をした。
探し求めていたノーチェが、さっきまでそこにいた。
でも、また消えてしまったが、一目見られただけで、こんなにもいろいろな感情が湧き出してくる。
そこで、俺は、やっと気付いた。
好きなんだ……俺は、ノーチェの事が……
その思いを受け止めた時、俺の身体は、みんなのところに動き出していた。
◇
「ライル〜〜何やってたのよ〜〜」
元気よく手を振るリールは、血を浴びて赤く染まっていたがその笑顔は、とても輝いて見えた。
気を使ってくれているのだろう……
そう察してしまった俺は、仲間に面目無いと思う。
「主任……」
「よぉ〜〜ライル! 」
ユオとナハトも心配そうに俺を見つめていた。
「ノーチェがいたよ。何も言わず、また消えてしまったが……」
「そうですか……」
「まぁ、仕方ねぇな。でも、生きてる事がわかっただけでも収穫はあったな」
「そうだな……」
「ねぇ、ライル〜〜私のところに変なおじさん、置いていかないでよ〜〜。あんまり、魔獣、倒せなかったじゃない〜〜」
「そうか、忘れてた。ごめん、リール」
「別にいいけどね〜〜」
俺は、顔を青くして震えているその暴力父さんを見て、
「お前のところの子供の依頼で来た者だ。酒飲んで暴力振るってそれで、満足か? お前に聞いてるんだよ! 」
俺は、無性に腹が立っていた。そんな俺を見て、ナハトは、
「珍しいな、ライルがキレてんぜ! 」
「ちょっとな、この親父には少し頭に来ている」
「おじさん、酒飲んで暴れてるの? ダメだよ、そんなことしちゃ」
「……………」
「主任、もしかして依頼のターゲットですか? 話の内容からするとDVですか? 許せません! 」
「まぁ、酒飲んで暴れたくなるのはわかるけど、それじゃあ、ただの小物だぜ。男は、もっとデカイ奴にならねぇとカッコわりーーぜ! 」
「許してくれ〜〜許してくれ〜〜」
「こういう輩は、直ぐ謝ります。そして、また同じ事を繰り返します。極刑を持って処罰すべきです」
「そういう事だ。残念だったな、オヤジ」
「わぁ〜〜なんでもするから、俺には、子供がいるんだ。だから、命だけは助けてくれ〜〜」
「その子供を泣かせているのは気づいているのか? 酒が原因なら、飲むのを止めろ! 」
「わかった。酒は、もう、飲まねっ〜〜子供も女房も泣かす事はもうしねぇ〜〜だから、助けてくれ〜〜」
「わかった、今回だけは、見逃してやる。2度目は無い! それに約束を破ったら、今度こそ魔獣の中に放り込んでやる。生きながら内臓を喰われる辛さを味わってもらう、いいな! 」
「わかった。約束は守る。もう、酒は飲まねぇ〜〜女房も子供も泣かす事はしね〜〜」
「それと、俺達の事は口外するな! 喋ったら、その命、貰い受ける」
「わかった。しゃべらねぇから〜〜」
「うん、じゃあ、みんな、悪かったな」
「もう、行くのか? 」
「直ぐに定例会議で会えますしね」
「ライル、何かお菓子を要求するよ、今回の件で」
「わかった、またな」
俺は、暴力父さんを連れて家の前に転移した。そして、暴力父さんをそのまま放置して、宿に戻った。




