第40話 ショルダンの街(依頼)
シドさんの依頼を完了した朝、通信が入った。
……………………………
「ライル様、ライル様、聞こえますか? 」
「聞こえるよ」
「また、依頼なのですが……」
「わかった。どこ? 」
「クロウ勇国のショルダンです」
「わかった。今、向かうよ」
「ユオ様の方が近いのですが……」
「ユオもナハトも忙しいから、俺が行くよ」
「ありがとうございます……それと、その〜〜」
「疲れたら、お戻りください。マッサージ、私、得意なので〜〜」
「ありがとう、ミルフィー。じゃあ」
………………………………
クロウ勇国か……
風呂にも入りたいし、今日は、転移して風呂のある宿屋に泊まるか……
俺は、人気のない場所を選んで転移する。
ショルダンの街は、果物が豊富な街だ。
バナナやパイナップルを始めとする南国のものから寒冷地の物まで豊富に育っているし、積極的に他の地域から輸入もしている。
先代勇者が作り上げたようだが、異世界からの常識を持つ俺には、南国で採れるフルーツと寒冷地で採れるフルーツが一緒に実るなんて、その仕組みが理解できなかった。
朝から宿屋にってのも変だが、空いていれば少しベッドで休みたい。
俺は、比較的高そうな宿屋を覗いた。
「いらっしゃいませ〜〜」
「風呂付の部屋が空いてるか? 」
「はい。何泊しますか? 」
「2泊で頼む」
「では、食事付で銀貨7枚になります」
俺は、バッグから銀貨を取り出して渡し
「風呂は入れるか? 」
「お部屋のお風呂でしたらご利用できます。お食事はどう致しますか? 」
「適当に部屋に運んでくれ」
「かしこまりました」
「3階の奥の部屋になります」
「わかった」
俺は、鍵を受け取り部屋に入る。
広めの大きなベッドが置いてある清潔な部屋だった。
俺は、備え付の湯船にお湯をはり窓からの景色を眺めた。
「初めて来たが、結構、大きな街だ……」
お湯が溜まった頃、ドアをノックする音がした。
「朝食をお持ちしました」
10歳ぐらいの女の子が重そうに料理を持っている。
「そこにおいといてくれ」
「はい」
重そうにしている料理を置いた事を確認して、その子に銅貨1枚を渡す。
「えっっこ、こんなに?あ、ありがとうございます」
そう言いながら、ちょこんと礼をして戻って行った。
先に風呂に入るか……
湯船に浸かり、溜まった疲れをほぐす。
少し、ウトウトしそうだったので、石鹸で身体を洗い泡を流した。
風呂から出て、テーブルに置いてあるパンを掴んで食べる。
そして、スープの入ったお椀を片手で掴み口の中に流し込んだ。
立ったまま食べるなど、行儀が悪いが少しでも早く眠りたかった。
俺は、その後、すぐベッドに横になり眠りに落ちた。
◇
起きたのは、夕方だった。
随分よく寝たな……
普段は、野宿なので周囲の警戒もあり、ゆっくり休めるとは言えない。だが、この宿屋は安心できたのか、ぐっすり寝たことにより日頃の疲れが消えたようだ。
俺は、依頼の手紙を衛星で探す……
すると、
マジか……
メリーナ姉さんがこの街に来てる……
しかも、同じ宿だ……
流石に、顔を合わせればわかってしまうだろう。
まぁ、認識阻害をかければ済むか……
それより、依頼は……
あった……。
この街の中で一番大きな屋敷、そう、この街の有力者のところに笹に掲げられた手紙があった。
あまり、気が進まないが……
こうした実力者や貴族の依頼も多い。
だが、そのほとんどが私欲に走ったものばかりだ。
手紙の内容を確認して、呆れる場合も少なくない。
だが、俺は、与えられた仕事にNOと言わない男だ。
それを受けるかどうかは、内容を確認してからだ。
あれっ……街の食堂にも手紙があるぞ……
「まさか、依頼が2つか」
衛星で更に街の様子を見ると、
路地に入った民家にも手紙が掲げられてる……
「依頼は、3件か……」
うむ。俺は、与えられた仕事にNOと言わない男だ。
つまり、今回のミッションは……
【メリーナ姉さんの目をかい潜り、3件の依頼内容を確認、そして、遂行しなければならない依頼を完了せよ……】
うむ。もう少し、寝ておこう……
◇
夜中、依頼の手紙を回収した俺はその手紙を読んで愕然とした。
それは、
…………………
使者様
どうか、私のピーちゃんを探してください。
白くて可愛い鳥です。
餌を上げようとしたら逃げちゃいました。
お願いします。
キャリー
…………………
使者様
俺の店が危ねえんだ。
このままじゃ店が潰れちまう。
俺の作ったスープを飲んで
客がマズイって言いやがる。
どうにかしてくれ
ドンナー
……………………
ししゃさま
お父さんがお母さんをぶちます
おさけをのむとひとがかわります
お父さんがぼうりょくをしないように
おねがいします
ビリー
……………………
「う〜〜む。こ、これは……正直、難問だ」
キャリーっていうのは屋敷の娘か……
キャリーさん、この世界には、白い鳥は山ほどいるんだよ
逃げちゃいました、じゃないんだよ。
逃さないようにしてね……
ドンナー、正直、お前、どうでもいいよ。
どうにかしてくれじゃなくって、お前がどうにかしろよ!
最後のビリー君のは、切実な問題だ。
でも、DVなんて解決できるのか?
酒飲まなきゃいいんじゃないの?
もう、別れた方がいいよ……
しかし、俺は、仕事にNOと言わない男だ。
「わかった。この依頼『ナイト・フォグ』No1のライルがその願い聞き届けよう」
いいのか、俺……
◇
まずは、情報収集だ。
白い鳥、白い鳥、ってどんな鳥なんだ!?
ダメだ……次
もう、店閉まってるし……
暴力父さんいないし……
宿屋の宿泊は2泊、明日中に解決しなければ……
夜できることは、暴力父さんの件だけかな……
きっとどこかの酒場で飲んでんだろう。
よし、酒場に行くか……
俺は、この時間に空いてる酒場を衛星で探す。
3件もあるのかよ〜〜
まぁ、安いところを探せば見つかる可能性が大だな。
俺は、庶民が通う安そうな酒場に行く。
ここか……
看板には、[おい、金たろう]と書いてあった。
お椀に入ってる1つ目親父が出てきそうな語呂だな……
中に入るとむわっとする酒の匂いが立ち込めてる。
ガラの悪そうな奴らが俺を見て
「おい、おい、ガキが来るとこじゃねぇぞ〜〜」
中のいる客は、6人。
俺に絡んできたグループは4人。冒険者みたいだ。
残り2人は、1人で酒を飲んでいる。
暴力父さんの可能性は、この2人。
1人はかなり歳だ。
すると、もう1人の方か……
俺は、その1人酒を嗜んでいる30代ぐらいの人がいるカウンター席の1席空けた席に座り酒を頼む。
しかし、絡んできた奴らが、無視していた俺の事が気にくわないらしく、さらに絡んできた。
「何、無視してんだよ〜〜聞いてんのか、こらっ! 」
「酒をくれ」
「何言ってんだ〜〜テメェーー! 」
「君は、店員じゃないのか? さっきから、親切に声をかけてくれたから勘違いしたようだ」
「何、子供のくせに大人ぶってんだよ〜〜ガキは家帰ってママのおっぱいでも吸ってな。わははは」
面白くないギャグだ……笑えないぞ
俺は、店の人らしい者に酒を注文する。
その親父は、迷惑そうに酒を出してきた。
「こいつ、いっちょ前に酒飲んでるぜーー! 」
うるさいヤツだ。これでは、ターゲットらしき人物に接触できないじゃないか。殺すか……
すると、非常事態が発生した。
「ここ開いてるよ〜〜」
「もう、やめなよ。メリーナ」
「あと、一杯だけ、ね、シェリー」
「しょうがないな〜〜一杯だけだよ」
マズい……姉さんだ……
姉さん達は、俺の背後のテービル席に着いてお酒を注文しだした。
こんなニアミス、家を出て以来、初めてだ。
俺は、酒を持つ手が震え出した。
ヤバい……バレる……
しかし、姉さんはかなり酔っ払っているようで気づいてないらしい。
それに、俺に絡んでいたガラの悪い冒険者崩れの酔っ払いが、姉さん達女性に目がいったようだ。
ちょうど4人対4人で、ラッキーとでも思ったらしい。
絡んでいた俺を今度は無視して姉さん達のところに行った。
「なぁ、姉ちゃん達、一緒に飲まねぇか? 」
「そうだぜ。俺達は、Cランクの冒険者だ。いろいろ教えてあげるぜ〜〜」
5歳までしか一緒にいなかったが、姉さんがあのまま成長していれば、きっと凶暴、凶悪の性格を秘めているはずだ……
こういう輩に慣れているのか、姉さん達は、軽くあしらったり、無視したりしてる。
無視されて、頭にきたのか、その男は、言ってはならない事を言ってしまった。
「おうおう、俺達と酒を飲めねぇってんのかよ〜〜このブス共が! 」
こりぁ、姉さんキレるぞ……
「なんですって〜〜!! 」
立ち上がった姉さん達は、男達のあそこをめがけて素早く動き、思いっきり蹴り上げて行った。
「うおっ」「ぎゃっ」「いてっ」「わっ」
そこには、ぴょんぴょん跳ねる男の冒険者が4人、金を置いて店を跳ねながら出て行った。
その隙に、俺は、お金を置きこの店を出る。
すると、路地で待ち伏せしてるカエルの冒険者がいる。
俺は、そいつらの首筋を『トン』と叩き、気絶させておいた。
刃物沙汰になったらマズイからね……
今日の収穫はゼロ……
「明日にするか」
あれ、ターゲットらしき人物、通称、暴力父さんが店を出てきたぞ……
うむ。任務続行だ……
俺は、その暴力父さんの後をつける。
その男は「俺が何したってんだ〜〜」「肉が臭いって〜〜そんなの俺のせいじゃねぇよ〜〜」「冒険者がどれほど偉いんだ! 俺だって、毎日、魔物の肉捌いてんだよ〜〜魔物の1体や2体、俺だって倒してやら〜〜」と、ボヤきながら、あっちをウロウロ、こっちをウロウロしながら、歩いている。
肉屋で働いているのか?
客からのクレームでストレスが溜まってるようだ。
どこの世界でもクレーマーはいるんだな……
それでも、家族に当たるのはどうかと思うぞ……
その男はやはり、ターゲットのようだ。
依頼のあった手紙の家に入って行った。
家の中で、喚き散らす声が聞こえる。
男の罵声……
女性の悲鳴……
子供の泣き声……
「仕方がない。直接介入だ……」
俺は、ターゲットの家に侵入した。




