第38話 依頼
俺は、旅人として各国を回っている。
行く先々で、素材を収集し売りながら日銭を稼いでいた。
だが、それは表向きの生業だ。
『ナイト・フォグ』の1構成員として、裏では任務をこなしていた。
それに、旅をしているのには理由がある。
15歳の成人の日、ノーチェの誕生日を祝うつもりで、ナハトとユア、そしてリールに協力してもらってケーキを作った。
俺は、そのケーキを持ち本部で、ノーチェの帰りを待っていた。
しかし、ノーチェは現れなかった。
それから、1年、俺はノーチェを探しながら旅に出てる。
衛星からはノーチェの存在は、消えていた。
もし、何らかの亜空間にいるならば、地図とその場所にはマナの違和感がある。
俺は、その場所を探し続けている。
何があったんだ……
どうして黙って消えたんだ……
一緒にいると約束したのに……
俺は、ノーチェが消えたその理由を何度も何度も考えた。
しかし、その答えは出ないまま、今を生きている。
ノーチェが消えたあと、ノーチェの魔力に反応するように世界のあちこちで、魔獣が湧き出る現象が発生した。
その場に駆けつけると魔獣が湧き出る箇所には、決まってノーチェの魔力の反応がある。
ノーチェの持つ能力、闇魔法の痕跡がそこにはあったのだ。
ノーチェは、生きている。
何故、魔獣を指揮しているかはわからない。
今では、組織のみんなはノーチェの事を『魔王』と呼んでいた。
『ピーピー』
突然、つけている腕輪が鳴る。
これは、通信機能を備えた腕輪をユオが開発した。
本部の擬似人工衛星を使って会話が出来る優れ物である。
………………
「ライル様ですか。ミルフィーです」
「うん、聞こえてるよ」
「ライル様、一件依頼があります。今、ライル様がいる場所から南東20キロにあるモスクの村で手紙が掲げられています。内容を確認の上、対処お願いします」
「うん、わかった」
「それから……」
「どうしたの? 」
「いつも、お仕事、ご苦労様です」
「あぁ、ありがとう。ミルフィー」
………………
南東20キロ、モスクの村か……
歩いていけば、今夜には着けるだろう……
転移すれば直ぐ着くがそれは、緊急の場合と俺は、決めていた。
出来るだけ歩いて地図とマナの違和感を探りたい。
ノーチェを探す為に……
俺は、進路を南東に向ける。前方には、道は無く森がある。
俺は、回り込む街道を通らず目の前の森を突っ切る事にした。
まだ、昼前だというのに森の中は薄暗い。
膝ぐらいまで伸びた蔦のような雑草が足に絡まり歩きずらい。
う〜〜ん、街道を通った方が良かったか?
衛星の地図を展開しながら、方向を確認するとこちらに近づいてくる魔物がいる。
人間大のイノシシの魔物だ。
グレートポークと言うようで、その肉が美味しいと重宝されている。
俺は、剣を抜きその魔物を両断する。
一瞬で、その魔物の生命を奪ってしまった。
魔物の遺体を亜空間収納にしまい、俺は、また、歩き出す。
ナハトとユオには、月1度の定例会議で顔を合わせる。みんな、忙しくしているため、昔みたいに一緒にいられない。
また、魔獣がポップした場合には、戦場で会う事もある。気心知れているせいか、自ずと連携が取れる。
まぁ、メンデルさんに鍛えてもらったからなぁ……
今は、ナイト長官か……
初めは、俺を長官にと言うみんなの意見を断った。
俺には、みんなを束ねる度量はない。
それに、やらなければならない事もある……
森の中に沢が流れている。
俺は、適当な石を見つけて、そこに腰掛ける。
俺は、バックの中から干し肉とパンを取り出して食べ始めた。
このバックは、古竜が作った収納袋を加工したものだ。
肩からかけるショルダーバックにしてある。
中身は、亜空間に繋がっており、その容量は計り知れない。
俺が持つ亜空間収納とは、別のものである。別にどちらを使うか分けているわけではないが、その時の気分で素材などを入れていた。
『衛星』の地図で、こちらに向かって来ている人が4人いる。
冒険者のようだ……
俺に気づいたらしく、その冒険者は、
「やぁ、君は、冒険者かい? 」
「いいえ。俺は、素材を採取しながら日銭を稼ぐ旅人です」
「そうなのか? 旅人なんて珍しいな? 」
「冒険者は、義務が発生しますので、俺にはその義務を全うできそうもないので」
「確かに、登録して依頼を受けなければ、抹消されてしまうからね。再度、登録するにもお金がかかるし」
「まぁ、そう言う事です」
「でも、素材を売るなら冒険者の方が、高く買ってくれるだろう? 」
「そんな高級な物は取れませんし、宿とか泊まれなくても、パン代を稼げればそれで満足ですし」
「まぁ、そう言う考えもあるのか? 俺達は、この森で、最近、オークがいると言う噂を聞いてね。調査の為に来たんだが、君、見かけなかったかい? 」
「いいえ。見てません」
「そうか、ガセなのかなぁ? 」
「ねぇねぇ君、名前なんて言うの? 」
今度、話しかけて来たのは、女性の冒険者だ。
「俺はライル」
「私は、ファニーよ。オークを見かけたらすぐ逃げるのよ。君、あまり、強そうに見えないから、気をつけないと」
「ありがとう。そうします」
他の2人の冒険者は、沢で水を汲んでいた。
「良かったよ。水があって、もう、水筒の中身が残り少なかったから」
「ラッキーだよね」
「そうだ。俺は、ジョージ『背水の陣』Dランクパーティーのリーダーだ。何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、またな。気をつけるんだぞ」
また、危険なパーティー名だな……
でも、良い人達みたいだし……
ほっとくのも気がひける。
オークか……
俺は、衛星でその存在を確認していた。
◇
オークは、この森の奥、今、俺がいる位置から西に1キロ行ったところの岩場にいる。数は……18、いや、20体か……
あの冒険者達の腕は知らないが、20体のオークに囲まれたら死人が出るだろう。
俺は、衛星で冒険者を確認しながら、少し離れてついていく事にした。
俺は、自分自身に隠蔽の派生能力、認識疎外と隠密をかける。
これで、冒険者やオークに気づかれることは無い。
冒険者達は、運は良いのか、そのオークの住処に向かって歩いている。
風向きが逆ならきっとオークに気づかれているだろう。
こういう危険なパーティー名は、絶対、アクシデントに会うよな……
きっと、意味を履き違えてつけてるんだろうけど……
そんな事を考えながら、つけていくと、冒険者の1人が住処から離れて警戒をしているオークの姿を見つけたようだ。
何もせず、ここで引き返してくれれば良いが……
そんな期待は、直ぐに裏切られる。
『背水の陣』のメンバーは、そのオークに向かって攻撃を仕掛けた。
マジか……
住処にいるオーク達もその異変に気付いたようだ。
何体かが、その冒険者に向かって来ている。
接触まで、2分程度……
全体で向かってこないとなると、知恵のあるものがいるようだ。
もしかして、誘われているんじゃないか……
そんな事も知らず、冒険者は、1体のオークを討伐した。
それなりに腕には自信があるようだが……
自信は危険と隣り合わせだ、とメンデルさん、いや、ナイトが言っていた。
そして、冒険者は、臆病な方が良いとも言っていた。
臆病な程、周囲を警戒する。
それは、命の危険を回避するのに繋がる。
やはり、討伐したオークの遺体の処理に時間をかけてしまっている。
これでは、もう間に合わない。
出来るだけ、冒険者の自主性に任せるつもりだったが、目の前で死なれては目覚めが悪い。
冒険者めがけて突進してくる1体だけを残し、冒険者にその場所を石を投げて警戒させ後続に迫るオークを剣で斬り捨てる。
「オークがまだいるぞーー! 」
「いつも通りの手順で討伐する」
「オォーー! 」
冒険者達に迫った1体のオークは、連携のとれた戦術でその攻撃を受け、討伐された。
その間に、俺はオークの住処に潜入。
残りのオークを討伐しながら、その遺体を亜空間収納にしまう。
岩穴の奥に、牢屋みたいなところがあり、そこには、女性の亡骸があった。
酷い……
亡くなって、何日も経っているようで腐臭が立ち込めていた。
俺は、おそらく『背水の陣』のメンバーが、ここに来るだろうと思い、そのまま放置する事にする。
その方が、公になり身元もはっきりするだろう……
このような場面は、もう何度も立ち会った……
ナハト、ユオ、リール、そしてノーチェ、俺達は自分達が何も出来ない事をとても悔やんだ……
さぁ、そろそろ出ないと……
俺は、そんな昔の事を思い出しながらその場を離れ、依頼のあるモスクの村に向かった。
◇
モスクの村に辿り着いた時は、もう、日が沈み暗くなっていた。
一件の家の窓から笹のような木が突き出ていてその天辺に手紙が括り付けられていた。
俺は、それを確認し、夜中に回収しようと思い村から離れた近くの林の中で休んでいた。
でも、衛星を見ると、そこには見知った名前がある。
依頼主の家だ。
シドさん……
冒険者『四面楚歌』のリーダー、シドさんの家だった。
マジか……
ナイト長官も懐かしがるだろうなぁ……
ナイト長官ことメンデルさんとシドさんは、同じ『四面楚歌』のメンバーだった。
黒竜が襲って来た時、俺達、家族を護衛してくれていた。
そうか……あれから11年経つのか……
俺は、ナイト長官に連絡を入れた
…………………
「ライルです」
「どうした? 今日は、依頼があるとミルフィーが言ってたぞ」
「その依頼主の件で、手紙は目視しました。真夜中、回収予定です」
「そうか」
「実は、その家はシドさんの家みたいです」
「何だって、リーダーの? 」
「長官、どうしますか? 会いたければ、迎えに行きますけど? 」
「いや、いい……その、依頼を頼む」
「内容は、まだ、わかりませんが、終わりましたら報告します」
「定例会議の時でもいいぞ」
「いいえ、今回は特別です」
「すまない。よろしく頼む。ライル君」
「はい」
…………………………
真夜中、俺は、天に昇るように突き出している竹に括りつけられていた手紙を回収して、その内容を確認した。




