第37話 10年の歳月
メンデルさんが、この竜の里にやって来て落ち着いた頃、俺達に地上の常識や各国の政情、そして今までの経験を踏まえた知識を教えてくれた。
たまに、料理を振る舞ってくれたり集団で行動する時の動きをレクチャーしてくれたりする。
みんなは、すっかりメンデルさんと打ち解けた。
メンデルさんの話では、この世界の魔法は詠唱して発動するのが常識。俺達のように無詠唱で発動させるのは見た事ないという。それに魔法陣を構築して魔法が発動すると教えられた。
何故、俺達が魔方陣や詠唱もなく、魔法を放てるのか逆に理解できないと言われて俺達は戸惑った。
こんな状態で、地上で魔法を発動しようものなら、またバケモノを見るように思われた事だろう。
亜空間収納は、ナハトを除いて全員ができるようになっている。転移も同じだ。だが、その2つの魔法は規格外のシロモノらしい。
転移など聞いた事も見たこともないと言っていた。
俺自体、魔法に詳しいわけではない。ただ、ブラドや、古竜達がそんな魔法を簡単に使うので、そういうものだと思ってしまっていただけだ。
逆に、その無知こそが魔法の概念を叩き込まれた者より魔法を行使しやすいのではないかという話だった。
小さい頃から、魔法はこうあるべきと教えられた者は、その規格から外れる事はない。
だから、村娘として数年過ごしたノーチェは、転移魔法の時、落し物(下着)をするのではないかと言う見解だ。
知らないうちに脳にストッパーがかけられた状態なのでは、という話をメンデルさんが言っていた。
「そうか、俺達は、知らないうちに規格外になっていたのか〜〜」
「ライルは、元からそうでしょう」
「そういうノーチェだって、規格外なんだよ」
「私は、まだ霧化できないもん」
「それは、吸血鬼としての能力だよ。霧化自体、見た事ないからどういうものかわからないだけだよ。見る機会があればノーチェもすぐにできると思うけど」
「そうかしら? 」
「そうだよ」
それから、俺達が所持している武器も規格外なものらしい。俺とノーチェは、同じ黒竜の牙の剣。ユオは、そのナイフ。ナハトは、黄竜の牙の大剣。リールは、その黄竜の牙で余った部分で造ったレイピア。どれも、地上では、どれ程の値段で売られるか想像もできないと言っていた。
武器で言うならメンデルさんの槍も同じだ。竜の宝物庫にあった幻の空間切断槍だ。
俺達は、地上ではくれぐれも自重してくれとメンデルさんに釘をさされた。
それから、俺達が前に甘味屋さんで話したこれからの事をメンデルさんに話した。
確かに能力を使えば出来なくもない。でも、その判断ができる人物が前の俺達の中にはいなかった。でも、メンデルさんが協力してくれればピースが埋まる。
俺達は、とても有能で優しく、そして時には厳しい指導者を得ることができたのである。
◇◇◇
「当面の課題は、地上の基地の確保とこの屋敷と地上の基地への設置型転移門の構築、それと通信手段だ」
「地上では、どこの国が無難だろう? 」
「そうだな、ライルのいたミスティナ皇国かクロウ勇国などは、比較的政情が安定している。基地を構えるならこの国のどれかだな」
「そうすると、資金も必要だよね」
「そうだ。資金も必要になる」
「仲間も増やさないと……」
「君達に合わすとなると難しいだろうな。だが、事務系の者も必要になるし、強さより信頼度を優先すべきだ」
「でも、これって冒険者ギルドみてぇじゃねぇ?俺達が新しく似たような物作る必要性ないんじゃねぇか?」
「ナハト、それは違うよ。俺達は表だって動くことを考えてない。俺達の能力は危険だからね」
「そうだな。すまねぇ、どうもこう難しい話は性に合わねぇよ」
少しづつではあるが、全体像が見えてきた気がする。
俺達は、こうして何度も何度も話し合い組織を作り上げて行った。
依頼の伝達手段として手紙を使う。それを空から見えるようにしてもらえば『衛星』から探索できる。
しかし、紙は一般的に普及していなかったので、紙を作り、まず、教会に配布して王族や貴族、そして庶民に浸透させていった。
こうした活動の中でも、ライアット国に襲いかかる魔物の群れを退治したり、冒険者が命を落としそうな状態を救ったり、身分の違いで叶わぬ恋を成就させたりと、気づく範囲で少しづつ解決していった。
組織のシステムも合わせて充実させてきた。
『衛星』の機能が全て解放されると、衛星画面から俺の魔法を転写できるようになった。遠くにいながら衛星画面を通じて攻撃できる。
それに、擬似人工衛星をいくつも作り組織専用にする事も出来た。
俺が、見ていた世界をみんなで共有できたのである。
助けた人々、奴隷に落とされ将来を諦めた者、魔物に身内を殺され天涯孤独となってしまった者、この世界で辛く悲しい思いを背負った人々を種族問わず、希望を受け組織の一員として活動してもらっている。
そう、もう、メンデルさんが、俺達の前に現れて10年の歳月が流れたんだ。
俺は、もう16歳になっていた。
目標に向かって忙しく毎日を過ごしていたら、いつの間にか成人していた。
俺達の組織の名称は『ナイト・フォグ』メンデルさんを長官とする裏で暗躍する組織だ。
名前の由来は、ただ夜霧を英語に直しただけだったが、初代長官メンデルさんはナイトの名を就任した。
子供だった俺達を導き、組織を作り上げたその功績は計り知れないものがある。
今、現在のナハトは、孤児や奴隷で捕まった子供を買い取り、雑技団を運営し各国を回っている。
ユオは、紙を作り普及させた考案者でもあり、現在は各国に店舗を置く『ヒュール商店』のオーナーとして、忙しく生活を送っている。
リールは、ナイト、つまり、メンデルさんの副官として『ナイト ・フォグ』本部で指揮を執っている。
そして、ノーチェは……
◇
……五神王暦 1216年 5月4日……
「長官、ライアット国に魔獣のポップ地点を発見、1分以内に魔獣が溢れ出ます」
「わかった。至急、戦闘員に連絡しろ! 」
「ライル様と連絡取れません。ナハト様、ユオ様には、確認取れました」
「わかった。至急向かうように、それと、リール、行ってくれるか? 」
「は〜〜い。もう、ライル、何やってるのよ〜〜」
「まぁ、あいつもいろいろあるんだろう。でも、ライルなら現場に行かなくても対処できるしな」
「本当、モノグサになっちゃったんだから〜〜」
「昔は、ライル、ライルって懐いていたじゃないか? 」
「なっ、今、それ言う? それなら、長官だって、ここはどこ? とか呆けてたじゃないの! 」
「お前っ、まぁ、昔の話は、今度だな。リール頼む」
「は〜〜い」
現在、14歳になったリールは、生意気盛りの年齢だ。その場で転移して魔獣のポップ地点に向かった。
「長官、最近、魔獣のポップ地点が現れる頻度が多くなってきてませんか? 」
「確かに、異常だ」
「つまり、魔王が裏で動いているという事ですか? 」
「考えたくないが、そう言っても過言ではないだろう」
「長官、リール副官から連絡あり、ユオ様も到着の模様。ナハト様は、遅れているようです」
「ナハトは、直接、転移出来んから仕方ないが、あとで文句を言うからなぁ」
「そうですよ。この間なんか、俺が駆けつけてきたのに、もう、終わってるじゃねぇか! 俺だけにもっと、早く連絡しろ! って言うんですよーー」
「あぁ、ナハトは、戦闘狂だからな。仕方がないが……」
「長官、ライル様と連絡取れました。すぐ、向かうそうです」
「そうか、わかった」
「ポップ地点から魔獣の大群を確認、その数、100、いや、200? 」
「おい、はっきりした数字を言え! 」
「はい。魔獣238体です。Sランク魔獣、キメラを確認、20体はいます。あっ……その後方に、人影あり、ま、魔王です。魔王の存在を確認しました」
『なにっ! 』
「戦闘員に随時、報告、連絡を急げ! 」
「はい。ライル様、魔王に接近しています」
「そうか……とうとう、その姿を現したか……」
「魔王とライル様、お互い対峙したまま動きません」
衛星から送られる映像を封印の水晶を加工して作った平面状の画面がその場を写し出す。
「他の戦闘員には、魔獣の殲滅を優先させろ! 魔王はライルに任せる」
「はい。伝えます」
「魔王の反応が消えました。詳細は不明……」
「わかった……」
どうして、こうなってしまったのだろう……
私は、何を間違ったのだろう……
あんなに仲が良かったのに……
なんで、敵対しなければならなくなってしまったのか……
教えてくれ、ノーチェ君、君に何があったんだ……




