第36話 メンデル
メンデルさんの誤解がいまいち解けないまま、今日は、このまま、部屋で休んでもらう事になった。
残った俺達は、どうすれば理解してくれるか話し合っている。
「ナハト達は、直ぐに状況を理解できたよな? 」
「俺様にかかれば、空気を読むことなんて朝飯前だ」
「まぁ、状況が理解できた、というより命が助かって安心してた方が大きかったですから」
「ノーチェは、しばらく1人でいたんだろう? どうやって、この場所に馴染んだんだ? 」
「私の場合は、怖くて、時々、街に行ったりもしたけど、隠れながら、みんなの様子を伺ってたのよ。そしたら、ここが竜の里だと言うことがわかって、それからは野宿をしながら周りの様子を見てたのよ。そしたら草原で、ライルと黒竜様が戦っていたのを見て、1人になったライルに声をかけたって訳」
「そうか、状況を把握するのに時間がかかったんだな」
「主任、こう言う場合には、しばらく自由に過ごしてもらうしかないと思います。そうすれば、自ずと理解できるはずです」
「私は……」
「どうしたの? リール」
「私は、ノーチェお姉ちゃんやユオお姉ちゃんがいたから平気だった」
「リールは、偉かったものね〜〜」
「そうです。私の尻尾が役に立ちました」
ユオ、何してたんだ……
「少し様子を見るしかないか……」
翌日、メンデルさんは、疲れていたのか昼過ぎに起きてきた。
「あっ、メンデルさん、おはよう」
「あ、うん。ノーチェさんだったか? 」
「そうです。さん付けはいりませんよ。何か飲みますか? 」
「あぁ、すまない……」
食事は、テーブルにナハトが用意してくれてある。
お茶は、青竜宅で飲んだ美味しかったオレンジティーだ。
「美味しいな。オレンジの香りが心地良い」
「そうでしょう? 私も、初めてそれを飲んだ時、美味しくて何杯もおかわりしちゃいました」
「そうか、すまんが、私に、もう一杯もらえないだろうか? 」
「良いですよ。こちらに入ってますから自由に飲んで下さい」
「ありがとう」
「ラビス君は、どうしたのだろう? 」
「ライルですか? 今日は、草原でナハトとブラドが鍛錬しているのですが、ライルも参加するって言ってました」
「そうか、彼はここではライルと名乗っているのだな」
「ラビスを名前を名乗ると、家族に迷惑がかかるかもしれないと言ってました」
「そうか、では、私もライル君と呼ぶようにしよう」
「メンデルさん、少し、落ち着きましたか? 」
「まだ、夢みたいな感じがしてるが、昨日のような失態はしないつもりだ。少し驚く事が多かったもので、つい、混乱してしまったよ」
「良かったです。ここでは自由に過ごして下さい。みんな、そう言ってました」
「みんな? もしかして、この広い屋敷に、昨日の者達しか暮らしてないのか? 」
「はい。そうです」
「みんな、まだ、子供ではないか」
「そうですけど、役割を分担しながらどうにかやってます」
「大人はいないのか? 」
「隣に、竜神様の王城があるのですけど、そこにはいます」
「なんと、隣が竜神様のお住まいなのか? 」
「はい。ライルが竜神様の封印を解いたので、その褒美としてこの屋敷を譲り受けました。私達も住まわせてもらってます」
「はぁ〜〜今日も驚く事が多そうだ。私の精神は持つだろうか……」
「メンデルさんは、腕利きの冒険者だったのでしょう? ライルが言ってましたよ」
「そうだったな……こんな事で驚いていては、彼に申し訳ない」
「メンデルさんは、責任感が強いのですね。ライルは、もう気にしてないのに」
「これは、私の問題だからな。誰がどう思おうが私自身が許せないんだ」
「その気持ちは、少しわかる気がします……」
「そうか……ここにいるという事は、ノーチェ君もいろいろあるのだろうな」
「私もライルを始め、みんなに救われてますからお互い様なんですよ。もし、良かったら食事の後、ライル達の鍛錬を見に行きませんか? 」
「そうだな。ジッとして入りよりは、その方が良い」
メンデルさんは、食事を済ませ、ノーチェの案内で草原まで行くのだったが……
『何だーー! これはーー! 』
◇
草原では、ナハトは休憩をして、今はブラドとライルが稽古していた。
それを見た、メンデルは、
「何なんだ、この凄まじい闘気は〜〜! 」
「ちょうど、ライルとブラドが稽古してるみたいですね」
「あの、黒い服を着た紳士は、ま、まさか……」
「わかりますか? 人化した黒竜様です。今はブラドと名乗ってます」
「黒竜だと〜〜! そうか、この凄まじい気は、あの時の感じたものと一緒だ」
ブラドが放つ拳をライルが両手で受け止める。
その衝撃で、空気が振動し衝撃波が放たれた。
ライルは、その拳を握り締め、手首を返して関節技に持ち込む。
しかし、ブラドは力でそれをねじ伏せ解き放つ。
そして、ブラドの蹴りがライルに向かって何度もくりだされた。それを、ライルは、ある時は前腕で、ある時はジャンプしてその蹴りを交わしている。
今度は、ライルの拳がブラドめがけて突き刺す。何度も何度も繰り出される拳を、時には受け止め、時には交わしながらお互いの攻防が繰り広げられている。
「もう、これは、殺し合いなのではないか? 」
「いいえ。稽古ですよ。本当の力を出したら、この周辺、跡形もなくなると思います」
「そうか、そうだったな……あの時も、黒竜のブレスで、周辺は何も無くなっていた」
「よぉ〜〜来たのか? 」
「ナハトは、もう、終わったの? 」
「あぁ、また、勝てなかったよ」
「へ〜〜、ナハトでも落ち込むんだ〜〜」
「当たり前だろう。上には上がいる。どこの世界でも同じだ」
「ナハト君だったか、君はあの黒い紳士の前で戦えるのか? 」
「何とかな〜〜正直、まだ、ビビるけどよ〜〜」
「そうか、君も只者ではないという事か」
「姉ちゃんは、わかるんだ。冒険者だってライルが言ってたしな」
「あぁ、私でもあの黒い紳士の前では、震えてきっと手足も出せないだろう」
「そうなんだ〜〜まぁ、俺は慣れっていうのもあるしよ〜〜姉ちゃんも何度も稽古すれば、きっとちゃんと戦えるぜ」
「そうか、君は優しいのだな。ありがとう、ナハト君」
「ま、まぁな〜〜」
「もう、終わったみたいだよ。お〜〜い。ライル、黒竜様〜〜」
俺とブラドは、稽古が終わり手を振っているノーチェのところに向かった。
「メンデルさん。お加減はどうですか? 」
「あぁ、昨日より、だいぶマシだ。だが、今日も驚く事ばかりで、正直、精神が持つかどうか不安だ」
『そこの者は、見かけん娘だな』
「昨日、この里に迷い込んだみたいだよ」
『そうか、それは、難儀であるな』
「あの〜〜貴方様はあの黒竜なのですか? 」
『そうだ。うむ。そなたは、あの時の槍使いの娘か? 』
「はい。そうです」
『ライルの知り合いだな。この里でゆっくりすれば良い。それに、あの時の突きは面白かった。また、あの技を受けてみたいものじゃ』
「槍をなくしてしまったので、今は何とも言えませんが、いつかは、お相手下さい」
槍か……
そういえば、竜神様の宝物庫にあったものを俺の収納に入れた気がする……
「あった、メンデルさん、これあげます」
「ラビス君、いや、ライル君だったな、今、何処からその槍を出したんだ? 」
「これは、亜空間収納です。ブラド、黒竜に教わりました」
「そんな、未知な魔法、見たこともないぞ。それに、この槍は何だ。神々しい光を放っているぞ」
『それは、宝物庫にあったやつじゃな。確か、アステル神が、魔を討伐する為、大昔に作った槍のようじゃ。時の英雄がそれを持って我に望んで来たのだが、ブレス1つでそれを置いて逃げてしまった。その時、回収したものだ』
「アステル神が造った!? 」
『そうそう、確か空間を断絶する槍だとほざいておったぞ。是非、それで、我と戦おうぞ』
「ブラド、ここに来たばっかだから、今は無理だよ」
「そうか、残念じゃ。そうだ、その槍をしまう必要もあろう。古竜が昔作った収納袋じゃ。たくさんあるからいくつかやろう。これにしまっておけ」
「お〜〜それ、俺も黒竜様にもらったぜ! ほらっ」
ナハトは、収納袋から黄竜の牙で造った大剣を取り出した。
「こ、これは伝説の収納袋か〜〜すまん、ちょっと取り乱したようだ」
メンデルさん、目が泳いでるよ〜〜
『まぁ、いつでも稽古の相手にはなるぞ』
「はい、よろしくお願いします」
『では、またな』
ブラドは、転移して帰って行った。
メンデルさんは、まだ放心状態のようだ。
落ち着くのは、当分先になるかな……
◇◇
私は、メンデル。元『四面楚歌』Aランク冒険者だ。
迷宮でミノタウルスの大群に襲われ、どういうわけかこの竜の里にたどり着いた。
ここで、ライル君に出会えたのは奇跡だろう。
ここでの生活は驚く事ばかりだ。ここが地下にある亜空間だと言われたが、信じる事は難しい。
地上での常識は、ここでは通用しない。
竜達もそうだが、まだ、幼いライル君達の圧倒的な強さ。
どの子も1人で地上に放てば、それ子を巡って戦争さえ起きかねない存在だ。
だが、彼等には地上の常識が欠如している。
ここで、過ごしていれば当然そうなるだろうが、圧倒的な強さは、危うさを兼ね備える。
力の使い方次第では、多くの者を不幸にしてしまう。
私は彼等を見ていて、その危うさを感じてしまった。
誰かが、教えないといけない。
それに、強さは本物でも技能は、まだ未熟だ。
子供なのだから仕方がないが、それ故に危険だ。
そんな彼らを見て、私がここに来た理由がわかった気がした。
私は、持てる知識と培ってきた経験をこの子達に教えよう。
そして、時にはこの子達の母となり
時には、この子達の姉となり、
時には、この子達の教師となり導こう。
少しでも力を良い方向に使って欲しい。
私が、今できるのはこれぐらいしかないのだから……




